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香川まさひと
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26話 愛
香川まさひと 

  新キャラクターのサキが
鮮やかに登場する。
サキ、広島の町を歩いていく。
サキ「(心の声)女は愛されてナンボだと思う」
  歩くサキ。
サキ「(心の声)愛されるからこそ、こっちも死ぬ気で男を愛せる」「それが生きるってことなんじゃないんかね」
  歩くサキ。
サキ「(心の声)だからなにがあっても愛は変わらん、たとえ相手が失明しても」
  白杖を持って待っていた老婆。早苗。68歳。
サキ「早苗ちゃん、お待たせ」
早苗「こんにちは、サキちゃん」

  サキに同行援護するサキ。
サキ「早苗ちゃんに会うと、どうしても早苗ちゃんの彼氏のこと、考えてしまう」
早苗「また?」

市内を走る古い型の広電。
  その車内。
  楽しそうな若い早苗と恋人、道夫。

  同じ構図。両目を包帯で覆った早苗。
  早苗の伸びた手、道夫の腕をしっかりつかむ(※通院の感じ)。
  二人に笑みはない。

  同じ構図。
サングラスをして白杖を持つ若い早苗。
  もう隣に道夫はいない。

  同じ構図。
年をとった早苗と隣に立つサキ。

広電を下りて、
歩くサキと早苗。
サキ「考えると悔しい。私だったら殺っとったかも」
早苗「私も思ったことあったよ。でもね、目が見えんけえ、殺すのだって大変だ」
早苗、穏やかに言った。
早苗「目が見えんて、そういうことじゃけえ」
サキ「だったら今から行く?私が同行援護するけど?」
早苗「(苦笑い)サキちゃんはサキちゃんじゃのう」
サキ、笑った。
  中央図書館が見えてきた。

  リサイクルショップミカミ・表
  横付けされたトラック、そのフロントガラスを洗っている山崎。
トラックのケツのほうで但馬も掃除している。
二人ともランニングに短パン、ビーチサンダルのようなラフな格好で。
山崎、手を止め、見上げた。
山崎「今日も暑くなりそうだ」
聞こえなかった但馬。
但馬「はい?」
山崎「なんでもない」
山崎、掃除続ける。
続けながら思い出す。

  回想・奥深い山の中
遊びで一人、ツーリングに来た山崎。
車がまったく通らない登り坂の国道を、
力強くペダルを踏み続けていく。
強い夏の日差し。
汗が噴き出るが
それがまた気持ち良い。

国道。
自転車を止めた山崎が補給の水分を取る。
飲んで、ふーっと、一息ついた。
眺める。
山崎「(思わずつぶやく)見える範囲に、俺以外誰もいないみたいだな」
  山崎、見ながらなおも言う。
山崎「いいね、独りぼっち大好きだ」
だが山崎、何かに気づく。
見上げた。
空に小さく飛んでいくのは
旅客機だった。
  山崎、ふふふと笑った。
山崎「二百人くらい乗ってるのかな?一人じゃなかったなあ、大勢いたなあ」

思い出していた山崎、笑う。
山崎「(心の中)あれは面白かったなあ」
  山崎、但馬に言った。
山崎「但馬さん!今、飛行機飛んでる?空の上」
但馬「はい?」
  但馬、見上げた。
  入道雲の空。
但馬「飛んでないですけど、それが何か?」
山崎「(笑って)いいんだ、なんでもない」
  空を見上げる山崎、その顔、さびしいものに変わっている。
山崎「(心の中)俺はあの体験を二度と味わえないんだな」

  時間経過
  車の掃除、終った。
  三上が来る。
  車、見て感心し
三上「おお、見違えたねえ」
  ビーチサンダルを脱ぎ、運動靴(ランニングシューズではない)に履きかえている山崎。
三上「暑いのにビーサンやめるん?」
山崎「(笑って)歩くときにはちょっと、それでなくても転びやすいから」
三上「(わかり)ごめん」
但馬、取り繕うように
但馬「その靴、おしゃれですよね」
山崎「前から履いてたんだよ、色なに?」
但馬「え?」
山崎「色違いで二足持ってるの、赤と青、でも、今は色がわからないから」
但馬「(山崎の失明を思って落ち込む)……」
三上「赤じゃ、広島カープの赤じゃ、だから、よう似合っとる」
山崎、笑った。
笑いながら山崎、思う。

