ましろ日 第55光(最終光) その町の人々

第55光 - 2019/11/15更新
次回更新はです

最終光 その町の人々

香川まさひと

  山崎の家の玄関にて。
正太郎「テレビってすごいです!」
山崎「(驚き)!」
  山崎、言った。
山崎「お母さん、見つかったのか!!」
  正太郎、申し訳なさそうに言った。
正太郎「あ、そうじゃなくて……」

  お城の通りの道
練習前。チーム山崎と上杉、小出がいる。
芳江の隣の白杖を持った少女、梅本結子(16・全盲ではない、サングラスはしてない?)があいさつした。
結子「(広島弁じゃない)梅本結子です、高校1年です、テレビでみなさんのことを知りました、私も走りたいと思いました、ぜひ参加させて下さい」
正太郎「しっかりした挨拶だなあ」
順平「山崎さん、上杉さん、上杉さん、結子さんはかわいいですぞ」
上杉「なんで僕の名前を二回言う」
サキ「チーム正太郎、あなたを歓迎します!みんなを紹介しますね、一緒に練習している嫌われ者、私の兄貴の上杉哲郎です」
上杉「そんな紹介があるか!」
  みんな笑った。

  ひかりと結子がロープを握る。
結子「(つぶやいて)緊張する」
ひかり「最初はゆっくり走るからね」
結子「まずは歩く方が」
ひかり「歩く方が不思議と難しいんよ」
結子「そうなんですか、何も知らなくて」
ひかり「楽しくやろうと思えばええよ」

ひかりと結子が走る。
ひかり「ゆっくりと右に曲がっていきます」
結子「はい」

  回想。53話。
ひかり「うちらは死んだけどお前らは幸せになれって、その返信が、広島が復興することだったのかもしれん」
順平「今の言葉もまたまさみ先生への返信だ」
正太郎「手紙出して、返信して、今度は別の人が受け取って、そうやってずっとずっと続いていくのかもしれないですね」

  走るひかりと結子が握るロープ。
ひかり「(心の中)手紙は結子ちゃんにも届いたのかもしれん」
  走るひかりと結子を見ていた正太郎、山崎とストレッチしている。
山崎「新しい子が入ってよかった、ひかりとサキが伴走できるランナーが現れたってことだから」
正太郎「やっぱりそう考えてたんですか」
山崎「(気づき)ごめん、テレビは正ちゃんのお母さん探しのためだったのに」
正太郎「(笑い)母親探すより、恋人探せってことかもしれません」
山崎「え?」
正太郎「忘れないで下さい、僕は実利を取る男ですよ」
山崎「正ちゃんの言葉はどこまで冗談かわからないよ」
正太郎「山崎さん、僕は捨て子ですよ、地獄を見たんですよ、だから山崎さんだけが特別じゃない」
  正太郎、続ける。
正太郎「ていうか、地獄を見た人なんてゴロゴロいるんです」
  山崎、言った。
山崎「……本当にそうだ」
正太郎「でも山崎さんはブラインドマラソンを見つけることができた。だけど僕はまだです」
  正太郎、にこりと言った。
正太郎「見つけたときは、僕が幸せになるのも手伝ってくださいね」
  山崎、言った。
山崎「おう!」

  図書館の近く(※数日後)
走るひかりと順平と正太郎。

  ひかりと正太郎が休憩する。
ひかり「山崎さんは正直なところ、東京パラ行けそうなんじゃろうか」
正太郎「ロンドンの国際大会次第ですよね、そこで記録が良ければ行けます、とは言ってもロンドン行くのも大変ですけど」
ひかり「ロンドンに行けるとして、伴走二人は誰になりそう?」
正太郎「順平くんは受験だから中居さんと僕になるでしょう」
  ひかり、しみじみと言う。
ひかり「東京パラ行けるとええなあ」
  ひかり、気づき
ひかり「東京パラに出れるとして、そのときの伴走は?」
正太郎「中居さん、僕、順平くんの三つ巴になりますね」
ひかり「3人一緒は無理か」
そのとき順平が目の前を走って行く。
ひとりだけまだ走っているのだ。
正太郎「順平くん、本気だ」
  正太郎、立ち上がる。
正太郎「僕も走ってきます」
  正太郎、追いかけるように走る。
  「私もじゃ」と、ひかりも慌てて走る。

  原爆ドーム近く
  チーム山崎と上杉たちが走る。結子も。
  つまり全員。

  ファストフード・表

  同・中
  正太郎が順平に英語を教えている。
正太郎「このasはwhenと同じです」
  仕事姿のひかりが紙コップ手に通りかかる。
ひかり「お」
順平「仕事ですか」
ひかり「うん、終わったんで、ご褒美のカフェラテMサイズじゃ」

  同・近くの道(夕方)
  3人が並んで歩く。
ひかり「伴走でいえば二人はある意味ライバルじゃろ、それなのに正ちゃんは順平くんの勉強を手伝う、ええよね、そういうの」
正太郎「腹の中ではどう思ってるかわかりませんよ」
順平「男ってのはライバルがいるやつが幸せなのよ」
ひかり「女だってほーよ」
順平「ひかりさんのライバルって?」
ひかり「え?」
順平「(笑って)話を変えてあげよう、東京パラにはもちろん出たいけど、全力を尽くして負けるならそれでいいと思ってる」
正太郎「いいんですか?そんな弱気で」
順平「反対だよ、強者だから余裕があるんだ」
  順平、続ける。
順平「ウソ、ライバルの前に、俺らは仲間だからだよ」
  正太郎、うなづく。

