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香川まさひと
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第43話 隣で走る男

香川まさひと

  サングラスを外した山崎。
  その山崎の目。
衝撃を受けている但馬。
山崎、サングラスをかけなおすと
静かに言った。
山崎「但馬さん、あんたがしたんだよ、あんたが俺の目を奪ったんだよ」
但馬「!」
山崎「そして今、もうひとつ奪おうとしている」
  但馬、混乱しつつも必死であらがうように言う。
但馬「マ、マ、マラソンのことか?そんなにやりたいなら、俺を抜きにしてやればいいじゃないか!」
山崎「違う、マラソンじゃない、あんたが俺から奪おうとしてるのは」
山崎、言った。
山崎「俺の大切な仲間の但馬さんだ」
但馬「(響いた)!」
  とたん但馬泣き崩れた。
しゃがんだままわんわん泣く但馬。
そのとき、上杉と中居が通り過ぎる。
中居「山崎?」
上杉「山崎がどうしました?」
中居「止まってる、だがどうでもいい、弱者は置いていくのみ」 
中居たち、走って行った。
わんわん泣く但馬。
山崎「俺はマラソンが好きだと思ってた。だがそれは違うのかも」
山崎、続ける。
山崎「だって一度も普通のマラソンはしたことがないんだから」
但馬、泣くのをやめる。
山崎「俺が好きなのは伴走者と走るブラインドマラソンだよ」
  山崎、振り絞るように言った。
山崎「ブラインドマラソンが大好きなんだ」
  但馬、響いた。
  手をついて頭をこするように謝る。
但馬「ごめんなさい!本当にごめんなさい!目を奪ってごめんなさい!」
その但馬の目の前に、
山崎、握ったロープを差し出す。
山崎「走ろう、一緒に。約束したじゃないか、うまいビールをしこたま飲むって」
  但馬、叫んだ!
但馬「はい!!!」
但馬、目の前のロープを握った。
但馬「前方、10メートルほど先にランナー二人、後方なし、行きます」
山崎「おう」
  二人、走り出した。
  走る二人。
  その姿。

  ひかりとサキが並んで走っている
ひかり「……」
サキ「……」
ひかり「疲れた?」
サキ「……」
ひかり「大丈夫?」
  サキ、確かに足が重くなっているが
サキ「……大丈夫」

