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週刊スピリッツ

2022.10.24

第二回スピリッツ新人王開催記念 大童澄瞳氏インタビュー 後編

週刊スピリッツ

<その2・アドバイス編>

 

ビッグコミックスピリッツの月例新人賞「スピリッツ賞」をリニューアルし、始まった「スピリッツ新人王」。半期に一度、最前線で活躍する漫画家さんが審査員長となり、最も面白い投稿作を決定する今賞。第二回審査委員長は、アニメーションを通じて“最強の世界”を実現するべく奮闘する映像研の面々の活躍を描いた大ヒット作『映像研には手を出すな!』作者・大童澄瞳(おおわら・すみと)氏。

後編では、「魅力的な作品にするためのストーリー・キャラクター作りのコツ」から「漫画家を目指すうえでの心構え」と、この漫画界で生きていくための“攻略情報”についてうかがいました。

(インタビュー=田口俊輔)

 

Q.今回、大童さんの中でどのような審査ポイントを設けて、作品ご覧になりましたか?

ポイントは複数設けました。まず、「漫画として読みやすいこと、漫画が描けていること」。話がどう展開して、どこでオチがつくのか? その構造がうまく作れていて、かつ読むときにつっかからないような漫画表現がちゃんとできているか?の能力ですね。

もう一つは、「絵が上手い」。僕の考える絵の上手さは、単純なデッサンやクロッキーのような技術的な「上手い・下手」ではなく、漫画作りにおけるノウハウです。例えば一目見てキャラクターが何を考えていることがわかるとか、そのキャラクターが一目でどういう葛藤を持っているかが伝わるかのように、機微が一枚・一コマで見たときにわかるという上手さです。このページがどういう展開のページなのか? 日常生活を表現したいのであれば、“生活すること”のディテールがシッカリと描けているか? 単調な表現をしたいときには単調な絵に、複雑な表現にしたいときには複雑な絵作りが出来ているか? そうした物語を展開する上での絵柄や描写方法が、ちゃんと的確にコントロールができているかどうかも注視していました。

あとは「話の面白さ」。僕個人の基準として、どちらかというと見たことないものが描けていて独創性がある作品がすごく好みのため、テーマの選択も含めて、独特なものになっているかどうかが結構大きかったですね。「どこかで見たことあるな」、「誰でも考えつくわ、そんなこと!」という作品は個人的に受け付けられないので、ちゃんと作者が考えた上で作品を作り上げたのか?という点を意識しながら読みました。

ただ、ありふれたものではありながら、多くの人が思っていたけれど言葉にできていなかったことを題材にするのはすごく良いこと。普遍的なテーマであっても、「こんな考えがあったのか!」と伝わった段階で、もうオリジナリティーのある作品になるわけです。何が言いたいかと言いますと……とにかく良い作品だと思わせられるかどうか(笑)。

そういう意味で、今回、描かれた6人の方はどれもしっかり、「ちゃんと漫画になっていてすげえ!」と、感心しながら拝読いたしました。

 

▲新人王ノミネート6作品はこちらから→「第二回スピリッツ新人王結果発表!!!」

 

Q.改めて今回、作品を審査する立場を経験されての率直な感想は?

今までも人の作品を読んで講評する機会はいくつか経験していますが、そのたびに難しさを感じています。

今回の6作品を全て通読した後のまず感じた感想は、総評でも書きましたが、いずれの作品も人間の闇を抱えている状態が描かれていて「みんな、暗い話が好きだな」と。正直、僕個人は抱えた闇は現実で十分だと思っているタイプの作家で(苦笑)。

僕は度々「今までどうした家庭環境で育ちましたか?」と、その人となりがどのように形成されたのかの、個人的なインタビューをしては、色々な学びにしていているのですが。今回の6作品に関して、読後「この人はどういう背景でこの作品を描いているのか?」と、作品に加えて作者本人にも興味を持てたのは、今までにない経験でした。逆にその人間の内面を描いた作品をジャッジするのは、僕にとってはありえないことでもあったりするのですが。

正直、漫画を描くという行為はセラピーと言いますか、自分の表現をしたいという衝動からくるものであることが多くて。そうした表現したいという想いや衝動に対して、下手や上手という概念は、そもそも存在しないんですよね。自分のやり方を見事やりきっているのであれば、その時点で大成功なんです。

ただ今回は、僕が持っているもので判断して、一部は主観や独断と偏見で、一部はストーリーを含めた技術的な評価に終始しました。まあ、こうして人の描いた作品を判断して良し悪しを付けるということは、僕も罪を背負うということだと思っていますので……なんども言いますが難しいですね。

