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カレーマン外伝 こだわりのカレーマン

宮﨑 克
カレーマン外伝 こだわりのカレーマン

「こだわりのカレーマン」⑨


 

ダバミールス 南インド式カレー定食
●ダバインディア 京橋/南インド料理

 

京橋の瀧山町の
新聞社
灯ともる頃のいそがしさかな  啄木

 

明治の昔、石川啄木が勤めていた毎日新聞社の跡地に、歌碑が建っている。
天才歌人のその歌碑にほど近い、地下鉄銀座線「京橋駅」から徒歩2分の都心に、『ダバインディア』がある。
こんな都会の真ん中に、一般的にはマイナーとも言える南インド料理店が、なぜ存続できるのだろうか!?  しかも、休日には行列のできる人気店として…
理由は数学史において「0の発見」をしたインド人に関係していた。

 

「いえね、暑い国は好きじゃないんですけど…とにかく食べたくて食べたくて自腹で、何度もインドに行ったんです」

 

そう語るのは、店主の宮﨑陽さん。暑い国は苦手だがインド料理は大好きだという。旅行会社に10年勤めていた時にインド料理の虜になった。会社の添乗員としては二度しかインドに行っていないが、自腹で何度もインドに行って方々食べ歩いた。
インドも広い。北・南・東・西とあるが、南インド料理が特別に旨かったという。

 

『ダバインディア』店主の宮﨑陽さん

 

「『美味しい楽しい!』が南インド料理の特徴なんですよ!」

 

ついには趣味が高じて、20年ほど前に本格的なインド料理店をオープンした。
だが、「本格的」ゆえにお客さんは入らなかった。
日本人にはインド料理=カレーなのだが、インドにはカレー(Curry)という名の料理はない。
カレーとは、タミル語の『スパイスで味つけした野菜や肉の炒めもの』を指すカリ(Kari)が由来。それを拡大解釈したイギリス人を通して、日本に輸入された言葉だ。
「インド人はスパイス料理で液体感のあるものをカリと呼んでいる」とは宮﨑さんの証言。

 

ちなみに他店のシェフに聞くと「ガァリィ」と発音した。
自分の耳で初めてインド人から直接聞いた発音で、ちょっとした感動があった。
ハリウッドで日本のGodzilla映画を創っている時、出演者の渡辺謙が「ゴジラ」と言うと、アメリカ人スタッフが小さくどよめいたという。やはり初めて聞いたネイティブな発音に、ちょっと感激したにちがいない。

 

さて、本格的な南インド料理店をオープンした宮﨑さんだったが、最初は苦戦。しかたなくチキンカレー等と日本人にも分かりやすい、カレーという名前をメニューを入れて、しのぐしかなかった。
転機が訪れたのは、開店から2年目の時。ITブームが到来した。二桁の九九を暗算しているほどインド人は数学に強い。 0 ゼロ という概念を発見したのもインド人だ。そのインド人技術者が、都心の大手企業にぞくぞくと入社。そのITインド人チームの人たちが来店して、この店の本格的な味に舌鼓を打ったのだ!
インド人で満員になる店に、いつしか日本人も興味を持って来店。やがてリピーターで、行列のできる人気店にまで成長したのだった。

 

人気メニューの一つ、「ダバミールス」を食べてみた。

 

ミールスとは定食というほどの意味。5、6種類のカレー(スパイシーな液状感のあるもの)が中央のバスマティライスをグルリと囲んでいて、見た目が麗しい。
南インドは米の生産が多いので、米にかけやすいサラサラのカレーが多い。
左下のサンバルとラッサムは、日本人から見たらカレーそのものだが、南インドの感覚ではみそ汁だという。だいたい時計回りに辛くなっていく感じだ。南インドはシーフード系が美味しいと聞いていたが、確かに海老を炒めたカレーがスパイシーで旨い! 一番辛いのがチキンカレー。これが濃厚で蕩ける美味しさだ!
一通り味見した後は、混ぜて味変を楽しむのが現地風。美味しさが津波のように次から次ぎへと押し寄せてくる、幸福感に満ちた楽しい食べ方だった。

 

 

食後、宮﨑さんが現れてインドのお茶チャイを飲みながら話してくれたが…

 

その風貌は「日本語、お上手ですね」とジョークを言いたくなるほど、インド人を彷彿させた(笑)。背が高くてやせ型、通った鼻筋に静かな語り口。
沈黙した時の佇まいが、哲学的に見え、遠くガンジス川に沈む遥かな夕陽を眺めているようで印象的であった。

 

終わり

 

ダバインディア

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