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香川まさひと
広島市内を走る
山崎とひかり。
その後ろを走る順平と但馬。
ひかり「人がいます。左に避けます」
山崎「おう」
避けるひかりと山崎。
今日も練習する4人。
ある場所
休憩する但馬と順平。
その二人を通りすぎる山崎とひかり。
ひかり「疲れてヘロついてる順平くんと但馬さんを通過します」
山崎「おう」
その姿を真横から見る順平、背後に但馬。
山崎のフォーム、ほんのすこし反ってる。
順平「(心の中)やっぱり山崎さんのフォーム違うなあ、レースのせいだろうな」
レース、必死な顔の山崎とひかり。
順平「(心の中)走ってるときは夢中だったんじゃろうけど、レースはたくさんランナーおるし」
レース、ひかりたちの周りを囲むようにいるランナー。
順平「(心の中)派手に転んだって聞いてるし、最後は練習以上のスピードを出したって一トルけえ」
レース、転ぶ山崎とひかり。
向こうを走るひかりと山崎。
順平、言った。
順平「(心の中)そのせいで山崎さん、体が完全に怖がっとる」
そのとき但馬が言った。
但馬「順平さん、コンビニ行ってきます」
順平「了解っす」
但馬「一緒に行きませんか?ちょっと話があるんで」
順平「?」
コンビニ・表
順平と但馬がチチトスの牛乳を飲んでいる。
順平「話って?」
但馬「山崎さんて、走るの怖がってませんか?」
順平「……但馬さんも気づいてたんだ」
但馬「やっぱり順平さんも気づいてたんですね。反ってますよね、体が」
順平「俺たちだって、暗い部屋だと、なるべく頭を逸らして、手と足で探るものなあ。怖くて当然だよな…山崎さん、まだ事故の恐怖もあるじゃろうし」
但馬「(自分のせいだと暗くなる)……」
順平「たぶん無意識の反応だろうね、本人はわかってないんだと思う」
但馬「……二人に言わなくていいでしょうか」
順平「恐怖って、言うとますます強くなるでしょう。ひかりさんだって、言われたら意識しすぎてちぐはぐにならないかな」
但馬「でも一番大事なのは安全だと思うんですけど」
順平「その通りです、わかりました…ちょっと考えてみます」
練習が終わる
お疲れさまでしたと挨拶する4人。
順平と山崎が帰って行く。
山崎「順平、コンビニ寄ってくれないか」
順平「了解っす」
山崎「ちょっと話もあるから」
順平「(驚き)デジャブュ!」
一軒目とは違うコンビニ・表
山崎と順平がチチトスの白牛乳を飲んでいる。
順平「(心の中)あえて二本目も牛乳で攻めてみた」
山崎「順平は気付いてるかな、俺、もしかしたら走るの怖がってるかも」
順平「(心の中)やっぱりそれだったか」
山崎「俺は自分が勝ち気だと思ってたけど、そうじゃないのかもな」
順平「いやいや、怖くて当然っすよ」
山崎「頭ではわかってるんだよ。だけど文字通り体が引けてるっていうか」
山崎、続ける。
山崎「ひかりのことは信用してるんだけどな」
順平「ええ、わかります」
山崎「俺が怖さを克服できればいいんだけど」
順平「それは違うんじゃないかな」
山崎「?」
順平「大事なのは余裕です。余裕が安心を生む。怖さを克服しようとすれば、反対に余裕を排除しちゃう。そこで転んだりしたらますます怖くなる」
順平、続けた。
順平「この前の最後の一周、ペースが速すぎたんですよ。だから次はペースを守ることを心掛ければいいんじゃないかな」
山崎「たしかにそれはあるかもな」
山崎、気付く。
山崎「ひかりにはこのこと言わないでくれよ。あいつ、ああ見えて繊細だから」
順平「ふふふ、了解です」
山崎のアパート・表
ドア前。送ってきた順平が帰る。
山崎「ありがとうな」
順平「どうも」
行く順平。
同・中
ドア前。部屋に入った山崎、考えてる。
山崎「(心の中)たしかに順平の言う通りだと思う。だけどすっきりしないな。俺は別のことを気にしてるのか?」
山崎、わからない。
山崎「……」
帰り道
歩く順平。
順平「あ」
向こうからひかりが来た。
ひかり「山崎さんの送迎お疲れさん。ごほうびになんか買ってあげるよ」
順平「買うのはもちろんコンビニっすよね」
