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香川まさひと
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第54光 それぞれの思い

香川まさひと

  上杉家の玄関で話すひかり、サキ、上杉の三人。
ひかり「(顔曇り)それが、聞いたんじゃけど、山崎さんは……」
上杉「(答え予想して寂しい)……」
ひかり「一度話がしたいって、会ってもらえんじゃろか?」
上杉「……わかった」
ひかり、微笑んだ。
上杉「それとは別にあんたに謝りたいと思っとったことがある」
ひかり「はい?」
上杉「あんたからすれば頭に来ることはたくさんあったんじゃろうが、一つだけどうしても頭を下げないといけんと思う」
ひかり「なんのことじゃろ」
上杉「名前のこと」

回想。3巻。p138。
上杉「原爆が落ちた広島で、ひかりなんて名前つけんじゃろうなって」

  上杉、深々と頭を下げた。
上杉「ごめんなさい」
ひかり「……たしかにあれは失礼じゃった、私にも広島の人にも」
上杉「……ごめん」
  ひかり、笑った。
ひかり「(笑って)上杉さんの哲郎って名前、ええ名前じゃね」
上杉「(なぜか照れて)え、そんなことない」
ひかり「哲郎も、サキもひかりも、正太郎もええ名前じゃ!いや、そうじゃのーても、良くない名前なんてないのかもしれん」
サキ「(ひかりの深さを思ってか、ちょっと悲しい顔)……」

  公園
  サキに手をかけ上杉が来た。
ベンチに座っている山崎。
サキ「待たせた?」
山崎「サキか、一緒に練習する話、サキはOKなのか」
サキ「私はもちろんええけど」
山崎「もっと早く相談しなくちゃいけなかったんだが」
サキ「(そのことは気にしてたのでうれしい)ええんよ」「誰と来たん?」
山崎「いつもの芳江さんに頼んでやってきた、今、買い物に行ってる」
  ※芳江さんの顔だけぴょこりと出してください。
山崎「悪いけどちょっと席を外してくれないか、上杉と二人で話がしたいから」

  ベンチに座る山崎と上杉。
  山崎、言った。
山崎「一つだけ絶対に許せないことがある」
上杉「?」
山崎「一緒に練習するなら、ひかりに謝れ、ひかりの名前をバカにしたことを」
  山崎、答えを待つ。
上杉「それ、悪かったと思ってる、だからついこの前謝った」
  山崎、上杉がそこまで変わったのかと驚く。
山崎「……そうだったのか」
  山崎、続ける。
山崎「だったらいいんだ、一緒に走ろう、仲間じゃなくてライバルとして」
  山崎、手を出した。
山崎「あ、今、握手しようと思って手を出してんだけど」
上杉「(慌てて)ああ」
  手を出す上杉。
  握手した。
  見ていたサキ。
サキ「……」

  帰り道
サキと上杉が歩いていく。
上杉「(機嫌がいい)ラーメンでも食べに行くか」
サキ「兄貴、自分が変わったって言ったじゃろ」
上杉「あ?」
サキ「それ、私もじゃけえ」
上杉、表情動く。
サキ「ただし私を変えたのは恭治だけじゃなくて、チーム山崎のみんなかもしれん」
上杉「それはええことじゃろ」
サキ「ええことかな?ええかどうかはもうちょっと先な気がする」
上杉「?」
サキ「今は絶対に恭治をパラリンピックに行かせる!答えはそのあとじゃ」
上杉「もしかして恋愛の話をしとるんか?」
サキ「(笑い)そうかもね」

  原爆ドーム前
  テレビクルーが来ている。
  カメラが山崎をとらえる。
山崎「(背中のビブを見せながら)この顔が正ちゃんです。彼のお母さんを探すため  に似顔絵を入れてます」
  隣に立つ正太郎。
正太郎「そして私がリアル正太郎です」
  その背後に立つ、緊張気味のサキ、ひかり、順平、上杉と小出もいる。

ディレクターが言う。
ディレクター「次に練習風景を撮らせてもらいます」
  山崎と正太郎、上杉と小出、あとにひかり、サキ、順平が並ぶ。
ディレクター「準備良ければお願いします」
順平「準備OKです」
声「OKじゃない!」
それはスーツを着た中居。
信じられないほど早く着替え
ランニング姿になって、ポーズを決めた……。
  
