カレーマン外伝こだわりのカレーマン

宮﨑克

「こだわりのカレーマン」

西インドの家庭料理　タピオカのスパイシー炒め「サブダナ・キチュデ」
「レカ」葛西本店●江戸川区東葛西

東京にはインド人が多く住む街がある。

江戸川区西葛西。江戸川区には日本在住インド人の約１割にあたる5600人以上が暮らしている。短期滞在者も含めると、実数はもっと多いともいう。実際に街を歩いていると、よくインド人とすれ違う。

最寄り駅の地下鉄・東西線「西葛西」は、大手町・日本橋等へのアクセスが良くて住環境も整っているため、金融系ITエンジニア等のインド人が多く集まって来るからだった。

葛西の街に、珍しい西インド料理の店「レカ」という人気レストランがある。

一口にインドといっても広い。北インド、南インド、東インド（ベンガル地方）、そして西インド（ゴア・ムンバイ等）。それぞれに特徴がある。我々が普段イメージするインド料理は、北インド風のカレーであり、西インド料理店は珍しい。

「「レカ」をオープンしたきっかけはインフルエンザでした」

そう苦笑しながら語ってくれた「レカ」のオーナー・よぎさんも、珍しい経歴の持主だ。
元・江戸川区議員（日本初のインド出身アジア系議員）であり、現在は公募で選ばれた土浦第一高校の校長である。

よぎさんの話によると、10年前のこと。母親が来日した時に、運悪くよぎさん共々、インフルエンザにかかって寝込んでしまった。

当時、10歳の息子は幸いインフルエンザにはならなかったが、外食するしかない。毎日街のインド料理店でバターチキンとナンを買ってきて食べていたという。

「レカ」のオーナー・よぎさんとレカママ。

「我々（西インド）の感覚では、ナンは消化しにくい不健康なイメージで、お腹にプレッシャーのかかる食べ物。日本のファミレスも同じです」

そこで病み上がりの母親が「私が作る」と言い出し、それが出店のきっかけだった。
「日本には本物の家庭料理店がない」

そう痛感したよぎさんは、出身地である西インドの素朴でヘルシーな家庭料理の店を作ろうと決意！

インフルエンザにかかったのが８月、その年の10月に会社を設立し、12月の初旬には店舗を見つけた。その決断力と行動力にも驚くが、もっと驚く事件が起きた。
店舗の内装を請け負った工務店が、よぎさんが仕事でインドに行っている間に勝手に工事を進め、不当な額を請求してきたという。結局、裁判になる。

「私は真実だけを言えばいいので弁護士を雇いません！」

よぎさんは、毅然と裁判長に訴えて自ら日本語で議論を戦わせ、勝訴したのだった！
「日本にも、そんな（不正を働く）人がいるんですね。いい勉強になりました」
ケロリと流暢な日本語でいうよぎさんだった。

この街でも珍しい西インド料理を食べてみた。

「インドは50〜100キロも行けば食文化が違います。食材、スパイスの使い方、海や川からの距離、宗教、地域の特徴によって違いが生まれるんです」

我々取材班が舌鼓を打っている横で、よぎさんの話はインドの食からはじまり、歴史文化等を滔々と語ってくれる。その間にシェフのお母さんが黙々と料理を運んでくれた。
まずはセットメニュー。４種類のカレーに、ジックリ炊き込んだビリヤニ、チャパティなど。他にも日本のコロッケに似た「バタタ・ワダーとワダ・パウ」なども食べてみた。
西インドの家庭料理は、ヘルシーで油控えめなのに旨い！　スパイスも独特で素材を活かした素朴な美味しさがあった。そして、最後に驚きの料理が出てきた！

『これ、体にいいのよ。た〜んと召しあがれ！』

そう言いたげな笑顔で母親が運んできたのが、タピオカのスパイシー炒め「サブダナ・キチュデ（Ｓａｂｕｄａｎａ　ｋｈｉｃｈａｄｉ）」。
これは旨い！　タピオカとジャガイモをスパイスで炒めたもので、独特の風味と食感が麗しい。初めての食感で、サクサクといくらでも食べられそう。西インドの朝食メニューで、子どもに一番人気だという。　