ひかり「うん。話したいこともあるし」
さらに別の3軒目のコンビニ・表
ひかりと順平がチチトスの牛乳を飲む。
順平「(心の中)こうなりゃ意地の3本目だ!腹壊さないといいけど」
と飲んで
順平「話ってなんですか」
ひかり「但馬さんにも、新しいランニングキャッププレゼントせん?お金は私がだすけえ」
順平「(心の中)おおー、全然違った!」
道
別れる順平とひかり。
順平「ごちそうさま」
ひかり「ほい、また」
ひかり、気付いて
ひかり「ほーじゃ!山崎さんの走り方、ちょっと怖がっとるみたいな気がするんじゃけど」
順平「!」
ひかり「じゃけえ、今度のレースはペース守って、安全のために、伴走の声がけも、たくさんするようにするけえ」
順平、笑った。
順平「いいと思います!」
ひかり「それとは別にレースに出て思ったことがあるんじゃけど」
順平「なんすか?」
ひかり「うーん」
順平「だからなんすか!?」
ひかり「(にこりと)山崎さんに直接言います」
がくっとなる順平。
ひかり、行ってしまう。
順平「うーん」
山崎の部屋・中
整理体操的に体をほぐしている。
ドアがノックされた。
ひかり「あなたの素敵な伴走者、安芸信用金庫の加瀬ひかりです」
山崎「ひかり?」
ドアを開ける。
山崎「どうした?」
ひかり「ちょっと話したいことがあって」
山崎「部屋で二人だとあれだから、玄関外で話そうか」
ドア前に出る山崎とひかり。
ひかり「山崎さん、今から言うことは、上から目線じゃし、お前が言うかって話しじゃけど…でも言わせてもらいます」
ひかり、言った。
ひかり「山崎さん、働いたほうがええです」
驚く山崎。
ひかり「マラソンで世界一を目指すんじゃってあおっておいてなんじゃけど、実はそういうのがとっても大事じゃなかろうか」
ひかり、続ける。
ひかり「私らと山崎さんは対等じゃろ?じゃけどうちらは働いたり、学校行ったりしとる…ほいじゃが、山崎さんはそうじゃない。その時点で、対等じゃないのかもしれん」
ひかり、続ける。
ひかり「あと、これは考え過ぎかもしれんけど、病院の正太郎さんを傷つけたんも、
どこかでマラソンだけになっとったからかもしれん。もちろん、これは自戒を込めて言いよるんじゃけど」
山崎、ほほ笑んだ。
山崎「そうだな。ひかりの言う通りだ」
山崎続ける。
山崎「俺がもやもやしてたのも、そこかもしれない」
ひかり「わかってくれましたか?」
ひかり、続ける。
ひかり「レースでたくさんのランナーが来とったじゃろ。あの人たちはみんな仕事や学校がある人たちなんじゃって気付いて、それで」
回想。この前のレース。中年の男女が多いランナーたち。
山崎「ああ、市民ランナーだものな」
ひかり「働けば、きっとマラソンもいい感じで走れると思うんです」
山崎「だけど働くのはいいけど、なんせこの目だからな」
ひかり「それは違うんじゃないんかね…すぐにお金を稼がんでもええんですよ。この場合、誰かのために生きるって意味じゃけえ」
ひかり、続ける。
ひかり「マラソンは自分たちのために走るわけじゃけど、誰かのために使う時間も大事じゃってことです。それがあって、マラソンも堂々と走れる」
山崎「……そうだな、ひかりの過去を聞いていたのに、そこまで頭が回らなかった」
ひかり「生意気言ってすみません」
山崎「いいんだよ、いつも生意気だから」
ひかり「なんじゃとお」
二人笑った。
アパート・表(朝)
同・山崎の部屋(朝)
妙子が朝食を作っている。
味噌汁の味見を終えた。
同・表(朝)
部屋から出てきたて妙子。
妙子「(下に叫ぶ)できたよ」
おーと返事する山崎。
ひまわり広島介護サービスの車を、山崎、拭いていた。
妙子「ふふふ、ぴかぴかじゃ」
山崎「(うれしい)目のせいで、拭けてないところがあるかもしれないけど」
妙子「ありがとう、後で確認する。じゃけど、その前に朝食じゃ」
山崎「(うれしい、つぶやいた)ありがとう、か……」
『ひろしま里山20キロマラソンレース』会場
スタート地点。
まだ参加者が数人。
少しずつ増える。
また増える……。
それは市民ランナーたちだ。
そこへ但馬とひかり、山崎と順平が来た……。
(次の話へ)