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香川まさひと
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23話 消えたひかり

香川まさひと

  10km地点。
順平「ひかりさん、おらんよ!」
待ってるはずの場所にひかりがいない。
山崎「嘘だろ、場所が違うんじゃないのか?」
但馬「(声出ないのでかすれて)あーあー」
指差した。
道のわきの草むら、自転車が倒してある。
順平「(山崎に)自転車があります」
  山崎、表情動く。
順平「(山崎に)どうしましょう。但馬さんに捜してもらって、僕たちは先に行きましょうか」
山崎「それはしたくない。俺たちはチームだ、なによりひかりが心配だ」
  草の中を入って行く但馬。
  すると草むらの中から、ぬっと現れる人影。
但馬「(声出ないが)わ!」
  相手も「わ!」と驚いた。
  ズボンを上げながら(トイレしてた)、立ち上がったのは、上杉の伴走者の小出だった。
小出「ははは、お腹痛くなっちゃって、それで」
続ける。
小出「(時計見て)でも思ったより早くてびっくりだよ。いつのまにそんなに力つけたん?」
順平「(もしや、と)あの、もしかしてひかりさんは……」
小出「うん、上杉さんの伴走してるよ」
驚く三人。
小出「スタート前に話したじゃろ、このところ練習がきつかったって。案の定、足の調子が悪くなって、そのうえ腹も痛くて」
順平「だったら私が代わりをしましょうか?ってひかりさんが言ったんですね」
小出「それが……」

回想。
上杉「(挑戦的に冷たく)ひかりさん、伴走してくれん?」
ひかり「(戸惑い)私でいいんでしょうか」
上杉「(鼻で笑って)あなたがいいんです」
ひかり「(受けてたつ感じできっぱりと)わかりました」

山崎「上杉の野郎!絶対なんか企んでる!」
小出「さすがにそれはないと思うけど」
だが怒りの顔の但馬、鼻行き荒く、
草っぱらをバサバサバサと突っ切って
道へともう走りだしていた。
順平「あ、但馬さん!」
山崎「俺たちも行くぞ!」
走りだす山崎と順平。
小出「ちょっと」
  と走って、やっぱりまた腹が痛いらしく「いちちち」と腹を押さえた……。

  ロープを二人が握る
上杉が右側で、左にひかり
上杉に合わせて必死で走るひかり。
ひかり「リズム合ってますよね」
上杉「合ってるよ」
ひかり「良かった」
上杉「僕が合わせてるんだけど」
ひかり「……」
上杉「指示がないよ」
ひかり「まっすぐです」
上杉「前後にランナーは」
ひかり「前方、10メートル先に一人、後方は見えません」
上杉「前のランナーについてくれ」
ひかり「え」
  上杉、かまわずスピード上げた。
  慌てて合わせるひかり。
上杉「きつい?」
ひかり「(きつい)大丈夫です」
上杉「(笑って)普段はキロ何分で走ってるの?」
ひかり「5分50秒です」
上杉「そのわりには苦しそうじゃね」
ひかり「だって上杉さんのペースはかなり速いわけで」
上杉「(笑い)これでも、ものすごくゆっくりじゃけど」
上杉、続ける。
上杉「もっとスローにする?」
ひかり「大丈夫です」
上杉「声が小さい!伴走者ははっきり話す!」
ひかり「大丈夫です!」
  必死で走るひかり

  明らかに怒りの顔で走る但馬
そのあとに続く山崎と順平も。
但馬、抜いて行く。
順平「ランナーを一人、右から抜きます」
山崎「おう」
  順平と山崎、抜いて行く。
  抜いた。
順平「(心の中)但馬さん、相当速いな、って俺たちもそうじゃけど」
  順平、腕時計見て、
順平「(心の中)ペース配分を考えましょうって言ったの、俺なのに」
  山崎が言った。
山崎「順平、今、ペースのこと考えてる?だったらこれでいいよ、今回は例外だ」
順平「前回も例外で、今回も例外になりますけどね」
山崎「いいんだよ、それで。ひかりが心配なんだから」
順平「枝があります、左に避けます」
伸びていた木の枝を避ける順平と山崎。
山崎「上杉って普段どのくらいで走ってるんだ?」
順平「一キロ5分くらいじゃないかな」
山崎「追いつけるかな」
順平の顔、輝いた。
順平「追いつきましょう!」
スピード上げる二人。
  但馬、山崎と順平、必死で走って行く。

