週刊スピリッツ
2013.11.19
36年の人生で一度も自炊したことが無い中年ライターが、料理漫画の再現に挑戦!! 『くーねるまるた』の白飯(前編)
週刊スピリッツ
「お茶碗のご飯粒を数えてみた」という企画から...まさかの展開に発展!
お茶碗1杯のごはんに、何粒のお米が入っているのか――そんな、誰しも人生で一度や二度は抱く疑問は、我々日本人だけでは無く万国共通。11月18日発売のスピリッツ51号『くーねるまるた』では、ポルトガル人のマルタさんも同じように興味を持ったらしく、お茶碗に入った米粒を1粒1粒ていねいに数えております。 マルタさんは、ポルトガルからやって来たビンボーで食いしんぼーな女の子。築70年のおんぼろアパートに暮らしながらも、「食」への好奇心は人一倍! 身の回りにあるごく普通の、時には余り物のような食材を、持ち前のアイデアと工夫で調理して、お金は無くても美味しく幸せな日々を満喫しています。 ただ、今週のマルタさんは普段よりもさらに金欠気味のようで、ごはんにゴマ塩をふりかけただけのいわゆる「ゴマ塩ごはん」でガマンしなければいけないご様子。一見、おかずもなく、さみしい食卓になるところですが...。そんな時でも、ふと米粒を数えてみる――という楽しみを見つけてしまうのが、彼女のすごいところ。何時間もかけて、最後まで数えきっちゃうなんて驚愕の一言! では一体、ごはん1杯に何粒のお米が入っているのか? 漫画の中では3000粒以上もあったけど、実際に数えてみたらどうなるのでしょう。 「マルタさんと同じように、本当に1粒1粒数えてみたら面白いかも!」な~んて、ふんわりした感じで、このサイト「コミスン」にも参加しているスピリッツの編集者・A氏が考えたのが、そもそも今回の企画の始まりでした。「お茶碗のご飯粒を数えてもらってレポート...苦行だけど、実際やったら面白そう!!」...そんなつもりで原稿の依頼をしてきたのです。
36歳、人生で初めてご飯を炊くことになってしまった さて11月某日、A氏から電話がかかってきた。(ここから唐突に"だ・である調"になります) 「キンテツさん、来週のスピリッツ51号の『くーねるまるた』で、茶碗のご飯粒を数えるシーンがあるんですけど...実際にやってもらえませんかね?」 「あ、面白いですね。やりま~す!」 軽く返事をしてしまったボク。しかし、ここで自分の人生にとって風雲急を告げることが後に起こるとは全くの予想外だった。 「じゃあ、ごはんを炊いて米粒を数えたら、また連絡くれますか? そこで細かく打ち合わせましょう!」 「え? 自分で炊いて数えるんですか? あの...ボクん家、炊飯器がないんですけど。てか、ご飯を炊いたこともないとうか...」 一瞬、頭が混乱してしまったボク。というのも、この企画、A氏が小学館のキッチンスタジオでも用意してくれるものだと思っていた。そこで、米粒を数えているシーンを撮影しながらレポート記事を書くと、自分は勘違いしていたのだ。そう思って気軽に受けたのに、まさか我が家で、しかも自分1人でやらないといけないとは...。嗚呼、もしこの時にタイムスリップして戻れるのならば、考えの甘かった自分を殴ってやりたい。
あ、ここで自己紹介! ボクは、フリーライターの石川キンテツ(36歳)。独身、一人暮らし。 大学で東京に来てから約18年、正直言うと一度も自炊をしたことがない。家にある調理器具も、オーブンレンジ(でも、オーブンは使ったことが無い)と、電子ケトルくらい。 一人身なので、さすがに洗濯や掃除のような家事は自分でするけど、ご飯を作ったことだけはなかった。 大学時代からこれまで、ずーっと外食派。自炊をしないことに対して、特に深い理由はない。たまたま、ご飯を作る機会がなかっただけというか。自分のまわりも、一人暮らしの男性はだいたい外食で済ましているので、「男の一人暮らしって、そんなもんじゃないの?」って個人的に思っていた。 