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原案者・夏原武氏による 連載コラム 【『正直不動産』取材こぼれ話】

夏原武
原案者・夏原武氏による 連載コラム 【『正直不動産』取材こぼれ話】

【『正直不動産』取材こぼれ話 第6回】


 

円安もろかぶり?

 某日、中堅不動産の社長と会食をしました。素敵な中華をご馳走になったのですが、そこで出た話が興味深かったですね。

 

 社長曰く「日本の不動産は、海外から見ると、安くてお買い得になっている。これまでは中国人の購入が多かったが、今後はもう少し販路が広がるとみている」そうで、韓国など近隣アジア諸国の富裕層を対象にしていきたいと考えているようです。

 

 確かに、日本では1億円のマンションは高級とされていますが、もし上海やソウルで同じ規模のマンションを購入しようとしたら、1億円ではとても手が出ません。3倍から5倍は必要になるでしょう。

 

 つまり、自国で1億円を出してもたいした物件は手に入らないし、投資対象としてもリターンが少ないわけです。しかし、その1億円で日本の物件を購入し、賃貸に回すと、利益が大きくなります。ざっと8千万円ぐらいのマンションで年間賃料は300万から400万ぐらいになります。
1億円ならば、もう少し増えるでしょう。複数購入して回していき、ある程度のところで転売もできるのですから、投資対象として魅力的なのかもしれません。

 

 さらに「円安が大きい。1ドル150円は例外としても、130円だって十分に円安。対ドルだけじゃなくて、全部に安くなっているわけなので、さらに自己資金を膨らませて使うことができる」(同・社長)

 

 円安による影響は様々あるわけですが、海外の投資家にしてみると有利であることは間違いない要素です。まして、日本の不動産はこの先も安定推移するだろうと言われています。株などの有価証券よりも値動きは小さく、不動産信仰の強い日本ではゴールドよりも安定しているのが現実です。

 

 それにしても、です。不動産を海外投資家にどんどん買われてしまって本当にいいんでしょうか。貸し主が外国人というのは、確かに珍しくないのが現実です(特にタワーマンションで目立ちます)。

 

 一時期、水資源などに関わる不動産売買がニュースでも取り上げられたことがあります。居住用の不動産にも着々と海外投資家の手が伸びているわけです。むろん、仲介業にとってのビジネスチャンスでもあります。

 

 回り回って、日本経済の上昇に繋がるなら言うことはないのですがーー。

 

戸建て団地の過去と今

 

 大手不動産会社が通勤圏内(1時間から1時間半)に、20坪から30坪程度の住宅を建築し販売した「戸建て団地」というものがあります。名前の通り、戸建てが並んでいるのですが、イメージとしては団地に近いものです。ほとんどがひな形はあるものの注文建築ベースなので、見た目は普通の住宅街です。

 

 埼玉県や神奈川県などに多く作られました。当時は3000万程度で戸建てが手に入るということで人気を博しました(大型団地もたくさんあった時代です)。さらに安い物件もあり、それは借地権(地上権)契約によるもので、上物(建物)だけの値段で購入できたため、1千万程度の物件もありました。多くは、その後、地主から土地を購入してほしいという話になりましたので、現在では、ほぼほぼ所有権になっています(それでも、通常より安い価格、おおよそ相場の3分の1程度です)。

 

 この戸建て団地にはもう1つ特徴があり、大手不動産会社系列のスーパーがセットのように近隣に作られたことです。買物に便利な状況ですよね。

 

 もうお気づきだと思いますが、これは住宅街を作ったというよりも「街」を作ったものです。販売当初は30代~40代が主な購入層で、ほぼほぼ子供のいる家族でした。東京までの距離はあるものの、子育てにも向いており、なによりも「一国一城の主」になれるわけですから、当時で言えば「勝ち組」になります。

 

 しかし、それから数十年を経た今、戸建て団地は大きく様変わりしています。

 

 まず、子供たちが独立してしまい、高齢化が深刻です。小さな子供たちが元気に走り回っていた路地を、カートを押すお年寄りたちが通っています。人口も減少しています。

 

 さらに言うと、セットのような存在で便利の象徴でもあった、系列スーパーが撤退しているところも目立ちます。こうなると、とたんに不便な状況になります。

 

 そして、建物自体の老朽化です。建て直したりリフォームしたりした家はいいのですが、外装程度しか触っていない戸建ての老朽化は激しく、配管などの設備も痛んでいます。

 

 親から子へと受け継がれていくことで、建て直しなどが行われるだろうという目論見は見事に外れてしまいました。足腰の弱ったお年寄りにとっては買物も大変な状況になっているケースもあります。

 

 かくいう筆者の実家も、そうした戸建て団地の一角にあります。

 

 今後、この戸建て団地はどう変わっていくのか、住人が減っていくことで再開発的な状況が来るかもしれませんし、空き家が1千万戸に迫ると言われている日本にとって、これもまた、その予備軍になるのかもしれません。

 

 いずれは正直不動産でも正面から向き合いたいと思っているテーマの1つでもあります。

 

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