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香川まさひと
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46話 応援すること

香川まさひと

  向かい合う山崎と中居。
中居「キミの気持ちはわかる、チーム山崎のみんなとレースに出たいんだろ?」
  中居、はっきり言った。
中居「だがはっきり言ってそれは無理だ、伴走者は司令塔だ、素人にはできない」
山崎、カチンときた。
山崎「俺だって素人だけど」
  山崎、続けた。
山崎「だいたいパラリンピックは、素人、つまりアマチュアのためのものじゃないのか?」
  中居、笑って言った。
中居「いつの時代の話をしてるんだ?」
中居、きっぱり言った。
中居「オリンピック、パラリンピックは、国と国との戦いだ!メダルをとるために国は、資金を投入し、優秀なコーチをあてがうんだ」
中居、続ける。
中居「まあ日本のブラインドマラソンに金はないけどな、ただしコーチ陣は優秀だ、言うまでもなく!」
中居、山崎の肩を抱くように
中居「パラリンピック出場となれば、チーム山崎じゃない、チーム日本だ」
  さらに山崎の耳元で
中居「ニッポン!ちゃちゃちゃ!ニッポン!ちゃちゃちゃ!」
  うざったい山崎、振り払った。
中居「今日はゆっくり休んでくれ、返事は後でいい」
  中居、行く。
山崎「……」

  但馬と別れたあたり
順平、但馬のことを思った。
順平「……」

  戻ってきた順平
  とぼとぼと山崎のもとへ行こうとして
  中居が来た。
中居「お疲れ様、チーム山崎の……」
順平「順平です、お疲れ様です、中居さんですよね」
中居「よく知ってるね」
順平「山崎さんから聞きました、一度走ったとき、最高の伴走者だったって」
中居「その最高の伴走者である私が言うんだが、山崎さんはまれにみる逸材だ。よって彼を強化選手にしたい、東京パラリンピック出場を目指すために」
順平「(うれしい)本当ですか!」
中居「しかしながら……」
順平、すぐに
順平「伴走者の問題ですね」
中居「そうだ、はっきり言って、伴走者はランナーよりも、知力、体力、走力が優れていないといけない」
順平「わかってます、いつかその日が来るんだろなとは思ってましたから、ただ早かったなって」
中居「きみらが悪いんじゃない、山崎さんが強すぎるんだ」
順平「それだけじゃないですよ、たとえば伴走者の交代……」
中居「(わかり)ああ」
順平「あれって一度は3人でロープを持つんですね、そんなことも知らないわけで」

回想。
順平と但馬が伴走を交代する。
順平、ロープを離し、
但馬がつかんだ。
回想。
中居、うしろから近づき
ロープを3人で握る。
小出、離れる。

中居「ネット動画にも出てないか」
順平「見つけかたが下手なのかもしれないですけど」
中居「厳しい言い方をしたが、きみらの伴走者の可能性を完全否定したわけじゃない。ただ、今は、山崎さんに優れた伴走者をつけたいんだ」
順平「わかります」
中居「だったら山崎さんを説得してくれ」
順平「(驚き)え?山崎さん、イヤだって言ってるんですか」
中居「よくわからんが、そういうことだ」
  中居、「頼んだよ」と行く。
順平「(見送りながらも心の中で)山崎さん、俺に気を使ったのかなあ、それとも但馬さんのことがショックで考えられないのか」
  順平、行く。

  順平、来た
  山崎、まだ中居の言葉を考えている。
順平「……山崎さん」
山崎「お、順平、但馬さんは?」
順平「……会えなかった」
山崎「……そうか」
順平「強化選手に誘われたんだって?」
山崎「中居さんに会ったのか!あいつおせっかいだな」
順平「中居さんは山崎さんを買ってるんだよ」
山崎「……」
順平「どこまでいけるか挑戦したいって言ったくせに、どうして躊躇してるの?」
山崎「……」
順平「もしかして俺のこと?」
山崎「……順平だけじゃない、但馬さんもいる」
順平「但馬さんはもう二度と来ないよ」
山崎「え」
順平「ごめん、嘘ついた、さっき会った」
  順平、あえて言う。
順平「それに俺も受験があるし……」
山崎、ぼそりと
山崎「……チーム山崎は解散か」
順平「……」
  順平、誘導のために山崎の手を取った。
山崎「?」 
順平「そろそろひかりさんとサキさん戻ってくるころだから」

