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香川まさひと
公園にて
山崎「前言撤回で彼女をチームに入れたい」
サキ、穏やかな笑顔で立っている。
山崎「(心の中)みんな、戸惑った顔してるんだろうな」
たしかに、但馬も、ひかりも、順平も、とまどった顔をしている。
山崎「(心の中)無理もない。俺が一番驚いてるんだから」
山崎、有無を言わさず言った。
山崎「よし、練習始めよう。どういう組み合わせにする?」
順平「(不服そうに)組み合わせ?ちょっと待ってよ」
山崎に緊張が走る。
ひかり、但馬、サキも。
山崎「なんだ?順平」
順平「サキさんの走力を知らんし、まずはそれを見んと」
山崎「(ほっとして)そうか、そうだな」
山崎とサキがロープを握る。
後ろにつくひかりと順平。三列目が但馬。
サキ「行きます」
山崎とサキ、走りだした。
走る山崎。
山崎「(心の中)俺は、サキを好きだと気づいた。だから、チームに入れて楽しくやりたかったわけではない。逆だ」
走る山崎とサキ。
山崎「(心の中)好きだからこそ、チームではお互い厳しくやれると思った」
走る山崎とサキ。
サキ「ゆっくり左に回ります」
見ていた順平。
順平「(心の中)サキさん、うまいじゃん。それに、息もぴったりじゃし」
順平、続けて思う。
順平「(心の中)つまりは、山崎さんと完全にデキちゃってるってことか」
順平、さらに思う。
順平「(心の中)これってどうなん?チームとしてうまく行くんか?」
順平、隣に顔を向ける。
そこにはひかりがいる。
走るひかり、その表情、順平、読めない。
順平「(心の中)吉と出るか凶と出るか……(と前の二人に顔をやる)」
走る山崎とサキ。
順平「俺は凶の気がするなあ」
走る山崎、サキ、ひかり、順平、但馬たち。
山崎のアパート・表(※数日後)
白杖を手にした山崎(ランニングのための格好)がいる。
反対の手には1メートルほどの鉄製の棒(先が円になっている)。足元には大きめのリュックと菓子折りの入った紙袋が置かれている。
タクシー入ってきた。
止まり、初老の運転手出て来る。
運転手「山崎さん?」
山崎「そうです、お世話になります」
運転手「荷物、トランクに入れますわ」
運転手、リュック持つ。
運転手「(思わず)重い」
山崎「(笑って)ハンマー入ってるんですよ、一撃で人を殺せるようなのが」
運転手「冗談でしょ?」
道を行くタクシー
空き地
工場の制服を着た男大石(40)が待っていた。
タクシー来て、
止まった。
後部座席から山崎、出て来る。
大石「山崎さん?」
山崎「(手を差し出し)大石さんですか、今回はありがとうございます」
山崎、紙袋差し出し
山崎「これ、せんべいです。少しですが」
大石「芳江さんの紹介じゃし、そがあなことせんでもええのに。ヘルパーの芳江さんには、うちの親父もよう世話になっとる」
空き地
タクシー去って行く。
鉄の棒と紙袋を持った大石とリュックを背負った山崎が歩いて行く。
(白杖を持って、反対の手を大石の腕に添える感じ)
歩きながら大石が言う。
大石「ここは第2工場じゃったんじゃけど、だいぶ前に潰してね」
大石、立ち止まる。
大石「ここが、真ん中くらいかのお、工場跡じゃけえ、結構広い更地なんよ」
固い土にところどころ草が生えてる感じ。
大石「一応、危険なものがないか、拾っといたけえ、でも犬のウンコはあるかも」
山崎「フフフ、ありがとうございます」と笑った。
大石「なんかあったら携帯に電話して。工場にずっとおるけえ」
大石、「せんべいか、うれしいのお」と去って行く。
たしかに向こうに古い工場が見える。
書店・表
同・中
雑誌の棚。スポーツ関係が並ぶ場所。
『月刊ランナーズ』。
手に取ったのはひかり(仕事帰り)。
買うことに決めた。
レジに行こうとして
ひかり、なにかを思った。
歩いて行った。
そこはファッション関係が置いてある雑誌売り場。
ひかり、ヘアスタイルの雑誌、手に取る。
見る。
『5歳若返る』というヘアスタイル紹介ページ。
そのとき声がかかった。
サキ「(明るく)「5歳若返るヘアスタイル」?ひかりさん、髪型変えるん?」
サキだった。
ひかり「(どぎまぎした)サキさん!!」
サキ「ふふふ、ごめん、驚かせちゃった?」
サキ(こちらも仕事帰り)、続ける。
サキ「今のも似合っとると思うよ」
ひかり「……」
ひかり、「あ!」サキの手にあるものを気づく。
そこには同じ月刊ランナーズが。
サキ「そ、同じ!気が合う」
突然、サキが叫ぶ。
サキ「あ!」
ひかり「え?」
サキ「二冊買うん、もったいない。私が買って、ひかりさんに貸します」
ひかり「だったら、私が買います」
サキ「ひかりさんはヘアスタイルの雑誌を買えばいい、その分の代金で」
ひかり「(素直にはいと言えず別の負い目もあって)……」
空き地
地面に刺さる鉄製の棒、それは杭だった。
山崎、力強くハンマーを振り下ろす!
