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香川まさひと
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第52光 箱根駅伝

香川まさひと

  強化選手を断った山崎。
中居「非礼があったら詫びる。だからこのとおりだ、一緒に東京パラを目指そう」
  山崎、笑った。
山崎「だったら中居さん、あんたがチーム山崎ことチーム正太郎に入ればいい」
中居「(驚き)?」
  桜坂、言った。
桜坂「中居ちゃん、もういいわ、そこまで欲しい選手じゃない」
桜坂、山崎に言う。
桜坂「今の私の言葉、裏があるわけじゃまったくないから、さようなら」
  山崎、正太郎、ひかり、中居を見ている。
中居「(山崎を見てるが)……」
  
  新山口駅から乗った新幹線が
東京へと向かう……。

  その車内
二人席、中居と桜坂が乗っている。
桜坂、寝ている。
中居「(窓の外を見て)……」

  山崎のアパート・表

  同・山崎の部屋のドア前
  山崎がひかりと正太郎に言う。
  ひかりと正太郎、ふたりとも防府の土産。
山崎「中に入って休んでいく?」
ひかり「今日は帰ります」
正太郎「僕も帰ります」
  山崎、改まり、言う。
山崎「勢いで言った感じになっちゃったけど、俺は本気だから」
  ひかりと正太郎、うなづく。
山崎「そのあたりのことまた相談させてください、お疲れ様」
  ひかりと正太郎、お疲れ様と返す。
  山崎、部屋に入った。

  同・外階段
  降りるひかりと正太郎。
  正太郎がひかりに聞く。
正太郎「防府で山崎さんが言った言葉なんですけど、ひかりさんから聞いたって言う……」
ひかり「?」

  回想。
ひかり「広島に住むからには、幸せになる覚悟がいる、あれだけのことがあった町じゃけえ、絶対に幸せにならんといけん」

正太郎「あれってまさみ先生ですか」
ひかり「(驚き)えー!知っとるん?!」

  中学・表(放課後)
  帰る生徒たち。
  
  同・グラウンド(放課後)
  それぞれの部活が練習を始める。
陸上部の五人が来た。
  中居(ジャージ姿)がいた。
中居「木本先生は?」
部員A(鈴木)「(何者かわからないのでいぶかしく)もう来ると思いますけど……」
  陸上部、組んでストレッチを始める。
  一人余るので中居が声をかけた。
中居「手伝おう」
  中居と組む部員。
  そこへ木本(ジャージ姿)が来た。
木本「みんな、ブラインドマラソンについては知ってるな、前に何度も話してるからな」「その、自称世界一の伴走者中居が今日は遊びに来てくれた」
ポーズを決める中居。
部員A「あの中居さんだったんですか」
中居「あのってなんだ?」
木本「決まってるだろ、箱根駅伝のときの、あの(※あのに傍点)中居だよ」
中居「(表情なく)……」

  部員たち、トラックを走る。
  見ている中居。
  走る生徒たちに
  箱根駅伝のときの昔の自分の姿が少しずつダブっていく。
  復路、9区、市街地を走る中居、意識もうろうとしている。
  ふらふらの中居。
  (11年前、84回大会、youtube参照)
  中居、バランスを崩して、転んだ。
沿道の人々、「あーあ」「ダメだな、もう」「がんばれ」と勝手な言葉を言う。
  中居、立ち上がる。
  背後の車(大学の)から降りてくる監督。
  中居のもとに行った。
  背後から体を触らずに言う。
監督「もういい」
中居「(へろへろで)嫌です」
監督「よくがんばった」
中居「(朦朧として)いやだ、このたすきを渡すんだ」
  中居、また倒れこんだ。
  監督、抱きかかえる。
  脇にいる関係者に
監督「棄権します」
  倒れた中居のたすきを取る監督、
  中居、それを奪い、手に握る。
中居「(ほとんど泣きべそで)渡すんだ、これを」
  その手にあるたすき。

