ましろ日 第41光 走れ!(視覚障害の方向け)

第41光 - 2019/09/10更新
次回更新は2019/11/11です

41話 走れ!

香川まさひと

  走る山崎と順平。
順平「上杉見えた!」
  山崎、にやりと笑った。
  たしかに上杉の姿見えた。
順平「とはいってもまだまだ距離はあるけど」
  順平の言う通り、確かに上杉まで遠い。
順平「上杉を意識せず山崎さんのペースで行こう」
  山崎、言った。
山崎「順平は伴走失格だな」
順平「え?」
山崎「上杉を意識させたくないなら、上杉見えたって言っちゃダメだろ、俺、見えないんだから」
  山崎の足、ググっと早くなる。
順平「早くなった!」
  山崎、ふふふと笑いながら、
山崎「ペースなんかクソ食らえだ!上杉抜かすぜ!」
  山崎と順平、さらに強く走り出す。
  
  細い抜け道を
  自転車に乗った太田が行く。
太田「(心の中)あのトラック運転手が山崎の伴走をする、バイクで行ったってことは後半担当なんだろう」

  フラッシュ。三上のバイクの後ろに乗った但馬。

太田「(心の中)いったいどういうことなのか、直接聞いてみよう」
その太田の自転車が止まる。
大通り(マラソンコース)に出る道に、立ちふさがるように、腕章をした係員(市役所の職員)が立っていた。
係員「すみません、マラソン大会のために、この時間、通れないんですよ」
太田「え?てことは橋が通れないってこと?次の島に行けないってこと?」
係員「すみません」
太田「(心の中)仕方ない、レースが終わったあとに聞くか」
係員「(服装を見て)あれ?お仕事ですか?応援の方じゃなくて」
太田「(嘘をつき)そう、自転車便」
係員「でしたら、ランナーに注意して走っていただければと、緊急車両通行のため片側は空いてますので」
太田「了解っす」

  上杉と小出が走る
  その後ろに佐藤。
小出「良いペース!このペースで行けば自己ベスト間違いないよ!後半の伴走は中居さんじゃし」
上杉「……」
小出「しかし中居さんが伴走をやりたいって言ってきたときは驚いたのお、あの人、噂によると東京パラの選考委員らしいよ」
上杉「……」
小出「それで全国回って、広島来たんと、そして上杉さんが目をつけられた」
  上杉、ぼそりと言った。
上杉「中居さんの目当ては山崎じゃないのか……」
小出「え?」
上杉「山崎、まだ来てないか」
小出「あの状態だと無理だよ、もしかしたら棄権したかもしれん」
上杉「ええけえ、後ろ確認してくれ」
  小出、振り返ってみた。
  遠くに順平と山崎の姿が見えた。
小出「いた」
上杉「(表情大きく動き)!」
小出「でも距離がある、追いつけんよ」
  上杉の足、早くなる。
小出「だめだよ、ペース代えちゃ、まだ前半だよ」
上杉「(叫び)ペースなんかクソ食らえだ!」
  上杉、構わず走る。
  小出、合わせて走るしかない。

  中間地点
  中居と但馬。
但馬、レモンを嗅いでいる。
中居「ずっと嗅いでいちゃダメだ、人間は刺激にすぐ慣れてしまう、ポッケにしまいなさい」
  但馬、ポケットにしまう。
中居「まだ時間があるから、別の刺激を与えよう。伴走の講義だ」
但馬「?」
中居「(構わず)伴走マラソンはロープを握る。これは普通に走るより不利だと思うかもしれない」
中居、続ける。
中居「でもそうではない。たとえば晴眼者の一般のランナーが、リレーでバトンを持つと、なぜか普段より早く走れたりする」
但馬、首を振る。
中居「これ、バトンを持つから早くなるのではなく、普段の走りが悪いってことだ、全部に力が入りすぎて記録が伸びない、だがバトンを持つと、落とさないようにしよう!次のランナーにうまく渡そう!と思い、走りそのものは反対にバランスを取ろうとして、柔らかくリラックスできる」
  中居、続ける。
中居「伴走も同じだ。ロープを握ることでリラックスした走りができる」
中居、続ける。
中居「もうひとつ、すばらしい記録を出した選手は不思議と同じ感想を言う、まるで自分がいなかったみたいだ、と」
但馬「?」
中居「つまりあいつを抜かそうとか、良い記録を出そうとか、走ってるときはそういう自意識が消えるという意味だ」
中居、続ける。
中居「では伴走はどうか。伴走者は最初から自分がいない。隣にいる彼や彼女のために走るわけだからな」
  中居、続ける。
中居「では一緒に走る視覚障害者はどうだ?自分がいるのか」「いや、彼もしくは彼女にもまた自分がいない」
但馬、響いた。
但馬「それは伴走者のために走っているからってことですか?」
中居「そのとおり!」
  中居、芝居がかって自分に酔うように宣言した。
中居「そして互いが互いを思い、二人がともに自分を消したとき、そこには足4本を持った聖なる獣が現れ、すばらしい記録を作るのだ!ランラン!」
但馬「(気圧される)……」