  走る上杉とひかり
ひかり、必死で走る。
  前のランナー、目の前に来た。
ひかり「ランナー捉えました、抜きますか?」
上杉「いや、いい、後ろにぴたりとつけろ」
ひかり「抜くチャンスを伺うんですか」
上杉「最後はな、だが今は風避けだ」
ひかり「風避け?」
上杉「抵抗が少なくてすむ。走りやすいじゃろ」
ひかり「え!それは卑怯じゃろ!」
上杉「卑怯じゃない。テクニックだ。みんなやってる」
ひかり「みんなが泥棒したら上杉さんも泥棒するんですか!」
上杉「そんなことは言っとらん!」
ひかり「暗いと不平を言うよりも、進んで明りをつけましょう」
上杉「は?」
ひかり「つまり、私らが風避けになったほうが、ええんじゃなかろうか」
上杉「どんな理屈だよ!」
とたん、前にいたランナーが笑った。
ランナー「ぶははははは」
ランナー振り返った。
ランナー「ごめん。全部聞こえてくるんで」
  気付くひかり、
ひかり「そうか!伴走は、作戦が筒抜けになるんか。気をつけんといけん」
上杉「(怒った)お前、わざとふざけとるんか」
ひかり「ほいじゃあ、上杉さんはなぜ私に伴走をさせたんです?」
上杉「伴走を教えてやろうと思ってじゃろうが」
ひかり「本気で言ってますか」
上杉「(負け惜しみ的に)嘘だっていうのか!?」
ひかり「(真面目に静かに)わかりました」
  ひかり、前のランナーいない。
ひかり「前のランナー離されました。ペース上げます」
  返事しない上杉。
ひかり「(構わず強く)ペース上げます!」
  走るひかりと上杉。

  走る但馬
  そして山崎と順平。
山崎「上杉たち、まだ見えないか」
順平「全然見えないです」
山崎「てことは、ひかりのペースでなく上杉のペースで走らされてるってことか」
順平「つぶされないといいんですけど」
山崎「精神的には大丈夫だろうけどな、体が心配だ」
順平「長い登り坂があるからなあ」
  順平続ける。
順平「ランナー、一人右から抜きます」
山崎「おう」
  抜く順平と山崎。
順平「コース変えずにこのまま走ります、そのまま追い抜きのチャンス狙います」
山崎「……」
順平「きついですか、ガソリン入れますか?」
山崎「?」
順平「上杉はあんたの数百倍イケメンだ!」
山崎「くそー!」
順平「ガソリン満タン入りました!」
  さらに強く走る。
  その前を行く但馬。
山崎と順平。

  必死の形相で走るひかり
  へとへとになってる。
苦しい。
  だが走る。
  大きく息をして。
  上杉、そこまで苦しくない。
それでも楽なわけではない。
走る上杉とひかり。
走る上杉とひかり。
走る上杉とひかり。
(※たっぷりと描写して下さい)
上杉「ペース遅れてる!」
ひかり「(へとへとだが)はい!」
ひかり、苦しい。
上り坂が見える。
その坂。
ひかり「(苦しくてうまく話せないが)上り坂です、ゆったり左回りで大きく曲がって行きます」
上杉「はっきり言えよ」
ひかり「上り坂!ゆったり左回り!」
ひかり、必死の形相で続けて
ひかり「上杉さん、走る位置、逆で行けますよね」
上杉「あ?」
ひかり「私が右側になります、そのほうが上杉さん、走る距離短くて済むけえ」

図。内側と外側では円周が違って来るという簡単な説明。

  上杉、驚く。
上杉「(心の中)こんな状態で俺を楽な方に立たせようとしとるんか」
ひかり「止まります」  
  ひかり、止まった。
  上杉のロープを離させ、
ひかり、右側に立った。
ひかり「さあ、早く!」
  上杉、ひかりのまっすぐな気持ちが初めて響いた……。
上杉「(心の中)この女……」
  ひかり、上杉にロープを握らせた。
二人、ロープで結ばれた。
まだ息も荒い、へとへとなひかりがそれでも強く言った。
ひかり「行きます!」
(次の話へ)
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