2017.08.04
【『王様達のヴァイキング』第13集発売記念】 サイバーセキュリティ業界も注目!! リアルすぎるエピソードにエンジニアも驚愕!? 「世界を変えるキャラクターとは?」SECCON2016トークセッションレポート(後編)
ビッグコミックスピリッツで連載中の、サイバー冒険譚『王様達のヴァイキング』(作・さだやす/ストーリー協力・深見 真)最新単行本第13集の電子版が8月4日(金)発売!!
コミスンでは、最新刊の発売を記念して、今年1月に開催されたハッキング技術を競う競技会「SECCON2016 決勝大会」で、作者のさだやす氏、ストーリー協力の深見真氏、技術監修のエンジニア mayah氏、hayato氏と、担当編集・山内菜緒子氏(スピリッツ編集部)が登壇して行われた『王様達のヴァイキング』トークセッションの様子をダイジェストで紹介します!!
作品の誕生秘話やキャラクターの成り立ちについて語った【前編】に続き、【後編】では、サイバーセキュリティーのプロが見て気になったエピソードをスクリーンに映しながら、作中に登場するサイバー事件のアイディアがどのように作られているのかを語っています!! [→前編はこちらから]
作中のサイバー事件の作られ方
是枝がセキュリティーコンサルタントの初仕事で訪れた町工場。工場の社長は狙われるはずもないと高を括っているが、この後ハッカーの攻撃によりラインが停止して大慌てに。
深見 さだやす先生と山内さんと相談して、「こんな話でこのようにキャラクターを動かしたい」という要望にあった事件を考えるという形が、だいたいの流れになっています。最初の頃の打ち合わせで、さだやす先生から「実際に困っている人を漫画に出したい」「なるべく頑張っている人がハッカーの悪意で右往左往するところを描きたい」というオーダーがあったので、どんな人が困っていると漫画として面白いのかな、と。
善良そうな普通のおじさんおばさんが一生懸命やっている中小企業がパニックに陥って困ったら、是枝達が活躍できるかなと思って、それで町工場にしたらどうだろうみたいなところからこの事件を考えました。そこで、町工場をハッキングするのはどうやるの?という質問を、今度は技術監修の二人に投げて。
mayah ハッキングするためにはネットワークに繋がっていればそこから攻撃することができるんですけれど。町工場の機械がネットワークにつながっているというのも変なので、USBメモリを刺すと壊れるという形にしたらできるんじゃないかという話をして......。
深見 流れとしては、ここで話の素ができて、そこからだんだん現実的になっていくんですよ。
山内 「今回は是枝を成長させたい」とか「今回は坂井をピンチにしたい」とか、さだやすさんの描きたいキャラの要望を深見さんにお伝えしつつ、「それに合った事件を考えてください」という"無茶ぶり"を深見さんにします。で、深見さんが技術監修のお二人に「できるように決めてよ」とまた無茶ぶりをして、アイディア会議の場でみんなで悩みまくるという...(笑)。
mayah ハッキングというのは、無理を通すものなので。
hayato 針の孔を通すように。可能性が0%じゃなく、筋が通るような設定を考えるようにしています。
古いOSに残ったままの脆弱性をハッカーに攻撃された町工場を救うため、急遽、OSのパッチ(補修用プログラム)を作成する是枝。
hayato 是枝君はこの場面でWindowsのパッチを作るんですけれど、実はLinux上で作っています。通常、WindowsのパッチをLinux上で作るのは相当大変です。是枝君は昔Linux上でWindowsのプログラムを動かすLoaderを自作していたという裏設定があります。もちろん誌面上ではそこまで触れるわけではないんですけれど。
ウィルスプログラムのコードを見ただけでヘッジホッグを攻撃したハッカーが町工場を攻撃したのと同一人物だと見抜く是枝。
さだやす 基本、想像でハッカーってこんなのかなって。読者の方が読んで、パッと「この人は凄いんだぜ」とわかる演出がしたいと思って。「天才ってバイナリを読めるんだ」とか、今思うとすごいことを言わせたと思うんですけれど、そういうのってあるんですか?というようなことを逐一お二人に質問してます。
