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香川まさひと
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ましろ日

第4光 金星

香川まさひと

 車の窓から
風が山崎の顔に当たっている。
ひかりの顔にも当たっている。
ひかりが運転する安芸信用金庫の軽自動車。
ぐんぐん走って行く。
ひかりが言う。
ひかり「風ってなんで気持ちええんでしょうね」
山崎「……なんでだろうな」
ひかり「犬もほうですよね」
山崎「犬?」
ひかり「車に乗っとる犬も窓から顔出すじゃないですか、気持ち良さそうに」
山崎「……たしかにな」
ひかり「あ!」
ひかり、叫んだ。
対向車の車、後部座先の窓から犬が気持ち良さそうに顔を出してた。
あっという間に通りすぎた。
ひかり「見ました?」
  ひかり、気づく。
ひかり「……ごめんなさい」
山崎「気にするな、何が見えたんだ?」
ひかり「窓から顔を出しとる犬がおったんです」「すみません」
山崎「どうして謝る?あんたの好きな偶然だろ」
ひかり「え?」
山崎「それも良いほうの偶然だ」
ひかり「はい!」
山崎「犬はどんな犬だった?」
ひかり「ラブラドールだと思います」
山崎「色は?」
ひかり「白です、うれしそうにベロ出しとった」
  ひかり、真似して「ハアハアハア」とベロ出す。
  山崎、笑う。
  走る軽自動車。
  
 小さな駐車場
ひかりの運転する車が来た。
ひかり、駐車場に入れる。
  止まった。
ひかり「はい、お疲れ様です」
山崎「支店か?」
ひかり「支店でもええんですけど、音声案内があるATMです」
  ひかり、続ける。
ひかり「ここじゃったら駐車場もあるし、ガイドヘルパーさんが来るにもわかりやすい場所なので」
山崎「ガイド?」
ひかり「外出に同行する福祉サービスがあって、利用できるみたいですよ」
山崎「調べたのか?」
ひかり「(答えず)私が先に車降りますね。そのあとドアを開けますから」
ひかり、降りる。
だが山崎、手を借りずに
車を降りた。
ひかり、来る。
山崎「大丈夫だ、このくらい出来る」

ATM。その中。
ひかりと山崎。
ひかり「受話器で案内してくれますから」
ひかり、山崎の手を取って受話器を持たせる。
ひかり「一番上の左から1,2,3、次が4,5,6、次が7、8,9です」
  山崎、触る。
ひかり「そして最後がアスタリスク、米マークみたいのですね、次が0、そしてシャープマークです」
山崎、触る。
ひかり「ポッチがついとるんが5ですね」
たしかについている。
ひかり「カードはありますか?」
山崎、背中にしょってたカバンからカード入れを出した。
山崎「捜してくれ」
  ひかり、取り出し捜す。
一枚一枚ゆっくり見て行く。
その手が止まる。
ひかり「……」
そのなかにあった運転免許証。
山崎の目がはっきりと見える山崎の証明写真。
ひかり「(心の中)そこにはサングラスなしの、私をしっかり見つめとる山崎さんがおった……」
山崎「見つからないか?」
  ひかり、慌てて捜す。
  あった。安芸信用金庫のカード。
ひかり「ありました、私がいれるんでガイダンスを聞いて下さい」
  山崎、受話器を耳に当てる。
二番のボタンを押した。
声「音声案内を開始します……正面にカードをお入れ下さい」
山崎「入れて」
  ひかり、入れた。
ひかり「じゃあ外で待ってます」
  山崎、操作を続ける。

  待っているひかり。
  山崎、出てきた。
山崎「ずいぶん待たせちまったな」
ひかり「操作、難しかったですか」
山崎「難しいよ」
ひかり「音声案内わかりにくいですか?」
山崎「そうじゃないさ、今の俺にとってはなんでも難しいんだ。歯磨きだって難しい」
  山崎、手にした紙幣を見せる。
山崎「十万円本当にあるか」
山崎、差し出す。
受け取るひかり、札勘縦読みで。
シャシャシャシャと素早く数えた。
ひかり「たしかに十万円です」
山崎「さすがだな、手慣れてるのが音だけでわかるよ」
ひかり「そりゃもう安芸信用金庫ですから」
山崎「柱時計いくらだった?そこから取ってくれ」
ひかり「あれはプレゼントですよ、値段も安いんです」
山崎「そう言うと思った。わかった。ありがたくもらう」
ひかり「山崎さん、福祉課に行かれるんですよね、お付き合いしたいんですが、それは業務外になるけえ、私の昼休みまで待っとってくれますか」
山崎「市役所は自分で行く」
ひかり「でも……」
山崎「そのつもりで書類も持って来た。悪いけどタクシーだけつかまえてくれるか」
ひかり「それはかまいませんけど」
  ひかり、気づいた。
ひかり「(山崎に)ちょっと待っとってくれますか?」
  ひかり、走って行く。
  タクシーが見えたのだ。
手を振った。
  タクシー止まった。
  
