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週刊スピリッツ

2023.10.23

第四回スピリッツ新人王開催記念 金城宗幸氏インタビュー 前編

週刊スピリッツ

最前線で活躍する漫画家を審査委員長に迎え、半期に一度“最も面白い投稿作”を決定する「スピリッツ新人王」。第四回審査委員長は、『僕たちがやりました』『ジャガーン』など多数ヒット作の原作を手掛け、現在は「週刊少年マガジン」で『ブルーロック』、そして「ビッグコミックスペリオール」で『スーパーボールガールズ』を連載中の金城宗幸(かねしろ・むねゆき)氏。

前編となる本項では、金城先生がヒットメーカーになるまでの軌跡をもとに、新人時代の心得や創作論について迫ります。

(インタビュー=ちゃんめい)

 

 

Q.まず、金城先生はいつ頃から漫画家を目指されていたのでしょうか

 幼い頃から漫画家に憧れていました。小学生の時、イラストがちょっとばかり得意だったので将来は漫画家だろう……くらいの気持ちでしたが、次第に自分は何があっても漫画家になるんだ! と固い決意が生まれていきました。それで、どうせ漫画家になるのだから、漫画のことは大学生になってから本腰を入れてやろうと思い、大学に進学するまでは一切漫画の練習はしませんでした。

 代わりに中・高校時代は、部活動や学校行事に力を入れていて、特に文化祭で発表する舞台演劇やコントの脚本作りに夢中になりました。誰をどう使って、どう見せるのか……。完全に独学でしたが、みんなで打ち合わせをしながらネタを作るというこの時の経験が、今めちゃくちゃ活きていると思います。

 

Q.その後はご自身が思い描いた通り、京都精華大学のマンガ学部マンガプロデュースコースへと進学されていますよね。印象的な授業や当時の過ごし方について教えてください。

 マンガ学部といっても、決して漫画だけではなく、原作や小説を書いても良いというかなり自由度の高い学部でした。講師として『らーめん再遊記』の原作者である久部緑郎さんや、名だたる漫画雑誌の元編集長の方がいらっしゃって。そこで「漫画はね、欲望を描くんだよ」と言われたことは今でも頭に残っています。そうか、欲望を描かな! って(笑)。大学では、漫画業界の第一線で活躍されている方の姿勢を学ばせていただきましたね。

 授業以外だと、サークルに入ったり、麻雀をやったり。それなりに遊んでいましたが、みんなに黙って裏ではひたすら漫画を描いて漫画賞に応募していました。でも、本当に絵が上達しなくって……。絵を描くこと自体は好きだったのですが、トーンを貼るのがしんどかったり、Gペンや丸ペンの使い方とかよくわからなくて。つまり絵の勉強がどうにも苦手だったんです。今の時代はデジタルが発達していますが、もしも当時その技術があったら、もう少し頑張れていたかもしれませんし、僕の作家人生も変わっていたでしょうね。

 

Q.絵が苦手だと気付いてからはどのような学生時代を過ごされたのでしょうか。

 絵は苦手でしたがネームを描くのは苦じゃなかったのと、絵も練習すれば上手くなるのかな? とまだ希望を持っていたので、とにかく在学中はすべて全力で取り組んでいました。『独地小学校物語』という作品で、第80回「週刊少年マガジン」新人漫画賞で特別奨励賞をいただいて、担当編集さんがついたのですが、やっぱりもっと絵を練習してほしいと言われて。もちろん努力はしましたが、思うようにいかなかったんです。

 それで、もう漫画家は諦めようと思って大学も中退しようとしたのですが、親からとりあえず卒業はしたら? と止められて。それなら、卒業したら漫画家になるか、中・高時代の経験を活かして芸人になるか、どっちかにしようと将来について考え始めました。

 

Q.大学時代で挫折を味わったんですね。そこから、どのようにして原作者の道へと進んでいったのでしょうか。

 大学生活の最後の1年間は、卒業制作に取り組む傍ら、バイトと芸人のオーディションを受ける日々を過ごしながら、将来どうしようかなとずっと思い悩んでいました。でも、思い返せば「何かやる」っていう顔をしながら、実際には何もできていないという状態だったんですよ。そんな僕を見兼ねた父親が「お前、こんなとこおってええんか」みたいな感じで、すごくプレッシャーをかけてくるんです(笑)。なんだかもう大阪にはいれない! という気持ちになって卒業後に思い切って上京しました。

 卒業制作で描いたギャグ漫画『第7位』が「週刊少年ジャンプ」の新人漫画賞・赤塚賞で佳作を受賞しまして。一応、ジャンプの担当編集がついたものの、やっぱり絵が上達しないことにはね……。結局、上京しても何も変わりませんでした。そんな時に、学生時代の僕の作品を覚えていてくれた編集さんから「原作者をやってみない?」とお声がけいただいたんです。当時は、今すぐ才能で飯が食える状態になりたかったので、もう「やります!」ってすぐに返事をしました。

 

Q.葛藤が多い学生時代を過ごされていたようですが、在学中は卒業制作も含めると二度も新人賞を受賞されています。これから新人賞に応募する方に向けてアドバイスを送るとしたら何と伝えますか?