hayato 実際にはバイナリを直接読むのではなく逆アセンブルして読んでいるのですけど、「バイナリが読める」ということで。
さだやす そんな感じで是枝君の凄技みたいなのを想像して作っています。
コンビニATMを狙った連続攻撃事件。暴走気味の捜査二課・神崎刑事の依頼で、是枝はハッカーならではのやり方で事件解決に挑む。
深見 「読者にとって身近なハッキングをやりたい」というさだやす先生からのオーダーだったので、じゃあコンビニATMならばわかりやすいだろうと調べて、コンビニのATMにもいちおうOSが入っているんですけれど、どうもものすごく古いWindowsを使っているらしいぞ、と。そこまでわかったところで監修チームに「できますか?」ということを。
mayah 一番初めに思ったことは、「知らんがな」です(笑)。といっても日本の事例をそんなに知らないだけで、海外にはこういう事例が多数あるのは知っていて。
深見 ほとんどがスキミングなんですよね。
mayah スキミングだと面白くないので、どうやって攻撃しましょうかという話になりました。毎回サーバーに侵入するというのも面白くないので、中間者攻撃というのがあるんですけれど、それを使ったら?と言いながら、「いまどき中間者攻撃なんてまず成立しないよハハハ」と思っていたんですけれど、このちょっと後くらいにHeartbleedっていう本当に中間者攻撃ができる脆弱性が出てきて、なんか刺さってきたなって。
山内 深見さんに事件を考えていただくときに、起きた事件ではなく起きそうな事件を必ず考えていただいていて。ATM攻撃も描いたあとに、去年大々的なニュースがあったりとか。「3年後くらいの事件を漫画で描こう、漫画で描いている間に先を越されないようにしよう」ってことを、いつも焦りながらやっています。
ベンチャー企業「ヘッジホッグ」のメンバーと一緒に、坂井の家に住むことになった是枝。初めての共同生活にとまどいながらも、成長を見せる。
さだやす 是枝はなんか勝手に成長していくんです(笑)。スタートラインがものすごく低い人で。家もなくて家族もなくて、だから家庭環境を前提とするものとか、総合的に自己評価が低い人間が、坂井とかの影響を受けて育っていくみたいな。読者の方に成長を感じていただけると、すごくうれしいなと思います。
BARで接客業をしながら裏でハッキングもできるヴァルキュリヤは普通のエンジニアよりもコミュ力が高い?
さだやす 是枝を描く時には、Googleの社員の方とかが目を合わせてくれなかったりするのに、自分の興味があることはわーっと話してくれたりしたので、そういう経験を活かしています(笑)。
mayah エンジニアのコミュ力というのは、普通の人のコミュ力とは違うので......。
さだやす ハッカーの話なので、ソーシャルハック(ネットではなく実生活の中で相手をだまして情報を得たりすること)もできないといけないんです。だからヴァルキュリヤは、普通のプログラマじゃない感じはありますね。
深見 さだやすさんとコンセンサスをとったわけじゃないんですけれど、自分の経験上、悪人や犯罪者のほうがコミュ力が重要なんですよ。仕事柄、ずっと強盗とか殺人とかのことばっかり考えているんですけれど(笑)、これやったら死体が出るのでどうしようとなったときに、処理できる人が必要じゃないですか。すると、コミュ力が高いとか仲間が多いとかが、犯罪者には大事だなと思います。
米CIA長官が不倫相手との連絡に使ったことが明らかになりスキャンダルが報じられた、クラウドでメールを送らずに下書き保存して、同じアカウント使い情報交換する手口。
さだやす 皆さんが常にサイバー系のニュースとかに目を光らせていて。
山内 漫画で出した「アメリカの政治家が愛人とやりとりしていた手口」とか、そういうニュースを見つけると、さだやすさんにのべつまくなしに送って情報共有しています。一番は、深見さんから警察や事件の資料をいただいたり、英語の資料なんかも読んでいただいて、最新の情報を教えていただいたりとか。ディティール部分はいろんな手を借りて作っているという感じですね。
ヴァルキュリヤのマネーロンダリングシステム。司会の二人も「これもけっこう美しいコードですね」と感心。
