トップ  >  第3回スピリッツ新人王結果発表!!!! ( 2023/05/26 )
週刊スピリッツ

2023.05.26

第3回スピリッツ新人王結果発表!!!!

週刊スピリッツ

第374回~第379回スピリッツ賞に投稿された全作品の中で最も面白いマンガを描いた新人作家さんがついに決定!ノミネートされた6作品への特別審査員浅野いにお氏からのコメントを全文掲載!!


 

第374回(7月期)TOP賞

[Just Because] K.C.Watanabe ブルックリン・38歳

浅野いにお氏講評

構図やコマ割り、心象風景の表現が素晴らしく、かつ全体を通して読みやすかったです。作画のレベルも高いです。飼い犬の紐によって間接的に命を救われる展開にはなるほどと思わされました。しかしながら、物語の落とし所は無難にまとまってしまった感があります。シリアスな状況の割には主人公に悲壮感があまり感じられず、状況に流されてばかりで主体性がないので、共感や同情が得られないまま他人事として物語が終わってしまったように思います。多用されるモノローグはやや説明過多な気がしたので、もう少し余裕を持たせて読み手の想像に委ねた方が、読者としては物語に入り込めたような気がします。もしくは後もう一言二言、過激な言葉があれば印象深い作品になったのでは。

 

第375回(8月期)TOP賞

[踊り子] 元田可奈子 埼玉県・33歳

浅野いにお氏講評

シーン数が少なく、ほとんどが会話のみで進行するため、読みやすくはありましたが全体が淡白でかなり物足りない印象でした。それならばせめて主人公がバレエを踊る場面をもっと絵的に盛り上げるなりページ数を割くなり、感情が伝わってくる演出があれば印象も変わったと思います。ラストに関しては少しご都合展開かなと感じます。世界的な写真コンクールに被写体の許可なく応募することにも違和感は感じましたが、それ以前にたまたますれ違った程度の二人の関係性にそれほどの絆は感じられず、必然性もないことが展開に唐突さを感じる原因になってるように思います。条件を列挙するだけでなく、表情と言葉を使った感情の連鎖で物語を紡いでください。

 

第376回(9月期)TOP賞

[モールルマ] 北浦竹助 東京都・33歳

浅野いにお氏講評

不必要に感じるエピソードやモノローグが多く感じられ、読んでいて疲れました。特に説明モノローグが過剰なので、絵とセリフで伝わるように工夫して欲しいです。ストーリーも無理な展開が多く、構成もバランスを欠いているように思えました。主人公の「恋はしない」というキャラ付けは必要だったのか、なぜずっと不機嫌そうな顔なのか、時折脱線するモノローグの意図とは、モールルマとは何の隠喩なのか。それぞれを読み解こうとしても全体がチグハグで読んでいて気が逸れます。漫画制作はアイデアを積み重ねるのではなく、必要最小要素まで削ぎ落とす作業です。ヒロインの屈託のない表情はとても良かったので、あまりアイデアに振り回されないよう、ご自身の特性を見極めて欲しいです。

 

第377回(10月期)TOP賞

[全力壮年] 御堂岡 龍 宮崎県・25歳

浅野いにお氏講評

作画技術はまだまだ足りていませんが、オーソドックスな話作りの中に主人公の成長と変化が見られ、読後感が良かったです。とはいえ元芸人と介護という要素の掛け合わせの妙をもっと見せて欲しかったところ。特に、「すぐに辞めたる!」と考えながらも、なんだかんだ一ヶ月間働いている間に、芸人という特性を活かして環境に馴染んでいく過程が描かれていたら作品の精度がもっと上がったのでは。主人公は35歳という割には精神年齢が幼すぎます。老人も台詞だけ抜き出して読むと老人感が薄く、キャラの内面の描き分けのレンジが狭いように感じました。物語の進行のために台詞を読ませるのではなく、それぞれのキャラが日常で喋りうる言葉で物語を組み立てていくと、作品のリアリティが増すと思います。

 

第378回(12月期)TOP賞

[神ノ死] yoyo 京都府・21歳

浅野いにお氏講評

不穏な雰囲気と不気味な両親の描写は秀逸でした。ウサギを飼うまでの流れは緊張感もあり惹きつけられました。しかし理不尽な両親の振る舞いの謎は最後まで解き明かされず、想像の余地があるとはいえ、多少のヒントがないとラストのカタルシスへ繋がらないと思います。このような起承転結の転がないというのは珍しいケースで、それがリアリティと言って仕舞えばそれまでなのですが、最低限物語は解決させるのが作話の最低限ルールだと思うので、この作品においてはなぜウサギは捨てられなければならなかったのかを説明し、それを受けたラストを設定できれば作品の精度が上がったのでは。ただ、子供からしてみれば大人の事情は知る由もないという無力感もこの作品の味ではあると感じます。

 

第379回(12月期)TOP賞

[ヒーロー] 秋山視点 大阪府・22歳

浅野いにお氏講評

ダイナミックなコマ割りで最後まで一気に読んでしまう力強さがありました。作品全体を通して通底する漠然とした苛立ちや焦燥感は息苦しさもありますが、随所に挿入される抜けた空により緊張と緩和の良いリズムを生んでいるように思います。作画、ストーリー共に、現代的な漫画という印象でした。写実傾向の画風は作品にあっているのですが、キャラの顔の描き分けが弱いので、もう少し漫画的デフォルメを加えてもいいと思います。ラストはもう一歩踏み込んで欲しかった感がありました。例えば冒頭の女性をもう一度登場させ主人公と対峙させれば、主人公の心境の変化を比較して見せることができますし、物語のスタートとラストを円環させることで短編としてのまとまりが感じられるようになると思います。

 

浅野いにお氏が選ぶ第三回スピリッツ新人王は

[ヒーロー]

 

秋山視点氏受賞コメント

先日、「ガロ」を買いに神保町へ行きました。東京の空を映す集英社のビルは至大で、非常にかっこよかったです! でもお金をくれた小学館の方がさいこーです! だいすき!浅野いにお先生の新作『MUJINA IN TO THE DEEP』もさいこー!

新人王に選ばれた本作は発売中の「月刊! スピリッツ」7月号に掲載中!

 

特別審査員 浅野いにお氏総評

応募作はいずれも丁寧に描かれており、個性もそれぞれ違ったので評価に悩みました。一方で新人ならではの爆発力や新規性を感じる作品は少なく、決め手に欠けたというのが正直な感想です。全体の傾向として感じたのは各作品モノローグが多く、それらが読み味の個性ではなくストーリーの補足的な役割にしかなっていないのが非常に残念でした。その中で今回新人王に選んだ「ヒーロー」は、最も書き手の感情や人間性が伝わってくる内容で、それは主にネガティブなものであった訳ですが、負の感情は人が持つ重要な要素の一つですので、それを漫画に落とし込むことを否定しません。むしろ場合によっては読者に嫌悪感を与えかねない負の感情を、今後いかに漫画に昇華させることができるのかという期待も含めて新人王とさせていただきました。

 

今回ノミネートされた6作品に加え、浅野いにお氏が「新人作家に伝えたいこと」をテーマに語ったSPインタビューを公開中!

 

>>第三回スピリッツ新人王開催記念 浅野いにお氏ロングインタビュー 前編

>>第三回スピリッツ新人王開催記念 浅野いにお氏ロングインタビュー 後編