  走る山崎と但馬
  走る山崎と但馬。
  走る山崎と但馬。
但馬「ペース上げますか」
山崎「(あいまい)うん」
但馬「そのうんはどっちですか?」
山崎「上げたほうがいいか」
但馬「と思います、さっきので、だいぶロスになったんで」
山崎「……」
但馬「ごめんなさい、私のせいなのに、偉そうに」
山崎「それは言わなくていいよ、上げよう」
但馬「はい」
速度が上がる。
  走る山崎と但馬。
  走る山崎と但馬。
  山崎、言った。
山崎「ちょっと早すぎるかな」
但馬「ごめんなさい!」
  但馬、遅くする。
  走る山崎と但馬。
山崎、思う。
山崎「(心の中)今度は遅すぎる」
走る山崎と但馬。
山崎「(心の中)だめだ、ちぐはぐだ、気持ちが通じ合ってない」
  走る山崎と但馬。
山崎「(心の中)まあ仕方ない、サングラスを外した俺の目を見て、俺にあんなこと言われたんだ、心を合わせろってほうが無理だ」
  走る山崎と但馬。
  その山崎の無表情な顔。
  無表情な顔。
  無表情な顔。
  そして。
山崎「(心の中)いや違う、但馬さんじゃない、無理なのは」
  山崎の表情、憤怒の顔に変わり、思った!
山崎「(心の中)俺だ!」
  山崎、続けて思う。
山崎「(心の中)だって俺の隣で走ってるヤツは俺の目を潰したヤツなんだから!!」
  とたん、山崎、呆けたように止まった。
  但馬、持っていたロープに引っ張られ
思い切り、転んだ!!
(ロープは但馬が離した)
だが但馬すぐに、山崎を心配し、転んだまま叫ぶ。
但馬「山崎さん、どうしました?」
  そこにはまったく表情のない山崎がいた。
山崎「(ぼそりと)ダメだ」
但馬「え?」
  山崎、叫んだ。
山崎「走りたくない!あんたとなんか走りたくないんだよ!」
但馬、ショックを受ける。
だがすぐに理解し
ゆっくりと立ち上がると、
但馬「……そうですね、その通りです」
山崎「(叫び)なにがその通りだよ!じゃあ言ってみろよ!俺の今の気持ちを言ってみろよ!」
但馬「(押し黙るしかない)……」
  脇を何事かと思いながらランナーたちが走って行く。
山崎「さっきはああ言ったくせにって思ってるだろ」
山崎、続ける。
山崎「たしかにあんたを無理やり伴走者にしたのも俺だし、あんたが人一倍熱心に練習してくれたことも知ってるよ、だからさっきはああ言った」
山崎、続ける。
山崎「でも一緒に走ってわかった、あんたと走って、うまいビールが飲めるわけがない」
山崎、続ける。
山崎「俺、混乱してる?ああ、してるよ、でも混乱して当然だろ?」
山崎、続ける。
山崎「もしかして目を潰すだけじゃ足りなくて、さらに新たな試練を与えてるわけ?だったらやめてくれよ、目が潰れただけでもう十分だよ」
  山崎、叫んだ。
山崎「あんたのこと友達だと思ってた、でも友達だったらこんな残酷なことしないだろうが!!!」
話を聞いていた但馬、そこにはさっきとはまったく違う但馬がいた。
まっすぐに山崎の顔を見て言う。
但馬「山崎さん、全部私が悪いんです」
山崎「開き直るなよ」
但馬「このレースが終わったら、伴走やめます、消えます、でも今回だけは一緒に走らせて下さい」
山崎「(表情動き)……」
  但馬、しっかりした口調で言った。
但馬「今、山崎さんと走って思ったんです。山崎さんは走りたくないって思ったかもしれないけど、自分は走りたいと思いました」
但馬、続ける。
但馬「そして自分もブラインドマラソンは好きだって思いました」
  山崎、その言葉に冷静になり、但馬を見た。
山崎「……」
但馬「(目をそらさず)……」
  山崎、ぼそりと言った。
山崎「……レモンの匂いがする」
但馬「?」
  但馬、気づく。
  ポケットに入っていたレモンが転んだ拍子につぶれていた。
但馬「中居さんにもらったんです、匂い嗅げば落ち着くからって」
山崎「中居さん?」
但馬「上杉さんの伴走を後半するそうです」
山崎「(響いた)……」
  山崎の横をすり抜けていくランナーたち。
  何人も。
山崎「……匂い、嗅がせてくれ」
但馬「はい!」
  但馬、ポケットからつぶれたレモンを取り出した。
  山崎の鼻の前に持っていく。
但馬「中居さんが、すんすん嗅げって言ってました」
山崎「すんすん?」
但馬「はい、すんすん」
山崎、すんすん嗅いだ。
山崎「……本当だ、落ち着く」
  そのとき、係員が飛んでくる。
係員「どうしました?怪我でもしましたか?救護班呼びましょうか?」
山崎「大丈夫です」
  山崎、但馬に静かに言った。
山崎「走ろう」
但馬「はい!」
  但馬、ロープを山崎に握らせる。
  山崎、握った。
  だが
山崎「(不安)……本当に走れるのか」
但馬「私のことは無視して下さい」
山崎「(不安、ぼそりと)無視できるわけないだろ、あんたは伴走者なんだから」
但馬「……すいません」
山崎「(声にそこまで力なく)時間がもったいない。行こう」
  但馬と山崎、走り出す。
  だがリズム合わず、
いきなり派手に転んだ。
山崎に引きずられ
もつれるように但馬も転ぶ。
山崎「(痛くて)いっ!」
  山崎、膝をすりむいている。
但馬「大丈夫ですか!」
山崎「大丈夫、すりむいただけだ」
  山崎、立ち上がろうとして、
  但馬、慌てて合わせようとしたが
  また引っ張られて二人とも転んだ。
但馬「痛!」
山崎「大丈夫か?」
但馬「すりむいただけです」
  但馬、膝をすりむいている。
山崎「但馬さん、ロープを離して良かったんだよ」
但馬「すいません。でも……」
その転んだ二人が握るロープ。
山崎、但馬の気持ちわかった。
山崎「……」
  山崎、言った。
山崎「焦らずゆっくり立とう」
但馬「はい」
ロープを握ったまま
二人ゆっくりと立ち上がった。
山崎「行けるか?」
  但馬、後ろを見る。
但馬「(静かに)前方も後方もランナーしばらくいません。行きます」
山崎「おう」
   ふたり、ゆっくりと走り出した。
(次の話 第44光へ)
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