hayato マネーロンダリングBot間の通信に使用される、ヴァルキュリヤが作成した独自の言語をパースしているところですね。誌面に登場するのはその一部です。
さだやす ネットゲームを使ってマネーロンダリングしているという設定なんですけれど、私が事件の案を考えているときには、だいたい何かの脆弱性をついて攻撃するものが多くて、「もっとキャッチーでお金がからんだものはないですか」とすごい無茶ぶりをして。
深見 マネーロンダリング編も、一応、ニュース等を見て調べていたのですが、実際に漫画にするときはすごい手間がかかって、結局また技術監修の二人に頼んで(笑)。是枝君がお金を奪うんですけれど、お金を奪うのはけっこう大変なんですよ。
hayato どうするかっていうところを一生懸命考えて。誌面ではもちろん詳細を描くわけにはいかないので、一瞬で終わるんですけれど。その裏にはけっこう何ページにもわたる手口のプロットがあったりします。
mayah お金の奪い方もゲームのトレードシステムをうまく使って、取り返すっていう。ロジックは、株とかだと自動で儲けるみたいなのにちょっと近いかなと。
深見 現金が出てこないのも大変ですね。絵的に現金が出てきたほうが盛り上がるんですけれど、オンラインのお金が動くっていうところだけで進んでいくので......。
ヴァルキュリヤがサーバールームで寝ているのは、情報系の学生あるある。「こういう人よくいましたよね!」「冷房が効いていて寒かった」と盛り上がるステージのエンジニア勢。
山内 当時ピクシブの代表だったDMMの片桐社長と、連載前にご飯を食べる機会があって。「こういう漫画作品なんですよ」という話をしたら、2時間くらいご飯に一切手をつけずに延々と仕事の話をしてくれて(笑)。「一度、うちの会社に見学に来てよ」と言われて、その流れでピクシブさんのオフィスでスピリッツ本誌のグラビアを撮らせていただいたんですけれど、その時のロケハンにさだやすさんも同行して。サーバールームがすごくカッコいいんですよね。それで色々な写真を撮らせてもらって。
mayah 普通はサーバーは大きめのラックに入っているんですけれど、ピクシブのサーバールームは昔、こんな風に裸の基板がメタルラックに置かれていたので有名でした。
是枝の技術をビジネスにつなげようと試行錯誤する坂井。司会の二人は、本職のセキュリティーコンサルの視点から「攻撃側ハッカーのモチベーションの多くはお金で、投資効率は1400%と言われているが、坂井の考えているビジネスのほうが規模が大きい」と分析。
さだやす バトルものにしようと考えたときに、お仕事ということを抜いてただバトルをしてもいいんですけれど、「サービスを作った人がいる」ということを無視して攻撃するクラッカーの話を描きたくなくて。だから将来のゴールはビジネスで世界征服をしようという話にして、サイバーセキュリティーだったらバトルしながらお金を稼げるんじゃないかという感じに考えました。
「是枝君はC++11を使ってますけど、Boostとか使っているんですか?」と本職エンジニアも興味深々の是枝のコーディング風景。
mayah 普通にC++11の標準的なもので、Boostは使ってない設定のはず(笑)。
hayato 是枝君はちゃんと勉強をしているというキャラクターなので、古風なC++というよりは、わりと先進的というか、より安全に書けるスタイルをきちんと追求している設定です。
mayah executorと書いてあるので、たくさんスレッドというものを作って同時に処理するようなプログラムを書いているところですね。
山内 漫画家さんはまず「ネーム」という漫画の設計図を描いて、その次に「下絵」という段階があって、それはどんな絵を入れるのか考えて決めていく段階なんですけど。例えば、背景や小物だったりは、漫画家さんが一人で描くのではなく、その段階でアシスタントさんに作画を依頼するんですよ。ある意味それと同じような形で、技術監修のお二人に「あと2日でここの画面に入るコードを描いてください」みたいなお願いをして(笑)。それで、だいたい朝方にコード画面が届いたりします。いつもありがとうございます!
