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香川まさひと
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38話 但馬の秘密

香川まさひと

  マラソン会場。
トイレから戻る山崎と但馬。
  そのとき但馬が驚く。
太田が来るのが見えた。
但馬「(パニックになり、心の中)うああああああ」
  
  回想・あの事故(客観)
  居眠りする但馬。
  そのトラック。
逃げる山崎。
  但馬のトラック、山崎を突く。
  突かれた山崎、目の前に!
山崎の悲鳴。

  回想・病院(客観)
  下を向いている但馬。
  大鷹のユニフォームを着た太田が言う。
太田「なんとか言えよ」
但馬「(小さい声で)すみませんでした」
  太田、激昂して但馬の首根っこをつかみ
太田「(怒鳴り)すみませんですむかよ!山崎は二度と目が見えないんだぞ!」
但馬「(つかまれたまま)……」

  トイレ前
  あのときが甦った但馬、息荒く、自分の首に手をやる。
  太田、向かってくる。
但馬「(慌てて目を伏せ)!」
山崎「(但馬の様子がおかしいのに気づき)どうかした?」
但馬「靴ひもが……」
  但馬、慌ててしゃがみ、靴ひもを結ぶふりで顔を見せないようにする。
  だが、我慢できず、ちらりとそこから太田の様子を見る。
  太田、知り合いにあったらしく、誰かと陽気に話していた。
  但馬、ここぞとばかり、太田の視界に入らないように、山崎を連れ、足早に行く。
山崎「(笑って)但馬さん、早いよ」
但馬「でももう私は中間地点に行かないと」
  ぐんぐん歩く但馬。
  順平たちが見えた。
  山崎を押し付けるように、
但馬「じゃあ行きます」
山崎「但馬さん、レース終わったら、しこたまビール飲もう!」
  但馬、精一杯の気持ちで
但馬「はい!」
ほとんど泣き顔のそのくしゃくしゃの顔。
但馬、走っていく。
順平「但馬さん、相当興奮してるなあ」
山崎「順平は興奮しないのかよ!」

  少し離れた場所
逃げるように走る但馬。
但馬「(心の中)バレなかった」
走る但馬。
但馬「(心の中)いや、バレる、絶対バレる」
  走る但馬。
但馬「(心の中)でも元はといえば」
  
  回想・お城の近く・あの日
山崎「あ、もう一人、伴走頼もうか」「そうすれば二人の負担も減るし、ヘンに力まな
  いで済むじゃないか」
  続けて
山崎「ここって市民ランナーが多く走ってるだろ?なら次に走ってきた人に頼んでみ
  ようぜ」
  そして来たのが但馬だった。

  走る但馬
但馬「(心の中)だから俺が悪いんじゃない!」
tt
  山崎たちがいる場所
山崎「(心の中)但馬さんが張り切ってるのに、俺のほうはどうなんだろう」
  × × ×
回想。トイレで吐いた山崎。
× × ×
山崎「(心の中)俺、本番に弱いタイプなのかもな」
そのとき右手を握られる。
声「緊張しとるな、緊張は海の彼方まで飛んで行け!ひかりからのお願いじゃ」
  すると今度は左手を握られる。
 声「サキからもお願いじゃ!緊張は空の彼方まで飛んで行け!」
山崎「ありがとう」
  山崎、気づく。
山崎「うん?今のサキがひかりでひかりがサキだろ?」
  そのとおりだった。
順平「すぐにわかったってことは緊張してないよ」
  順平、ひかりとサキが笑うのを見て
順平「(心の中)しかし二人とも偉いなあ、内心、複雑な気持ちじゃろうに」
  順平、続けて思う。
順平「(心の中)なぜ高校生の俺がそんなことまで考えとんじゃ!」
  そこへ上杉と小出が来た。
小出「どうも!」
上杉「(嫌味で笑いながら)どう?体調は?」
山崎「絶好調だけど」
上杉「フルで走ったのか?魔の35キロは体験したのか?」
山崎「(心の中)まずい、走ったことは順平たちには言ってないからな」
  山崎、言った。
山崎「走らなかった」
  上杉、声にだして笑った。
上杉「そうだと思ったよ、口ばっかのやつじゃけえ」
サキ「兄貴、やめてよ」
山崎「(笑い)いや、笑ってくれてよかった、このクソ野郎!って改めて闘志が沸いた」
上杉「(いやな感じ)!」
山崎「忘れてないだろな、レースに勝ったら俺に殴られるって約束!」
上杉「(笑い)ああ、いくらでもどうぞ」
  そのときひかりが言った。
ひかり「上杉さん、正々堂々と戦いましょう」
上杉「お前に言われんでもわかっとる。なにより視覚障害者は不正すること自体が大変じゃ」
  係りが回ってきた。
係り「そろそろスタート地点に移動お願いします」
  上杉、小出に行く。
順平「(気づき)あれ?太田さんどこ行ったんだ?会わなかった?」
山崎「太田さん?」
順平「応援に来てくれたんだよ、山崎さん探してトイレに行ったんだけど」
  順平、続けて
順平「自転車で来てたから、コースに先回りしてるのかな?」

