ましろ日 第51光 チーム正太郎

第51光 - 2019/11/15更新
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第51光 チーム正太郎

香川まさひと

  上杉に勝利した山崎、ゴール直後。
山崎「思ったのと全然違う、楽しくない」
  中居、表情動く。
中居「そりゃ後半は慎重に行くさ、強化選手になるためのレースだ」
山崎「……楽しくないのはそれだけじゃない」
中居「俺のやり方のこと言ってるのか?」
山崎「……」
中居「いいか、そのおかげで、上杉倒して強化選手になれたんだぞ」
山崎「……」
中居「なんとか言えよ」
山崎、思い出す。

回想。レース前日。ひかりと交わした言葉。
山崎「明日、ベストを尽くします」

中居、返事を待っている。
山崎「ベストを尽くさなかった」

  上杉が倒れている。
上杉「(広島弁・正太郎に)負けたのか」
正太郎「僕の力が足りなくて」
上杉「そんなことない。一緒に走ったけえ、わかる…あんたはフェアにやってくれた」
  上杉、笑う。
上杉「(ぼそりと)レースって面白いな」
正太郎「はい」
  上杉、笑い顔消え
上杉「……勝ちたかった」
  とたん上杉の顔、ぐしゃぐしゃになり、
上杉「ちきしょう!!どうして負けたんじゃあああ!!」
  正太郎、返す言葉ない。
正太郎「……」

  うどんをすする山崎
  マイクロチップで記録を確認した後、うどんを食べに来た。
  うどんを手に来た桜坂。
桜坂「あら?中居ちゃんは?」
山崎「?」
桜坂「ブラインドマラソン協会の桜坂です」
山崎「(わかった)ああ、中居さんはトイレです」
桜坂、隣に座る。
桜坂「すごいわね、42キロ走った直後に食事できるなんて」
  桜坂、うどんすする。
山崎「だから頭に来てるんです」
桜坂「え?」
山崎「全力で走ってたら、今頃ぶっ倒れてますよ」
桜坂「中居ちゃんはあなたを買ってるから、怪我をさせたくなかったのよ」
山崎「記録は聞きました?3時間は切ったけど、平凡なもんですよ」
桜坂「東京に来て伸ばせばいいだけです」
  桜坂、うどんすする。
  
  別の場所
  チップの確認を終えた上杉。
  少し落ち着いている。
  小出が来た。
小出「(広島弁)残念だった。でもようやったと思うよ」
上杉「……おつかれさま」
小出「なんじゃったら、次のパラリンピックを目指せばええよ」
上杉「……次ってどこかいの」
小出「花の都パリ」
上杉「(笑った)パリか」
  
  上杉から少し離れた場所
立っていた正太郎。
向こうで、遠慮しながら手を振るひかりを見つける。
正太郎、行く。
ひかり「やっぱり正ちゃんじゃ!」
正太郎「ご無沙汰してます」
ひかり「マラソンやっとったん?」
正太郎「アメリカで勉強しました」
ひかり「でもどうして上杉さんの伴走を?」
正太郎「ブラインドマラソン協会に電話したんですよ、そしたら上杉さんの伴走やらないかって」
ひかり「(ふふふと笑い)なんか精悍でカッコよくなっとる」
正太郎「おっしゃる通りです」

  うどん屋
  食べ終えてる山崎と桜坂。
  中居、来た。
中居「(桜坂に)いたんですか」
桜坂「山崎さん、あなたに不満があるみたいね」
中居「そこが良いんですよ!」
  中居、続ける。
中居「馴れ合いの、仲良しさんじゃ勝てないですから」
山崎「中居さん」
中居「ん?」
山崎「中居さんはここにいる桜坂さんが好きなんですか?」
中居「(顔真っ赤にして)え」
山崎「なんか声の調子がそうかなって」
中居、そのまま「トイレに行ってきます」と行ってしまう。
桜坂「(山崎に)やるじゃない」
山崎「はい?」
桜坂「中居ちゃんは私に片思いなのよ、それを武器に中居ちゃんと闘えばいいわ」
山崎「はあ」
  そのとき正太郎とひかりが来る。
ひかり「ひかりです、お疲れ様」
山崎「(顔輝き)おう!」
ひかり「山崎さん、上杉さんの後半の伴走してたの誰じゃと思う?」
正太郎「おつかれさまです!」
山崎「え?まさか」
正太郎「そうです、正太郎です、強化選手おめでとうございます」
  正太郎、山崎の手を握る。
山崎「伴走って、もしかして俺のために?」
正太郎「もちろんですよ、僕だって、チーム山崎、チーム正太郎の一員ですから」
山崎「……そうか」

