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香川まさひと
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27話 空の飛行機よりも
香川まさひと 

  あの日
山崎がサキたちの写真を「はい、チーズ」と撮った。
サキ「また、で会いましょう!」

思い出していた山崎
山崎「(心の中)もう会えないんだよな、失明した俺はもう自転車には乗れないんだから」

  サキが山崎に言う。
サキ「半年くらい前に、西山の峠で写真を撮ってもらったバイクの二人組じゃ」
山崎「!」
  ※ページめくると
  サキが山崎の手を握っている。
そのサキの顔、山崎の顔……。
タイトル、重なる。

  練習を続ける……
走る順平。但馬。
そして山崎とひかり。
順平「……」
但馬「……」
山崎「……」
ひかり「……」
  サキが現れたせいで、明らかに戸惑いがある四人。
  そんな四人を見ているサキ。
  通りすぎた。

  最後の周。
終った。
息荒いまま、
順平「本日はこれでおしまいです、お疲れ様っす」
  順平、みんなに言う。
順平「山崎さん、今日は誰が送って行きますか」
  同時にひかりとサキが言う。
ひかり「私、時間あるけえ、行きます」
サキ「(声大きく)サキが行く」
  ひかり、サキを見た。
サキ「(明るく)声大きくて、ごめん。でも私、兄貴が視覚障害者で、同行援護の資格も持ってるんで」
  山崎たち、意外だった。
山崎「(ちょっと困って)……俺はどっちでもいいけど」
ひかり「(遠慮して)だったらお願いします」
  それでいいのかみたいに但馬と順平がひかりを見た。
  ひかり、気持ちを隠すように、下を向いて帰り仕度を始める。
山崎「(そのひかりの気配を感じて)……」

  道
  山崎とサキが歩く。
山崎「(心の中)香水のいい匂いがした」
  歩く山崎とサキ。
山崎「手を握られたときも。そして、今も」
サキ「明日ヒマ?」
山崎「え?まあいつでもヒマだけど」
サキ「うらやましい、四六時中遊べるってことじゃろ」

  原爆ドーム
  朝の風景。

  通り
歩いてきた山崎とサキ。サキ、なぜか大きな袋を持っている。
山崎「サキちゃん、どこ行くんだ?」
サキ「山崎さんは、おしゃれさんじゃろ?」
山崎「そんなことないけど」
サキ「そういうのはいらん。私、デパートで化粧品売り場におるんよ、美容部員・・・だからわかる」
  サキ、続ける。
サキ「もちろん、サキもおしゃれさんじゃ」
山崎「ああ」
  山崎、自販機の前のサキを思い浮かべる。

  あのときのサキ。

サキ「あ、今、あの日の私を思いだしてた!」
山崎、顔赤くなる。
  サキと山崎、ビルに入って行く。
  そこは広島市保健所等合築施設。

  同・2階
広島市視覚障害者情報センター。
グッズ売り場。
売店の係の人が、色を教える「音声色彩識別装置にじいろリーダー」を見せてくれている。
売店の係の人「この黒い部分がセンサーです。色を知りたいところにぴったり当ててスイッチを押すと、音声で教えてくれます
サキ「これがあれば、山崎さん、自分の着たい色の服が着れるじゃろ」
  リーダーを山崎が持ち、サキが誘導して、自分のシャツに当てさせた。
音声「濃い赤」
  山崎のシャツに当てる。
音声「薄い青」
山崎「へえ」
サキ「皮膚も読みとれる」
サキ、自分の肌に当てさせた。
音声「薄い茶色」
サキ、山崎の皮膚に当てさせた。
音声「濃い茶色」
山崎、笑った。
山崎「確かにこれは便利だな」
サキ「最近洋服とか靴とか買った?」
山崎「買ってない」
サキ「よっしゃ」
山崎「え?」

  ショッピングモール
  シャツを見るサキと山崎。
  山崎が合わせる。
サキ「(哀しい)10歳老けたあ」
  サキ、別のを合わせる。
  大胆な柄。
サキ「(おお!と目開き)まさかコレを着こなすとは!」
山崎「(びびり)え?何色?」
サキ「あちこちいろいろ」
  山崎、さっそくにじいろリーダーで色を探る。
  あちこち当てるたびに『濃い青色です』『濃い赤です』『濃い黒です』と返ってくる。
山崎「(困って)もしかしてすごく派手なの?」
サキ「だって飛ばすから」
山崎「飛ばす?」