自分は六本木の近くに住んでいるので、家の近所にはありがたいことに、ご飯屋やデリバリーも充実しているし、深夜でも営業しているお店もたくさんある。炊飯器がなくても、料理が出来なくても困ったことがないので、自炊からかけ離れた生活を送っていた。 少し前、料理男子や弁当男子っていうのがもてはやされたが、そんなに世の男性は、みんな料理を作っているのだろうか。う~ん...謎だ。 36歳、ゴマ塩ごはんの再現メシにチャレンジすることに! 話を、先ほどのA氏からの電話に戻そう。 「炊飯器を持っていないんですよ」と言ったら「え~っ? 本当ですか?」と驚かれ、「これまで、ご飯を炊いたこともなくて...」と言ったら、「え~っ? え~~っ?」と、さらにでかい声で二度ビックリされた。 自分としては、暗に「だから、今回の企画を自分の家でやるのは厳しい」、そして「Aさん、場所や炊飯器は用意して~!」...との期待を込めて、伝えたつもりだったのだが、まさかのカウンターパンチを食らう。 「ハハハ! 36年間生きて来て、ご飯を炊いたこともないなんて、ある意味、キャッチーじゃないですか! しかも、炊飯器も持ってないなんて!」 「キャッチ―」なんて言葉を使っているけど、いかにもボクを「天然記念物」と、行間で匂わせてくる物言い。さらにA氏の攻勢は続く。 「じゃあ、こうしましょう。お茶碗のご飯粒を数える前に、「36年間、自炊したことのない男がご飯を炊いてみた!」って企画で、炊飯器でご飯を炊いて、それをレポートしてください!」 「は...はい............」
ボクは20歳の時にライターになってから、もう15年くらいになるけど「炊飯器でご飯を炊く」なんて仕事は初めてだ...。しかも、ご飯を炊いたら、今回の『くーねるまるた』の「ゴマ塩ごはん」を再現してほしいとのリクエストまでされてしまう。 「では、そういうことで。ご飯が炊けたら一回連絡ください」 なんで、大の大人が、ご飯を炊くだけで連絡しないといけないんだ~! しかも、「ゴマ塩ごはん」て、単にご飯にゴマ塩をふりかけるだけで完成するじゃん...と、心の中で思いつつも、これまでご飯を炊いたことがないので、何も言い返せずグウの音も出ない。 でも、これもいい機会。こういうタイミングでないと炊飯器を買うことも、ご飯を炊くことも、なかなか訪れないだろう。もしかしたら、これを機に料理に目覚めるかも! そんな期待と、本当に自分がご飯を炊けるのだろうか?...という情けない不安を胸に、都内の家電量販店へ炊飯器を買いに行くことにした。 36歳・男。人生で初めて炊飯器を買いに行く
はじめてのおつかい気分で、炊飯器を買いに行った自分。コーナーに行くと、たくさんの炊飯器が並んでいる。価格は、1人暮らし用の5千円前後の物から、高いのになると炭火炊き風に炊ける10万円クラスの物まで、いろんな種類がある。 今回の炊飯器は、自腹で購入なのでどれを買っていいか悩む。3~5万円くらいの物を買えばご飯を炊くテンションも上がりそう。でも、高い物を買うと宝の持ち腐れになる可能性も大! しばらく選んでいると、熟女系の女性店員さんが声をかけてきた。 「どういった物をお探しですか?」 「あ...あの~いろいろと...」 本音は「1人暮らし用で、適当な値段で、初心者でも簡単に炊ける物!」と言いたかったのだが、すぐ隣ではアツアツのカップルが炊飯器を「どれにする~?」なんてハシャいでいて、なかなか言うのが恥ずかしい。でも、これも仕事のうち。素直に聞いてみることにした。 「1人用で、簡単に炊けるものがいいんですけど...」 は~! いい年して、情けない言葉しか出てこない。 「それなら、こういうのでも大丈夫ですよ。今はどれも性能がいいので炊きたてだったらそんなに差はありませんし」 女性店員さんがすすめてくれたのは、5千円から8千円くらいの物。あとは、デザインとかお好みで決めればいいらしい。 きっとマルタさんも、このクラスの炊飯器のはず。それなら、これでいいかなと6千円くらいの物を購入した。
36歳、人生初の炊飯にチャレンジ!
