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週刊スピリッツ

2023.10.23

第四回スピリッツ新人王開催記念 金城宗幸氏インタビュー 後編

週刊スピリッツ

最前線で活躍する漫画家を審査委員長に迎え、半期に一度“最も面白い投稿作”を決定する「スピリッツ新人王」。第四回審査委員長は、『僕たちがやりました』『ジャガーン』など多数ヒット作の原作を手掛け、現在は「週刊少年最前線で活躍する漫画家を審査委員長に迎え、半期に一度“最も面白い投稿作”を決定する「スピリッツ新人王」。第四回審査委員長は、『僕たちがやりました』『ジャガーン』など多数ヒット作の原作を手掛け、現在は「週刊少年マガジン」で『ブルーロック』、そして「ビッグコミックスペリオール」で『スーパーボールガールズ』を連載中の金城宗幸(かねしろ・むねゆき)氏。

後編となる本項では、多種多様なジャンルでヒットを生み出す秘訣や、魅力的なキャクターを作る方法など、具体的な創作テクニックについてうかがいました。

(インタビュー=ちゃんめい)

 

Q.多種多様なジャンルで作品を生み出すのはもちろん、ヒットを連発されているところが金城先生の凄さだと思いますが、そもそも最初からヒットを出そうと思って作っているのか……始まりはどんなマインドなのでしょうか?

 もちろん、最初からヒットを出そうと思って作っています。そのために、まずマックス値を決めるんです。例えば、『神さまの言うとおり』だったら、三池崇史監督で映画化してほしいなと思っていましたし、『僕たちがやりました』ならテレビ東京の深夜ドラマ枠で旬の俳優さんたちでドラマ化してほしいなって。ちなみに『ジャガーン』は、パチンコ化が目標だったので、単行本の最終巻はタイトルを虹色にしているんですよ。

 

 

 なんだか不純に聞こえますかね(笑)。でも、ヒットを出そうと考えた時に、そもそも読者が作品と触れる瞬間って映画やドラマだったりするわけじゃないですか。だからその接点のマックス値を決めて、そこに至るまでにどうしたら良いんだろう? と逆算して考えています。そのために、担当編集さんと先行作品について話あうなど、研究も欠かしません。

 もしかしたらマックス値の目標が毎回違うから、作品のジャンルが多種多様になっているのかもしれませんね。それこそ、今「ビックコミックスペリオール」で連載中の『スーパーボールガールズ』は、女性キャラの作品で売れたい! というのがアイディアの源泉です。そこからは、ラブコメ……はあまり得意じゃないからバトルかな? と色々と模索しながら詰めて行きました。男性キャラの作品は今までたくさん描いてきてありがたいことにヒットも出せたので、今は女性キャラで新たな挑戦をしている最中です。

 

Q.一緒に組む作画家さんが毎回違うからこそ、多様なジャンルに挑戦できるようにも感じます。作品を共に作り上げていくうえで、作画家さんに求めるものは何なのでしょうか?

 まず、大前提僕が絵の道を諦めているので、絵が描ける作画家さんには、もうリスペクトしかありません。本当にすごいと思います。なので、作画家さんありきというところが第一にあるのですが、ヒットを出すには作画家さんが「どれだけ無理をしてくれるのか」が重要かなと思います。

 それこそ『ジャガーン』のにしだけんすけ先生は、もともとおじさんキャラや怪獣のイラストが得意だったんですよ。だけど、イケメンとか可愛いキャラクターをたくさん描いてもらっていたわけで。『ブルーロック』のノ村優介先生もダークファンタジーバトルが得意だったけれど、今こうしてサッカー漫画を描いてもらっています。すごくニュアンスが難しいのですが、“手なり”ではなく新しい何かを探りながら描いていただく姿勢が大切なのかなと。

 そうやって一緒に作品を作っていくと「おお、きた」って。作画家さんとグルーヴに乗る瞬間がくるんです。自分でも想像以上のネームが描けたと思ったら、作画家さんがさらに素晴らしいものに仕上げてくる……。連載開始時には誰も思いついていなかった絵、シーンが生まれたら、その作品は絶対に売れるんです。『ブルーロック』だと2巻の終わりで世一が初めてゴールを決めるシーンがそれにあたります。

