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香川まさひと
眠る赤ん坊にある人物のNAが被さる。
NA「この子は大人になったら金持ちになれるか」
若い母親(ヤンキー系・シングルマザー)におんぶされて眠る赤ん坊。
そこはスーパー、夕方の食品売り場。
NA「もし家が貧乏なら無理だ。大人になっても貧乏だ」
母親、靴下に小さなサンダル。
賞味期限の近い割引きシールの貼られた商品を選んでいる。
NA「俺の爺さんは貧乏だった、俺の母親も貧乏だったし、俺も貧乏だ」
母親、割引のついた弁当に手を伸ばす。
だが先に奪う手。
それは但馬。勝ち誇ったように笑う。
そうNAは但馬だった。
NA「貧乏は続く、ずっと続く」
ラーメン屋・中(夕方)
ちょうど客が途切れた時間。
カウンターに座ったひかりが金融商品(投資信託)のパンフレット10種類ほど届けに来たのだ。
そのパンフを熱心に見ている親父。
ひかり、思わずテレビを見ていた。
女性評論家「貧困って言いますけどね、今の人は身だしなみに気を使うので、見た目じゃ全然わからないんですよ」
ひかり「(なにかを感じた)……」
店主「(顔をあげず)申し込み手数料がいらないのはどれ?」
ひかり「(店主に向き)はい、これとこれと……」
但馬が弁当を食べながら小さなテレビを見ていた……
テレビ。
女性評論家「貧困って言いますけどね、今の人は身だしなみに気を使うので、見た目じゃ全然わからないんですよ」
但馬「(バカにし)何言ってんだ、わかるよ」
但馬、食いながら、続ける。
但馬「子供も大人もちゃんと見抜くよ、見抜いて、いじめる、見下す」
そこは三上のリサイクルショップ。
但馬、店番しながら弁当を食っていた。
テレビは普段三上が見ているヤツ。
但馬「いや、人間だけじゃない、神様もいじめる」
但馬、回想する。
回想。事故。
但馬「(心の中)神様、なんで事故なんです?バチが当たるようなことしました?安い給料で、毎晩一本の発泡酒で我慢してたじゃないですか」
回想。伴走を誘われる公園。山崎を見て驚く。
回想。順平の言葉。
順平「実は今、あの人と一緒に走ってくれるランナーを捜してまして」
但馬「そのうえランナーって、神様、俺のこと知ってるでしょう?小学校のときの出来事わかってるでしょう?」
回想。
小学6年の但馬。教室。
黒板に「秋の大運動会」と書かれている。
前に出た学級委員が言う。
委員「次にリレーの代表です、男子一名、女子一名」
委員、紙を見て言う。
委員「春の体力測定の記録だと男子は但馬くんが一番で女子は中本さんなんだけど」
尾田(男、いけてる系)が言った。
尾田「女子は中本でいいと思うけど男子の但馬は……」
但馬、耐えるように下を向いている。
委員「但馬くんがダメな理由は?」
尾田「そんなの言わなくてもわかるじゃん」
みんな笑った。
但馬も、へらへらと笑った。
但馬「うん。その方がいいよ。この前足怪我しちゃったし」
尾田「(嫌味で笑い)怪我なんか関係ないんだけど」
但馬「(辛い)……」
思い出し悲しくなる但馬。
但馬「(心の中)……」
安芸信用金庫・表(もうすぐ暗くなる)
仕事を終え、ランニング姿で出てきたひかり。
道を
「ほっ」「ほっ」と早足で行くひかり。
リサイクルショップ三上・表(夜)
「こんちは」と入って行くひかり。
同・中(夜)
ひかり「おっさん、但馬さんの住所わかるかな」
と見るとそこに但馬が。
ひかり「うわ!」
但馬「(どぎまぎと)店番頼まれて、それで、あの……」
ひかり、にっこりと
ひかり「但馬さん、走るの、まだ迷ってますよね」
但馬「え、まあ、それは……」
ひかり「子供の頃、走るの得意だったんじゃ?」
但馬、言った。
但馬「……苦手です」
ひかり「このまえはそんなふうに見えなかったけど。でも私も始めたばかりですけど、めっちゃ楽しいんですよ」
ひかり、続ける。
ひかり「まずは一緒に走るところから始めてみたら?」
但馬「はあ」
但馬、思う。
但馬「(心の中)こいつやっぱりうざいな」
そのとき三上が帰って来た。
三上「(ひかりに気づき)お、来てたん?」