1人暮らしを初めて18年。ようやく我が家にも炊飯器がやってきた! 早速、ご飯を炊きたいところだが、いかんせん初めて炊くので、慎重になってしまう。実際、何合炊いていいものやら分からない。ネットで調べると、ご飯1合でお茶碗2杯分あるそうだ。とりあえず、スーパーで買った新米のコシヒカリを1合分、炊いてみることにした。 炊飯器の説明書を読みながら、一つずつ手順を進めていく。まずは米をカップに入れて、1合分の量を計る。武者震いなのか? それとも、ただ初めての作業に戸惑っているのか?(たぶん後者) それだけの作業でも、緊張して手が震えてしまう。それほどたいしたことをしていないのに、しょっぱなからこんな感じ。無事、ご飯は炊けるのか心配になってくる。
次に、カップの中身を器に移して米を研ぐ。ひ~! 11月の夜だけあって、水が冷たい。本当はお湯にしたいところだが、水の方が美味しく炊けるそうなので、水で頑張ってみたのだが、たかが米を研ぐだけで手がかじかんでくる。これなら、開き直って無洗米を買っとくべきだった...と思うくらいの冷たさだった。
水の冷たさに泣きそうになりながらも、なんとか米を研いで、炊飯器に入れる。説明書には、「新米は水をやや少なめに」と書いてあったので、内釜の線より若干少な目に水を入れた。何しろ初めてなので、「やや少な目」の微妙なバランスが難しい。これで失敗するとご飯が水っぽくなるか、固くなる可能性もある。ドキドキ! けっして炊き上がるまで安心できない。
さあ、あとは炊飯器のフタをしめて「炊飯」ボタンを押すだけ。ボタンを押すと赤いランプが点灯。1つ1つの作業を説明書を読みながらやったこともあって、米を計量カップに入れてから、ここまでたどり着くまでに約20分が経過...。たぶん、慣れてしまえば全工程が計1分で終わる作業だ。 ご飯が、ここまで手軽に炊けるとは知らなかった。36歳、初めての炊飯――あとは炊き上がるのを待つのみ! 「炊飯」のボタンを押して約15分。炊飯器の蒸気口から水蒸気がモクモクと出てきた。久しぶりに嗅ぐ、家庭の匂い。実家の親の顔がノスタルジックに浮かんでくる。お父さん、お母さん、やったよ! ついにボクはご飯を炊けるようになったよ!! 炊き始めて、約40分が経過した頃。ついに! ついに! ご飯が炊けた~! 炊飯器のフタを開けると、白い水蒸気があふれ出て、ご飯のいい香りがしてくる。見るからに大成功! 実を言うと、初めてなのでご飯がコゲてたり、おかゆみたいに水っぽくなっても絵になるからアリかなと内心では思っていたのだが...。文明の進化ってすごいな~。ボタンを一つ押すだけで、あっけないほどたやすくご飯ができてしまったのだ。 ま、とりあえず試食してみよう。感想は、それからだ。 しかし、しかしである。ここに来て、最後の最後で、あまりにも悲しすぎる出来事がボクを襲う! しゃもじで、ご飯をすくいあげようとした時に、初めて気づいた新事実...。 我が家には、お茶碗がな~い! そうなのだ。家ではお弁当やデリバリーの物しか食べない自分にとって、お茶碗は必要がない。何種類かのお皿や、ボウルやカップのような器はあるが、お茶碗がないのである。 今回の企画は、『くーねるまるた』の「ゴマ塩ごはん」を再現するのと、その後に、「お茶碗に入ったご飯粒を数える」のがメイン。家にある器でもご飯は食べられるが、企画を遂行するためには、お茶碗がないと始まらない! せっかくご飯は出来たのに直前で寸止め。時は、夜の10時過ぎ。近所の24時間やっているスーパーに、あわててお茶碗を買いに行く。