このシーンは、ここで人気取れなかった終わりだ! なんて言いながら、みんなで頑張った記憶がありますね。2巻の終わりまで、世一は主人公なのに一度もゴールを決めたことがなく、ずっとサブキャラが活躍していたのですが、今となってはこのシーンのためだったんだと思います。

『ジャガーン』だと、夏祭りのシーンですね。後半戦もさらにすごいことになっていますけど、こういうシーンが出るまでに最低でも2〜3巻はかかるんですよ。でもこのシーンが生まれるには、原作だけはもちろん、絵だけでもダメなので、本当にわからない。ギャンブルみたいなものです。

 

▲『ジャガーン』3集30話より

 

Q.お話を伺っていると、ストーリーよりもシーンや演出を重視されているように感じます。シーンや演出をより魅力的なものにするには、どうしたら良いのでしょうか。

 確かに、シーンや演出といったイメージ重視で作っていますね。その表現をより豊かにするために、もちろん映画も好きでよく見ますが……。いや、これは最近気づいたのですが、パチンコでリーチが出るときのあの感覚。脳みそがジャンキーになると言いますか、脳汁が出る感覚が好きなんですよ。

 少し話が逸れますが、人って「面白い」という言葉を、知性で感じる面白さと、気持ちいい面白さ、この2つを一緒くたにして捉えているように思うんです。でも、人は知性よりも先に気持ち良い、気持ち悪いで判断する生き物だと思うので、まずは快か不快か、このどちらかを刺激しないと人は見向きしないんじゃないかなと。

 例えば、人って自分にとって都合の良い話や、話し手が魅力的だったり、快を感じる物事には耳を傾ける。一方で、不快なものも多少は知っておかないと逆に怖いから聞きたがるじゃないですか? だから、快か不快か、このどちらにもかすっていない作品はみんな読まないと思います。

 

Q.人によって、快か不快かのポイントは異なると思いますが、どのようにして掘り起こしていけば良いのでしょうか?

 自分にとっての快と不快を掘り起こせば良いんじゃないでしょうか。僕にとっての快は、先ほどお話したパチンコでリーチが出て脳汁が出るようなあの感覚なので、作品を作る時は必ず脳汁! と思って描いていますし(笑)。例えば、キャラの泣き顔、変身シーンとか、あるいは原体験でも良いです。ご自身のフェティシズムや気持ちの良かった記憶、トラウマとなっているものを思い浮かべてみてください。

 

Q.制作の途中でボツになる作品も出てくると思うのですが、その見極め方はどうされているのでしょうか。

 先ほどから、快か不快かというキーワードが登場していますが、1話目が快か不快かのピークになっている作品はボツにします。その昔、ヒップホップを題材にした漫画を描こうと思っていた時期がありまして。主人公がお経みたいにラップを唱えて、怨霊とMCバトルして戦うという話だったのですが、主人公のラップが結界みたいになって、怨霊のラップが魑魅魍魎みたいになる! これはめっちゃ面白い! と。脳汁が出たものの、冷静に考えたら2話目以降が一ミリも思いつかなったんですよ(笑)。他にもラップの韻を踏む表現とか、色々と課題はありましたが、とにかく1話目が快か不快のピークだった……それが一番の理由でボツになりました。

 それこそ、『神さまの言うとおり』だって、正直1話目が快か不快かのピークだったと思うんです。教室に突然だるまが現れて、動いたらみんな死ぬ。このピークの後に、魅力的なキャラクターを登場させたり、さらに衝撃的な展開でストレスを与えたりして連載が続いたわけですが、このいかに読者の快と不快を刺激するドラマを作り続けられるのかが重要だと思います。

 あとは、キャラクターにある程度気持ちが入り込めるかどうかも重要ですね。『ジャガーン』は、もともと家族の物語だったんです。4人家族のところに欲望を叶えてくれるキャラクターがやってくるというあらすじでしたが、母親の気持ちだけがどうしてもわからなくて諦めました。もちろん、若い女性の気持ちだって完璧には分かりませんが、これまでの経験値である程度密な想像はできるじゃないですか? 一方で、母親に関しては、業の部分というのかな、そこに踏み込めなかったんですよね。父親のことをいじるにも、自分が成熟していないといじれないのと似たような感覚。超えて良い、あるいはダメなラインが分からないまま描くのは危険だなと思ったんです。

 

Q.キャラクターといえば、金城先生の作品は登場人物が多いように思います。特に、『ブルーロック』は、キャラクターが多くてもそれぞれにしっかりとファンがついているところが印象的です。金城先生はどのようにしてキャラクターを生み出しているのでしょうか?

