カレーマン外伝 こだわりのカレーマン
「こだわりのカレーマン」
『舌の記憶で作ったカレー』無水ベトナムチキンココナッツカレー
BAR CAFE 三月の水 ●神田神保町
本の街に男の隠れ家がある。
神田神保町にある老舗・中華店横の階段を上っていくと、三階に『三月の水』というバーがひっそり佇んでいる。 洒落た店内は、ビンテージ・レトロなテイストで統一されていて、まさに男の隠れ家。疲れた男が、酒に癒される店だ。
「内装にはこだわりましたね。『downy』という大好きなバンドの青木ロビンさんに、デザインしてもらいました」
店主の林明さん自ら依頼したという。
ところがこの隠れ家、昼時になると一変する! 店のカレー目当てに、多くのビジネスマン、OL、学生で賑わうのだ。
「バーのカレー!?」と眉をひそめないで欲しい。そのバーのカレー『無水ベトナムチキンココナッツカレー』が、抜群に旨いのである。
ココナッツミルクの甘さと辛いスパイスの調和が、舌に心地よい!
名前から受けるほどには、不思議なエスニックでも驚きの東南アジアンでもない。もっと正統派のコクのある旨さだ。 隠れ家的な立地条件の悪さにも関わらず、このカレーが『神田カレーグランプリ』で、2017年から3年連続決勝戦20組に選ばれたのも納得できる。
「『舌の記憶』で再現したんですよ。ベトナムに実家の中国料理店の家具を買い付けに行った時にホーチミンのホテルで食べたカレーが、凄く美味しくて!そこに自分なりのエッセンスを融合しました。」 と、店主の林さん。しかも、単に再現するだけじゃない。今の東京の最新を目指して、隠し味に工夫をしたという。
林さんは、若い頃からミュージシャンを目指していた。現在でも、インディーズのレコード会社のオーナーとして、様々なアーティストをプロデュースしている。 店名は、ボサノヴァの神様ジョアン・ジルベルトの名曲から付けられたもの。実際にこの店も、時折ライブ会場となるという。 不思議とカレーと音楽の親和性は高い。カレー好きのミュージシャンは実に多いのだ。人気カレー店の店主が、ミュージシャンであることも少なくない。
何故、ミュージシャンはカレーが好きなのだろう!?
「アーティストは刺激を求めるから」
「カレーも音楽も決まりがなく自由だから」
「スパイスでハイになれるから」
等……様々な答えが返ってくる。どの答えもそこそこ納得するが、イマイチ腑に落ちない。
この質問を林さんにぶつけてみると。
「食べ物があるとみんな喋るじゃないですか。有名ミュージシャンだってそう。『これ旨いっスね』とか…」
林さんにとっては、ミュージシャンとコミニュニケーションを取るツールとして、カレーがあったのだ。
『三月の水』店主 林明さん
ライブイベントや音楽祭では、出店はカレーが定番。林さんも社長業のかたわら、カレー作りに腕を振るったという。 カレーは、大量に均等の味を作りやすいので、大勢の集まりではかかせない食べ物だ。
振り返ってみれば、カレーは大勢で食べるものだった。給食のカレー、臨海学校のカレー、学食のカレー等…子供の頃にみんなで賑やかに食べた記憶と重なってくる。「結局、いつまでも子供なんでしょうね。バンド好きな人たちって…」 そう言って笑った林さんの言葉が、ストンと腑に落ちた。かつてカレーは、子供にとってハレの日に食べるご馳走だった。
終わり
BAR CAFE 三月の水
>>ビッグコミックオリジナル公式へ