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香川まさひと
居酒屋にて。
山崎「どうした?順平?」
順平、感極まっている。
山崎「なんて書いてあるんだ?」
順平、絞り出すように但馬の手紙を読む。
順平「……山崎さんをずっと応援します……びゅんすか走って下さい」
山崎「(響いて言葉なく)……」
ひかり、サキ、三上も同じように。
順平も。
だがその気分を変えるように
順平「ビールが好きだった但馬さんのために、改めて乾杯しない?俺はジュースだけど。」
みんなうなづいた。
山崎「そのまえに……」
山崎、スマホを出した。
順平「?」
山崎「順平、アドレスから中居さんを探して、電話してくれるかな」
順平、わかり、「OK!」と探す。
サキ「どういうこと?」
順平「山崎さん、中居さんから強化選手に誘われたんだ」
おお、とういう声がサキ、ひかり、三上からあがる。
順平「上杉も誘われたらしいんじゃけど、選手に取るんは一人。それを山口の防府マラソンで決めるらしい」
ええーっとみんな驚く。
宮島(夜)
ライトアップされた厳島神社へ向かう道。
灯ろう。
閉まった土産物屋。
趣のあるその風景。
そして、海の中にあるライトアップされた大鳥居。
その鳥居に向かって、目をつぶり、手を広げている中居。
携帯電話が鳴った。
中居「(予想通りだったので)……」
出る中居。
中居「もしもし」
居酒屋・中(夜)
電話を握る山崎。
山崎「もしもし、山崎です、今、いいですか」
山崎の近くに集まり、耳をそばだてるひかりたち。
ハンズフリーにした電話から中居の声が聞こえる。
中居の声「厳島神社の大鳥居を見ている。この土地のスピリチュアルなパワーを受けている最中だ」
順平たち、意外。へえって感じで。
山崎「(山崎も意外で)中居さんって論理的な人かと思ってましたけど、そういうところもあるんですね」
厳島神社。
中居「山崎さんらしくない、目で見えないなにかがあるのは日々感じてるだろ」
山崎「(そんなことを言われると思わなかった)……」
中居「レースもそうだ。走りやすい土地、嫌な感じの道は確実にある、もちろん私は理屈を考える。ここは風が強い、暗くじめじめしている、だがそれを越えて、頭でなく、体が反応するのだ」
中居の声「古代から宮島は誰もが感応する場所だった。ここに来れば、頭でなく体や心が喜ぶのだ、土地と心の交感!それをスピリチュアルと呼ぶなら呼べ!」
困惑して三上が言う。
三上「この人、いつもこんな感じ?」
鳥居を見る中居。
中居「山崎さん、あなたがマラソンを始めたのも広島という土地のせいかもしれないぞ」
山崎「(ドキンとした)どういう意味ですか?」
中居「広島がキミをマラソンに誘ったんだよ」
山崎「(心の中)広島が誘ったかどうかはわからないが、確かにひかりや順平と会えたのは間違いない……」
中居の声「電話の用件は?」
山崎「山口防府マラソン出ます、出て勝って強化選手になる」
ひかりたち、おっと表情動く。
中居「当然だ、厳島神社大鳥居もその選択に間違いなしと言ってる」
山崎「ただし条件がある」
中居「?」
山崎「伴走は中居さんに頼みたい」
中居「承知した。前半がいいか?後半がいいか?」
山崎「前半も後半も両方です」
中居「……」
山崎「俺は全部走るんだ。だから中居さんも走ればいい」
山崎、足した。
山崎「厳島神社の大鳥居はなんて言ってます?」
中居、鳥居を見ている。
中居「……喜んで引き受けろと言ってる」
山崎「(笑い)それは良かったです」
スマホから中居の声が続く。
中居の声「ただし、こちらにも条件がある」
山崎「?」
中居の声「明日一緒に東京へ帰り、ある人に会ってもらいたい」
東京へと向かう新幹線(朝)
同・その車内(朝)
中居と山崎が座っている。
リサイクルショップ・三上(表)
シャッターが閉まっている。
三上が来た。
店の前に段ボールが置いてある。
三上「?」
そこには炊飯器とか、ドライヤーとか、皿とか入っている。