 僕自身、少年誌が好きだったので、「週刊少年ジャンプ」や「週刊少年マガジン」といった少年誌の新人賞をメインに応募していました。今は漫画雑誌だけではなく、漫画アプリやweb配信サービスなど媒体が増えたから、その分新人賞もたくさんあると思います。でも、新人賞に挑戦するなら、やっぱり集英社、講談社、小学館といった大手三誌が良いのかなと。大手三誌は、編集さんが“売れさせ方”を知っていると思うんです。“売れ方”は作家が考える事ですけど(笑)、例えばデビューのさせ方や売れ出した時のバックアップの方法とか、ノウハウをたくさん持っているんじゃないかな。

 そして、新人賞に入選すると多くは担当編集さんがつくわけですが、漫画家は自分の話をどう上手く伝えるか、相手の話をどう噛み砕くのかといったコミュニケーションを取る力を磨いた方が良いです。あとは、1人の編集者さんに依存しすぎないこと。やっぱり人付き合いので、相性の良し悪しもあるし、ずっと良好な関係でいられる保証もありません。同じ出版社内はもちろん、他社でも良いので、とにかくいろいろな編集者さんと会って話してみることをおすすめします。

 僕と担当編集さんの関係性を振り返ると、そのタイミングごとに“目指すターンが同じ人”と組んでいる気がしますね。例えば、デビューしたいなら、とにかく新人をデビューさせたい! って高いモチベーションがある担当編集さんと組んだ方が良いですし、ある程度連載経験があるなら◯万部売れたい! とか、見据えている目標が同じ人の方が良い。だから、そのターンを知るためにも、コミュニケーションを取る力を磨いて、編集者さんとたくさん対話を重ねた方が良いと思います。

 

Q.上京したタイミングで原作者としてお声が掛かり、『神さまの言うとおり』でデビュー。その後も『僕たちがやりました』『ジャガーン』など、多種多様なジャンルでヒット作を連発していますが、そもそもの題材などはいつも金城さんが提案されているのでしょうか?

 デビュー作『神さまの言うとおり』は、担当編集さんから「ラブコメかスポーツかデスゲーム、どれ描ける?」と、3択でお題を出されたのが始まりです。もともと『GANTZ』みたいなバトルロイヤル系の作品が大好きだったので、これを少年誌に落とし込んだらいけるかなと思ってデスゲームを選びました。以降の作品も、その時の担当編集さんから提案されたお題がベースにあります。だけど、このままだと担当編集さんに依存した形式になってしまいそうだなと……危機意識を覚えて、自分で主導権を握って立ち上げたのが『ジャガーン』でした。僕にとっては転換期ともいえる特別な作品です。

 

Q.ちなみに「少年誌に落とし込む」とは具体的にどのような感じなのでしょうか。

 10代の僕が読んで面白いかどうかです。でも、そもそも僕は一貫して自分よりも下の世代に向けて漫画を描いているなと思います。大人に対するアンチテーゼじゃないですけど、価値観が凝り固まっている人に対してすごく苦手意識があるんです。もちろん、大人の読者さんに読んでいただくのは嬉しいですが、どちらかというと、柔軟な子どもたちに作品が刺さった瞬間が一番気持ち良いです。

 

Q.初期の頃は、担当編集さんからのお題があったとのことですが、そこから構想を膨らませるために取材などはされましたか?

 細かい設定など事実確認のための取材は行いますが、ネタ集めの取材はしません。ネタって、普通に生活をしている時の方がたくさん転がっていると思うんですよ。別にネタ集めだと思って毎日を生きているわけではないですが(笑)、普通に生活をしていて「これ全部漫画に使えるな」って思います。おそらく僕の場合は、中・高校時代のコントや脚本作りの経験に加えて、途中で絵を諦めたことで、ネタを拾い集める取材力みたいなものが自然に身に付いたんだろうなと。

 漫画原作者はどういう人が向いている? という質問と通じる話ですが、やっぱりなんでも面白がった方が良いと思うんです。人に説明するのは難しいけれど、心ではわかる面白さとか、色々あるじゃないですか。それをたくさんストックしておいて、作品を作る時に箱から取り出して料理をしていくイメージです。だから、もしも原作者を目指すなら、漫画は読まずに、漫画以外のことをいっぱい経験した方が良いんじゃないのかなと思います。

(後編につづく)

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