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カレーマン外伝 こだわりのカレーマン

宮﨑 克
カレーマン外伝 こだわりのカレーマン

「こだわりのカレーマン」


 

下町のブーランジェリー(パン屋さん) お豆とれんこんのカレーパン
●BOULANGERIE ianak!(ブーランジェリーイアナック)西日暮里

 

JR山手線・西日暮里駅から徒歩3分。下町の懐かしい住宅街の一角にオシャレなパン屋さんがある。

 

「BOULANGERIE ianak!(ブーランジェリーイアナック)」。
「イアナック(ianak)」は聞き慣れない言葉なので、フランス語かと思ったが、逆さに読むと「カナイ(KANAI)」、なんと店主・金井孝幸さんの名前だった。
お店に一歩入ると、香ばしいパンの匂いに鼻がくすぐられ、多種多様なパンの群に、眼が驚く! お客さんは、この鼻と眼の欲求に舌がたちまち賛同して、いそいそと買い込んでいくのだろう。

店主の金井さんが忙しそうなので、店内を仕切っている奥さんに話を聞いた。

 

 

「ウチのダンナは根っからのパン職人なんですよ!」

 

陽気で美人の奥さんはそう証言する。

「基本のパン生地が美味しいのは、主人の修業の賜物なんです」
店主の金井さんは、パン屋の『ルノートル』で3年、『パンテコ』で3年、『メゾン・カイザー』で4年、計10年・本格派のパン屋職人として、真面目に働き、修業してきた。
パンの製法技術の基本は『メゾン・カイザー』で学んだが、自己流にアレンジししている。小麦粉は、7、8種類の粉を独自の配合でブレンド。生地はイースト菌臭さをなくすため、長時間発酵等々さまざまな工夫をこらす。

 

『BOULANGERIE ianak!』店主の金井孝幸さん

 

 

「独立するなら地元がいいと最初から決めていました」 

 

10年もの修業を経て、2006年西日暮里に「BOULANGERIE ianak!(ブーランジェリーイアナック)」をオープンした。
店主の金井さんの強い意志で、地元の西日暮里で独立を果たしたのだが……
「開店当初はあまり売れませんでした。本格的なバケット(フランスパン)などのハード系を多く焼いていたんですが……下町という場所柄、固いパンは売れなかったんです……」

そう苦笑する奥さん。

 

下町のおじいちゃん・おばあちゃんは固いパンを嫌ったのだ。

 

その気持ちは、僕にはよく分かる。昭和の学校給食のパンが不味かったせいだ。 米食離れを防ぐための国策ではないかと疑うほど、給食のパンは冷たく固くて不味かった。だから、ある世代には固いフランスパンの旨さを想像できないのだ。
フランス小説に『愛の妖精』(ジョルジュ・サンド作)というラブストーリーがある。双子の兄弟と美少女との物語で、『タッチ』(あだち充作)ほどには泣けないが、学級文庫にも入っていた純愛小説の古典的名作だ。
その小説に、フランスパンの固い端っこを兄が弟に分け与えるシーンがある。この意味が、学校給食のパンしか知らない子供にはわからない。嫌がらせとしか思えなかった。大人になって本格的なフランスパンを食べて、初めてそれが好意の表現だったと気付くありさまだった。

 

「あの端っこのカリッとしたところが、香ばしくて美味しいのに……」

 

そう奥さんも残念がる。
開店当初、店主のパン職人として腕前を存分に振るったバケットは、なかなか売れなかった。現在は人気店だが、開店当初から売れていたわけではなかったのだ。
「街のパン屋さん(地元に根付いた店)で、ありたい」
そう願う職人肌の店主を助けるため、奥さんが奮闘することになる。
彼女は女性スタッフと共に、老若男女幅広い客層に喜ばれる柔らかなパンを、次々に考案して増やしていった。その一つがカレーパン。

 

「カレーパンは開店一年目から考えました」

 

スタッフに女性が多かったので、「野菜を入れよう」「豆も入れたい」等の意見を取り入れて、ヘルシー指向のカレーパンになっていく。
「イメージ的には『サラダボウル』です! 一品で色々食べられるカレーパンを作ろうとしました」
サラダボウルのカレーパン!? さて、その評判のカレーパンを食べてみた。
一口食べて、シャキシャキとしたレンコンの歯ごたえに驚く! 歯ごたえのあるカレーパンなんて初めてだ! なのに、旨い! ターメリックとクルミ入りの生地は、モチモチとして生地だけでも充分に楽しめる。揚げずに焼いてるのはヘルシー指向のため。

 

サラダボウルをイメージしたカレーパンの個性は、ちょっとした感動ものだ! 

 

独創的なものの多くはクセがあるぶんだけ主流のものよりイマイチなものが多い。だが、このカレーパンは個性的かつ旨い!
その理由は、職人気質の店主が本格的なパン生地を作り、明るいアイデアマンの奥さんが独創的な中身を創る。正反対の資質ながら、イースト菌が二人の仲を取り持った夫婦合作のカレーパンだからであろう。 

 

終わり

 

BOVLANGERIE ianak!

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