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香川まさひと
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22話 声

香川まさひと

レースが始まり、しばらく走る3人。
  走る山崎と但馬。後ろに続く順平。
但馬「直線終りました。ゆっくり右に曲がって行きます」
  曲がって行く二人。順平も。
但馬「森林公園まで直線100メートルほど、今、車は走ってません」
山崎「おう」
但馬「山崎さん側には側溝などはありません」
山崎「おう」
順平「但馬さん!言葉がけ、ええ感じっす」
但馬「どうも」
順平「あ、返事いらないっす」
そこへ現れる影。
上杉、小出組だ。
小出「(上杉に)順平を抜かします」
上杉「(笑いながら)お先に」
余裕で追い越して言った。
順平「速え、60秒後スタートなのに!」
二人の背中が見える。
順平「ふん!身長も体格も双子みたいじゃし、そりゃ速いよ!」
山崎「(笑い)いつか必ず負かしてやるさ」
但馬「森林公園入ります、自動車進入禁止です。道の中央、アスファルトで、そこを走ります」
山崎「おう」
両脇、雑木林になった。
但馬「応援でしょうか、雑木林の中に制服姿の女子高生が何人かいます」
順平「やべ」
  それは順平の合唱部仲間……声を揃えて歌う。
  ♪なぜ順平は走るの?あなたは合唱部じゃないの?♪
順平「すまん!午後は学校行くけえ!」
  通りすぎた。
その順平の背中に歌う。♪がんばれ順平♪安心して走りんさい♪
山崎「歌の応援か。いいね」
順平「昨日のカラオケも盛り上がりましたよね」

回想。カラオケルーム。
NA「そう、気持ちを通じ合わせるためにみんなで歌いに行ったのだ」
山崎とひかりがまるで演歌歌手のようにデュエットする。
山崎と順平がアイドル歌手のようにデュエットする。
山崎と但馬が阿佐ヶ谷姉妹のようにデュエットする。
×  ×  ×
順平「但馬さんって本当練習熱心なんだから!!ランニングだけでなく、カラオケも事前練習して来て」
但馬「やらないと不安で」
順平「(心の中)でもそのせいで」
  その脇に順平、並んだ。
  二人を横から見て
順平「(心の中)ひかりさんと組んでるときと違って、山崎さん、体が反ってない、怖がっていない」
  順平下がり、
順平「(心の中)但馬さんは冷静に、機械のように走って、言葉がけも多い、理想的だ」
  但馬、時計見て
但馬「ただいま3キロジャストで17分30秒です、もうすぐ給水所が……」
  但馬、言葉がかすれた。
咳払いをする。
但馬「最初の給水所があと……」
だがやっぱりかすれる。
  但馬、派手に咳払い、喉を鳴らす。
  異変に気付く山崎と順平。
山崎「どうした?」
但馬「(かすれて、小さい)声が……出ない」
山崎「え?なに?聞こえないよ」
但馬「(もうまったく出ない)声が出ないんです」
  順平、山崎、驚き、叫んだ。
順平「声が出ないって言ってるの?それってまさか!」
山崎「カラオケの練習しすぎか!」
  パニくる但馬、
なおもなんとかしようと、えへん!とか、あ!あ!とかやるが、
それもかすれる。
  そのとき但馬の眼に
空き缶が飛び込んでくる!
山崎の前方に転がっているそれを避けようとして
ロープを引っ張ってしまう、
うっ!とバランス崩す山崎
但馬「(かすれて小さく)すみません!(と言ってるはず)」
だがなんとか転ばずに済んだが
足は止まってしまう。
横からランナーが心配そうにスピード落としながら、
ランナー「大丈夫?」
山崎「大丈夫です!ありがとうございます」
ランナー抜いて行く。
但馬、憔悴して、ただもうぺこぺこぺこぺ、何度も頭を下げた。
順平「但馬さん、大丈夫ですよ、俺が交代しますから」
  順平、但馬のロープの端をもらい
  握る。
順平「山崎さん、行きますよ」
山崎「おう」
山崎と順平走りだす。
但馬、後からついて行く。
順平「ほんの気持ち、坂です、ゆるいのぼり、障害物はなし、前は10メートルランナーなし、後ろは」
見る。
ランナー来た。
順平「右からランナー」
山崎「おう」
抜かして行った。
順平「但馬さんと走りのテンポ微妙に違うでしょう」
山崎「ちょっと速くなったかな」
順平「すんません、急に走ることになったから、アドレナリン出てます」
山崎、なぜか笑いだした。
順平「え?」
山崎「(笑いながら)だってカラオケで声が出なくなったって」
順平「たしかに」
順平もぶははははと笑った。
恐縮する但馬。
順平「但馬さんを責めてませんよ、最高だってことです」
笑いながら走る山崎、順平、そして但馬も。
その姿を、別れ道の前に立ち、指示棒で「こちらでない」と指示を出す関係者がポカンとして見ている。
山崎「(笑いながら)どこにいるんだよ、爆笑して走るランナー」
順平「(笑いながら)ここにいる!」
  但馬もうれしい。
順平「カラオケで心一つにして、爆笑してさらに心を一つにするチーム」
山崎「ひかりがいたら一番笑ってるだろうなあ」
順平「(時計見て)やべ、タイム落ちてる」
  フォームを整え走る山崎たち。
  顔、本気になった。
順平「あと10メートルで下り」
山崎「おう」