お茶碗と、ついでに味噌汁の器も買って、ダッシュで家に帰宅。ようやく、お茶碗にホカホカのご飯を盛り付けられたのだった。 よ~し! これで最初のミッション。「ゴマ塩ごはん」の再現メシに取り掛かれるぞ。 ご飯の上に、ゴマ塩をかけて...ハイ、完成! たったの10秒で出来たが、夜7時に炊飯器を買いにいってから、約3時間半。ここまでが長かった~! 「ゴマ塩ごはん」を見ているだけで、いろんな思いが駆け巡る。36年の人生で、初めて作ったご飯。この日のことをボクは一生忘れることはないだろう。 そして、「漫画に出てくるご飯を再現してみよう」って企画で、ここまでハードルの低い再現メシを作った者もいないだろう。 36歳、初めての自炊「ゴマ塩ごはん」を再現!
出来た~! 「ゴマ塩ごはん」。どんな味がするのだろうか。一口食べてみると...! うま~~~い! ご飯の甘味と、ゴマ塩の塩加減が絡み合って絶妙なハーモニーを醸し出している! あ、すみません...ちょっと大げさに言い過ぎました。 実際に、美味しかったけれど、たぶん普通の人が食べたら、ごくありふれたゴマ塩ごはんだろう。ただ、36年の人生で初めて自炊したご飯。「情」や「思い」という味のスパイスが加わって、最高の味に仕上がった! ご飯を炊いただけで、この達成感。なんか、マルタさんのように料理に目覚めそうな気がしてくる。 この勢いで、次は「お茶碗1杯のご飯は、いったい何粒なのか?」に挑戦しよう。 炊飯器に残っているご飯を、お茶碗1杯分いれて......この続きは、後編で!
<ライター/石川キンテツ>
漫画の中では、茶碗1杯を数えるのに3時間かかり、3673粒ありましたが、果たして...!?
36歳、人生で初めてご飯を炊くことになってしまった さて11月某日、A氏から電話がかかってきた。(ここから唐突に"だ・である調"になります) 「キンテツさん、来週のスピリッツ51号の『くーねるまるた』で、茶碗のご飯粒を数えるシーンがあるんですけど...実際にやってもらえませんかね?」 「あ、面白いですね。やりま~す!」 軽く返事をしてしまったボク。しかし、ここで自分の人生にとって風雲急を告げることが後に起こるとは全くの予想外だった。 「じゃあ、ごはんを炊いて米粒を数えたら、また連絡くれますか? そこで細かく打ち合わせましょう!」 「え? 自分で炊いて数えるんですか? あの...ボクん家、炊飯器がないんですけど。てか、ご飯を炊いたこともないとうか...」 一瞬、頭が混乱してしまったボク。というのも、この企画、A氏が小学館のキッチンスタジオでも用意してくれるものだと思っていた。そこで、米粒を数えているシーンを撮影しながらレポート記事を書くと、自分は勘違いしていたのだ。そう思って気軽に受けたのに、まさか我が家で、しかも自分1人でやらないといけないとは...。嗚呼、もしこの時にタイムスリップして戻れるのならば、考えの甘かった自分を殴ってやりたい。
本当の依頼内容に気付いた時のボクの表情はこんなだったと思う。