  待っている山崎。
ひかり、山崎のところに戻ってきた。
山崎「いきなり見つけたのか、また偶然か」
ひかり「偶然です!本当は結構タクシー通る道ですが、あえて偶然と言っときます!」
山崎、笑った。
  
  タクシー、後部座席に乗った山崎。
  外からひかりが運転手に言う。
ひかり「目の不自由な方じゃけえ、市役所の受付まで誘導してあげて下さい」
  山崎がひかりに言った。
山崎「明日アパート来れるか? 支店に連れて行ってほしいんだが」
ひかり「はい?」
山崎「定期作るよ」
ひかり「(普通に、ヘンにはしゃがず)ありがとうございます、何時に伺いましょうか」
山崎「8時45分」
  
  タクシー、発車した。
  見送るひかり。

 県立船出高校・表(放課後)
帰宅する生徒。
部活へ行く生徒。

 同・2年1組(放課後)
  机に座って、チチトスの牛乳パックをチューと飲んでいる順平に、帰る凛が言った。
凛「また明日」
凛、カバンと大きなスケッチブック。
順平「(スケッチブック見て)それ、漫画? 今度見せてよ」
 凛「絶対嫌だ」
順平「新人賞とか出しちゃってるわけ?」
 凛「持ち込みはしとるけど」
順平「モチコミ?それって業界用語じゃん!」
  順平、チューと飲んで
順平「ええのー、将来決めとる奴は」
 凛「そんなんじゃないけえ」
順平「ごまかすなよ!漫画家になりたいんじゃろ?」
 凛「……なれればなりたいけど」
順平「俺なんてなんにもないよ、まっ白。じゃけえ、ミルク飲んでる」
凛「ふふふ、じゃあね」
 凛、背を向け教室を出て行く。
その顔うれしい。順平と話せたから。
その順平。ひとりごちた。
順平「じゃけど牛乳って、なんでこんなにうまいんじゃろ?」

 住宅街(夕方)
  帰って来た凛。
  まだうれしい。
 凛「ごまかすなよ!漫画家になりたいんじゃろ?」
  順平を思い出し、自分で答える。
 凛「なりたいです!」
  自宅に来た。
  スクーターが止まっている。
  玄関から「ありがとうございました」と出てきたのは集金を終えたひかり。
  ヘルメットを取って
ひかり「お、凛ちゃん、おかえり!」
 凛「ただいま」
ひかり「漫画進んどる?ロックバンドの」
 凛「全然ダメ。私、本当に発想貧困で」
  凛、続ける。
凛「あらすじ聞いただけで、面白そう!みたいのがええんじゃけど」「ひかりさん、なんかないですか?」
ひかり「え?私?」
 凛「だってひかりさんってセンスええし」
ひかり「それを言ってくれるんは凛ちゃんだけよ」
  ひかり、ヘルメットを被って考える。
ひかり「凛ちゃんの話って、昔ヒットを飛ばしたバンドが、全国をドサ周りしとるんじゃろ?」
  ひかり、続ける。
ひかり「それさ、ボーカル以外、宇宙人にしたら?」
 凛「(ものすごく驚き)えー!」
ひかり「ドラムはタコみたいな火星人、ベースはぐにゃぐにゃの木星人で、ギターは信じられんほど美しい雌雄同体の金星人、それでボーカルはイケメンの広島県人」
  ひかり、ノってきた。
ひかり「バンドは地球じゃなくて宇宙をドサ周りしとるわけ。宇宙酒場。ボーカルは地球で歌いたいんじゃけど、なぜか土星でそこそこ人気で。って言っても土星演歌なんじゃけど」
 凛「土星演歌って何?」
ひかり「それは凛ちゃんが考えるんでしょう!」
  ひかり、続ける。
ひかり「でも、ボーカルは土星演歌を歌い続けるのよ。歌は宇宙の共通の言葉だって。いや、くじけたほうが面白いか。それを仲間が友情で救う」
 凛「面白そう!でも私に描けるかねえ」
ひかり「凛ちゃんなら描けるよ!」
  ひかり、スクーターに乗った。
ひかり「ボーカルの広島県人と雌雄同体の金星人はBL要素入れたほうがいいかも」
  ひかり、「ほいじゃあね」と発進した。
見送る凛。
凛「……なんかわからんけど、ひかりさんってやっぱすごい」

 夕方の道を走るひかりのスクーター
ひかり「あ」
ひかり、気づいた。
夕空に光る金星。
ひかり「一番星!宵の明星!まさに金星、本日トドメの偶然!」

 走るひかりのスクーター
広島の夕空に光る金星
(次の話へ)
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