  ゴール前
  来た順平と山崎。
順平「(説明して)ここから目の前10メートル先がゴール」
山崎「おう」
  ランナーたち、
  どんどんゴールしていく。
  中学生の応援太鼓がリズムよく叩かれる。
スピーカー「時計は4時間10分ですが、今ゴールを目指している選手は時間差でスタートしてるので、記録としては4時間を切るか切らないかだと思われます」
  電光時計。4時10分を指している。
スピーカー「マラソンランナーにとって3時間台か、4時間台かは意味が全く違いますからね、力が入るところです」
順平「見えた!」
山崎「どっちが?」
  走ってきたひかりとサキ。
  その必死の形相。
順平「二人で並んでいる」
山崎「すごい!4時間切れそうじゃないか!」
スピーカー「女性ランナー二人が並んで走ってきました!」
山崎「(叫び)ひかりもサキもがんばれ!サキもひかりもがんばれ!」
  順平、ぼそりと言った。
順平「山崎さん、応援っていいでしょう」
山崎「え?」
順平「応援されるのもうれしいけど、応援するのもうれしくないですか?」
山崎「それって……」
順平「そう!チーム山崎は解散しない!伴走しなくたって応援もまた仲間の大事な仕事だから!」
山崎「(打たれた)!」
順平「がんばれ!サキさん!ひかりさん!」
走るサキ、
走るひかり、
走るサキとひかり、
走るひかりとサキ
山崎「がんばれ!二人ともがんばれ!」
二人、同時にゴールした。
順平「ゴールした!」
山崎「……そうか、ゴールしたか」
順平「どっちが勝ったって聞かないの?」
山崎「どっちでもいいよ、二人は一所懸命走ったんだから」
順平「(ワザと)見てもない(※見てもないに傍点)くせに」
山崎「見えた(※見えたに傍点)って」
順平「ふふふ(と笑い)同時だったよ、たぶん同タイム、4時間切ったんじゃないかな」
倒れこんで、大きく息をしているサキとひかり。
順平、山崎を誘導する。
順平「お疲れ様」
  順平、山崎に
順平「右手にひかりさん、左手にサキさん、二人とも倒れこんでます」
山崎「ナイスラン!」
  山崎、その場で拍手する。
ひかり「(息苦しいが)どうじゃった?上杉に勝った?」
山崎「負けた」
ひかり「(がっかり)……そう」
山崎「実はいろいろあったんだよ」
サキ「いろいろ?兄貴がなんかした?」
山崎「そうじゃない、上杉が速かっただけ」
順平「山崎さんもほとんど同タイム、3時間だから」
サキ「そっか」
順平「それより記録は」
サキ、腕時計を見た。
サキ「おお!4時間切っとる!3時間59分じゃ!」
山崎「初めてのマラソンで4時間切るなんてすごいよ」
サキ「そうじゃ!チーム山崎は強いんじゃ!」
だがひかりは何も言わない。
山崎が負けたことがショックなようだった。
そのことに気づく順平。
そして山崎も。
山崎「どうした?ひかり?疲れて声も出ないのか?」
ひかり「そうじゃなくて勝ちたかったなあって」
山崎「サキに勝ちたかったってこと?」
ひかり「……私じゃなくて山崎さんが上杉に」
  だがすぐに
ひかり「私は何を言うとるんじゃ、自分の気持ちはどうでもええのに、いちばん悔しいのは山崎さんなのに」
山崎「……」
サキ「あれ?ところで但馬さんは?」
山崎と順平、同時に言った。
山崎・順平「そのことなんだけど」
ひかり「?」
順平「その前にチップを切ってきなよ」

  居酒屋・表(夜)
  『本日のご宴会』のなかに『チーム山崎さま』の名前もある。
広島市内、すでに予約してあった。
 
  同・個室(夜)
  テーブルにビールや料理が並んでいる。
  だが誰も手をつけようとしない。
  但馬のことを聞いて、誰も口を開くことができなくなってしまった。
押し黙るサキ。
ひかり。
山崎。
順平。
  そこへがらりと個室の障子が開いた。
みんな見る。
それは三上だった。
三上「アパート、いなかった」
順平「(やっぱりと思い)そっか」
三上「ドアにこれが貼ってあった、但馬さんが書いたみたい」
  三上、見せる。
山崎「順平読め!」
順平「(読んで) 山崎さん、ごめんなさい。みなさん、ごめんなさい。みなさんと走れて本当に良かったです。もしかしたら今まで生きてきたなかで、一番楽しい時間だったかもしれません」
  聞いている山崎たちの顔。
順平「僕はこれで抜けますが……」
順平、途切れる。
山崎「どうした?順平?」
  順平、感極まっている。
  そこに書かれている但馬の言葉。
 『山崎さんをずっと応援します、びゅんすか走って下さい』
山崎「なんて書いてあるんだ?」
(次の話 第47光へ)
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