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香川まさひと
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第49光 それぞれの試練

香川まさひと

  『第48回防府国際マラソン大会』と
  ゲートに書かれたその文字。
スタート地点。
  招待選手を先頭に、ランナーが並ぶ。
  上杉、小出。そのあとに山崎、中居。
  ブラインドマラソンランナーはほかに10組ほど見える。
それぞれその場で足踏みをし、体を温めて、スタートを待っている。

  同・体育館前のテント
  うどん屋で「肉うどん」と注文する桜坂(スポーツウエアを着ている)。

  ずずーとうまそうに食う桜坂。
桜坂「うまい!だけどもう給水所に行かなければ」
  腕時計を見る。時間がない。
桜坂「(店の人に)レースが終わったあともここ開いてます?」
店の人「開いてますよ」
  桜坂、にっかり笑った。

  同・スタート地点
  中居が山崎に言う。
中居「私たちの前に上杉、後ろに谷だ」
山崎「おう」
中居「谷さんは雨が降ろうが槍が降ろうが、35キロまでは機械のように進む、勝負をかけてくるのは35キロからだ」
山崎「おう」
中居「上杉はおそらく先行して逃げ切る作戦だと思う」
上杉と小出。
中居「前半の伴走が気心知れた小出さんで、後半は新人の子らしい、だから先にリードを取りたいはずだ」
山崎「おう、谷さんはどんな様子ですか」
中居、振り返る。
そこに谷はいない。
中居「(心の中)谷は今頃東京で練習してるよ」

   イメージ。
   室内でウオーミングアップしている谷。
 
   中居、テンション変え
中居「おお!谷のあごがさらにぴっかり光っている!」
山崎「(笑った)あははは、嘘つき」
中居「(心の中、ぎくりと)バレたか?!」
山崎「中居さん、俺をリラックスさせようとしてるでしょう、さすがにあごは光らないよ」
   中居、安心し
中居「よくぞ、見抜いた、伴走者には高度なギャグのレベルも必要なのだ」
山崎「レベルは低いと思うけど」
   放送が流れる。
放送「スタート10秒前です」
  気持ちが引き締まるランナーたち。
中居、腕時計をセットする。
見ているひかり、ぎゅっとこぶしになり、
ひかり「(心の中)自分のことのように緊張する」
銃を構えるスターター、引き金を引いた!
一斉に走り出すランナーたち。
放送「スタートが切られました」
  自衛隊楽団、演奏を始める。

  レースのコースを知らせる看板
  そのわきを、フォーム良く走って行く桜坂。
  
  走る山崎たち
  ひかりの近くへ来た。
ひかり「山崎さん!!びゅんすかじゃ!」
山崎「おう!」
前を走り抜けた。
※ひかりのいる場所の設定次第でうまいタイミングでかまいません。

  時計のついた車が走り出し
招待選手を先頭に
  競技場のトラックを続々と外へと出ていく。
  上杉と小出、ぐいと飛び出す。
中居「予想通りだ、上杉、先行するつもりだ」
山崎「どうします?」
中居「無視してこっちのペースを守るか、それともプレッシャーかけて、ぴたりとついていくか」
山崎「谷さんはどうなります?」
中居「谷は俺たちの走りに惑わされない、35キロまでいつものペースだ」
山崎「そうか、だったらどっちが楽しいかな」
中居「楽しい?」
山崎「そう、楽しいほうをとりましょう」
  驚く中居。
中居「(心の中)俺も相当変わってるけど、こいつは……」
山崎「第三の選択、上杉の前に出てどんどん差をつけるともっと楽しいですかね」
中居「え!」
山崎「おかしいですか?おかしいですよね、本当はまじめで陰気な性格なんですけど、いろんなことがあったせいで逆にハイになってるのかなあ」
思い出す山崎。
山崎「でもね、チーム山崎の仲間がこう言ってくれたんですよ、毎日の練習が楽しくて楽しくてしかたなかったって」