  角を曲がると、
そこは見事な夕焼けがあった。
3人魅入られる。
ひかり「夕焼けってなんでええんじゃろね」
正太郎「帰り道に見ることが多いからかもしれませんね」
ひかり「おお!なんか鋭い!」
  順平、言う。
順平「考えたらマラソンって全部行く道なんだなあ」
ひかり「おお、それもなんか意味が深い」
正太郎「ひかりさんも一つ」
  ひかり、言った。
ひかり「人生も全部行く道、帰り道はない」

  道。
  花屋の前。
  通り過ぎる。
ひかり「もし良かったらこれから山崎さんとこ行かん?」
順平「いいね」
正太郎「賛成」

  山崎のアパート・表

  同・部屋前
  ノックするひかり。
 声「はーい?」
ひかり「ひかりです」
 声「おお!今、開ける」
  ドアを開けた。
山崎「どした?」
ひかり「正ちゃんと順平くん、みんなで急襲しに来ました」
  ひかり、振り返る。
ひかり「あ」
  順平と正太郎、笑いながらバイバーイと階段を下りて行く。
山崎「ん?」
ひかり「一人で遊びに来ました」
山崎「(ちょっと驚くが)おお、どうぞどうぞ」
ひかり「でもちょっと待ってて下さい」

  花屋・表
  急いで来たひかり、店へと入っていく。

  山崎のアパート・部屋前
  山崎、ドア前で待っていた。
ひかり「わかります?」
  ひかり、今買ってきた花束を山崎の前に近づける。
山崎「お花か」
ひかり「百合は香りがあるんで、カサブランカにしました。たくさんだと濃厚な匂いになっちゃうんですけど、リラックス効果があるらしくて」

  同・表
  来たサキ。
  ひかりと山崎がいることに気づく。
サキ「……」
  その顔、哀しい。
  だが、いつかそうなると思ってたので、
新しい道を見つけるのだと歩き出す。
その顔、決して不幸ではない。

  同・部屋前
山崎「色は?一輪?」
ひかり「白です……2輪」
  そのカサブランカの二本の花束。

  『2020年9月6日』
  山崎の部屋。
  朝日が指す。誰もいない。
  ひかりがくれたボンボン時計が朝の6時を鳴らす。

  誰かの家(朝)
……に集まってテレビを見ているひかりの近所の三婆たち。
  
  病院・ロビー(朝)
  医師の内藤とアイドル好きのじいさんがテレビを見ている。

  ラーメン屋・中(朝)
  開店前。テレビを見ているおばちゃん(餃子を多くくれる人)と山崎のアパートの隣人の夫婦須崎と赤ちゃん(しまなみマラソン前に部屋に泊めてあげた、赤ん坊、立てるようになった)。
  
  介護センター・事務所(朝)
  芳江と結子、山崎が一人で練習するために工場跡地を貸してあげた大石と一緒にテレビを見ている。

  大型電気店(朝)
ショーウインドウ。
開店前だが、そこにあるテレビを見ている人々。
仕事中の太田も自転車に手をかけ、見ている。
テレビ画面。パラリンピックブラインドマラソン、スタート地点。

  パラリンピックブラインドマラソン、スタート地点(朝)
新国際競技場、トラック。
  伴走者とロープを握る各国の選手たちが
今か今かとスタートの合図を待つ。
  その中にいる谷と伴走者。
  
  同・伴走者交代地点 (朝)
  準備をする伴走交代者たち。
  軽いストレッチをしている。
  その中にいる正太郎。
  道路脇の応援者、観客。
  正太郎の養母。
そのなかにいる上杉と小出、サキ。

  定食屋・中(朝)
食事を終えたユニフォーム姿の男がテレビを見ている。
それは但馬。
一緒のテーブルにいた同じユニフォームの男Aが立ち上がる。
男A「但馬さん、行くよ、そのマラソンのせいで道が混むから」
  それでも見ている但馬。
男A「ほら!」

  朝の町を走る軽トラック
男Aが運転する。
助手席に但馬。
ラジオから流れる中継。
中継「まもなくスタートです」
目をつぶり、祈るように手を合わせる但馬。

  新国際競技場(朝)
谷の隣には中居が、そしてその近くに山崎と順平が。
  
観客席にいる順平の父と祖母、スケッチブックを持った凛ちゃん。
リサイクルショップの三上、そしてひかり。
ひかり「(叫ぶ)ともかくびゅんすかじゃー!」
スターターが構えた。
順平「山崎さん、目標は金メダルじゃないからね、世界新だからね!」
山崎「おう!」
ピストル、鳴った。
  一斉に選手走り出した。
山崎と順平も。

走る山崎の顔。
走る順平の顔
待つ正太郎の顔。
応援するひかりの顔。

  原爆ドーム
その原爆ドームに
次の言葉が囲み文字で足される。
NA ある人が言った、「この町(※傍点)に住むんには覚悟がいるよ」と。
NA「覚悟って何?」と聞かれてその人は答えた。
NA「幸せになる覚悟よ、それは誰かのために生きることなんよ、幸せは一人でなるものじゃないけえ」と。

完                     

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