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香川まさひと
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第13光  桃太郎

香川まさひと
  いつものコンビニ・中(朝)
  3人がいる。順平レジ前に並ぶ。イヤホンをつけた正ちゃん、パンの前。ひかり、チチトス牛乳を棚から取った。
  レジに来たひかり。
ひかり「わ!」
順平「わ!」
  
  同・表(朝)
  出てきた順平とひかり。
順平「この前、ひかりさん見ましたよ」
ひかり「どこで?」
順平「広島市内」
ひかり「9割9分広島市内じゃ!」
  店から出てきた正ちゃん、「A friend in need is a friend indeed 」と復唱しながら、二人の脇を通りすぎる。

  山崎のアパート・部屋(朝)
  汗だくで腹筋を鍛えている山崎。
  仰向けに寝て、両足を上げては下げる。
 
  広島中央総合病院・表
 
  同・食堂
  但馬の前にご飯とみそ汁。だが手をつけてない。
  時計を見た。
  午後1時。
但馬「(心の中)今日は来ないのか? おかずが欲しいのに」
  そこへ正太郎が食堂へと入ってくる。
但馬、いやらしく笑った。

但馬の前に座った正太郎、自分の定食の生姜焼きを半分分けてやる。
但馬「(気弱に)ありがとうございます」
正太郎「もしかして僕のこと待ってました?」
但馬「(慌てて)いえ、そんなことないです」
正太郎「そんなことないって、それはおかしいでしょう」
但馬「?」
正太郎「(優しく諭すように)あなたは僕にお金を借りてるんですよ、だったら僕に会いに来て、お金を返すか、返せないなら、謝るべきでしょう」
但馬「(慌てて)でも、お金はいつでもいいって」
正太郎「それは言葉のあやです、真に受けちゃだめです、お金、返せないんですか?」
但馬「……すみません」
正太郎「(食べながら)返せないときこそ、こまめにやってきて、謝るべきでしょう」
但馬「……すみません」
  正太郎、いきなり但馬の味噌汁に手を伸ばす。
但馬「?」
  正太郎、飲んだ。
正太郎「冷めてる、ってことは、やっぱり僕を待ってたんですね、おかずが欲しくて」
但馬「(下を向く)……」
正太郎「但馬さん、僕を当てにしないでください、僕だって海でとったアサリや、拾った鉄くずを売ったりしてるんです」
正太郎、食べながら続ける。
正太郎「但馬さんもそういう努力をしてください。さらに大事なのは、そこから人脈を作ることです」
但馬、下を向いたまま、邪悪な顔になった。
但馬「(心の中)世間知らずのガキが大人にむかって偉そうに」
正太郎、なにかを胸ポケットから出した。
  それは相澤屋の六作饅頭の一つ。
但馬「(例のことが、ばれたかと青ざめる)!」
正太郎「これ、なんだかわかりますか?」
但馬「(口ごもりながら)こ、この前の、饅頭」
正太郎「(笑って)そうだけど、そうじゃなくて」
但馬「(心の中でビビり)こいつ、何か知ってるのか?」
  正太郎、静かに言った。
正太郎「僕、外国人旅行者のガイドもするんです。そこで、この饅頭屋に連れて行くんです。結果、紹介料として、お饅頭ゲット」
但馬、ああ、そういうことかとホッとした。
正太郎「差し上げます」
正太郎、但馬の近くに饅頭を置いた。
正太郎「ある人が、こんなことを言ったんですよ、幸せは一人でなるものじゃない、誰かのために生きてこそ幸せなんだって」
但馬、正太郎の意図がわからず顔を上げる。
正太郎「これって、どう思います?」
但馬「……いいと思います」
正太郎「僕もいいと思うんですけど、一つだけ引っかかって」
但馬「?」
正太郎「誰かの手助けをしたいと思っても、そいつがウンチ野郎なら悲しいじゃないですか」
正太郎、続ける。
正太郎「ところが僕は世間知らずのガキだから、見分けが甘くて」
正太郎、但馬をしっかり見つめ、笑顔で言った。
正太郎「但馬さん、あなたはウンチ野郎ですか?」

  山崎のアパート・中
  卵にアルミホイルをまく山崎。
  耐熱カップに水を張り、アルミホイルで包んだ卵を沈め
  電子レンジに入れた。

トマトを切る山崎。

その茹で卵、トマト、などなど、自分で作ったサラダを食べている山崎。
山崎「卵うまいな。ふつうに茹で卵だ」
  携帯が鳴った。
  ♪♪♪
山崎「(うれしい)!」
  出る山崎。
山崎「もしもし、ひかりか?」

