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カレーマン外伝 こだわりのカレーマン

宮﨑 克
カレーマン外伝 こだわりのカレーマン

「こだわりのカレーマン」


 

町中華のカレー 「ふわとろオムドライカレー」
「中華洋食食堂あゆた」 ●墨田区石原

 

店の看板でいきなり驚いた。「中華洋食食堂あゆた」って、中華? 洋食?

 

つまりは、何でもある。何でも旨い。「町中華」の象徴的な店名だったのだ!

 

「中華と洋食の併記は珍しいかもしれないですね。元々、親父が始めた店名が『中華洋食 萬満亭』だったんですよ」二代目店主の鮎田信二さんは笑いながらそう言う。
この店の初代店主(信二さんの父親)は、中学卒業後に栃木から上京してきて懸命に働いて、独立を果たした。いわば昭和の高度成長期の成功者である。
その息子の信二さんは、高校まで野球に打ち込んでいた。大学や社会人野球からも声がかかっていたが…「プロまで行けるものでもないし」、と思って野球を諦めた。

 

『中華洋食食堂あゆた』の店主 鮎田信二さん

 

「兄が店を継ぐ気がサラサラなかっので、なんとなく調理学校を選んだんです」

 

調理学校卒業後は、銀座の老舗洋食店で数年勤務した。
「そろそろ家に入ろうかな〜」
実家の店が繁盛して忙しかったこともあって、26歳で実家に入ったという。
「こうやったら、もっと旨くなるんじゃない?」
調理学校で本格的に学び、銀座の名店で修業した息子は、当然のように現場に口を出した。

 

「お前、口の前に手ぇ、動かせ!」

 

叩き上げの父親は、頑固に首を振る。厨房はしばしば険悪なムードになった。
「親父が現役バリバリの頃は、よくメニューの事で意見が衝突しました。」
「継続」か「革新」か、厨房での親子の葛藤が、料理の質を高めた。独創的で安くて旨いメニューの数々は、この親子のやりとりの果てに出来上がったにちがいない。

 

「ファミリービジネス」という言葉がある。日本語では「同族経営」として、ややネガティブなイメージがあるが、創業100年以上の日本企業90%以上がこれにあたるという。
世界的に創業年数が100年以上の企業が最も多いのは、日本がダントツで1位。
創業200年以上となると世界全体の65%が日本企業になる。つまり最近の研究では、日本のファミリービジネスは成功モデルの一つなのだ。

 

経営学の統計を聞くまでもない。下町の人気店「中華洋食食堂あゆた」で食事をすれば、ファミリービジネスの成功例を、いとも簡単に舌が納得する。

 

まず食したのは「ふわとろオムドライカレー」(それにカツのトッピング)。

 

名前の通りドライカレーにとろとろのオムレツ、それにトロ〜リとしたカレーをかけたもの。
いかにも町中華の何でもありのカレーで、ガッツリ旨い!
このメニューを考えたのは息子さんだが「スパイスは親父から学びました」とのこと。
個人的に一番感動したのは「カレー鍋」。初めて食べた味だった! 

 

醤油ダレに白湯スープ、タマネギ・シメジ・青野菜等の具材にカレーを入れて、ぐつぐつ煮込む。隠し味はなんと赤ワイン。
ハフハフと貪り喰うほどに旨い! 大盛りでご飯を追加したくなるほど…熱々でトロ〜リ濃い旨さは感激もの。「“中華洋食”の看板に偽りなし」のコスモポリタンな味だ! 
これも発案し工夫したのは息子さんだが、鍋にワインを入れる発想は、父親がカレーラーメンのスープにワインを入れていたのを応用したもの。やはり親子二代合作の味だった。

 

 

現在のオシャレな店舗に改築したのは6年前。

 

改装後に父親はこう告げたという。
「お前、もう好きにやれ」。亡くなったのはその3年後のこと……
店は街の中華組合に加盟しているが、後継がいなくて組合店は減っているという。
「ガテン系の人も家族連れも女一人でも、誰でも入れる店にしてゆきたいですね」
父の築いた店を継いで発展させた信二さんには、ぜひ「旨い・安い、ガッツリ喰える」
という町中華の伝統を死守して欲しいものだ。

 

終わり

 

町中華のカレー 「ふわとろオムドライカレー」

 

 


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