講評や結果を見たこの賞に参加してくださった方々は、「大童!お前はわかっていない!!そんな意図で描いたんじゃない!」と絶対に思われているはず。当然のことなので、何を言われようと甘んじて受け入れようと思います。この新人賞のルールが「大童がジャッジしますよ」というものなので、それでお納めいただければと(苦笑)。

 

Q.(笑)。大童さんから、漫画家を目指す方に、少しアドバイスとなるようなお話をここからお聞きしたいと思います。先ほど審査基準として挙げた中の一つ、物語の面白さに関して、魅力的な話を作るための秘訣はあるのでしょうか?

難しい質問ですね…… やはり、漫画作品とかあり限らず、お話とは複数のパターンがあるんですよね。例えば、キャラクターの心情が軸になっている作品、「この国家はどういうふうに変化していくか?」や「この銀河の運命やいかに?」のような壮大な物語など、複数の形があります。そうしたいくつもある物語の形ですが、全てに通じるのは、「ドキドキ・ハラハラさせられるようなものになっているか?」、「キャラクターに共感できるか?」、「没入感があるポイントが作られているか?」ということ。あまりにも普通ですが、そうしたポイントを押さえることで面白い作品になるんですよね。

本当に一般的な誰しも考える感情や、『桃太郎』のような作品を描かれても、あまり面白くないので……と、こう言うと、中には「いや、そんなことねえだろう!自分ならば、桃太郎をどこまで面白くしてやるぜ!!」って思う方もいらっしゃるはず。そう思った人は、漫画家適性があります(笑)。僕も面白くできると思っていますから。

『桃太郎』や、いまや“シンデレラストーリー”という言葉が定着するぐらい『シンデレラ』という、あらゆる作品の基礎になった題材を、いかに面白く描けるか? 誰が読んでも面白いと感じさせながら、どこでハラハラさせるかの上手いポイントを作るって、やはり技術がないとできないんですよね。

そもそも、王道を真っ直ぐ出来る人は漫画がとにかく上手いでしょうし、何よりビックリするほど売れます。よく王道作品を下に見る風潮がありますが、読者が求める爽快感をシッカリと達成して届けるって、それはすごいことなんですよ。

いくら世の中でミシュランの三ツ星レストランのような高級店こそ素晴らしいと評価されていようが、ポテチはなくならないんです。漫画もそう。そうしたことを頭のどこかで意識して描ける人は、大きいなと思います。

 

Q.この流れでもう一つ。生きたキャラクターを生み出すには、どのような意識をもって描いていらっしゃいますか?

よくキャラクターは丸・三角・四角のように単純化できるデザインにしろ!とか、あまりゴテゴテした風に描かないようにしろ!とか、カラーであれば大体3色でキャラクターを作ることが、作る際のセオリーになっています。そのセオリー通りに描いたうえで、パッと見たときに見分けがつくようにするというのが、一つ外見を描く際の型だなとは思います。

漫画とは「記号を使う媒体」なので、キャラクターを記号的に判断できることが重要です。なので、劇画でやるのであれば、本当に現実とソックリのビジュアルに描くことが大切ですし、例えば「量産型の大学生」が漫画のテーマであれば、本当に全く差のない複数人を作品の中に登場させる必要があります。

こうした、自分が描きたいテーマに沿ったキャラクターを生み出すには、やはり画力が必要です。この画力というのは「上手さ」もあればいいですが、「伝える能力」のこと。例えば、さっき挙げた「量産型の大学生」の話を作る場合、みんな同じ格好した差のない風貌なのに、それぞれのキャラクターを見分けるには、やはり描き分ける力が重要になってくるわけです。

もっと簡単なものに置き換えて考えると、ふにゃふにゃになったサッカーボールを登場させるとき、読者にそれが「これはふにゃふにゃのサッカーボールだ」と、一目で理解してもらうには、普段の絵柄はキッチリした線で描いていなければいけないわけです。もし、ふにゃふにゃの線が味の作家ならば、ふにゃふにゃのサッカーボールを描くときは、とにかくぐっにゃぐにゃ!に描かないと伝わらないんです。

自分がどんな表現手法と技術、クセを持っているか?を理解したうえで、「自分が描いたキャラクターは見分けられるか?自分の描いたキャラクターが他の作品のキャラクターに似ていないか?」を意識しながら、テーマに沿うようなキャラクター造形にすれば、上手い描き分けは可能だと思います。