  走る部員を見ている中居。
  木本が隣に立った。
木本「ブラインドマラソンの方はどうだ?」
中居「ダメだ」
木本「ダメ?」
中居「いつのまにか傲慢になってる、あの(※あのに傍点)ときと同じだ」
木本「……どういう意味だ?」
中居「箱根では2、3日前から体調が悪かったのに自分なら大丈夫だと隠してたろ」
  中居、続ける。
中居「伴走もそうだ、自分は間違ってないと自信過剰だった」
  木本、ぼそりと言った。
木本「……それはどうかな」
  中居、元木の顔を見た。
木本「走り幅跳びの鈴木が最近自信をなくしてるんだ、アドバイスしてやってくれ」

  走り幅跳び。
  走ってきた鈴木。
  大きく飛び、砂地に。
  それはさっき「あの中居さんですか」と言った部員Aだった。
中居「フォームに迷いがある?」
鈴木「はい」
中居「友達には話したか?」
鈴木「幅跳びは自分だけなんで話してもわからないから」
中居「技術に関する答えが返ってこなくても、悩みを聞いてもらうだけでもだいぶ違うぞ、友達とはそういうところがある」
鈴木「……」
  鈴木、何か言いたそう。
中居「ん?」
鈴木「さっきはすいませんでした、でもそうじゃなくて、木本先生がする中居さんの話はいい話なんで」
中居「え?」
鈴木「中居さん、箱根駅伝のとき、みんなに謝ったんでしょう、俺のせいですまないって」

  帰るバスのなか。選手たちが乗っている。
  中居、「すまない、俺のせいで済まない」と一人泣いている。

中居「でも誰一人私を責めなかったよ、まあそれはそれで苦しかったけどな」
鈴木「木本先生ともその話をします?」
中居「ようやく普通にできるようになった、もう10年経つから」
鈴木「そのとき木本先生泣きます?」
中居「(驚き)泣く?」
鈴木「僕たちに話すときは必ず泣くんですよ」

  回想。試合のあとの、ラーメン屋、部員にラーメンを奢ったあとでの木本。
木本「駅伝というのは自分のために走るんじゃないんだよ、仲間のために走るんだよ、だから中居は……」
  その木本の泣き顔。

中居「(響いた)……」
鈴木「ブラインドマラソンも同じですよね」
中居「え?」
鈴木「自分のために走るんじゃなくて仲間のために走るんでしょう?」
中居「(さらに響いた)……」
鈴木「ブラインドマラソンを始めたのはそういう理由ですか?」
中居「そうじゃない。偶然町で見たんだよ、練習してる人を」
  中居、ポケットからロープを取り出す。
中居「こいつを握って走ってたんだ」

  回想。
  公園。
  走る伴走者と障害者。
  その手にある「きづな」のロープ。
  見る中居。

中居「そこで気づいたんだ、箱根ではタスキを渡せなかったけど」

回想。「渡すんだ、これを」とタスキを持ってなく中居。

中居、言った。
中居「ブラインドマラソンは最初から二人でつかんでるんだって」

  同・表
  中居が木本に言う。
中居「私はやっぱり間違ってた、明日から司令塔じゃなく、仲間として走る」
木本「よくわからんが、がんばってくれ」
中居「一つ言っておく、木本、大人なんだからあまり泣くな」
木本「え」
  中居、走り出す。
中居「前方10メートル、中学生、右から抜かす」
  木本、笑顔でその背中を見ている。

  山崎のアパート・表
  
  同・山崎の部屋
  山崎、温めたレトルトのカレーをご飯にかけている。
  トントン!とドアがノックされた。
山崎「はーい、今行きます」
  ドア前に来た山崎。
山崎「どなた?」
  ドアの向こうから声がする。
中居の声「中居だ」
山崎「え?」
  山崎、ドアを開けた。
  中居が立っていた。
中居「スンスン、良い匂いがするな」
山崎「あ、レトルトのカレーを作っていて」
中居「私はカレーはチキンが好きだ、覚えておいてほしい」
山崎「は?」
中居「広島に来るのは土日でいいかな」
山崎「!」

  原爆ドーム前
  走る山崎と中居。
中居「前からいちゃいちゃカップル。右に避ける」
山崎「おう」
  その中居の背中に「チーム正太郎」のビブが。

(次の話 第53光へ)
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