  回想・山あい
  飛行機を見たその30分後ぐらい。
走る山崎。
ちょっとした開けた場所がある展望スペースにさしかかる。
自販機と五台ほど車が停められる駐車場。
二台のバイクが停まり、二人組のジャンプスーツを着た若い女A、Bがいる。
山崎、停まらず行こうとしたとき、
若い女Aが声をかけた。
女A「すみませーん」

並んだ女A、B。
一眼レフのカメラを構える山崎。
山崎「はい、チーズ」
シャッター押した。
女A、B「ありがとうございます!」
山崎、カメラを返す。
女A「(受け取りながら)お兄さん、おしゃれじゃねえ」
女B「私も思った!」
山崎「(まんざらでもなく笑い)俺は違うけど、自転車やる人って、おしゃれな人多いかも」
女A「わかる!バイクはどっちかなんよお。超かっこいいか、ぶちダサいか」
山崎、笑った。

自転車に乗る山崎。
山崎「じゃあ、気をつけて」
女B「お兄さんもね!」
女A「また、どっかで会いましょう」
  走りだす山崎。

  思い出していた山崎
山崎「(心の中)もう会えないんだよな、自転車は乗れないんだから」
山崎、靴の紐を縛りながら、
山崎「(心の中)シャッターも押せないし、おしゃれも出来ない」

  時間経過
  車の上にラジオが置かれている。
  ♪♪♪。
ガリガリくんを食べ始めた3人。
三上「車洗ってもらったお礼がアイスって、子供のお駄賃みたいで申し訳ないんじゃけど」
山崎「(うれしい)お駄賃って言葉いいなあ、なんかうれしいな」
ラジオ、音楽♪が終わり
ラジオの声「さて今日のお題は、夫婦の秘訣ですが、呉市の高田さんからのメールです」
食べながら、なんとなく聞いてる三人。
ラジオの声「夫婦の秘訣、それは、ずばり我慢です。一に我慢、二に我慢、三、四がなくて五に我慢です」
聞いてる三人。
ラジオの声「私たち夫婦は結婚してもうすぐ四十年ですが、その一言に尽きます」
三上「ちきしょう、俺も我慢したいぞ!!」
  但馬、笑った。
  だが山崎笑えない。
山崎「(心の中)結婚か。昔はしたいと思わなかったが、それは、可能性があったから思えたことなのかもしれない」
  ラジオ、「続いて交通情報です」
山崎「(心の中)でも今はしたくても出来ない」
  山崎、アイス食べ終えた。
山崎「(心の中)今日の俺、おかしいな、悲観的なことばかり考えてしまう」
  但馬、気付いた。
但馬「(興奮し)あ!当たってる、すごい、うらやましい!」
  山崎の手にあるガリガリくんの棒、「もう一本」の文字。
山崎「(心の中)悲観することはない、俺には仲間がいる、それで十分じゃないか」

  中央図書館を背後にした道
  止まったタクシーに早苗が乗り込む。
サキ「運転手さん、早苗ちゃん見ての通りじゃけえ、配慮よろしくね」
早苗「サキちゃんありがとう、どうもお世話さま」
サキ「うん、気をつけてね」
  タクシー行く。

  図書館周りの道。
  歩いてきたサキ。
  但馬、そして順平が走ってきた。
  止まり、息を整える。
さらにロープを握った山崎とひかりが来た。
止まり、ふたり、はあはあと息を整える。
  サキ、じっとその『視覚障害者』のビブをつけた山崎を見る。
サキ「……」
  サキ、いきなり聞いた。
サキ「目、見えんようになったん?自転車の事故?」
山崎「え?」
但馬「(心の声)う、美しい!」
サキ「半年くらい前に、西山の峠で写真を撮ってもらったバイクの二人組じゃ」

  車を洗っていたときの山崎。
山崎「(心の中)もう会えないんだよな、自転車は乗れないんだから」

そう、サキはあのときのAだった。ただ髪型は違う。(おしゃれでいつも髪型を変えている)
山崎「さっき想い出してたんだよ!」
サキ「それはすごい偶然じゃ、いや、運命かも」
  サキ、ひかりに言う。
サキ「恋人?夫婦?」
ひかり、「違います」と首を振る。
サキ「だったら、私が好きになってもええんじゃね?」
  サキ、すぐ続ける。
サキ「好きになるのに許可なんかいらんか」
  順平、但馬、ひかり、山崎。
そんな視線に一つも動じず、サキ、山崎の手を取った……。
(次の話へ)

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