カレーマン外伝 こだわりのカレーマン
「こだわりのカレーマン」
ヘルシー・スパイスカレー 723全のせカレー
「kitchen723」 ●鍛冶町
神田駅ガード下に、旨いカレーを出す美人店主の営む店があると聞いて訪ねてみた。
「kitchen723」───723はルパンの暗号ではなく店主の名前「なつみ」さんだった。
「初めて神田に降りたら、赤提灯ばかり目について。何、この街!? サイコーっ!」
店舗を捜していたなつみさんは、神田駅を降りてすぐにこの街だと直感した。ガード下にある7坪の小さな店を、借りる決意をする。出店してみると、神田っ子気質として「口は悪いが根は優しい」人が多いので、街の虜になったという。
「お店を始めてかれこれ8年経ちますが、最初はハンバーガー屋。つぎに低糖質のつまみを出すBARをやっていたんです……」
そんな時「神田カレーグランプリ」の存在を知ったという。神田神保町界隈には、400以上のカレー提供店があり、しのぎを削っている。その世界一のカレー激戦区で、神田のカレー№1を決める祭典が神田カレーグランプリだ。
「それで神田のカレーを食べ歩いたら、ムチャクチャ美味しい、面白い! 」
神田界隈はカレーの名店が多いので、なつみさんの舌はさぞ肥えたことだろう。
「面白くなったら、作りたくなっちゃって!」
大きな瞳をくるくる動かし、本当に楽しそうに語るなつみさん。
まず上野にあるスパイス屋さんに行った。そこで、スパイスを買い漁る。持ち帰り、匂いを嗅いだり、舐めたり、スパイスを丸ごと食べたりもした。
「ユーチューブでインド人の動画を観ながら、あっ、これ先に入れるんだなって!」
そんな風に我流で学んでいった。そしてBARの常連さんに提供してみるが…
「常連さん、『旨い旨い!』って言ってくれるんだけど。み〜んな酔っぱらいだからさ。
アハハハハハハッ!(※注・参考にならない)」
半年かけて、やっと食べられる味になったという。
なつみさんの場合、スパイス料理を独学で一所懸命に勉強したというよりも、夢中になって遊んでいる感じだ。
「ひとり遊びぞ われはまされる(独りで遊んでいることがより貴重で楽しい)」
良寛さんのこの心境に近い気がした。
『kitchen723』の店主 小出奈津実さん
「最初は常連さんにだけ出してたんだけど。評判がいいのでつい調子にのって、カレーグランプリに出ちゃおうかなって!」
初出場の2018年のグランプリは、なんとファン投票で決勝進出20店に勝ち残った。
決勝戦の日。いつもの10倍の量のカレーを作るため、10倍の大きさの鍋を使って失敗。
鍋の大きさが違えば熱の伝わり方が違うことや、塩などの調味料も単純に10倍にすればいいというわけじゃないことも知らなかったのだ。独学の素人らしい失敗だった。
だが、その後もコロナ騒動の中断を挟んで、2度出場して2度とも決勝進出を果たした。
大型店相手にわずか7坪の小さな店舗で、充分に健闘したといえる結果だろう。
「はい。723の全のせカレーです。愛情込めて作ってます。どうぞ召しあがれ」
出された「723全のせカレー」は、店主のように明るく賑やかな盛りつけだ。
白米の中にこんにゃく米を入れ、小麦粉をいっさい使わないヘルシー指向のカレーだという。
食べるとピリッとスパイス感が強い! なによりチキンの旨味が濃厚でスパイスの辛さがその味を際立たせている。思わず舌が小躍りしたくなる旨さだ! 副菜もたくさん盛られていて、これだけでビールを飲みたくなる味だった。
なつみさんが独り遊びで作り上げたこのカレーには、12種類のスパイスが使われているという。常連さんと明るく談笑する店主の声を聞きながら食べていると、このカレーに
は「元気」という13種目のスパイスが効いていることに気付いた。
終わり
ヘルシー・スパイスカレー 723全のせカレー
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