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香川まさひと
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第10光 びゅんすか走る

香川まさひと

  広島城、公園ならびに、その周りを走るよう作られたランニングコース。
  ロープを握って立つ、山崎と順平。
小出「足は二人三脚の要領で。内側の足を一緒に出す、外側にある足を一緒に出す」
  小出、続けた。
小出「手の振りとかもあるけど、まずは体験してみて下さい」
山崎「一つ聞いていいですか?」「ロープの色は?」
芳江「(笑って)そりゃ、広島カープの赤じゃろ!」
確かにロープは赤だ。
順平「では、行ってまいります」
ふたり、ゆっくりと走りだした。

  広島城をバックに、お堀の脇を走る山崎と順平。

  軽く走る順平と山崎
順平「このスピードで大丈夫ですか? 怖くないですか?」
山崎「順平を信じてるから。赤いロープで結ばれてるから」
順平「(笑って)ふふふ、なんでロープの色を聞いたんですか?」
山崎「赤かもなって、わかったんだよ」
順平「超能力!キター!」
  走る山崎と順平。
山崎「だけど、広島って赤の可能性高いよな」
順平「(笑い)ふふ、そうかも」
山崎「色って気になるときがあるんだ。見えていた時は意識しなかったけど」
順平「どういう意味ですか?」
山崎「たとえば顔洗ってタオルで拭くとする、するとこのタオル何色なんだろうって」
順平「色がわかるほうがリアルになるって感じですか?」
山崎「そう、だけどさ、コーラ」
順平「コーラ?炭酸の?」
山崎「うん、俺は今、黒いものを飲んでるって意識したら、ヘンな感じだった」
順平「ああ、なんかわかる、でも牛乳は違和感なしの白でしょう」
山崎「(笑って)そうかもな」
  走る山崎と順平。
順平「前から人が来とるけど、このままで大丈夫です」
  来た。
  通りすぎた。
順平「ここら辺りは、自転車便でよく通りよったんです?」
山崎「そりゃ使ったよ。テレビ局に結構行ったなあ」
順平「ああ! タレント会いました?」
山崎「江上川かすみ、うらやましいだろ」
順平「誰それ?」
山崎「演歌の。蒲団のCMソング歌ってる」
順平「知らん、うらやましくもない」
  バックパッカーの外国人カップルがいる。
順平「10メートル先に外国人カップルがいるので、右に避けます」
  走る順平と山崎。
  避けた。
  走る順平と山崎。
順平「山崎さんは広島長いんですか?」
山崎「長くないよ」
山崎続ける。
山崎「ずっと自転車で旅行してきた。金がなくなると適当なところで働く。広島もそう。金が貯まったら離れるつもりだった」

  自転車で旅してた時の山崎。

順平「へえ」
山崎「(鼻で笑い)孤独が好きだって自分で思ってたんだよ」
順平「(自分の「孤独」と合わせて)……孤独」
山崎「(笑み消える)だけど、本当の孤独はまったく別だった」
順平「……」
  走る山崎と順平。
  向こうに女が立っている。
順平「女の人が立ってます。右に避けます」
  女……それはひかりだった。
  二人、避けた。
  制服姿(バッチはつけてない)ひかり、目で追う。
ひかり「(じっと見て)……」
  順平たちの背中。
ひかり、後を追いだす。
山崎「順平、カモメびゅんすか飛んでる?」
順平「え?」
山崎「カモメだよ、広島ってお城の近くにもいるだろ」
順平「そうじゃなくて、びゅんすかって?」
山崎「え? それって広島の方言じゃないのか?」
順平「違いますよ」
山崎「(小声でつぶやき)ひかりのヤツ」
順平「ひかり? お友達さんっすか」
山崎「……飛んでないか? カモメ?」
  順平、見上げた。
  飛んでいた。
順平「飛んでます」

少し離れたところからずっとついているひかり。

  走る順平と山崎。
山崎「やっぱり飛んでるか」
順平「気持ちよく、びゅんすか飛んでます」
山崎「……」
山崎、言った。
山崎「順平、思いきり走らないか?」
順平「え?」
山崎「息が切れるほど、死ぬほど思いきり」
順平「山崎さん」
山崎「ダメか?」
順平「俺って、挑発に乗るタイプなんですけど!」
山崎「よし、びゅんすか行こうぜ」
  ふたりの足並み、早くなる。
  腕の振りも強くなる。

  うしろにいたひかり。
ひかり「?」
  慌ててついていく。

  走る順平と山崎。
  もう本気だった。
  走る順平と山崎。
  息が上がる。
  きつい。
  だが走る。
  二人必死で走る。
  走る。
  走る。
  走る。
山崎「(心の中)心臓が苦しい」
  走る。
山崎「(心の中)あのころのように心臓が苦しい」

自転車便として登り坂を必死で漕ぐ山崎。

必死で走る山崎。

必死で坂道を漕ぐ山崎。

必死で走る山崎。

必死で漕ぐ山崎。
登り切った。
山崎、うれしそうに笑った。

走る山崎も笑っていた。
山崎「(心の中)同じだ」

自転車便で広島の町を走る山崎。
山崎のNA「なにも変わっちゃいない」

走る山崎。
山崎「(心の中)目が見えないだけで、俺も世界も何ひとつ変わっちゃいない」
  とたん、足がもつれる。
順平「!」
  山崎、転んだ。
  順平もつられて転んだ。
  ロープを握ったまま倒れた二人。
山崎「順平! 大丈夫か!?」
順平「山崎さんこそ!」
山崎「俺は大丈夫、そっちは?」
順平「大丈夫っす」
山崎「悪かった、順平」
順平「(笑って)手を離したほうが良かったんかな」
山崎「(笑って)仲いいな、俺たち」
  二人、まだ握っていた。
順平「ですね」
  そこへひかりが飛んできた。
ひかり「(驚き)大丈夫ですか!?」
順平「ちょっと転んじゃっただけです」
ひかり「びっくりしたあ!」
山崎「(気づき)ひかり?」
順平、ああ、この人かという顔でひかりを見た。
山崎「どうしてここに?」
ひかり「ヘルパーさんに私のこと教えたじゃろ?潮干狩りの場所は私に聞けって、そのとき話に出たんよ、山崎さんが走るんじゃーって」
山崎「ああ」
ひかり「しかし驚いた、ものすごい速さじゃった」
山崎「びゅんすか走ってたろ」
  ひかり、言った。
ひかり「たしかに、びゅんすか走っとりました!」
山崎の手と順平の手。まだロープを握っている。
(次の話へ)
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