あ、ここで自己紹介! ボクは、フリーライターの石川キンテツ(36歳)。独身、一人暮らし。 大学で東京に来てから約18年、正直言うと一度も自炊をしたことがない。家にある調理器具も、オーブンレンジ(でも、オーブンは使ったことが無い)と、電子ケトルくらい。 一人身なので、さすがに洗濯や掃除のような家事は自分でするけど、ご飯を作ったことだけはなかった。 大学時代からこれまで、ずーっと外食派。自炊をしないことに対して、特に深い理由はない。たまたま、ご飯を作る機会がなかっただけというか。自分のまわりも、一人暮らしの男性はだいたい外食で済ましているので、「男の一人暮らしって、そんなもんじゃないの?」って個人的に思っていた。 自分は六本木の近くに住んでいるので、家の近所にはありがたいことに、ご飯屋やデリバリーも充実しているし、深夜でも営業しているお店もたくさんある。炊飯器がなくても、料理が出来なくても困ったことがないので、自炊からかけ離れた生活を送っていた。 少し前、料理男子や弁当男子っていうのがもてはやされたが、そんなに世の男性は、みんな料理を作っているのだろうか。う~ん...謎だ。 36歳、ゴマ塩ごはんの再現メシにチャレンジすることに! 話を、先ほどのA氏からの電話に戻そう。 「炊飯器を持っていないんですよ」と言ったら「え~っ? 本当ですか?」と驚かれ、「これまで、ご飯を炊いたこともなくて...」と言ったら、「え~っ? え~~っ?」と、さらにでかい声で二度ビックリされた。 自分としては、暗に「だから、今回の企画を自分の家でやるのは厳しい」、そして「Aさん、場所や炊飯器は用意して~!」...との期待を込めて、伝えたつもりだったのだが、まさかのカウンターパンチを食らう。 「ハハハ! 36年間生きて来て、ご飯を炊いたこともないなんて、ある意味、キャッチーじゃないですか! しかも、炊飯器も持ってないなんて!」 「キャッチ―」なんて言葉を使っているけど、いかにもボクを「天然記念物」と、行間で匂わせてくる物言い。さらにA氏の攻勢は続く。 「じゃあ、こうしましょう。お茶碗のご飯粒を数える前に、「36年間、自炊したことのない男がご飯を炊いてみた!」って企画で、炊飯器でご飯を炊いて、それをレポートしてください!」 「は...はい............」
再現メシの素材はスーパーで買った新米のコシヒカリとゴマ塩のみ。いたってシンプル。
ボクは20歳の時にライターになってから、もう15年くらいになるけど「炊飯器でご飯を炊く」なんて仕事は初めてだ...。しかも、ご飯を炊いたら、今回の『くーねるまるた』の「ゴマ塩ごはん」を再現してほしいとのリクエストまでされてしまう。 「では、そういうことで。ご飯が炊けたら一回連絡ください」 なんで、大の大人が、ご飯を炊くだけで連絡しないといけないんだ~! しかも、「ゴマ塩ごはん」て、単にご飯にゴマ塩をふりかけるだけで完成するじゃん...と、心の中で思いつつも、これまでご飯を炊いたことがないので、何も言い返せずグウの音も出ない。 でも、これもいい機会。こういうタイミングでないと炊飯器を買うことも、ご飯を炊くことも、なかなか訪れないだろう。もしかしたら、これを機に料理に目覚めるかも! そんな期待と、本当に自分がご飯を炊けるのだろうか?...という情けない不安を胸に、都内の家電量販店へ炊飯器を買いに行くことにした。 36歳・男。人生で初めて炊飯器を買いに行く
ふだんも、よく行く電器店なのに炊飯器コーナーのフロアへ行くのは初。少し緊張気味で店内へ!
