カレーマン外伝 こだわりのカレーマン
「こだわりのカレーマン」
北海道の郷土料理スープカレー 野菜チキンカレー
スープカレー専門店「スープカレーカムイ」 ●秋葉原
秋葉原のフィットネスクラブ。ランニングマシンに怪人がいる。
ド派手な紫色のドレッドヘアを振り乱し、スマホで脚本を書きながら走っているのだ。果たしてこの男の正体は!?
「スープカレーカムイ」のオーナーシェフにして、ミステリー作家。「劇団カムイ座」
の座長にして、薬膳コーディネーターでもある諸橋宏明(諸橋カムイ)さん!
自由人が多いカレーシェフの中でも、突出した多芸多才な天才肌の趣味人だ。
「独立して秋葉原で店を開いたのは2011年。(震災の影響で)お客さんが来ないので、女の子にメイド服を着て接客してもらったら、ドカ──ンと当たっちゃって!」
そう言って少年のように屈託なく笑う諸橋さんは、北海道出身。
もともとスープカレーは北海道・札幌が発祥の地。そこの老舗店『木多郎』で働いていた諸橋さんだったが、東京の百貨店に同店が出店したのを機に上京した。
「東京に来たら楽しくて楽しくて!」鎌倉の『木多郎』で2年働いた後に独立して、秋葉原に居ついた。その間に、『南雲堂ミステリー大賞』を受賞して作家デビューも果たした。
震災と新型コロナによる危機は、秋葉原の地の利をを活かして乗り切った。北海道にあった伝説のメイド喫茶の制服を、店員に着てもらって接客。するとテレビでも話題になって、お客さんが増加。もとよりカレーの旨さは本場の保証付き。リピーターが続出して、いまや行列のできる人気店になったのだ。
『スープカレーカムイ』店主の諸橋宏明さん
この店の一番人気「野菜チキンカレー」を食べてみた
一口食べてビックリしたのは(いい意味で)シェフとの落差。その前衛芸術家のような風貌に、秘かに珍味を期待していたのだが、見事に裏切られた。
これぞ本格的な正統派スープカレー! 美味スパイシー! 野菜スープが濃厚で、トマトの芳醇な酸味に個性があり、出汁の旨味とスパイスのバランスが絶妙!
まさに老舗名門店のDNAを受け継いだ旨さだ。
どうしたら、こんなに旨いカレーが作れるのだろうか!?
「家にはほとんど居ないので部屋は書庫と化していて。神保町の古本屋の匂いがするんですよ」
諸橋さんは、例の少年のような笑顔で軽々と苦労話を語ってくれた。
店に入るのは朝(深夜)3時。出汁の成分は、丸鶏、ゲンコツ、日高昆布、熊本どんこ、ニンジン、ブロッコリー、カツオ節…圧力鍋で3時間煮込んで仕込む。
朝6時にペーストに入る。タマネギ等をミキシングして、スパイスを混ぜて炒める。8時からそれを出汁でのばして、チキンやポークを煮て、開店11時にギリギリ完成。
仕込みだけで8時間。スープカレーは作り置きをすると、スパイスの風味が飛ぶので寝かせないという。閉店は夜21時だから18時間労働。忙しい日曜日はもっと長い。
「日曜日は21時間カムイです」
その合間に小説や脚本を書くというが、その「合間」というのがランニングマシンの上だったりする。
この圧倒的なバイタリティーはどこからくるのか!?
「それは…面白いから!」
頑張って結果が出たら、つぎにはもっと大きなことができるから面白いという。
まるで遊びに熱中する少年のように楽しそうに語る諸橋さんだった。
お土産に『クラーク博士とスープカレー』(作・諸橋カムイ)のミステリーCDをいただいた。「少年よ、大志を抱け」で有名な北海道大学クラーク博士を探偵役にしたミステリーで、いわゆる有名人探偵・歴史ミステリーに分類される。
この作品もまた作者の前衛的ルックスとは正反対。緻密な構成と大胆なトリックで創られた老舗DNAの味を持つ正統派ミステリーだ。スープカレー同様、じっくり仕込まれた素材の上に、個性というスパイスをピリッと効かせた美味スパイシーな逸品であった。
終わり
スープカレーカムイ
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