 僕が作品を作る時、一番最初に浮かぶのがやっぱりシーンなんですよ。そのシーンを表現するために、逆算して必要なキャラクターを考えて配置していきます。そして、そのキャラクターを考える時も、快か不快かを基準にしています。例えば、こんなこと言っている奴は嫌だなぁとか(笑)。本当にざっくりで全部は決めていないんです。打ち合わせ重ねていくうちに、嫌な奴だけど実はこんな一面があったら面白いよねとかアイディアが出てどんどん固まっていくので。

 これって、人が人を認識する時と同じじゃないですか? 第一印象で、好きか嫌いかを判断して、知りたいと思ったら付き合うし、あるいは知っていく順番によって印象が変わることもある。リアルと同じようなことをやっているような感覚ですね。

 あとは、作画家さんが“ノる”感覚も大切にしています。『神さまの言うとおり』で、僕がなんとなく描いた敵キャラを藤村緋二先生に渡したら「このキャラめちゃくちゃ好きです!」と仰って、すぐに絵を描いてくださったんです。その時のキャラクターの顔がすごく良かったんですよ。作画家さんがノッて、キャラがこんな顔をするということは、こういうシーンが描ける! って。さらにそのシーンがまたすごい絵になって戻ってくると……。これがキャラを作るということかと学びましたね。

 

Q.今回の審査ポイントや、審査員長として感じたことを教えてください。特に「何か一つでもぶち抜くものを」と表現されていたところが気になりました。

 自分の作品が誰かにとってものすごく不快な、あるいは快感を覚えるような……つまり、人の記憶に焼き付けるようなものを目指しましょうということです。そして、これは、自分がここ数年で感じていることですが、そういった快か不快かを感じるシーンは、倍ぐらい強くしないと読者には伝わらないんじゃないかなと。少し前までは、漫画はエンタメトップの一角みたいな存在でしたが、やっぱり最近は映像が強くなっている印象です。漫画を読むのにはある程度リテラシーが必要な時代になっているからこそ、読者に快か不快か感じてもらう、あるいは“伝える”には表現をより大きく、分かりやすくしていく必要があると思います。

 

Q.創作意欲やアイディアのストックが枯渇してしまった際はどう乗り越えられてきたのでしょうか。新人作家に向けて、長く描き続けるための心構えがありましたら教えてください。

 描くものがないという状態に陥ったなら、それをそのまま作品に描けば良いんじゃないかなと。何もないことは素晴らしい、あるいは何もない私が何かを見つける話とか、夢がなくなったおじさんの話、燃え尽きたスポーツ選手の話……何かできそうです。つまり、描くものがないではなく、描くエネルギーが無くなってしまっているということなんでしょうね。ネタは絶対にあります、ちゃんと生きていたら。

 描くエネルギーの話もそうですが、長く描き続けるためには、やっぱり人に影響されないテンションの上げ方、保ち方を見つけることが大切だと思います。でも、テンションを上げるといっても別にいつも元気であれ! って意味ではなく、いかに研ぎ澄まされた状態でいられるか、ということですね。前編で、中・高時代にコントの脚本を書くのに夢中になっていたというお話をしましたが、自分のテンションが、チームのグルーヴが観客に伝わっている、合っていたんだ……というあの感覚。漫画も同じですよ。自分の作品が世の中とちゃんと接続しているのか、誰かに届いているのか。その高いテンションを保ちながら、ひたすら登ってきて、弾けた瞬間はすごく気持ち良いです。

 この弾ける瞬間というのが、新人作家さんにとっては今回のような新人賞なのではないでしょうか。そして、こうしてスピリッツ編集部に作品が届いたってことは、最終候補に残ったみなさん、きっとものすごくテンションが上がっている状態なんだと思います。

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