リサイクルショップ三上・表(夜)
店の中の三上に「ばんばん稼ぎんさい」と挨拶して出てきたひかり、そして但馬。
道(夜)
並んで歩くひかりと但馬。
ひかり「但馬さんって趣味とかあるんですか」
但馬「ないです」
ひかり「だったらなおさら走るべきですよ」
但馬、思う。
但馬「(心の中)本当にうざいな、おせっかいな学級委員タイプか」
但馬、ふと思う。
但馬「こいつが小学校のときにいたらどうだったんだろう?」
但馬、想像する。
その想像。小学校6年の時の教室。
黒板に「秋の大運動会」と書かれている。
委員は小学6年のひかり。
前に出たひかりが言う。
ひかり「次にリレーの代表です、男子一名、女子一名」
ひかり、紙を見て言う。
ひかり「春の体力測定の記録だと男子は但馬くんが一番で女子は中本さんなんだけど」
尾田(男、いけてる系)が言った。
尾田「女子は中本でいいと思うけど男子の但馬は……」
但馬、耐えるように下を向いている。
ひかり「但馬くんがダメな理由は?」
尾田「そんなの言わなくてもわかるじゃん」
みんな笑った。
但馬も、へらへらと笑った。
だがひかり、一つも笑わず
ひかり「わからない、なぜダメなの?」
尾田「わかってるくせに」
ひかり「(怒り)わからんけえ、わからんって聞いとるんじゃ!」
尾田「(ムッとする)……」
ひかり「(構わずにこりと)じゃあ女子は中本さん、男子は但馬くんでいいですね」
想像していた但馬。
但馬「(心の中)こんな感じか」
但馬、思う。
但馬「(心の中)でもそんなおせっかいな学級委員はいなかった。小学校6年間、中学校3年間、一人もいなかった……」
続けて思う。
その但馬の心から寂しい顔。
但馬「(心の中)もしいたら、俺の人生は変わっていたのか……」
気づく。
ひかりが見ていた。
ひかり「どうかしました?」
慌てて、「なんでもないです」と但馬が言った。
そのとき声がした。
声「但馬」
見る但馬。
そこには小学6年の尾田が立っていた。
但馬「え?尾田?小学生?」
笑う尾田。
尾田「お前さ、貧乏が悪いみたいなことずっと言ってるけど、それ違うから」
尾田、続ける。
尾田「貧乏関係なし、お前がダメなの、顔も頭も心もみんなダメ、単にそれだけ」
但馬の顔が怒りに変わる。
但馬「(幻の尾田に向かって鋭く)それ以上言うな」
ひかり、当然尾田は見えてないので、訳がわからない。
ひかり「え?え?」
尾田、続ける。
尾田「お前の指図に従うわけないじゃん。言うよ。ずっと言うよ。お前はダメでーす!死ぬまでダメでーす!」
但馬「!」
とたん、但馬、尾田に向かって走りだす。
尾田も逃げて行く。
ひかり「え?え?え?」
ひかり、「ちょっと、但馬さん」と追いかける。
走る尾田。
追いかける但馬。
走る尾田。
追いかける但馬。
追うひかり。
尾田「(走りながら振り返って)小学校のクラスでかけっこ一番なんて、それこそ何十万人もいるから」
必死で追いかける但馬。
とたん、尾田、止まった。
尾田「誰もお前になんか期待してないんだよ、だから伴走なんてするなよ」
但馬「うおーーーー!」
走る但馬。
その幻想の尾田を突き破って、
なおもそのまま走り続ける。
走る但馬。
顔くちゃくちゃになって
但馬「(心の中)俺はあの人の目を潰してしまった!」
但馬、なおも走る。
但馬「(心の中)人生をめちゃめちゃにしてしまった!」
なおも走る但馬。
但馬「(心の中)でもそれを認めたくなかった、だから3000万もらったズルい奴だって思おうとした」
なおも全速力で走る但馬。
但馬「(心の中)俺はなんてダメな人間なんだ!!!」
止まった。
はあはあはあと大きく息をする。
はあはあはあ。
そこへひかりが来た。
止まる。
息が荒いが、それでも但馬に声をかける。
ひかり「すごい!但馬さん!かけっこ、やっぱり得意じゃないですか」
但馬が言った。
但馬「(息荒いまま)……手伝います、伴走」
ひかり「(うれしい)!」
但馬のアパート・表(夜)
同・部屋(夜)
プシュリと、但馬、缶ビール(発泡酒)のプルトップを開けた。
ゴクゴクと飲んだ。
その表情、決して明るいわけではないが
但馬「(ボソリと)……うまい」
(次の話へ)