よく聞く「こいつのキャラクター、いつも同じじゃん!」という反論は、正直僕としては受け付けたくない言葉です。全員キャラクターが同じ顔でも、全員キャラクターのパーソナリティが同じみたいな漫画を描き続けてようが、「この人の絵柄には魅力を感じる」と思う人がいるなら、その人の絵にはストーリーを凌駕するほどの魅力があるという証拠ですからね。

またその逆で、「ヒロイン全員同じ顔じゃん!」という作品があったとして、よく読んでみると内面が深く掘り下げられた良作に仕上がっていることもあります。

そうした、その人の中にある別の部分で、「同じじゃん!」を凌駕するほどの魅力があったり、ストーリーの構成がめちゃく揺るぎないものになっていれば、登場キャラクターが同じに見えても、多くの人に届きうる作品に仕上げられるんですよ。

一つ大きな例えですと、手塚治虫の存在がありますよね。手塚治虫は、ヒゲオヤジがどの作品にも登場するように、キャラクターを役者として扱う「スターシステム」という形を使って描いています。そのスターシステムでメチャクチャ面白い作品が描けるのは、本当に魅力的な物語を作れていることの証拠だと思うんです。よくハンコ絵って批判されがちですが、その物語における必然性を感じさせるのであれば、その手法が正しくなるんですよ。

なので、極論言ってしまうと、ヒーローもヒロインも、ちゃんと自らの欲望に忠実に描けていればそれが一番良いと思います。都合の良いキャラクターみたいなものを作ってもいいし、爽快感に繋がるキャラ、恋愛の中でのドキドキに繋がるキャラ、自分がちゃんと満足いくキャラを作ってそれを物語で活かせられるのであれば、どんな描き方でもいい。そうでなければ、どれだけ自分の経験なり得た知識なりで、一部の人を猛烈に共感させるキャラクター造形を目指す、そこだと思います。

 

Q.自分が描きたい作品と、世間でいわゆる売れている作品との間にギャップを感じたとき、その狭間で引き裂かれそうなときは、バランスをとっていくべきですか?それとも、あえて振り切るべきでしょうか?

それにかんしてはグラデーションだなと思います。マスに振り切りたいとか「俺は金が欲しいんだ!」というのであれば、より多くの人が求めるような作品を描けばいいし、自分が描きたいもの以外はやらないというのであれば、一部の人にのみ届くという現状を受け入れる姿勢は必要です。もし、自分の中でやりたいこととマスにも届きうる中間を行く作品を目指すのであれば、その二点が交差する上手い位置を探して、研究して、狙っていくようにする。ざっくりと、この三段階ですね。その中で、どっちに自分を傾けるかはその作家次第かなと。

 

Q.新人作家の方は、賞に出す際に「どう描けばいいんだ?」と、そもそもの段階がわからないということが多く。それをクリアした後も、「描きたいものがあるのに、伝わらなかったらどうしよう?」と悩むことが多いと聞きます。そう悩む方々に向けて、何か一つアドバイスを送るとしたら?

そうですねえ……僕は賞レースに応募した経験がないので何とも言えませんが、「漫画で飯を食っていく、プロを目指したい、賞が欲しい」という方に向けて、一つ“攻略情報”を付け足しておくとすれば、今回のような雑誌主催の賞レースに投稿するのであれば、普通の漫画での通過は、その段階でかなりハードルが高いものになります。

……まあ、その「普通」の定義が何かはそれぞれにお任せいたしますが、先ほども話に出ましたが「普通」をやるということは本当に技術的にかなり高いところにあった上で成り立つものなので、本当に何も用意をせずに「普通」をやってしまうと通過するまでに引っ掛かりがないんです。なので、賞レースを攻略したいなら「何かを異常なものにする」ことをやってみる。絵でもいい、ストーリーでもいい、とにかく異常であれば異常であるほど、審査員はまず「おや?」と、興味を示してくれるはず。

ただ、その“異常なもの”というのは、異常性癖やとにかくグロテスクなものというありきたりな異常ではありません。「異常なもの」と聞いて、こうしたものがパッと浮かんだり、そうしたものを追求するのであれば、それはいくらなんでも発想が貧弱かなあと。

僕が言う“異常なもの”というのは、「こいつめちゃくちゃ描き込みがスゴイな!」とか「この発想、頭どうかしているな」みたいなもので。例えば「登場キャラクターが多すぎる」というテーマで漫画を作るとします。内容はひとまず置いて、30ページの漫画なのに登場人物が2000人いるぞ!という中身になったら、「こいつヤバイな!? 何か持っているぞ!」と驚かせられます。……まあ、ただキャラが多いだけで一切コントロールが出来ていないなら、それは話が別ですが(笑)。

