2016.02.24
【装丁から見るマンガの魅力】連載「ジャケ萌え!」 5冊目『しまなみ誰そ彼』【その1】
読むだけじゃない、見て触って嬉しい単行本。なんだかカッコイイ! 可愛い、きれい、オシャレ!そんなグッとくる「マンガの装丁」の魅力をお届けする連載企画が「ジャケ萌え!」です。
第5回目となる今回取り上げるのは『しまなみ誰そ彼』。
2015年は東京・渋谷区で「男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」が施行されたことなどから、いわゆるセクシャルマイノリティに注目が集まった年でした。
そして、偶然にもそれと同じタイミングで『しまなみ誰そ彼』という作品も誕生。 ヒバナにて好評連載中の同作は、鎌谷悠希先生がお届けする、尾道を舞台にした性と生の青春物語です。
この作品の装丁を担当したナルティスの代表・新上ヒロシさんに、お話を伺ってきました!
『しまなみ誰そ彼』鎌谷悠希
クラスメイトに「お前、ホモ動画観てたん?」と言われたことから、自分の性指向が知られたのではと怯え自殺を考えていた主人公・たすく。そんな時、「誰かさん」と呼ばれる謎めいた女性と出会う。彼女に誘われ「談話室」へと足を運ぶようになったたすくは、そこにいる人々との出会いによって"性と生"に向き合っていく......。
──今回のデザインはどのように決まっていったのでしょうか。
『少年ノート』がカラフルなデザインで、『ぶっしのぶっしん-鎌倉半分仏師録-』も和の鮮やかさがある装丁。『しまなみ誰そ彼』では違いを出したいと思っていました。編集さんとも「インパクトを出したいよね」と、あえて青のみで見せてみようかと。鎌谷さんと打ち合わせの際にその話をしたら、一瞬びっくりしていましたね。カラーも素晴らしい絵の作家さんなので、こういうことを言われるのは意外に感じられたのかもしれません。
1巻の90ページに描かれるたすくの表情。この前後の流れと合わせて読むと、この表情の意味がわかります
作品のテーマ自体もギャグや日常ものと違って重たく、すごくドキュメンタリーな物語ですよね。どうしたらそれを表現できるかと考えた時、このコマがいいなと思ったんです。全てを表している。
一方で、作家さんとしては原稿のいち部分を拡大されるのを嫌う方もいます。デザイナーとしてこんな提案をして大丈夫かと、心の中ではせめぎあいでしたね。
──提案してみて、鎌谷先生はこの案に賛成でしたか?
びっくりしていたんですが、試しにコマを拡大して青で出力して見てもらったら「ありかも」と言ってくださいました。青はもちろん、瀬戸内海のイメージ。この青と、絵を拡大したような画素が粗めのカバーイラスト。この方向性で進めることにしました。
──新上さんの狙い通り、『しまなみ誰そ彼』の装丁には青のシンプルな色づかいの魅力があると思います。
最近は絵を描くのもデジタルが主流で、みなさんすごく上手ですよね。ライトノベルを見てもきれいな絵ばかり。進化した一方で、似通ってしまったとも感じます。
鎌谷さんは漫画家なので、ライトノベルのイラストレーターとは異なる流れにいるし、カラー原稿もモノクロ原稿も両方うまい。しかも、作品ごとに線のタッチを変えてくるんです。『しまなみ誰そ彼』ではザラッとしていますよね。こんな引き出しがあるのかと驚かされました。そこに触発されて先のデザイン案が出てきたんです。
鎌谷先生の『しまなみ誰そ彼』カラーイラスト。目を凝らして隅々まで見て欲しい!
コミックス1巻でこのイラストを堪能することができます!
──『ぶっしのぶっしん-鎌倉半分仏師録-』でも鎌谷先生の画力が伝わってきます。漫画で仏像を描き続けるってすごく大変だと思いました。
デッサンもパースもすごく正確で、しかもあらゆるパースに対応できる方。仏像もすごいですよね、鎌谷さんが仏像を彫ったらいい仏像になるはず。作中で仏像が動いていて、それに加えてちょっと現代風のイケメンになっている。鎌谷さんが動いている仏像を描くと「こういう風に動くんだろうな」と読者にイメージをわかせてくれるのは、画力あってこその説得力ですよね。
──『しまなみ誰そ彼』の装丁の場合、1巻以降についてもあらかじめ決めているのでしょうか。
全く。1巻が決まれば、2巻以降はなんとかなるんです(笑)。色を変えるかもしれないし、同じでいくかもしれないし、違うキャラクターをもってくるかもしれない。どういう風に展開できるのかという仕掛けだけ作って、あとは都度の打ち合わせで決めます。
作品ごとにラフなどを寿司用の木箱にまとめて管理。これは便利!
担当作品がずらーっと!
★ジャケ萌えMEMO★
昔はコミックのデザインは定型の枠の中にイラストが入ることが多かったですが、現在の書店のコミック棚をみてみるとどれもおしゃれで、遊びがあったり、試みがあったりと、そのジャケットは多種多様。そんな中あえて飾りを削ぎ落としたものは、別格の存在感を放ちます。
実はもうひとつ、新上さんが削ぎ落としたものがこのジャケットの中にはあります。それは一体何なのか......次回をお楽しみに!
「本」のデザイン、ナルティス http://www.nartis.co.jp/
ナルティスでは、アシスタントデザイナーを募集中です! 応募〆切は2016年3月23日(水)。詳細はこちらからご覧ください。
(ライター:川俣綾加)
フリーライター、福岡出身。デザイン・グラフィック/マンガ・アニメ関連の紙媒体・ウェブ、『マンガナイト』などで活動中。著書に『ビジュアルとキャッチで魅せるPOPの見本帳』、写真集『小雪の怒ってなどいない!!』 http://ayamata.jugem.jp/
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しまなみ誰そ彼 1 鎌谷悠希
関連リンク
「ヒバナ」公式サイト
『しまなみ誰そ彼』紹介ページ
【初出:コミスン 2016.02.24】
しまなみ誰そ彼,ジャケ萌え,ナルティス,ヒバナ,連載,鎌谷悠希