hayato 仕事のコードも楽しいですけれど、漫画のコードも楽しいので。楽しんでやっています(笑)
INGRESSをモデルにした位置情報ゲームを使って誘拐された是枝の場所を特定するエピソード。このしばらく後、実際に内閣サイバーセキュリティセンターから位置情報ゲームでの個人情報について注意喚起がなされた。
山内 当時、深見さんがINGRESSにすごいハマっていらして。「今やるしかないですよ!」と熱弁されるので、だったらそうしましょうと。
深見 ちょうど漫画でやった時は、INGRESSが大ブームになる直前くらいで、今やらないと恥ずかしくなるので、大急ぎで描いたほうがいいという感じで提案しましたよ。INGRESSみたいなゲームは二度と流行らないと思っていたら、PokemonGOが大ブームになったので、まだ行けるなって...。意外と古びないんだなと。
実際にセキュリティー関連の仕事をしていると、ごく稀に危険な状況に足を踏み入れてしまうこともあるという。
深見 このへんは、自分ではなくさだやすさんから出てきたものですね。
さだやす 坂井の過去は、なんでもできる人だと共感できないので、なにか苦労しているほうがいいかなと思って描きました。
わかりやすいハッキングの事例。いわゆるフィッシング詐欺だが、よく見ると細かいネタも。1コマ目で坂井を見る是枝の冷たい顔が好評。
mayah 実際に1文字違うURLが送られてきて、パスワードを入れてしまうという話はけっこうあるんですよね。
hayato このコマをよく見るとURLがちゃんと「https」になっているんですよね。httpsだからといって安心できないことの啓蒙になっていてとてもお気に入りです。坂井さんも「だって鍵マークついてんのに!」と言っています。
是枝の開発した、コードの追跡システム。攻撃者の履歴をデータベース化して警察の捜査に使えるようにするシステムが、彼のビジネスの武器になる。
hayato 機械学習(マシンラーニング)という言葉が出てきますけれど、是枝君なら専門外だけれど応用するだけならできるかなという感じで。
mayah 実際にソースコードを見れば誰が書いたかは90パーセント以上の確率で特定できるという研究があります。本当は結構苦しいんですけど、ここではソースコードじゃなく、バイナリからでも特定できることにしましょう、という話にして。
さだやす そもそも私が無茶ぶりで、将来的に是枝君のビジネスになる大きな武器を作りたいといって、1個ずつ武器を作っていくというのを頑張って描いているところです。
hayato 是枝君以外の人も使うことができるシステムというのに意味があるんですよね。
さだやす トンデモにならないギリギリのところを狙って。
mayah 「コレーダー」という名前は僕がつけたんですけれど、名前どうしますかと言われたときに、当時アップルのバグ追跡システムが「レーダー」という名前なのを思い出して、是枝くんだし「コレーダーは?」と言ったら勝手に採用されていました(笑)。
hayato 「スナイパー」という名前も出てくるんですけれど、僕はいかにもエンジニアがつけそうな他の名前を提案していたんですけれど、結局は「スナイパー」がいいということになったりして。
さだやす 読んでいる人にわかりやすい名前にしたくて。けど、エンジニアの心もくすぐりたいので、必ずみなさんに1回はどんな名前がいいかを確認するようにしています。
『王様達のヴァイキング』の舞台裏がたっぷり詰まったトークセッションは盛況のうちに終了。最後はさだやす氏と深見氏が、これからの作品の展望を語りました。
深見 今後の展開は、最初は身近なところでみんなにもわかりやすいハッキングが起きていましたが、バトル漫画なので必然的に敵が強くなっていきます。するとドローン攻撃とかどうしても派手なものが出てくるので、これをやったら後はどうしようかな、と......。
さだやす 世界征服の話なので、一番最初の頃に世界をまたにかけるのがインターネットの世界だと言っていたのに、ずっと日本でやっていたので、そろそろ世界に出ていこうと。最近はアメリカとか大きな国もからんで坂井と是枝の二人が動いているので、みなさんどうか楽しみにしてください。
サイバーセキュリティーの世界大会という、いわばその道の最高峰に乗り込んでの『王様達のヴァイキング』トークセッション。本職のセキュリティーエンジニアの皆さんにも、『王様達のヴァイキング』作品制作におけるこだわりの数々がしっかりと伝わっているようで、会場は終始盛り上がっていました。
ホール入り口には、『王様達のヴァイキング』ファンの皆様からのお花が!!
おなじみ、是枝モデルのThinkpadも展示。エンジニアの皆さんも興味深そうに眺めていました。
物販コーナーでは単行本の販売も。トークセッションで興味を持たれて、この機会に既刊をまとめて購入される方も!!
さだやす氏、深見氏、技術監修チームmayah氏、Hayato氏、そして担当編集の徹底的なこだわりと、たくさんの人たちの協力で描かれているサイバー冒険譚『王様達のヴァイキング』。
インターネットを舞台に、世界を股にかけて活躍する、天才少年ハッカー是枝と、大胆不敵なエンジェル投資家・坂井。これからも世界征服にむけてどんどんスケールが大きくなっていく物語にご注目ください!!
『王様達のヴァイキング』第13集は紙・電子版ともに好評発売中です!!
(取材・構成/平岩真輔)
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王様達のヴァイキング 13 さだやす/深見真
王様達のヴァイキング 1 さだやす/深見真
王様達のヴァイキング 2 さだやす/深見真
王様達のヴァイキング 3 さだやす/深見真
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『王様達のヴァイキング』作品紹介ページ
スピリッツ公式
【初出:コミスン 2017.08.04】
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