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香川まさひと
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第50光 勝利

香川まさひと

  走る山崎と中居。
山崎「(怒り)……ブラインドマラソンにとって一番大事なのはランナーと伴走者の信頼関係じゃないのかよ!」
  中居、表情動くが
山崎「谷さんがいるなんて晴眼者には言えないだろ!目が見えない俺をバカにするな!」
中居「(心の中)そう、それでいい、俺はあんたを怒らせたいんだ」
  中居、思う。
中居「(心の中)レースでは何が起きるかわからない、それでも走らなきゃいけない。それで走れなくなるようじゃ、東京パラで勝てるわけがない」
  中居、平然と言った。
中居「その話はレースが終わってから聞く、もう半分来たんだ、さっさと終わらせちまおう」
  走る山崎と中居。
山崎「(笑い)やっぱりそうか」
中居「ん?」
山崎「(笑い)残り半分とは言わず、もう半分来たという方が、心理的にやる気になるものな、それと同じように、谷さんのことも計算づくなわけだ」
中居「……」
山崎「中居さん、谷さんがいると言って鼓舞させるんじゃなくて、いないと気づいて俺を動揺させる作戦だったんだろ」
山崎、続ける。
山崎「もし俺が、谷さんがいないと気づかなかったら、中居さんの方からばらす計画だった」
中居「だとしたら?」
山崎「それが世界最高の伴走者のやり方なんだ」
中居「その通り、最高の伴走者とは勝たせる伴走者のことを言うんだ」
  中居、続ける。
中居「でも俺の作戦は山崎さんには効かなかった、動揺させられなかった」
山崎「作戦そのものに気づいたからね」
中居「そこがあなたのすごいところだ」
山崎「それも気持ちよく走らせる作戦だろう」
中居「(そうだった)……」
山崎「俺は勝てるのか」
中居「世界最高の伴走者の言うとおりにすればね」
山崎「おう!」
ふたり、力強く走り出す。

  伴走交代地点
  ランナーを来るのを見ている正太郎。
上杉が来た。
正太郎「上杉さん!」
  正太郎、道路中央まで出ていく。
  正太郎、腕時計を確認。
正太郎「予定の計画通り」
  上杉と小出、来た。
  正太郎、二人の後ろに回り込んだ。
正太郎「正太郎、後ろ入りました」
  正太郎、ロープを握る。
  ロープを握る手が3人になる。
小出「ここまで絶好調」
正太郎「了解です」
  ロープを握る3人の手、その手がひとつ離れた。
  小出、脇によける。 
上杉・正太郎「おつかれさま!」
  道を避けながら、彼らの背中に小出、叫んだ。
小出「勝てるぞ!絶対勝てる!」
  小出、どんどん遠ざかる。
走って行く上杉と正太郎。
上杉「山崎見たか?」
正太郎「はい、その差40秒です、十分抜かせます」

  脇にコンビニがある一般道
走る山崎と中居。
中居「苦しくないか」
山崎「全然」
走って行く山崎と中居。
中居「ここから先は谷さんを意識してくれ」
山崎「どういう意味ですか」
中居「機械のように走るんだ」
山崎「機械のように」
  走る山崎と中居。

  走る上杉と正太郎
  脇にコンビニがある一般道。
  つまり山崎がさっき通ったところ。
正太郎「疲れてないですか」
上杉「大丈夫」
正太郎「35キロまではこのままでいきますから」
上杉「わかった」

  走る山崎と中居

  走る上杉と正太郎

  走る山崎と中居

  走る上杉と正太郎

  力強く走る山崎と中居
  走る山崎と中居。
中居「35キロ」
山崎「おう!」
中居「このままペースを変えない、機械のようにそのまま」
山崎「……まだ余力あるけど」
中居「ダメだ、俺の言うことを聞くんだ」
山崎「……」
中居「そうだ、それでいい」

  走る正太郎と上杉
正太郎「あ!見えた」
上杉「山崎か」
正太郎「ちょうど35キロ、ここからスピード少しずつ上げます」
上杉「よし!」
  上杉の表情さらに引き締まる。
正太郎「トラックに行くまでに追いついて、トラックに入ったら一気に抜かします」
上杉「よし!」

  カーブ
大きく体を斜めにして走る山崎と中居

  カーブ
大きく体を斜めにして走る上杉と正太郎

  走る山崎と中居

  走る上杉と正太郎
  上杉と正太郎。
上杉「どう?差は縮んでる?」
正太郎「はい、もう少し遅いペースでいいくらいです」
上杉「了解」

  山崎と中居
山崎「上杉は」
中居「気にするな」
山崎「近づいてきてるのか?」
中居「大事なのはペースを守ることだ、俺を信じろ」
山崎「……」
  その10メートルほど後ろに上杉と正太郎が来ている。

  走る上杉と正太郎
正太郎「競技場が見えました」
上杉「足が痛くなってきた」
正太郎「もう少しです」

  競技場
  すでにゴールを切った選手が何人もいる。
続々とゴールを切っていく選手たち。
外国人選手も。
観客席から応援の声があがる。
ひかりもいる。
桜坂もフィールド内に。

  競技場へ入っていく選手たち

  ゴールを切る選手たち

  走る選手

  ひかりの顔が輝いた
ひかり「来た!」
  入ってきたのは山崎と中居。
  だがその後ろに上杉と正太郎。
ひかり「いけん!接戦じゃ!」
  ひかり、気づく。
ひかり「あれはまさか正ちゃん?」

  走る山崎と中居
中居「トラック入った、そのまま」
山崎「上杉は」
中居「気にするな」
  だがその背後にぴたりとついている上杉と正太郎。
  上杉、限界を超えている。

  大きくカーブを切っていく山崎と中居。
  その後ろをぴたりと上杉と正太郎が行く。
  最後の直線コースになった。
正太郎「並びます」
上杉「(必死になり)!」
  正太郎と上杉、右へと出ると
並んだ。
山崎「上杉来たんだろ?いっきに引き離そう」
中居「ペースを変えるな、あいつらには抜かす力はない」

「山崎さーん!」と応援するひかり。
冷たく見ている桜坂。

そこまで必死でない山崎と中居、
必死の形相の上杉と正太郎。
デッドヒート。
中居「あと30メートル、いまだ!速度上げろ!」
山崎、グンと前に出た。
上杉、そこまで力がない。
走る山崎と中居。
フィニッシュ。
山崎が勝った。

ひかり「勝った!!」
桜坂「……」

上杉、遅れてゴールし
脇に倒れこんだ。正太郎も。
山崎を脇に誘導していく中居。
中居「勝った、これで強化選手決定だ」
  山崎、言った。
山崎「……思ったのと全然違う、楽しくない」

(次の話 第51光へ)
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