さらに深く刺さった。
なおもハンマーを振り下ろす!
杭の根元部分にリュックと白杖を置き、
杭の頭の円の部分、その穴にロープを通す山崎、縛りつける。
その先端を今度は自分の体にくくりつける。
山崎、歩いて行く。
ロープがピン!と張った。(※15メートルくらい)
そこからゆっくりと円を描いて歩いて行く。
山崎「半径15メートルで2倍してさらに掛ける3,14で95メートル弱」
山崎の足、
歩く速度から
ゆっくりとスピードが上がり
だんだんと走りだす。
山﨑「(心の中)ロープが引っ張る力を逃さず、丸く走る。集中しないと、なかなか難しいな」
山崎の顔。
走る山崎。
走る山崎。
走る山崎。
慣れないので、ロープが張って引っ張られたり
あるいはロープが緩んだのに気づかず
円でなくてまっすぐ進んだりする
そのせいでロープがピンと張って
体に衝撃が来る。
それでも山崎走る。
走る。
空き地の近くの道
リサイクルショップ三上の車が走る。
運転席の三上が助手席の但馬に言う。
三上「こんなところで、待ち合わせしたん?」
但馬「ええ、午後7時に来てくれって、帰りにビール奢るからって」
三上「サキって子呼べばいいのに、イチャイチャしながら帰ればええ」
但馬「(なぜか照れて)……」
三上「但馬さんが顔赤くしてどーするん?」
三上、気付いた。
三上「あそこかな?」
走る山崎
最初と違って、見事に円を描いて走っている。
三上と但馬が歩いて来た。
思わず立ち止った。
ふたりとも驚く……。
三上「すげえ、あんな練習法あるんじゃ!」
但馬「いや、知りませんでした」
三上「今日、初めてなんかね?でも、それにしてはほら、地面の跡」
地面に山崎の走った円が、跡としてあった。
汗を飛ばして走る山崎。
走る山崎。
走る山崎。
但馬「(思わずぼそりと)打倒上杉!山崎さん、本気だ」
三上「(ちょっと笑って)レースがんばって、彼女に、ええとこ見せたいってことかな?」
但馬「そうなんでしょうか?」
三上「そりゃ、そーよ。男なんてみんなそう」
但馬、はっきり言った。
但馬「(ぼそりと)……それは違う気がします、だったら、サキさんを呼んで、見せびらかせばいい」
但馬、声をかけた。
但馬「山崎さん!」
山崎、立ち止まる。
山崎「但馬さん?もう、そんな時間?」
但馬「すごいですね、その練習」
山崎「コツがいるし、フォーム崩すかもと思ったんだけどさ、まずはやってみようかなって」
但馬「つまり、とにかく山崎さんは走りたかったんですね」
山崎、笑って言った。
山崎「うん、そう、とにかく走りたかった」
本屋・表
出てきたひかりとサキ。
互いに雑誌を買った袋を持つ。
サキ「ひかりさん、先にどうぞ読んで下さい」
差し出した。
結局、サキが月刊ランナーズを買ったのだ。
ひかり「サキさん、このあと時間あります?話があるんだけど」
サキ「なんの話じゃろ?」
ひかり、言った。
ひかり「……私、チームやめようかって」
サキ「(ランナーズを見せ)え?だったら、これは?」
ひかり「私は……」
(次の話へ)