2014.12.23
【単行本発売中】『エロゲの太陽』原作者の壮絶半生!拉致!強制労働!少女の生首!? 自宅炎上...そして!エロゲ会社設立から親友リストラ倒産のどん底までを語る......!!
――『エロゲの太陽』第1集発売おめでとうございます。
ありがとうございます。
――エロゲ業界を舞台にしたお仕事マンガということで、実際にはまむらさんご自身がエロゲ制作会社を経営していたというはまむらさんのキャリアについてお伺いしたいのですが......。
どこから話せばいいか微妙なんですけど、パソコン少年だったので、昔から「いつかゲームを作りたい」と思っていました。同時に漫画もやっていて、高校の時に村正と知り合って以来、一緒にやっています。
――高校の頃からのお知りあいなんですね。
当時、僕はアマチュアでラジオドラマを作ったりして、ラジオ局に持ち込んだりしていました。村正は、すでにゲームのコミカライズとかでデビューしていて、最初は村正のストーリーの手伝いをしていたんですが、ある出来事で、掲載されている漫画雑誌がのきなみ休刊してしまうという事件がありまして......。ベテラン作家は他誌に移籍できたんですが、ぺーぺーの僕らは仕事がなくなってしまったので、PC雑誌の紹介で、韓国のゲームメーカーからキャラクターデザインの仕事をもらって。当時は韓国で日本のゲームや漫画が開放されるようになった時期で、日本風キャラクターデザインが求められていたんですね。正直、ソウルまで来てくれる日本人クリエイターだったら誰でも良かったのかな、とも思いますけど。
『ハイブロウ男爵』(「COMIC阿吽」掲載)より
――そこから本格的にゲーム制作に関わるようになられたんですか。
とにかく一度韓国に来い、といわれたので、言葉もわからないのに成田から飛行機に乗りました。空港まで日本語のわかる方が迎えに来てくれるという話だったんですが、手違いでその方が来なくて。英語も日本語も通じない中でそれらしい人たちが居たんで話しかけたら、身振りで車に乗れ、と言われて......
――どう考えても普通の状況ではありませんが......怖くなかったんですか?
当時はまだ、拉致事件のニュースとかもよく知らなかったので......そのまま真っ暗な夜道を走ってラブホテルみたいなところに連れ込まれて、「ここで寝ろ」と指示されました。翌朝、またジェスチャーだけで車に乗せられて、事務所のようなところに連れていかれると、モニター上で格闘ゲームのキャラが動いていたので、初めて自分たちが当初の約束通り、ゲーム開発の仕事で呼ばれたんだということがわかりましたね。相変わらず向こうが何を言っているのかはわからなかったんですが、画材を差し出されたので、村正がモニター上のキャラを日本風にアレンジして描いたらどうやら喜んでくれたみたいで......その後も10日間くらい通訳の人は現れないまま、身振り手振りでなんとなく仕事をしていました。
――常人にはなかなかできない体験ですね。
その後、自分も韓国語を勉強したり、日本語のわかるスタッフも加わったりして、日本と韓国を行ったり来たりしながらゲーム関連のビジネスをするようになりました。日本のオタク業界のノウハウを活かして、韓国の漫画雑誌で連載をしたり、ゲームの企画やキャラクターデザインをしたり、日本人の声優を手配したりと、色々な仕事をやっていくうちに、会社を作ったほうがいいのではということになって。通訳兼コンサルタントのチャンさんという人と「武礼堂」というチームを作って、『Tomak ~Save the Earth~Love Story』(Seed9/日本語版はサンソフト)という美女の生首を育てる恋愛ゲームのPlaystation2版の制作とか、色々な仕事に関わりました。
『ハイブロウ男爵』(「COMIC阿吽」掲載)より
――あの伝説の生首ギャルゲーに関わっていたんですか......!
