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原案者・夏原武氏による 連載コラム 【『正直不動産』取材こぼれ話】

夏原武
原案者・夏原武氏による 連載コラム 【『正直不動産』取材こぼれ話】

【『正直不動産』取材こぼれ話 第5回】


 

プロ対プロ

 とある座談会でのこと。元大手不動産会社社長の口から「プロ対プロの理屈をプロ対アマに持ち込んではいけない」(大意)という言葉が出て、いろいろな疑問がストンと胸に落ちた。
  不動産取引は売買・賃貸ともに、業者側はプロであり買い手の多くはアマである。投資は別として、通常の、つまり「住居」にする場合は「多く」ではなく「すべて」になる。
  そうした時に、いわばババ抜きをやっているプロ同士の取引、それを支えている理屈を持ち込まれたのではアマはひとたまりもない。しかし、現実には利益を得るためなら何でもありだと考える業者がいるのもまた事実。こうした業者は、プロ同士の取引の理屈をアマに押しつけているのである。
  もっと言えば、絶対に勝てるババ抜きをやろうとしているわけだ。不動産取引で一般の人が「騙された」「損した」と感じる場合、ほとんどが、こうした連中によるものだ。

 

 どこの誰が、絶対に負けるゲームをするだろうか?
  その常識を思いっきり覆しているのが不動産業界に蔓延る、間違った論理構築にあるのだ。
  実際、不動産業者の中には一般人とは取引しない、プロとしか商売をしないと言う人も珍しくない。それは、駆け引きの妙であったり、もっと言えば、同じ土俵で優劣を争うことの楽しさ、さらには、そこで得る勝利の味がたまらないからでもあるのだ。それはまったく正しい感覚と言っていいだろう。

 

 一方で、絶対に勝てる勝負しかしないという連中もいる。そんなものは商取引でもなんでもない。イカサマ賭博に過ぎない。売買でも賃貸でも、不動産営業次第であるということは『正直不動産』でも何度も言っているし、多くの真っ当な不動産業者も口をそろえて言う。
  店の大きさ、企業の大小などは関係ない。いかに、卑怯未練な振る舞いや、イカサマ賭博をしない不動産営業と出会えるか。不動産取引で嫌な思いや損をしたくなければ選択肢はこれしかない。問題は、そのためには時間がかかること。納得できる取引のためには、年単位に近い時間が必要になるのである。

 

賃貸保証

 

 本編エピソードでも取り上げているが、ここでは、そこでは扱いきれなかった視点について触れてみよう。
  そもそも賃貸保証とは何か。賃借人が何らかの事情で家賃滞納した時に、その家賃を大家に対して保証、つまり、代払いするということだ。

 

 一見すると保険システムにも似ているが、まったく違う。なぜなら、これは「金融」だからである。賃貸保証会社は一時的な立て替え払いをするが、当然ながら、返還を求めてくる。
  そもそも賃貸保証会社は家賃の半額程度を徴収しているわけだから、そこで儲けは出ている。あくまでも代払いしかしないのは、儲けによって得た利益を還元することが、このシステムの目的ではないからである。
  現在の借地借家法では、滞納したからといってすぐに退去してもらうことはできない。数か月の滞納、裁判、代執行という手順を踏まなくてはいけないし、しかも滞納家賃の回収はほぼ不可能。つまり、借り主は強く法律によって保護されている。

 貸し主はそれに対抗するために、保証を求め、それを代行するのが賃貸保証会社なのである。かつては連帯保証人がその責を負ったが、社会の高齢化少子化などもあり、現在は企業が請け負っている。
  「賃貸保証会社を間に入れなければ契約しない、というのが貸し主の意向です。それが嫌なら借りなくて結構ということですね。借り主が賃貸保証会社を選ぶことはできないので、審査を通らなければ諦めるしかない。これが現実です」(不動産会社)

 

 保証料を貸し主が払うべきだ、という議論がある。残念ながら、これは通用しない。なぜかと言えば、賃貸保証会社と契約するのは借り主であるからだ。もちろん、契約を拒むことはできるが、その場合は賃借できない。
  こうした議論の中には「家賃の中に保証料を含めて、貸し主が賃貸保証会社と契約すればいい」というものもある。不可能ではないかもしれないが、これまたやるかどうかは貸し主の判断になる。おそらく、そんな面倒なことは貸し主も仲介会社も嫌がるだろう。賃貸借契約と保証契約は別にしたほうが、貸す側にとってはシステム的にもすっきりするからだ。
  ここで筆者は思う。所詮、敷金・礼金も家賃の前払いなのだから、いっそのこと一年分・二年分の家賃を全額保証料として受け取ればいい、と。途中で退去する場合には、残りを返却すればいいだけのことだ。
  韓国で行われているチョンセというシステムがまさにこれだ。では、なぜ日本では普及しないのか。そこには、「金を受け取ったら変な人が入っても拒めない」という表の理屈とは別に、重大な理由がある。
  「韓国でチョンセが機能するのは、金利がある程度の高さであり、また、投資という行為に抵抗がないからです。日本ではゼロ金利状態ですし、投資自体にも警戒や不慣れがあります」(不動産ジャーナリスト)

 

 受け取った金で投資を行えば、賃貸自体は元金を得るための手段に過ぎなくなる。ところが、日本では賃貸利益が目的になっているということが、よくわかる話でもある。

 

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