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香川まさひと
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第12光 それぞれの時間         

香川まさひと
  公園
  山崎、順平、ひかりの三人の姿。
山崎「(思い出し)そうだ、饅頭があるんだ」
山崎、背中のかばんを取った。
山崎「今朝、保険屋にもらったんだよ、食べる?」

  回想。但馬が渡す。
バカなどと書かれた饅頭の包み。
  食べる山崎。

ひかり・順平「食べまーす!」
山崎、カバンに手を入れながら言った。
「これなんだけど」
と取り出した饅頭は一個ずつサランラップでくるんでいる。
ひかり「(受け取って)自分でラップしたんですか? おばちゃんみたい」
山崎「違うんだよ、個別包装だったんだけど、お茶を思いきりこぼしてしまって」

回想。台所から急須(すでにお湯とお茶が入ってる)を持って来た山崎、
よろけて、テーブルの上の饅頭の箱(上箱はしてない。バカ、死ねと書かれた饅頭)の中にお茶をぶちまける。
山崎「やばい!」

山崎「それで慌てて包装取って、ラップしなおしたんだ」

  回想。バカと書かれた包装をはずし、あらたにラップで包む山崎。

山崎、ひかりと順平が心配してるかと気にして
山崎「あ、こけたのは、目が見えないせいじゃなくて、筋肉痛のせいだから」
  だが二人気にしてなかった。
  「うまい」「うまいっすね」と饅頭を食べていた。
山崎「……俺も食う!」
  三人食べる。
ひかり「さっきの、私が伴走する話ですけど」
  山崎と順平、ひかりを見る。
  ひかり、言った。
ひかり「しばらく考える時間をくれませんか」

  ひかりの家・表(夜)

  同・部屋(夜)
  帰って来たばかりのひかりが仏壇に向かって自問自答する。
ひかり「(心の中)山崎さんはレースに出たいと言った、だから私が足手まといになるわけにはいかなかった」
  両親の写真。
ひかり「(心の中)だけど、山崎さんを助けたいとかじゃなくて、なぜか私はすごく走りたいと思っていた」
  ひかり、かばんからお饅頭(ラップつき)をふたつ出す、

  回想。冒頭の続き。あのあとの会話。
山崎「(饅頭をふたつ差し出し)よければご両親の仏壇にお供えしてくれないか」
  意外な言葉に、ひかり、うれしい。

写真の前に置かれた饅頭。
ひかり「召し上がれ、甘すぎないとこがええよ、皮もうまいけえ」

  安芸信用金庫・支店(夕方)

  同・中(夕方)
  終業間際。閉めをしている人たち。
  終えたひかりが「おつかれさま、お先に」控室に行く。

  同・控室(夕方)
  ひかりが入っていく。
出てきた。
ランニングにランニングシューズ。

  夕方の町
早足で歩くひかり。
ひかり「(心の中)最初は早足くらいがええと、ネットのマラソン講座に出とった」

  別の日・このあと、ひかりの4、5日間の描写。
  朝、白牛乳を飲みながら安芸信金に入っていく。

  スクーターで仕事に向かうひかり

  ひかりの家・表(夜) 
  ランニング姿のひかりが出てきた。

  早足で歩くひかり。
  耳にイヤホン。音楽を聞いている。
ひかり「♪」

 働くひかり、信金、自分の机。午後、机に向かって、電卓を叩く(集金したものの確認作業)。

  ランニング姿のひかりが早足で歩く。
  汗かいている。
ひかり「(心の中)歩くだけでも結構きついもんじゃねえ」

  働くひかり。商店街、ある店の前で立ち話。
店主「(広島弁)へえ、歩きよるん? だったら終わったあと、体操したほうがええよ」
ひかり「終わったあと? 始まる前じゃなくて?」
店主「どっちも大事らしいよ」

  早歩きしたあとのひかりがストレッチしている。

  朝の町を歩くひかり。

朝、着替えて会社に行くひかり。家のドア前。
ひかり「ガス、電気、よし。線香消した、忘れ物なし」

  山崎のアパート・表(朝)
  山崎が体操をしている。
  ももあげ中。
  携帯電話が鳴った。

  船出高校付近の道(朝)
  電話をしたのは順平、高校へ向かいながら。
順平「順平です、ひかりさんから電話ありました?」

山崎「ない」

順平「だったらプレゼント作戦行きますか」

山崎「プレゼント?」

順平「あれ? 山崎さん、息切れしてない? 運動しとったん? すげえ!」

山崎「(照れて)まあ、ちょっとな、それよりなにをプレゼントするんだ?」

順平「さあ、なんでしょう? 今日夕方空いてます? 放課後アパートまで迎えに行きますけど」

  安芸信金(夕方)、出てきたランニング姿のひかり

  早歩きで町を歩く。

  早歩きで町を歩く。

  早歩きで町を歩く。

  (同時刻)原爆ドーム近くのアーケード、白杖を持った山崎が順平の腕をつかみ、歩いて行く。

山崎「なにをプレゼントするんだ」
順平「そりゃパンティでしょう」
山崎「え?」
順平「こういうくだらんギャグ好きですよね、山崎さんの世代って」
山崎「(顔赤く)俺の世代をどう思ってんだ!」
順平「顔真っ赤」
  
  早歩きで町を歩くひかり
ひかり「(心の中)そろそろいいかな、軽く走ってみようかな」
  ひかりの足、
早歩きから、走りに変わった。

  走るひかり。

  走るひかり。

  走るひかり。

  (同時刻)アーケード街
  ある店に入っていく山崎と順平。

店から出てきた山崎と順平。
手に買った袋。
歩く山崎と順平。
順平「ええ色ですよ」
山崎「順平が選んだんだからな、責任重大だぞ」
順平「大丈夫! ああ見えてフェミニンなピンクとか好きだと思うなあ」

  走るひかり
ひかり「(心の中)今日はまだ思いきり走っちゃだめなんじゃろうなあ」
  走るひかり。
ひかり「(心の中)だけど、走りたいなあ」
  走るひかり。
ひかり「(心の中)走りたい」
  走るひかり。
ひかり「(心の中)……」
  走るひかり。
ひかり「(心の中)……」
  走るひかり。
  表情変わった!
ひかり「(心の中)だめじゃ! 我慢できん!」
  とたん思いきり走りだす。

  走るひかり
  原爆ドーム付近。

  歩く山崎と順平
  原爆ドーム付近。
順平「あ」
  順平、気づいた。
山崎「どうした?」
順平「びゅんすか走ってる人間、発見!」
山崎「ひかり?」

  川を隔てて
走るひかり。
  見ている順平と山崎。
(※ここでひかりたちが近いところにいたとわかる)

走るひかり。
順平「どうします? 声かけに行きます?」
山崎「今日は、やめとこう」
  順平たち、方向をかえる。

  走るひかり。
  その苦しそうな表情。
  それでも走る。
  苦しい。
だけど走る。
さらに走る。
ひかり「(心の中)なぜ走りたかったか、わかった気がする」
  スピードを落とした。
さらに落とす。
早歩き。
そして歩きに。
  激しく息をする。
  はあはあはあはあはあはあはあ、と、
  大きく肩で息をしながら歩く。
ひかり「(心の中)走るって、ダイエットとか、誰かのためとか、そういうものじゃなくて」
はあはあはあはあはあはあはあ。
ひかり「(心の中)走ること自体が、ただ気持ちええってことなんじゃ」
  はあはあはあはあはあはあはあ。
(次の話へ)
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