  走るひかりとサキ
サキ「ひかりさん、調子どんな?」
ひかり「私はええけど、サキさんは?」
サキ「私もええ感じ」
ひかり「このまま二人で並んでゴールかね」
サキ「そうだとええね、そしてゴール直前、デッドヒートじゃ」
ひかり「望むところじゃ!」
  そのとき自転車の太田が走ってきた。
太田「がんばれ!チーム山崎!」
ひかり、サキ「おう!」
  あっという間に抜かしていった。

  走る山崎と順平
山崎「どうだ、順平、上杉たちと差が縮まったか?」
順平「それが向こうもスピード上げてて」
  上杉たちの姿、橋から考えると半分ほど距離は縮まった。
山崎「え?俺たちに気づいたの?」
順平「そうみたい、でも上杉も今飛ばしたらまずいと思うけどな、後半があるんだから」
  順平たち、佐藤が見えてきた。
順平「ペースメイカーに使おうって言ってた佐藤さんがおる、どうする?」
山崎「どうするってなにが?」
順平「(時計を見ながら)佐藤さんの後ろについて、後半のために力蓄える?ペース乱した上杉、後半つぶれると思うけど」
  山崎、言った。
山崎「はい、わかりました、って俺が言うと思うか?」
順平「いやだ!今抜かす!って言うと思いまーす!」
山崎「正解!」
山崎、スピード上げる。
だがすぐに
山崎「俺は大丈夫だけど、順平は走れるか?体持つか?」
  たしかに順平、疲れてるように見える。
順平「走れないって言うと思う?あと少しで俺は但馬さんと交代だぜ!」
  順平、続けた。
順平「前のランナー、右から抜かします!」
  佐藤に並び、抜かしていく山崎、順平たち。

  走る上杉と小出
上杉「山崎は?」
小出、振り返り、見ている。
上杉「(興奮し)山崎はどこにおるんかって聞いてるんだ!」
小出「……」
上杉「答えろ!」
そのとき太田の自転車が通り過ぎる。
太田「がんばれ!チーム山崎!」
その声、上杉の耳に入った!
上杉「!」
山崎「がんばります!」
その山崎の声、上杉の背後から聞こえた。
そう、すぐ後ろには順平と山崎がいる。
太田の自転車、あっという間に行く。
上杉、小出に言った。
上杉「ピッチ上げる!」
小出「悪い、もう無理、俺が無理」
上杉「無理じゃない!走ってくれ!」
小出「俺だって走りたい!でも無理なんyp!」
上杉「(叫び)走れよ!」
  だがそのとき、順平と山崎が二人に並んだ。
並んだまま山崎が上杉に言う。
山崎「上杉!相方に怒鳴るなんて最低クズ野郎だぜ!」
上杉「!」
山崎と順平。
順平「抜かします!」
  順平と山崎、抜かした。
  そのままグングン走って行く。
  距離広がっていく。
上杉「走れ!山崎を抜かし返す!」
小出「(声小さい)本当に無理なんだ」
上杉「聞こえん!」
小出「だから無理なんだって!」
上杉「(静かに懇願し)俺が自分勝手な甘えん坊なのはわかっとる、それは謝る、だから今だけは走ってくれ」
小出「そういうことじゃないんよ、本当に走れなんのよ、下手したら今すぐだって足が止まるかもしれん」
上杉「!」
小出「すまない。でも中間地点まで必ず走り切るけえ、抜かすのは後半にしてくれ、上杉さんなら絶対できけえ!」
上杉「(響いた)……」

  中間地点
  ランナーが来るほうを見ている中居。
中居「来た」
  但馬、見た。
中居「招待選手だな」
  数人のランナーが続けざまに但馬たちの前を走って行く。
中居「あれはなんだ?」
  それは自転車に乗る太田。
但馬「!」

  走る山崎と順平
  その必死の走り。
(次の話 第42光へ)

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