手紙が入っていた。
取り上げ、読む。
それは但馬の筆跡。
「お世話になりました、売れるものがあれば使ってください」
三上「……但馬さん」
登校する順平(朝)
前を歩いてたのは凛ちゃん。
背中をポンと叩いた。
順平「昨日はありがとう!絵、ぐっと来た」
凛「(興奮し)!」
サキのマンション・居間(朝)
ジャージを着た上杉が出かけようとする。
サキ「兄貴、今から練習?」
上杉「レースの翌日だからな、走りはせんけど、歩いてくる、小出さんと打ち合わせもしたいし」
サキ「気合入っとるね」
上杉「山崎に勝つんは簡単じゃない、だから面白い」
商店がぽつぽつ並ぶ通り(朝)
顧客の家へスクーターで向かうひかり。
ひかり「(心の中)ふとももパンパンじゃ」
すれ違いに、お店の前を掃いていた人に「おはよう」とあいさつされる。
ひかり「おはようございます!」
走るひかりのスクーター。
ひかりのNAがかぶさる。
ひかりのNA「山崎さんは今ごろ新幹線だろうか」
またあいさつされる。
「おはようございます!」と返すひかり。
だがその顔曇り、
ひかりのNA「なんだかこのまま遠くへ行ってしまう気がする……」
またあいさつされる。
ひかり「(明るく)おはようございます!」
東京駅・新幹線ホーム
到着したのぞみ号。
中居の腕につかまり、降りてくる山崎。
走るタクシー
同・車内
後部座席の中居と山崎。
中居「山崎さん、パラリンピックのクラス分けでいえば、あなたは全く見えないからT11になる」
山崎「T11」
中居、言った。
中居「このクラスの日本記録、2時間32分11秒」
山崎「え?」
中居「意外だったかな?たしかに2時間32分、一般ランナーで考えれば実に平凡な記録だ。去年の防府マラソンでは47人もいる。入賞もできない」
中居、続ける。
中居「山崎さんが日本の記録を出すことはまったく難しいことじゃない」
山崎「T11クラスの世界記録は?」
中居、きっぱり言った。
中居「2時間21分59秒」
山崎「(そんなものかと)……」
中居「そのとおり、こっちだって狙えるタイムだ」
山崎「(知らなかった)……」
中居「マラソンの世界記録が今や2時間を切ることを目指してるのに、どうしてそこまで差があると思う?」
山崎「競技人口が少ないこと」
中居「その通りだ、だがもうひとつシンプルな理由がある、人間は視覚で走るからだ」
中居、続ける。
中居「仮に世界記録を持つマラソンランナーが目隠しして走るとする。当然まったく走れない」
中居、続ける。
中居「目を使って情報を得てるんだから、走れなくて当然だ、生物学的に無理がある、だから仕方ない、以上、終わり」
山崎、え?となり
山崎「終わり?普通はその先があるんじゃないのか?」
中居「たとえば?」
山崎「生物学的には無理がある。だが人間は単なる動物ではない。心がある」
山崎、きっぱり強く言った。
山崎「だから心で走れ!」
中居「すばらしい!」
山崎「まだある」
中居「まだあるか?」
山崎「動物は一匹で走る、ロープを握って二匹で走らない、だから二人で走れ!!」
中居、拍手した。
山崎「まだある」
中居「え?」
山崎、宣言するように言った。
山崎「心で走って、二人で走って、山崎さん、金メダルを取れ!」
中居「……いただきました」
中居、いひひと思う。
中居「(心の中)期待通りの答えがかえってきた」
山崎も同じように思う。
山崎「(心の中)期待通りの答えをしてやった」
山崎、続けて思う。
山崎「(心の中)もちろん金メダルは本心だけどな」
練習グラウンド
タクシーが止まる。
降りてくる中居と山崎。
待っていた男。
顎がものすごく目立つ谷大輔(32)。
谷「中居さん?お待ちしてました」
中居「紹介しよう、谷さん、あごがものすごくでかい」
中居、手をとって、握手させる。
中居「彼こそ、T11クラスの日本記録保持者、走りのマシーンだ」
山崎「あごがでかくて、走りのマシーン?」
山崎、想像した。
あごがものすごくでかいロボット谷が山崎を襲うイメージを……
(第48光につづく)