  但馬の手紙。
  但馬が手紙を書く。
但馬が伴走する姿……それらのスケッチ。

山崎「そうなんですよ、俺も楽しくて楽しくて仕方なかった、だからレースも楽しく走ろうって」
中居「わかった、それ以上話さなくていい、体力消耗する、温存しろ」
山崎「ごめんなさい。でも話すのも楽しいんで」
中居「よし、上杉の前に出ようじゃないか」
山崎「おう!」
中居「右に少しずつ寄る。まずは3人ぬかす」
中居、スピードを上げる。
右に。
前の3人。
一人、
また一人、
また一人と抜かしていく……。
上杉たちが見えた。
中居「とりあえず後ろにつく」
山崎「一気に抜かせないですか?ランナー詰まってます」
中居「違うよ、上杉の背中に、まずは冷やかしの言葉を言った方が楽しいだろう(※楽しいに傍点)」
  上杉、気づいた。
中居「(山崎に)目の前に上杉がいる」
山崎「おう」
中居「抜かしちゃうか」
山崎「あっけなく抜かしましょう」
  聞いていた上杉、
上杉「!」
中居「右から抜かす」
山崎「おう!」
  中居と山崎、右に行き
  上杉に並ぶ。
  そして一気に抜かした。
山崎「お先に」
上杉「(怒り)!」
  小出が言う。
小出「挑発に乗っちゃダメだ」
  上杉、表情変わる。
上杉「……そうだった、コーヒーだった」
山崎「(心の中)コーヒー?」
  上杉、目の前に立つ山崎、中居に聞こえるように大声で言う。
上杉「今朝ホテルで話しあったものな、中居さんは俺を試してるんだって」
小出「ほうよほうよ!そうわかったあとで飲んだコーヒーは最高だった」
 
   回想。ホテル。朝食バイキング。
   上杉、うまそうにコーヒーを飲む。
 
小出「コーヒー思い出してるか」
上杉「ああ、思い出してる、リラックスしてる」
小出「俺たちは俺たちのペースで行こう」
   とたん、山崎が言った。
山崎「(後ろに聞こえるように)コーヒーじゃ勝てないな」
中居「そこはビールでしょう」
山崎「本当にお先に!」
   中居と山崎、ぐんとスピードを上げる。
小出「あれは絶対バテるよ」
上杉「うん、わかってる、レースはまだ始まったばかりじゃ」
上杉と小出、走る。

  走る山崎と中居、そのスケッチ
  さまざまな背景の中を走る小出と上杉。
  交差点だったり
コンビニの前だったり
走りつづける山崎と中居……。
  
  給水所
  テーブルの上に置かれたスペシャルドリンクの入ったボトル。
誰のものかわかるように工夫されている。
  そのテーブルの前に桜坂が立つ。
  その桜坂の前を招待選手が走りぬけた。
  テーブルよりも手前で待機しているブラインドマラソンランナーのための係員。
係員「ゼッケン4004番!」
桜坂「聞こえない!もっと大きな声ではっきりと!」
係員「4004番!」
 ※それは山崎の番号。
桜坂「山崎ね」
   腕時計を見る。
桜坂「速いじゃない、でも最後まで持つかしら」
  桜坂、ゼッケン番号が書いてある山崎のボトルを取った。
桜坂「(叫び)山崎!給水!」
  中居と山崎、来た。
桜坂「(叫び)山崎!そのまま突っ走れ!」
山崎「?」
中居「ブラインドマラソン協会選手強化委員会の桜坂里子、年齢不詳」
  桜坂、中居にボトル渡した。
  受け取る中居、
  あっという間に桜坂のいる場所から遠くなる。
  中居からボトル受け取る山崎。
  飲んだ。

  沿道。
  応援する人々。
  山崎と中居が走る。
山崎「後ろ、谷さんは?」
  中居、振り返る。
  もちろん谷などいない。
中居「(振り返り)ぴたりとついてきてる」
山崎「上杉は?」
中居「見えないなあ。だいぶ引きはがしたみたいだ」
山崎「おう!」
走る山崎と中居。

走る上杉と小出。

  走る山崎と中居、そのスケッチ。
走る山崎と中居。
走る山崎と中居。
走る山崎と中居。
中居「そろそろ半分だ」
  伴走者たちが待っている。
  そのなかに上杉の伴走者、正ちゃんもいる。

山崎「谷さんは後ろ来てますか」
中居「ああ、来てるよ」
山崎「本当に?さっきの給水所で谷!って声がしなかったんだけど、ていうか気配を全然感じられない」
中居「(無表情で)……」
山崎「中居さん、聞こえてます?」
中居「作戦だ、嘘つかないと山崎さん本気で走らないと思ったからな」
山崎「え?」
中居「前にも言ったろ?山崎さんはまだ素人なんだ、伴走者が司令塔なんだ」
山崎「(怒り)……ブラインドマラソンにとって一番大事なのはランナーと伴走者の信頼関係じゃないのかよ!」

(次の話 第50光へ)
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