  10キロあたり、約束した交代する場所
  ひかり以外誰もいない。
  ひかり、鼻歌を歌いながら準備運動している。
  ♪もしもしかめよ、かめさんよ、せかいのうちに、おまえほど、あゆみののろいものはない♪
ひかり「レースは朝が早いからなあ、朝は気持ちええけど、朝は眠い」
  ひかり、手を伸ばし、大きくあくびをした。
ひかり「うちの男子はちゃんとやっとるだろうか?」
またあくびをした。
ひかり「もし私がうさぎのように寝とったら、男子ども驚くじゃろうなあ」

  必死で走る山崎、順平
  そして但馬。
順平「給水所見えた、左手、少しずつ寄ります」
順平と山崎。
順平「速度落としますが、止まりません、びゃっとつかみます」
山崎「大丈夫か、止まった方がよくないか?」
順平「止まるとあとで疲れる、練習の意味でもチャレンジ」
給水所。
順平、手を伸ばした。
びゃっとつかもうとして
つかめなかった。
順平「あちゃあ」
山崎「ダメか。戻るか」
給水所。
足をゆるめた但馬、
紙コップに、びゃっと手をやる!
三つの紙コップに、指をうまく入れ
三つとも掴んで去って行く……。
給水所の係、思わず拍手した。
但馬、片手で三つの紙コップ持って、走る。
追いついて、並んだ。
但馬「(声でないが)水!水!」
順平「(見てわかり)おお!」
  順平、受け取り、
順平「(山崎に)水です」
  受け取る山崎。
山崎「但馬さん!ナイス!」
順平「まさかコップ取る練習もしたの?」
  その通りだったので但馬、照れて笑う。
  山崎、順平、水を飲んだ。

  ひかりがいる場所
  ひかり、見ている。
先頭グループがやって来た。
  三人のランナー。どれも若い男性、A、B、C。
ひかり「もう来た!速い!」
  その後ろに上杉、小出も見えた。
ひかり「ふん!速いじゃないか!」

  山崎と順平
  そして但馬。
その必死の顔。
汗をかき
汗をとばし
大きく息をして
大きく息をはく
太陽も出てきた、その強い光、
軽い坂を上り
軽い坂を下る
走る山崎と順平
走る山崎と順平
但馬も必死でついていく
ただただ走る
何も考えず
ほかのランナーは意識しない
自分たちだけの闘い
子供たちが応援する
順平「ただいまジャスト9キロ、タイム50分4秒、やべ、かなりペースが速い、俺のせいだ」
走る
走る
走る
  走る
  走る
  走る
順平「10メートル先、左に曲がります。」
山崎「そろそろひかりと交代する場所か」
順平「そうです、この角を曲がったこところです。」
  山崎と順平、但馬、曲がった。
  だがそこには誰もいなかった……。
順平「ひかりさん、おらんよ!」
山崎「え!?」                 
(次の話へ)
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