原案者・夏原武氏による 連載コラム 【『正直不動産』取材こぼれ話】
【『正直不動産』取材こぼれ話 第4回】
[手法はいろいろ]
『正直不動産』に限らず、関わっている作品には取材が必要になる。元々ルポライターである筆者にとって取材は楽しみな行為である。かつて「別冊宝島」は「好奇心」をテーマにしていたが、取材とは、すなわち好奇心である。
「あれはどういう仕組みなのか? どんな人が関わっているのか? 問題や危険性はないのか?」
誰もが思う疑問の答えを探すことが、まさに取材なのだ。
社会の裏表はもちろん、時には政治家や企業人にも話を聞くことになる。オフレコの釘を刺されることもあるが、そこをかいくぐるのも腕の見せ所。もっともやり過ぎると、脅されたりということにもなるのだが。
さて、不動産の場合はどうか。幸い『正直不動産』は、好意的に見ていただいている業者の方からは連絡をいただき、話を伺えることも多い。まさに「正直」な仕事をされているからこそ共感いただけるのだろう。
他方、それこそ「ミネルヴァ不動産」のような業者の内情を知るのは難しい。当たり前だが、そうした人にとっては、話してもメリットはない。それどころかデメリットになる可能性が高いのだ。
とはいえ、知らなければ書けない。その場合、いくつかの手法がある。
・ブローカーなど業界の隙間にいる人から話を聞く
・かつてそうした悪質な会社にいた人から話を聞く
この二つは他の業界に対しても使える手法だ。
もう一つが、不動産業界ならではの、というところで、それはつまり「客のフリをする」ことだ。
賃貸でも売買でも、客として訪れるのは一番いい方法である。いかにも借りそう買いそうといった雰囲気を出すのは難しいところではあるが、「客」と認識してもらえれば、相手の手法を体験できるからだ。
物書きがあまり顔を出したがらないのは、こうした手法のためでもある。筆者の場合、外見的な問題もあり(笑)、協力者に頼むことも多い。昨今はICレコーダーなど便利なツールが山ほどあるので、詳しい内容を得るのは昔より楽になった。
様々な手法を駆使するのは、取材者にとっては当たり前のことではあり、基本でもある。ここには書けない手法もあるのだ。
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「ゴミ部屋」
よく不動産業者から聞くのは、「部屋が汚いやつは危ない」というもの。一度貸してしまえば、オーナーであれ仲介業者であれ、部屋に勝手に入ることはできない。それでも、窓越しなどから伺い知ることはできる。
「自分が居住している場所を片付けることもできない奴、掃除もろくにしない奴は、いずれ家賃滞納などのトラブルを起こす」
こう語る業者は多いし、おそらく共通認識となっているだろう。
若い頃、筆者が借りていたワンルームマンションの管理人も「退去後に部屋があまりにも汚れていたり、残置物が多い人ってのは、賃貸中もトラブルが多いんだよね。やたらクレームつけてきたり、滞納したりね」と言っていた。
家賃滞納は人間が転落していく第一歩だと言われる。生活の基盤が維持できないのだから、確かにそうだろう。もちろん、いまのコロナ禍のような特殊状況はまた別だ。本来なら得られる賃金が得られないという状況まで、「だらしない、人間としてダメだ」と決めつけるのは間違っている。あくまでも、通常の状況で、という話になる。
汚部屋と呼ばれるような状況は、テレビでも取り上げられたりするが、常軌を逸したような部屋になるのは、精神的な問題があるという指摘もされている。 いずれにしろ、あまりにも部屋が汚い状況を平然として過ごしている人というのは、きちんとした生活や経済が営めないのではないかという疑義を持たれる可能性はある。
賃貸というのは、借りる側が弱い。貸す側次第というのが実情だ。
「申し込みに来たときの態度や服装、職歴なども気になりますよね。あまりにも細かいことは聞けませんが、『この人大丈夫かな?』と思っていると、案の定保証会社に通らなかったりしますからね。もちろん、外見で判断するなとは言われてますが、やっぱりある程度は見ちゃいます」と、業者の一人は言う。
「他人が他人に貸す」という行為では、今のところ金貸しの保証しか判断基準がないのだが、少なくとも、相手に不快感を与えるような外見は避けるべきということだ。おまえが言うな、ではあるが(失笑)。
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