そうした“異常なもの”を描く方は、最近の傾向として世間に引っかかりやすく、そこから火がつきやすいので、一つの参考にしていただければ。ただ一つ、この“異常なもの”は瞬間火力しかありません。その火力を持続させる力があるかどうか? そこからどう発展させるか? 一発引き寄せたみんなからの視線をどのように連載に繋げていくかが大事なので、火を点けたその先はみなさん次第……ということで、理解していただければ。

 

Q. “異常なもの”という一つの指標は、すごく救いになると思います。今回、ノミネートされた方々、応募するも惜しくも手が届かなかった方々。大童さんのように同人活動を通じて表現の場を探す方々、誰にも見せずに一人の世界を構築する方々……様々な、「漫画を描く」という方たちに向けて、メッセージはありますでしょうか?

そうですね……作家の特性にもよるので、これだ!と一つ提言するのは違うと思うので……う~ん、「漫画には様々な形がある」ということは、頭に入れていいかなと思います。

どうしてもオリジナルが描きたい!という作家性の強い漫画家さんもいれば、「ただ漫画を描くことが好き」という、どんな形でも受け入れる職人タイプの作家さん、「私は自分の中に表現したことは特にありません、今人気のものに乗っかりたい」という作家さんもいる。本当に漫画の形は、表現の形は様々です。自分がはたして何をしたくて、今の段階で何ができるのか?を知れば、漫画家への道、漫画連載への道は広く開いているので、とにかくプロを目指したいという方は、一歩踏み出してみるのがいいのかなと思います。

そして、「漫画は売れなくてもしょうがない」ということも、一緒に覚えておいてほしいですね。

この世界はとてもシビアですし、自分の表現を形にして出ことはすごく内面に近い行為なので、作品は自分の分身みたいなところがあります。その自らの命を削って生み出した分身が、人に響かなかったときのダメージは計り知れないものがあるかなと思うんです。特に今はSNSで声が届きやすく、見えやすい時代なので、何も反応がないと、常にモヤモヤしながら作品を作り続けなきゃいけない。そこは大変なのは間違いありません。

ただ、自分が売れないことを「私の作品はマス受けしないんだ」と、マイナスに一気に傾かせてしまうのは、すごく危険な行為だと思います。技量のある・なしの難しさはありますが、自分の作りたい作品がマスに受けないものだという実感があったとしても、水崎氏の言葉のように、自分の作品でしか楽しめない人間がどっかに必ずいるはずなんです。そういうものだと振り切り、今自分が漫画を描いているという行為がいかにすごいことなのかと、自信を持っていいところだと思うんですよね。

後は……まあ究極的な話になりますが、「自分は、好きなようにやる」、これかなと。 こう言ってしまうと、ただ丸投げていると捉えられると思いますが、これは本当のことなんですよ。今まで様々な作家さんから話を聞いて、僕もいろいろと「この先、漫画家としてやっていけるのだろうか?」と、不安なことを常に考えながら始まって。そのために、「漫画家に必要な素質」にまつわる本などを読んでみたこともありました。ただ、その中には、「とにかく絵が上手くなりたいのであれば、模写しろ」というような、誰もが言っているようなことが書かれていて。それはあまり参考になりませんでした。色々と考えた挙句、最終的には、「全部自分の好きにしていいんだ」と、思うことが正解なのかなと。

どうしてもつらい経験をしたなら漫画を描き続けなくてもいいと思うし、どうしても漫画が好きなら描き続ければいい。商業作家だけが勝者ではありません、なんなら表現の場が揃っている今、商業作家を目指さなくたっていい。いろいろと自分が表現したいことがあれば、やっちゃいけないということはないんです。めちゃくちゃ売れている作家や作品であっても、今までには批判など賛否両論あったわけで。外野の声に惑わされずに、自分のやることを突き詰められたら、それだけで価値があるんです。もし悩んでいる方がいましたら何度も言ってしまいますが、水崎氏の「大半の人が細部を見ていなくても、私は私を救わなければいけない」というセリフの通り、“自分を救う”ことをまず大事にしてみるのはいかがでしょうか。

……とはいえ、こうした教えを真に受けるあまり泥沼に行く可能性もありますので、人の言葉は自分の良いように受け取ればいいと思います(笑)。

(了)

 

>>インタビュー前編はこちらから


 

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