  回想。
  『チーム正太郎』のビブを渡す正太郎。
正太郎「これを付けて、みなさん、どんどん広島の町を走って下さい、僕を捨てた母が見てるかもしれないので」

山崎「(心の中)俺は自分のことばかりで、正ちゃんのために何もしなかった」
  ニコニコと笑う正太郎。
山崎「正ちゃん、ごめん、お母さんのこと手がかりない、俺が努力しなかったから」
  山崎、深々と頭を下げた。
正太郎、表情動くが
正太郎「(すぐに明るく)いいんですよ、そんなこと、頭を上げてください」
山崎「(頭を上げずに)いや、正ちゃんは俺のためにそこまでしてくれたのに」
  するとひかりも
ひかり「……私もじゃ」
  と、深々と頭を下げた。
正太郎「まいったなあ」
  わからない桜坂。
桜坂「え?なにがなにしてどうなってるの?」
  そのときカメラクルーが来る。
  ディレクター。
ディレクター「山崎さん、テレビ下関ですが、インタビューお願いしたいですが」
  カメラ、構える。
ディレクター「伴走者を伴ったブラインドマラソンの部で堂々の一位、おめでとうございます」
山崎「ありがとうございます」
ディレクター「フルマラソン二度目でこの記録、すばらしいですね」
山崎「仲間のおかげです」
ディレクター「この先、強化選手となって東京に行かれるわけですね」
山崎「(軽く)東京は行かないですね」
ディレクター「え?」
山崎「つまり強化選手にもならないです」
  驚く人々。
桜坂「(驚き)どういうこと?」
  カメラじっと構えている。ディレクターも見ている。
桜坂「(クルーたちに)ちょっと後にしてくれる?」
ディレクター「でも」
桜坂「後にして!」
  去っていくカメラクルーたち。
桜坂「改めて聞きます、どういうこと?」
山崎「楽しくなかった、だから強化選手にはならない」
ひかり「それはおかしい!」
ひかり、続ける。
ひかり「東京パラリンピック行くために頑張ってきたんじゃろうが」
ひかり、続ける。
ひかり「それは山崎さんだけのものじゃない、チーム山崎、チーム正太郎全員の願いじゃ!」
山崎「東京パラリンピックは目指すよ」
ひかり「え」
山崎「ただし東京には行かず広島で練習する」
山崎、言った。
山崎「そしてどんどんレースに出て良い記録出す、そうすれば選考委員会も俺を無視できないでしょう」
桜坂「甘いわ、自己流で勝てるわけがない」
  そしていつの間にか遠くから見ていた中居が言った。
中居「東京に来ることにビビってるんだろ?ライバルがたくさんいるからな」
桜坂「それとも先回りの言い訳?強化選手になって候補になれなかったらみじめだから?」
山崎「(笑い)そういう裏があるような言い方が嫌なんだよ」
中居「え?」
山崎「最初は面白いと思ったし、初めて会ったときの中居さんもすごいと思った、だけどなんかシンプルじゃないんだよな」
  山崎、続ける。
山崎「そこにいる彼女が、ある日、俺に教えてくれたんだ」
  山崎、ひかりの方に顔をやった。

  回想。一巻。
ひかり「小学生のとき、ある先生に言われたんです」
  ひかり、続ける。
ひかり「広島に住むからには、幸せになる覚悟がいる、あれだけのことがあった町じゃけえ、絶対に幸せにならんといけん」

  聞いていた正太郎、表情動いた。
中居「だからなんだって言うんだ?」
  山崎、きっぱり言った。
山崎「俺の人生にもあれだけのこと(※あれだけのこと)があったんだよ、だから俺も絶対に幸せにならないといけないんだ」
  山崎、言った。
山崎「もちろんレースには勝ちたいよ、だけどそれ以上に、走ることそのものが幸せなんだ」
  響くひかりと正太郎。
山崎「それに彼女はこうも教えてくれた……」

ひかり「ただし幸せというんは誰かのために生きるってこと、なぜなら幸せは一人でなるもんじゃないけえ」

山崎「だから俺はみんなのいる広島で走るよ。走って、正ちゃんのお母さんの情報を探しながら、リサイクルショップを手伝う、そうやってみんなで幸せになる」
中居「つまりチーム山崎で練習していくってことか?」「前にも言ったが、はっきり言って無理だ」
  中居、続ける。
中居「非礼があったら詫びる。だからこのとおりだ、一緒に東京パラを目指そう」
  山崎、笑った。
山崎「だったら中居さん、あんたがチーム山崎ことチーム正太郎に入ればいい」

(次の話 第52光へ)

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