はじめてのおつかい気分で、炊飯器を買いに行った自分。コーナーに行くと、たくさんの炊飯器が並んでいる。価格は、1人暮らし用の5千円前後の物から、高いのになると炭火炊き風に炊ける10万円クラスの物まで、いろんな種類がある。 今回の炊飯器は、自腹で購入なのでどれを買っていいか悩む。3~5万円くらいの物を買えばご飯を炊くテンションも上がりそう。でも、高い物を買うと宝の持ち腐れになる可能性も大! しばらく選んでいると、熟女系の女性店員さんが声をかけてきた。 「どういった物をお探しですか?」 「あ...あの~いろいろと...」 本音は「1人暮らし用で、適当な値段で、初心者でも簡単に炊ける物!」と言いたかったのだが、すぐ隣ではアツアツのカップルが炊飯器を「どれにする~?」なんてハシャいでいて、なかなか言うのが恥ずかしい。でも、これも仕事のうち。素直に聞いてみることにした。 「1人用で、簡単に炊けるものがいいんですけど...」 は~! いい年して、情けない言葉しか出てこない。 「それなら、こういうのでも大丈夫ですよ。今はどれも性能がいいので炊きたてだったらそんなに差はありませんし」 女性店員さんがすすめてくれたのは、5千円から8千円くらいの物。あとは、デザインとかお好みで決めればいいらしい。 きっとマルタさんも、このクラスの炊飯器のはず。それなら、これでいいかなと6千円くらいの物を購入した。
じゃーん! 我が家に初めてやってきた炊飯器。眺めているだけでもワクワク!
箱から開封! 白くてシンプル。さて、美味しいご飯は炊けるのか?
36歳、人生初の炊飯にチャレンジ!
説明書を読みながら、順次、作業を進めていく36歳。けっして親には見せたくない姿。
1人暮らしを初めて18年。ようやく我が家にも炊飯器がやってきた! 早速、ご飯を炊きたいところだが、いかんせん初めて炊くので、慎重になってしまう。実際、何合炊いていいものやら分からない。ネットで調べると、ご飯1合でお茶碗2杯分あるそうだ。とりあえず、スーパーで買った新米のコシヒカリを1合分、炊いてみることにした。 炊飯器の説明書を読みながら、一つずつ手順を進めていく。まずは米をカップに入れて、1合分の量を計る。武者震いなのか? それとも、ただ初めての作業に戸惑っているのか?(たぶん後者) それだけの作業でも、緊張して手が震えてしまう。それほどたいしたことをしていないのに、しょっぱなからこんな感じ。無事、ご飯は炊けるのか心配になってくる。
炊飯器に付属のカップ。1杯分が1合と説明書に書いてあったので満杯に!
後からA氏に「炊飯器の内釜で研けばよかったじゃないですか」と言われたが、説明書には別の器に移して研ぐと書いてあったので...。
次に、カップの中身を器に移して米を研ぐ。ひ~! 11月の夜だけあって、水が冷たい。本当はお湯にしたいところだが、水の方が美味しく炊けるそうなので、水で頑張ってみたのだが、たかが米を研ぐだけで手がかじかんでくる。これなら、開き直って無洗米を買っとくべきだった...と思うくらいの冷たさだった。
ようやく米1合を炊飯器の内釜へ。あともう少し! ゴールが見えてきた。
水の冷たさに泣きそうになりながらも、なんとか米を研いで、炊飯器に入れる。説明書には、「新米は水をやや少なめに」と書いてあったので、内釜の線より若干少な目に水を入れた。何しろ初めてなので、「やや少な目」の微妙なバランスが難しい。これで失敗するとご飯が水っぽくなるか、固くなる可能性もある。ドキドキ! けっして炊き上がるまで安心できない。
ボタン一つで炊飯開始! 今時の炊飯器って、こんなに簡単だったとは...