  派手な柄のシャツを着た山崎とサキが来た
  そこは駐車場。
  サキのバイクが置いてある。
  サキ、山崎に触らせる。
山崎「(わかり)ああ、バイクで出かけるってこと?」
サキ「私も、着替えてくる」
  持っていたカバンを持ちあげる。

山崎「(心の中)サキさんなりに俺にサプライズしてくれてるんだな、ありがたい」

  現われるサキ。
  ライダースーツ。
サキ「お待たせ」
  サキ、山崎にヘルメットをかぶせる。
山崎「後ろに乗るのか」
サキ「怖い?」
山崎「どうだろ、失明して初めてだからな」
サキ「初めてって、わくわくするじゃろ」

  サキのバイクが走って行く
  しがみつくように乗る山崎。
サキ「しっかりつかまっとる?」
山崎「言われなくても、つかまっとる」
サキ「とる?」
山崎「つられた」
  走るサキのバイク。
  走るサキのバイク。
  市街地を抜け、
  だんだんと郊外に向かう。
  バイク、峠へと向かっているのだ……。
  走るバイク。
  走るバイク。

  バイク、入ってきて止まる。
自販機のある小さな駐車場。
  以前サキと山崎が出会った場所。
  バイクから下りた二人。
山崎「(冗談で)本当にあの場所?見えないからって適当なところ連れてきたんじゃないの?」
サキ「(笑って)そうかもよ」
  サキ、自販機の前に立ち、読みあげる。
サキ「なに飲む?お茶、コーラ、オレンジ、水、スポーツドリンク」
山崎「じゃあ、お茶」
  と財布を取り出し、
山崎「千円で」
  と千円札を出し
サキ「(笑い)お札は識別できるようになったんだ」
  その差し出した千円札。
山崎「まだ全然。俺の触覚、そこまでかしこくないから」
サキ「お札がしわくちゃだともっとわからんよ」
山崎「だから、あらかじめ全部千円札にしてるんだ、これなら、もたつかないし」
財布、見せる。
お札は全部千円札だった。
サキ「ああ、硬貨を捜すんは時間がかかるから、お金を払うときはどうしても紙幣で払うもんね、レジの人に迷惑になると思って」
山崎「そうそう」
サキ「誰からも良い人に見られたいよね、良い人に思われる相手は、たった一人でええのに」
山崎「(ちょっと響いた)……」

ペットボトルのお茶をそれぞれ飲む山崎とサキ。
山崎「(しみじみと)あの日さ、誰もいない場所で、孤独はいいなって思ったんだ、そしたら」

  回想。あのときの山崎。

サキ「そしたら?」
山崎「空に飛行機飛んでて、上空に200人くらいいた」

  回想。飛行機を見上げる山崎。

サキ、今までと違う表情になっている。
サキ「(山崎の寂しさに感応し)……」
山崎「あれ?今の笑うところなんだけど?」
優しい顔になっているサキ。
サキ「(静かに)いい話じゃね、それ」
山崎「そう?」
サキ「そういうのもっとちょうだい。山崎さんのこともっと知りたい」
  サキ、続ける。
サキ「みんな遠慮して聞かんでしょう、とくに失明の前のことは」
山崎「ああ」
サキ「私は聞く、聞きたくて聞く」
山崎「(うれしいが)あ、うん」
山崎、言う。
山崎「こっちこそ聞かないとな、サキちゃんって名前しか、まだ名字だって知らない」
サキ「名字は上杉」
山崎「(驚き)上杉?」 
サキ「やっぱり知っとる?山崎さんマラソンやっとるし、兄貴と知り合い?」
山崎「(顔曇り)……」
サキ「(わかり)その顔は兄貴とすでになにかあったね、わかる、嫌な奴だもん」
サキ、続ける。
サキ「でも私は私、兄貴は兄貴でしょ?」
山崎「……」
サキ「あ、飛行機!」
  サキ、山崎の手を取った。
サキ、飛行機を指差す。
空を飛んでいく飛行機。
サキ「たしかに、あのときの体験は二度とできん、でも・・・飛行機は空の上、手は届かん」
サキの添えていた手が、山崎の手を握る。
サキ「大事なんは、空じゃない。隣に、誰がおるかじゃろ」
サキ、山崎に顔を近づけ
キスした……。
(次の話へ)


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