カレーマン外伝 こだわりのカレーマン
「こだわりのカレーマン」
南インド・ケララ州の郷土料理 ランチミールス
「三燈舎」 ●神田小川町●
「もともとカレーオタクで、しょっちゅう食べ歩いていたんですよ」
そう楽しそうに語るのは、「三燈舎」のオーナー堀文子さん。
学校を出て、勤めだした頃から、さんざんカレーを食べ歩いたという。
一人暮らしをはじめた時でもあったので、自らカレー作りにも挑戦した。
「レシピ本を参考にスパイスを買って作ってみたら、これがけっこう美味しくて(笑)ハーブとかチーズとかも、まぜてまぜて楽しいぞ、って思いました」ついには趣味が高じて、青山にあったカレー店に転職。つぎにインド関連の事務職、そして、南インド料理の老舗『ダバインディア』で働きはじめた。
『三燈舎』の店主 堀文子さん
「『ダバインディア』を選んだのは、もちろん美味しかったから」
ただ、それだけではなかった。『ダバインディア』は多くの独立者を輩出している。この頃には、堀さんは「独立して店を持ちたい」という夢を持っていたのだ。
この店でシェフのインド人と知り合いになった。シェフのトーマスさんが帰省する時に、頼み込んで一緒にインドに行ったという。
「インドは大好き! 旅するのに楽な国じゃないけど、パワーをもらえる!」
トーマスさんの家は、南インドのケララ州にあった。堀さんを温かく迎えてくれて、家庭料理をご馳走になったという。
「そのご飯が凄く美味しくて! じゃあ、この料理でお店をやったら面白いかも!」
ケララ州の家庭料理の感動と共に出店を決意。帰国して『ダバインディア』のオーナー宮﨑陽さんに相談したという。
「『ダバインディア』の宮﨑さんは師匠だと思ってます。あの人なしでは、この店をオープンできませんでした」
「南インド・ケララ州の郷土料理の店を出したい」と言う堀さんの相談に、宮﨑さんは「面白いからやってみたら」、と独立を勧めてくれた。
堀さんは『ダバインディア』を辞める一年前から独立の準備に入った。まず、拘束時間の長い正社員からバイト待遇に変更。そしてホールスタッフから、厨房に入れてもらい、料理の手順や流れを勉強させてもらった。南インド料理にかかせない調理器具の石臼は、『ダバインディア』系列店の余りをもらい受けた。
シェフのトーマスさんも、独立した店のシェフになってくれるという。
『ダバインディア』で6年働き、独立を考えてから4年半、準備期間1年を経て、満を持して2019年5月に「三燈舎」はオープンした。
「開店当初はありがたいことに、『ダバインディア』出身ということで、カレーマニアの方たちが来てくれて…」
開店当初から順調だった。少し客足が落ちついた秋、テレビの人気グルメドラマでとり上げられる。それがきっかけで一般に知れ渡り、神田でも屈指の人気店に成長したのだった。
南インドの味を、たくさん堪能できる人気のランチミールスを食べてみた。
大きな食器に、三種のカレー、ラッサムとサンバル、パパド、それにバスマティライス。
あと、ドーサ(クレープ)かバトゥーラ(揚げパン)のどちらかを選べるセットだ。
見た目、種類が多くて麗しい。どれから食べるか迷うが、どれを食べても旨い!
ラッサムとサンバルは、カレー仕立てのスープという表現が正確かもしれない。ライスにかけて食べるもよし。スープのように飲むもよし。辛さはマイルドで酸っぱい。
パン類が好きな人は、バトゥーラがお薦め。トロリとした魚のカレーに、これを付けて食べたが、ピリッと旨辛スパイシー! 思わず笑みが零れる旨さだ。
一通り口にした後は、混ぜて食べると二度美味しい。味変が楽しめる現地の食べ方だ。
これだけ食べても胃に負担がないのは、油分と塩分が控えめだからだという。 素朴さの中に贅沢感がある南インド・ケララ州の家庭料理を満喫できる一皿だった!
店名の「三燈舎」由来は、ケララ州の言葉マラヤーラム語で「幸せ」の意味だという。
お客さんやスタッフが幸せになれるように願ってつけた名前だというが、真っ先に幸せになったのは堀さん自身だろう。「カレー屋は時間が長くて休みがなくて大変」とい言いながらも、明るく溌剌と語ってくれた。それは趣味が高じて仕事にした人特有の、人生を満喫している笑顔にちがいなかった。
終わり
「三燈舎」 神田小川町
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