さあ、あとは炊飯器のフタをしめて「炊飯」ボタンを押すだけ。ボタンを押すと赤いランプが点灯。1つ1つの作業を説明書を読みながらやったこともあって、米を計量カップに入れてから、ここまでたどり着くまでに約20分が経過...。たぶん、慣れてしまえば全工程が計1分で終わる作業だ。 ご飯が、ここまで手軽に炊けるとは知らなかった。36歳、初めての炊飯――あとは炊き上がるのを待つのみ! 「炊飯」のボタンを押して約15分。炊飯器の蒸気口から水蒸気がモクモクと出てきた。久しぶりに嗅ぐ、家庭の匂い。実家の親の顔がノスタルジックに浮かんでくる。お父さん、お母さん、やったよ! ついにボクはご飯を炊けるようになったよ!! 炊き始めて、約40分が経過した頃。ついに! ついに! ご飯が炊けた~! 炊飯器のフタを開けると、白い水蒸気があふれ出て、ご飯のいい香りがしてくる。見るからに大成功! 実を言うと、初めてなのでご飯がコゲてたり、おかゆみたいに水っぽくなっても絵になるからアリかなと内心では思っていたのだが...。文明の進化ってすごいな~。ボタンを一つ押すだけで、あっけないほどたやすくご飯ができてしまったのだ。 ま、とりあえず試食してみよう。感想は、それからだ。 しかし、しかしである。ここに来て、最後の最後で、あまりにも悲しすぎる出来事がボクを襲う! しゃもじで、ご飯をすくいあげようとした時に、初めて気づいた新事実...。 我が家には、お茶碗がな~い! そうなのだ。家ではお弁当やデリバリーの物しか食べない自分にとって、お茶碗は必要がない。何種類かのお皿や、ボウルやカップのような器はあるが、お茶碗がないのである。 今回の企画は、『くーねるまるた』の「ゴマ塩ごはん」を再現するのと、その後に、「お茶碗に入ったご飯粒を数える」のがメイン。家にある器でもご飯は食べられるが、企画を遂行するためには、お茶碗がないと始まらない! せっかくご飯は出来たのに直前で寸止め。時は、夜の10時過ぎ。近所の24時間やっているスーパーに、あわててお茶碗を買いに行く。
しゃもじで、ご飯をお茶碗に盛る。この日、最高のテンション!
お茶碗と、ついでに味噌汁の器も買って、ダッシュで家に帰宅。ようやく、お茶碗にホカホカのご飯を盛り付けられたのだった。 よ~し! これで最初のミッション。「ゴマ塩ごはん」の再現メシに取り掛かれるぞ。 ご飯の上に、ゴマ塩をかけて...ハイ、完成! たったの10秒で出来たが、夜7時に炊飯器を買いにいってから、約3時間半。ここまでが長かった~! 「ゴマ塩ごはん」を見ているだけで、いろんな思いが駆け巡る。36年の人生で、初めて作ったご飯。この日のことをボクは一生忘れることはないだろう。 そして、「漫画に出てくるご飯を再現してみよう」って企画で、ここまでハードルの低い再現メシを作った者もいないだろう。 36歳、初めての自炊「ゴマ塩ごはん」を再現!
これが、マルタさんがピンチの時に食べるゴマ塩ごはん...!?
出来た~! 「ゴマ塩ごはん」。どんな味がするのだろうか。一口食べてみると...! うま~~~い! ご飯の甘味と、ゴマ塩の塩加減が絡み合って絶妙なハーモニーを醸し出している! あ、すみません...ちょっと大げさに言い過ぎました。 実際に、美味しかったけれど、たぶん普通の人が食べたら、ごくありふれたゴマ塩ごはんだろう。ただ、36年の人生で初めて自炊したご飯。「情」や「思い」という味のスパイスが加わって、最高の味に仕上がった! ご飯を炊いただけで、この達成感。なんか、マルタさんのように料理に目覚めそうな気がしてくる。 この勢いで、次は「お茶碗1杯のご飯は、いったい何粒なのか?」に挑戦しよう。 炊飯器に残っているご飯を、お茶碗1杯分いれて......この続きは、後編で!
後編では、さらなる衝撃が貴方を襲います。
<ライター/石川キンテツ>
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【初出:コミスン 2013.11.19】
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