  相手はひかり。支店の控室で遅い昼食をとっていたところ。
ひかり「あれ? どうして私ってわかりました?」

山崎「(慌てて)いや、その、順平が、着信メロディを個別にしてくれたんだ、順平とひかりだけは」

ひかり「へえ。私はなんの音楽です?」

山崎「順平は合唱部で良く歌う、ふるさと」

ひかり「だから私は?」

山崎「(恥ずかしい)……桃太郎」

ひかり「え? 童謡の? 桃太郎さん♪桃太郎さん♪ってヤツ? どうして?」

山崎「(恥ずかしい)なんか俺のなかでは桃太郎っぽいんだよ、ひかりって」

ひかり「桃太郎って普通に男じゃん!」

山崎「それより伴走の話だろ? どうなった?」

ひかり「そのことなんですけど、会って話したくて」

  広島城近くの公園(夕方)
  山崎(ランニングウエア着てる、買った)と順平(制服)が待っている。
  手にはこの前買ったプレゼント。
順平「伴走をOKさせるには、まずはプレゼント渡して、こっちのペースに巻き込みますか?」
山崎「それは、あざとくないか?」
順平、見えた。
順平「(見えた)あ」「その必要はないみたい」
山崎「どうして?」
順平「だって、やる気満々のランニングウエアだもん」
  ランニングウエアで軽く走ってきたひかり。
  来た。
ひかり「お待ちどうさまです」
山崎「息がちょっと荒い、休めば?」
ひかり「じゃあ、お水を」
ひかり、背中のナップザックからペットボトルを取り出し、
ぐびぐびと喉を鳴らし飲んだ。
汗が浮かぶそのひかりの横顔。
見ていた順平。
順平「(心の中)なんか色っぽい、同級生とは違う」
順平、山崎を見る。
順平「(心の中)山崎さんは見えてないけど、むしろぐびぐびって音が色っぽいのか?」
山崎の表情は普通。
飲み終えたひかり、ふーと息を吐いて
ひかり「水がうまい! つまり、走るってそういうことなんですよね!」
山崎「(うれしい)うん」
ひかり「体が喜ぶってこと」「複雑な世の中なのにすごくシンプル、ただただ走る、それ以外に意味はない」
山崎「(うれしい)そうそう」
  だが順平の表情がちょっと動いた。
順平「(心の中)ひかりさんの言いたいことはわかる。だけどレースは違う。まして伴走はもっと違う」
ひかり「ほーじゃけど、レース、そして伴走は、そういうものではないわけでしょう」
順平、また表情動いて
順平「(心の中)わかってたのか」
  山崎、ひかりに言った。
山崎「そんなことないよ」
ひかり「え? レースだったら敵もいるし、伴走はチームプレーでしょ?」
山崎「そんなふうに考えなくていいよ、楽しく走ってくれればいい」
ひかり、順平、同時に言った。
ひかり・順平「それじゃダメです!!」
山崎「なんだよ、二人して」
ひかり「レースに出るからには、日本一を目指すべきです」
山崎「え?」
順平「ひかりさん、それ違う」
順平、言った。
順平「日本一じゃなくて世界一」
ひかり「(納得し)そうか、ほーじゃね」
山崎「おまえら大げさなんだよ」
ひかり、順平また同時に言った。
ひかり・順平「おおげさじゃない!目標は高いほうがいい!」
  山崎、あきれた。
ひかり「(山崎に)あきれとる?」
順平「(山崎に)無理だと思っとる?」
  山崎、言った。
山崎「違うよ、二人があまりにも気が合うからさ」
  ひかり、順平、にやにやと同時に笑った。
ひかり・順平「でへへへ、それはどうも」
  山崎、言う。
山崎「目標が高いほうがいいってのは同感だよ」
ひかりが言った。
ひかり「だとすれば、私が伴走者になったら、力不足で山崎さんの足を引っ張るんじゃなかろうか」
山崎「だから伴走しないってこと? ひかりは勘違いしてるが、俺だってズブの素人なんだよ」「もちろん必死でやるよ、だけど」
山崎、続ける。
山崎「ひかりが言ったんじゃないか、ゼンマイは強く巻き過ぎないほうがいいって」
  山崎、続ける。
山崎「二人は楽しくやってくれればいい、それに順平は高校の勉強と合唱部、ひかりは仕事が第一だ」
ひかり・順平「それはそうじゃけど……」
  山崎、ひらめく。
山崎「あ、もう一人伴走を頼もうか。そうすれば二人の負担も減るし、ヘンに力まないで済むんじゃないか」
  山崎、道の向こうを見て
山崎「ここって市民ランナーが多く走ってるだろ、なら、次に走ってきた人に頼んでみようぜ」
  「えー!」と驚く二人。
順平「次に走ってくるのが88歳のお爺さんでも?」
ひかり「6歳の、幼稚園児の年長さんでも?」
山崎「なんだよ、これもまたひかりが言ったじゃないか、偶然を大切にしたいんですって」
ひかり、困り、
ひかり「うーん、私は本当にいろいろ言っとるんじゃね。だけど、そうそう真に受けんでも……」
  そのとき角の向こう。
  順平、気づいた。
  ひかりも気づき、言った。
ひかり「誰か来る!」
(次の話へ)
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