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香川まさひと
○ ひかりと上杉に追いついた山崎たち。
上杉「(気づき)誰かおる?」
顔を覗きこんでいた山崎が言った。
山崎「どういうつもりだよ!?」
上杉「(とぼけて)なんのこと?」
山崎「ひかりだよ!ひかりをどうするつもりだったんだよ!」
上杉「はあ?伴走を教えただけじゃけど?」
山崎「(怒鳴り)だったら、どうしてぶっ倒れてるんだよ!」
上杉「(負けず)怒鳴りたいのはこっちだ!勝手にぶっ倒れたんだ、伴走者失格だ」
山崎、静かに順平のところに行く。
山崎「ひかりのところに、連れて行ってくれるか」
順平、連れて行く。
天を向き、体全体で大きく息をする苦しいるひかり。
来た山崎、声をかけた。
山崎「ひかり」
ひかり「(目もうつろ)…ああ…山崎さん…」
ひかり、続ける。
ひかり「…え?…私のせいで…レース中断?」
山崎「それはいいんだ」
ひかり「でも」
ひかり、苦しいながらも自分を笑った。
ひかり「…私はダメじゃね……上杉さんにもチーム山崎にも…迷惑かけて」
山崎「話さなくていいよ」
ひかり「…上杉さんから…伴走のテクニック、いっぱい盗もうと思ったんじゃけど」
山崎、ぼそりと言った。
山崎「ひかり、触っていいか」
ひかり「え?」
順平、驚いた。
山崎「(静かに)変な意味じゃない、ただ、俺は目が見えないから」
山崎、手を伸ばした。
山崎「見たいんだ、代わりにこの手で」
ひかり「……」
山崎、手を伸ばしながら、しゃがんだ。
倒れたまま、ひかり、手を伸ばす。
互いの手、握られた。
上杉「触った?どこ触った・・・胸?」
但馬の腕をつかみ、そこに立つ上杉……。
上杉「(笑い)僕も山崎さんと同じように見えんけえ、触らしてもらおうかな?」
山崎「!」
とたん、上杉にむかっていく!
順平「!」
順平、山崎に飛びかかった!
山崎の手が上杉に届くそのほんの手前
順平にタックルされ、
順平と山崎、倒れこんだ。
山崎、上杉の体に触れることはできなかった。
但馬、上杉を誘導して
さらに立ちふさがるように上杉を守った。
山崎「(なおも向かい)誰だ、止めるな!!」
順平「(倒れたまま離さず)止めるよ、止めるに決まっとるじゃろ!」
順平、静かに言った。
順平「もし殴るなら、レースで上杉さんに勝ってから殴ろう」
上杉、笑う。
上杉「レースに勝つ?殴る?そういうこと言ってええん?」
順平「……」
上杉「だったら今殴ったほうがええよ。僕には絶対勝てんけえ」
上杉続けた。
上杉「殴れ」
但馬、上杉が握る反対の手が怒りでぶるぶる震えている。
その但馬が気づいた。
但馬「!」
ひかりがやっとのことで立ち上がり
ゆっくりと上杉たちの方に来る。
順平「ひかりさん」
その言葉に山崎も上杉もひかりの方を見る。
ひかり、言った。
ひかり「……ごめんなさい」
ひかり、続けた。
ひかり「全部私が悪いんです……ごめんなさい」
ひかり、頭を下げた。
順平、山崎、但馬、ひかりの気持ちがわかった。
順平、山崎、そして但馬も頭を下げた。
上杉「頭下げとる?でも見えんし、謝罪の言葉が欲しいのお」
ひかりが言った。
ひかり「なら、言います」
ひかり、きっぱり言います。
ひかり「チーム山崎は上杉さんに…絶対に勝ちます」
山崎、順平、但馬、静かに響いた……。
上杉「(怒り)!」
○ 山崎のアパート・表
山崎と順平、帰って来た。
階段を上がる。
○ 同・山崎の部屋のドア前
ドアを開けた山崎、順平に。
山崎「お茶飲むか?ああ、時間ないか」
順平「そうっすね、これから学校、合唱部です」
山崎「ありがとう、気をつけてな」
順平、行こうとして
順平「ひかりさん、大丈夫ですかね」