  走ってきた但馬
  立ち止まる。
  三上と待ち合わせの場所。
但馬「(心の中)三上さんいない、だったらこのまま逃げちゃおうか?」
但馬、改めて思う。
但馬「(心の中)そんなことしたら山崎さんは棄権になってしまう、打倒上杉哲郎でここまでがんばってきたのに」
  但馬、思う。
但馬「(心の中)大丈夫、まだバレたわけじゃない!ユニフォーム着てたから、仕事で   来てただけかもしれない」
そのとき大会の係員が言う。
係員「あの」
ドキンとする但馬。
係員「バイクをお探しですか?」
係員、続ける。
係員「こちらにあった自転車やバイクは、もうすぐスタートなので、あちらに移動し   ていただきました」
と指した。
但馬、ぺこりと頭を下げ
そちらに走って行く。

  スタート地点
  ぞろぞろと歩いてきたランナーたち。
  係員がスピーカーを手にして言う。
係員「スタートの順序ですが、まずは招待選手、つづいて2時間半以内の記録を持つ方、次に2時間半から3時間……」
順平「タイムはあくまで自己申告ですよね」
係員「そうです」
  順平、サキとひかりに言った。
順平「俺たち、前のほうなんで」
サキ「がんばって」
ひかり「私たちも完走目指すから」
山崎「ゴールで待ってるよ」
山崎と順平、行く。
× × ×
スタート地点。
脇に応援に来た家族や島の人たち。
招待選手が数人いる。
そのあと、数人。
さらにそのあとのグループに、上杉と小出、その後ろに山崎と順平がいる。
順平、脇にいた若い男佐藤に聞いた。
順平「タイムどれくらいですか」
佐藤「いいときで2時間45分、悪いときで3時間」
順平「安定してますね」
  順平、小声で山崎に言う。
順平「この人、ペースメーカーに使えるかも」
山崎、指でOKのマーク。

スターター「スタートまであと15分です」

  バイクや自転車が止まるところ
  やってきた但馬。
  バイクにまたがって三上が待っていた。
三上「スタート地点は混雑するけえ、う回路で行ってくれって」
コクっとうなずく但馬。
ヘルメットを被って、後ろにまたがる。
三上「安全運転で参ります、しっかりつかまっててね」
三上のバイク、走りだす。
カーブを切る。
ちょうどそのとき、
但馬と太田の目があった。
太田、自転車にちょうどまがったところ。
但馬「!」
太田「(ぼそりと)あんたはトラック運転手の……」
三上のバイク、去っていく。
(三上は気づかなかった、声も聞こえなかった)
太田、その場所から、遠ざかっていく但馬を見ている。
但馬の背中にある伴走のゼッケンとチーム正太郎のゼッケン。
太田「え?チーム正太郎?山崎の?」

  中間地点へ向かう三上のバイク
後ろの但馬、顔くしゃくしゃで。
但馬「(心の中)見つかった!!!」
  但馬、思う。
但馬「(心の中)逃げ出したい、でも三上さんといるから逃げられない」
軽快に走る三上のバイク。
三上、笑った。
三上「但馬さん、武者震いがすごい」
  たしかに三上にまわした但馬の腕、ガタガタと震えている。
三上「(勘違いしたまま)でも生物学的に言ってええことらしいよ、体を震わすことで血行を良くするって、ええ走りになるよ」
但馬の顔くしゃくしゃのまま……。

  スタート地点
スターター「スタート30秒前です」
順平、山崎、ともにロープを握りなおす。
山崎「(心の中)寝不足で、車で酔って、吐いて、自分はまともに走れるのか?」
  山崎、続ける。
山崎「(心の中)でも、なんとしても、但馬さんと走りたいな、無茶な願いを聞いて、チームに加わってくれたんだから」
  山崎、続ける。
山崎「(心の中)勝って、しこたまビールを飲むぞ!」
  そのとき、スターターがスタートのピストルを鳴らした。
順平、言った。
順平「びゅんすか行くぜ」
山崎「おう!」
走り出す山崎たち。

  三上のバイクの後ろ、但馬のその蒼白な顔……。

  走る山崎の力みなぎるその顔……。
(次の話へ)
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