  広島の町を……
走るチーム山崎。
  ときに近くから
ときに遠くから
カメラが狙う。
そのスケッチで……。

  山崎のアパート・表
  山崎を家まで送ってきた順平。
山崎「ちょっと上がっていかないか」
順平「?」

  同・部屋・中
  座る順平。
山崎「なんか飲むか?」
順平「いや、いいけど、もしかして恋の相談?」
山崎「(驚き)それは……違う、え?どうしてそう思うんだ?」
順平「ふふふ、冗談だよ」
  山崎、改まって言う。
山崎「順平、俺は東京パラリンピックに出る」
順平「わかってるよ、応援する」
山崎「いや、応援じゃなくて伴走も頼みたい」
順平「え?練習だけじゃなくて、レースでってこと?」
  順平、すぐに続ける。
順平「それは無理だよ、パラリンピックに出るレベルじゃないもん、マラソン協会だって許さんでしょ」
山崎「でも俺は順平と正ちゃんと走りたい」
順平「正ちゃんはアメリカで勉強してきたしなあ、俺は受験もあるし」
山崎「東京パラは受験が終わったらだぞ」
順平、改まり
順平「だったらちゃんと言う。山崎さん、俺は真剣に山崎さんにパラリンピックに出てほしい、だからそういうんはいらんと思う」
山崎「そういうの?」
  順平、冷静に言う。
順平「俺のことなんかどうでもええんよ、勝つために何をすべきか考えて下さい」
山崎「……」
順平「ごめん、でも俺は応援するのだってうれしいんだから」
山崎「(ぼそりと)……やってみなくちゃわからないだろ」
順平、怒鳴った。
順平「まだそんなこと言うのかよ!だったらひかりさんやサキさんと走れよ!」
山崎「……ひかりやサキは無理だ、でも順平は違う」
順平、表情動く。
山崎「順平が考えるより俺は非情だと思う。だから最終的には中居さんや別の人と走りたいと言うかもしれない」
  山崎、続ける。
山崎「でも今は順平と走りたい、それが正直な気持ちなんだ」
順平「……」
山崎「怒ったのか?」
順平「違う、初めて会ったころのこと思い出してた、二人で派手に転んだとき」

  初めて一緒に走ったときを思い出す二人
順平「あのとき俺たちは気持ちよく転んだんだ」

山崎「(笑い)たしかに派手に転んだなあ」
順平「(何かを考えている)……」

  ハンバーガーショップ・表
  
  同・中
  順平と正太郎が食事をしている。
順平「家庭教師のバイト何時から?」
正太郎「夕方からです」
順平「中学生?」
正太郎「今日は医学部狙う高校3年です」
順平「すげえー!時給いくら?俺も英語教えてもらおうかな?」
正太郎「僕でよければもちろんタダで教えますよ」
順平「タダ?!正ちゃんって守銭奴じゃん」
正太郎「ええ、よく言われます」
順平「ちなみに守銭奴は英語で?」
正太郎「a miser」
順平「おお!」
正太郎「じゃあ英語で捨て子は?」
順平「abandoned childかな」
正太郎「合ってます、あるいはfounding」
順平「found?見つけたってこと?」
正太郎「(にこにこと)面白いですよね」
  順平、言った。
順平「お母さん、早くfoundされるといいね」
正太郎「ふふふ、可能性は低いでしょうけど、でも」
正太郎、頭を下げた。
正太郎「ありがとうございます」
順平「ところでアメリカで勉強してきた走り方教えてくれん?無料で」
正太郎「山崎さんのためってことですね」
  順平、言った。
順平「違う、自分のため」
正太郎「え?」
順平「正ちゃんは自分をちゃんと持ってる。でも俺は違う。だから自分をfoundしたい」

  市内を走るチーム山崎たち
  中居が山崎と走る。
中居「その調子!」
その様子をじっと盗み見るように走る順平。
順平「(心の中)リズムがいいんだよな、動きも言葉も」

  高校・表

  同・教室
  試験を返される順平。
順平「ダメだ」
  凛が言う。
 凛「ここへ来てみんな頑張りだしたからね」
順平「今日、一緒に勉強しないか」
 凛「(うれしい)いいよ!」

  同・図書館
  凛と一緒に勉強する順平。

  同・校内(夜)
  図書館から帰る順平と凛。
 凛「だいぶやったねえ」
順平「ごめん、俺、このあとちょっと用事あるんだ」
凛「?」

  同・グラウンド(夜)
誰もいない。
一人で練習する順平。
  その順平の必死の顔。

  山崎のアパート・部屋の中
  山崎が洗濯物をたたんでいる。
  パンツとかはいいのだが、シャツは色がわからない。
山崎「(触ってなんだかわからない)?」
  それはサキが選んだ派手な柄のシャツ。
色を判定する機械を使って確認する。
青、赤、黄、といろいろ混じってる。
  そのときドアをノックする音。
山崎「はーい」

  山崎、ドアを開けた。  
  正太郎が立っている。
正太郎「正太郎です」
山崎「ん?どうかした?」
正太郎「テレビってすごいです!」
山崎「(驚き)!」

(次の話 最終光へ)
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