山崎「体?タクシーで帰ったわけだし、但馬さんもしっかりしてるから」
× × ×
タクシーで帰宅する但馬とひかり。
× × ×
順平「そうじゃなくて、落ち込んでないかな?」
山崎「落ち込んでるさ、みんなに迷惑かけてしまったって」
× × ×
タクシーの中のひかり、確かに落ち込んでいる顔だ。
× × ×
山崎「でもそれでいいんじゃないか?それをバネにパワーアップするのがひかりだろ」
順平「(笑って)そうっすよね、あれだけ体を痛めたんじゃし、張り切ってもらったら。かえって困りますよね」
山崎「うん、しばらく体を休めて、そしてきっちり3週間後に復活だ!」
順平「3週間後?」
山崎「(ニヤニヤと)あれ、順平がわからないの?」
○ 夏の広島の町のスケッチ
プール帰りの小学生二人がアイスを食べながら歩いている。
× × ×
合唱部で練習をする順平。
× × ×
入道雲。
× × ×
汗をかき、三上と一緒に古いタンスをトラックへと運ぶ但馬。
× × ×
セミがいままさに脱皮しようとしている。
× × ×
ひまわり広島介護サービスの軽自動車を洗う山崎。
× × ×
花火。
× × ×
スクーターを走らせるひかり。
NA「3週間後」
○ 安芸文化ホール(※実際は呉市文化ホール)
『全国学校音楽コンクール・広島県コンクール』の縦看が立つ。
○ 同・中
会場。客席ほとんど埋まっている。
生徒たちの家族や仲間たち。
そのなかに山崎と但馬がいる。
隣の席、空いている。
但馬「遅いですね」
山崎「仕事が忙しいんだろ」
そこへひかり(スーツ姿、やはり仕事の途中で抜け出し)が来た。
ひかり「(汗を拭き拭き)外は暑い、ここは極楽じゃ」
ひかり、席に着く。
ひかり「順平君は何番目?」
但馬「一番目です」
ひかり「え!」
客電が落ちた。
司会が出てきた。
司会「みなさん、こんにちは。午前の中学の部に引き続きまして、ただいまより高校の部となります」
見ている山崎、但馬、そしてひかり。
ひかり「(小声で)出てきた!」
むかって右側に順平はじめ男子二人。残り女子四人。計六人が並んだ。
司会「県立船出高校、指揮は山田泰子先生、ピアノは3年小宮山美智さん」
指揮棒が振られる。
歌い出す六名。
見ているひかり。
但馬。
山崎。
口を大きく開けて歌う六名。
見ているひかり。
順平。
見ているひかり。
ほかの部員たち。
見ているひかり、感動で涙がこぼれた……。
ピアノ。
指揮。
六人。
歌い終わった。
礼をする六名、先生、ピアノを弾いた生徒。
思いきり拍手するひかり、山崎、但馬。
○ 同・表
すべて終わり、ぞろぞろ出て来る人々。
ひかり、但馬の腕をつかんで山崎も出てきた。
ひかり「残念じゃったなあ」
但馬「私は素人ですけど、賞を取ると思ってました」
ひかり「私も!」
山崎「でも、どの高校も良かったよ」
ひかり「うん、合唱っていい!自分の声だけで勝負して、仲間と気持ちを合わせる!」
ひかり、続ける。
ひかり「ほんと言うと私、落ち込んどった。じゃけど、元気出た。だって伴走マラソンも同じじゃもん!足だけで勝負して、仲間と気持ちを合わせる!」
ひかり、続ける。
ひかり「マラソンがダメなら、合唱団で行こう!」
但馬、山崎笑う。
ひかり「あ」
ひかり、気づいた。
むこうに船出高校合唱部六人がいる。
女子二人が泣いていて、ほかの女子二人が慰めている。
順平ともう一人の男子も神妙な顔だ。
山崎「どうした?」
ひかり「順平くんたちがおる」
山崎「よし、労いに行こう!」
但馬が止めた。
ひかり「泣いとる」
山崎「……そっか、そうだよな」
合唱部の六人。
ひかり「仲間ってええもんじゃねえ」
○ 練習する四人
ひかりと但馬。
順平と山崎。
四人の仲間、チーム山崎が走って行く。
(次の話へ)