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原案者・夏原武氏による 連載コラム 【『正直不動産』取材こぼれ話】

夏原武
原案者・夏原武氏による 連載コラム 【『正直不動産』取材こぼれ話】

【『正直不動産』取材こぼれ話 第1回】

『正直不動産』では様々な職種の方に取材させていただき、お話を伺っています。すべてを作品で取り上げているわけではありませんが、取材のたびに新しい驚きなど、刺激を受けております。
そこで、そうした取材の中からちょっとした、いわば「裏話」を披露させていただくことになりました。なお、時系列的には連載と前後することもあります、また、必要に応じて特定を避けるための工夫もありますことをご了承ください。

 

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「それはあなたの責任でしょ」

 これは取材ではなく、筆者が直接関与した話。もうずいぶんと前のこと、池袋にある不動産屋で賃貸物件を仲介してもらった。担当は三十前後の女性、感じも良く物件も良かったので契約することにした。
 この不動産屋はごく普通だとは思うのだが、当時の筆者の月収(編集プロダクション勤務)と比して家賃が高いことを窓口で指摘された。すでにライター業もしていたので副収入が給与と同じかそれ以上あると伝えると「じゃあ、その金額にしておきましょう」と申込書を修正して無事に審査にも通った。しかし、考えてみると、証明書類(納税証明など)も出さずに口頭で伝えるだけで問題なし、というのだから、いい加減なものだ。

 

 借りられたのだから、そこに文句をつけるつもりはないのだが、この不動産屋というか女性営業がかなりのトンデモだったことが後で分かってくる。
 借りたのは明大前にあったマンションなんだが、結局その物件を扱っていた不動産屋は別にいた。つまり、池袋の不動産屋は一般公開してる物件を繋いだだけ。契約自体は、管理している不動産屋で行った。当然、敷金や礼金はそこで支払い、仲介手数料(賃料一か月分、これも今や争いになってるが)もそこで払った。

 

 引っ越して一か月ほどしたら、その女営業から仕事場に電話がかかってきた。何かと思ったら「うちの仲介手数料を払ってください」というもの。
「はあ?」である。

「いや、仲介手数料は○○に払ってありますよ。そちらとやりとりしてくださいよ」
「いえ、それはあちらへの手数料です。うちは別です」

 

 『正直不動産』を読んでくださっていれば分かることだが、仮に何社関わろうと仲介手数料は賃料の一か月分である、あとは、それを関わった会社が分ければ済む話だ。関わった会社すべてに手数料を払っていたら、とんでもない金額になる。

 その旨を強く伝えたところ、まったく納得しないので困ったが、「上司と話してください」と電話を切った。その後も何回か電話があったが「取り次がないで」と拒否していた。

 

 そこから数か月が経った。

 驚くことに自宅に彼女から手紙が届いた(そりゃ不動産屋だから住所は知ってますわね)。開けると、これがとんでもない恨み節。

「あなたのせいで、会社に居づらくなりました。手数料は私が立て替えてあります。すぐに振り込んでください」
 何を言ってるんだ、このバカ女、というのが私の感想。当然ながら無視した。家に来るかなと思ったが、さすがにそれはなかった。来たところで返事は同じだけどね。

しかし、もし本当に立て替え払いさせられたとしたのなら、とんでもない不動産業者だ。けれど、やっぱりこれは無知であることも含めて、むしろ不動産仲介業で働いている「あんたの責任」なのである。

 

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「聞いてないよ」

「とんでもない話? そんなの一杯あります」東京下町の不動産仲介業者。よくある街の不動産屋、家族経営で営業担当を二人雇っている。親の代からやっているというから、街ともなじみ深い。仲介した数もかなりのものになる。
「やっぱり、街が変わってきたからね。マンションがどんどん建つようなとこじゃないけど、ちょっと作りのいいアパートだのテラスハウスだのは増えたわけよ。若い人が増えるだろうなとは思ってたけど」
 よくある話で、それこそレオパレスじゃないが、やったらアパートがぽんぽん建って急に見慣れぬ顔が増えたというわけだ。
 仲介業者としてみれば物件が増えるのは悪いことではない。手数料ビジネスなのだから当然だ。
「でもね、客が増えればトラブルも増えるわけ。そういう新しい物件だけじゃなく、うちが昔から任されてるアパートや、古めのマンションなんかにも問い合わせが来るわけよ」
 よく言えば相乗効果と苦笑いしていたが、客は増えていった。ただし、これまでには考えられないようなトラブルが増えていく。

 

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審査が通らない

 収入からも問題ないだろうという物件なのに、保証会社の審査がまったく通らない。緩いので有名とされるR社のもダメ。本人にローン事故などないですか? と聞いても「ない」の一点張り。と、娘さんが「ねえ、携帯のことも聞いたほうがいいよ」と。まさかと思いながら「携帯電話の不払いとかありますか?」と聞くと「あ、それはあるな。だから今は番号変えてるし、これプリペイドだから」

 「あきませんわ、ですよ」と笑う。ローン事故の情報は、すべてではないが、多くの場合共有される。携帯電話ぐらい、という甘い考えでいると、あちこちで影響が出るというわけだ。

 

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入居人数が違いません?

 独身女性の申し込み。基本的に問題はない内容だし審査も通った。いざ契約となったときに「友達来ても大丈夫ですよね?」と不動産業者は聞かれたという。なんでも、前に住んでいたマンションでは、大家がうるさく、男女問わず友達が訪ねてくるとチェックされ、泊まりでもすれば「契約違反」と騒がれたという。
「一泊二泊なら大丈夫ですよ。居住人数というのは、あくまでもそこで生活する人ということですから」と答えると安心した表情だったという。

 ところが、しばらくすると大家から「どうもおかしいんだよね」と連絡が来た。まさか、複数で居住してるのか? そう聞くと、大家は「いや、たまに訪ねてくる人はいるが、そういうことはない」
では、何がおかしいのか。
「郵便物がすごい来る。もちろん見てないんだが、あふれ出るほどで、たまに落ちてることもあるんだよ」
「まあ、若い子だからショッピングとかするんでしょ。一度買うとすごくDM来るから」
「いや、宛名が違うんだよ、ほとんど」
 それは驚く話だ。

 実は、この女性、驚いたことに住所貸しをしていた。調べたら出るわ出るわ、十数人が住民登録までしていたのだから、相当なタマだ。
「むろん契約解除しましたけどね」
 不動産業者は大きなため息をつくと、「誰かのギャグじゃないけどさあ。聞いてないよ、ですよ」

 

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