ほかにも、韓国の会社とは本当にいろいろなことがありまして。日本で先方の下請け仕事をしていたんですが、いつまでたっても報酬が振り込まれなくて。仕方ないので、ソウルまで直接取り立てに行ったり。成田に着いたとき、飛行機の搭乗券のほかには所持金が3000円しかなくて、それでもどうにか先方の事務所に乗り込んで「未払いの報酬を払ってくれたらおとなしく日本に帰る。払ってくれないなら、ここで強制送還されるようなことをして日本に帰る。どっちがいいんだ!?」と迫ってようやく現金で報酬を受け取ることができました。
――それは堅気のビジネスとは思えませんね(笑)
それで、日本円にして何十万円かのお金をウォンで手に入れたんですが、外貨の持ち出し制限とかで、成田で日本円に両替ができなかったんです。懐に大量のウォンを抱えたまま、電車賃が払えずに。成田で立ち往生してしまいました(笑)
――お金ならあるのにっていう(笑)
交番で事情を話して交通費を借りて、なんとか自宅に戻りました。それで、翌日また人にお金を借りて有楽町の両替ショップまで行ってようやく、日本円を手にすることができました。普通、現金でそんなに大量のウォンを手にすることがないですから、両替は盲点でした......。
『ハイブロウ男爵』(「COMIC阿吽」掲載)より
――そんな過酷な状況から、どうやってエロゲ制作会社を立ち上げられたんですか?
同じ頃、日本ではパソコン雑誌の『TECH Win』『TECH GIAN』(エンターブレイン)といったCD-ROM付きの雑誌でデジタルコンテンツ込みの記事や漫画を書いていて、映像や歌を収録したり、エッチなラジオドラマとか、ちょっとしたクイズゲームを作ったりして、シューティングゲームを作るようになったあたりで、「ゲーム会社やれるんじゃない?」と思うようになりました。
――当時、需要が大きかった雑誌の付録ROMのミニゲーム等で経験と実績を積まれていたんですね。
住んでいたアパートでボヤを出してしまったんですが、たまたま助けに来てくれた隣の住人が、Playstationの有名な戦車ゲーム『パンツァーフロント』(エンターブレイン)の制作者で、そのまま一緒に開発するようになったんです。全くの偶然でしたが、ゲームの作り方は彼に習った部分が大きいです。
『ハイブロウ男爵』(「COMIC阿吽」掲載)より
――なんとも奇縁ですね。ということは、最初はコンシューマー志向だったんですか?
いえ、コンシューマーは元手がかかるのと、プログラマの人数が必要なので、最初からエロゲを作るつもりでした。僕はラジオドラマをやっていたので、声や音楽を確保するノウハウがありましたし、シナリオと絵も自分たちで作れるので、エロゲのほうが作りやすかったんです。
――2000年台前半のエロゲはスタイルも多様でオタク業界の先端を行っていましたよね。
ところが、僕たちが満を持して参入した頃は、景気のいい時代が終わる直前で。開発した『えろぼーん』みたいな変なゲームまではユーザーのお小遣いが回ってきませんでした(笑)。『TECH GIAN』に体験版を載せてもらったんですけれど、エロゲなのに女の子が一人もでてこないという、ふざけているとしか思えない体験版で......まさに「こんなことやってるから会社を潰すんだよ!」という実例です。いま思えば、あんなに冒険しないでまともなゲームを作ればよかった......!
Windows用PCゲームソフト『えろぼーん』マニュアル表紙イラスト
――『エロゲの太陽』の舞台になるゲーム会社「エリコム」もですが、多くのエロゲ制作会社はコンパクトな体制ですよね。
本来は、制作したゲームが爆死したら、社員を解雇して身軽になるべきなんでしょうけど......僕らは仲良しグループで作った会社だったので、みんなで仲良く貧乏していました。社長といっても税金とか営業とか、面倒事の引き受け係というだけで、社員をドライに使いこなすような器量はなかったので、「こんなとき英理子さんならどうするかな」と考えながら原作を書いています。
――エロゲの太陽にも流通の人が登場しますが、中小のエロゲブランドだと流通との関係が重要だと。
僕らは流通と直接取引することがあまりなくて、開発だけを引き受けることが多かったんですよ。スタッフには入ってるけどブランドは別とか、まったく名前が出てない仕事もあります。韓国で萌えキャラを使ったゲームを作っていたメーカーが日本に進出する時に、日本語にローカライズするためのシステムを開発したりもしました。そのゲームを作っていたのが『黒神』(スクウェア・エニックス)とか『フリージング』(キルタイムコミュニケーション)の原作を書いている林達永(イム・ダリョン)さんで、彼もエロゲから漫画の世界にきた仲間なんですよね。
――2000年台後半から現在にかけて、エロゲ業界はかなり厳しい状況になっていますよね。フルプライスといわれる8800円のエロゲの売り上げは年々縮小しています。
武礼堂では、ゲームだけでなくエロ漫画も描いていたのですが、村正のぶんの原稿料しかもらえないので、僕はエロゲで稼ぐしかなくって。でも、だんだんフルプライスではなくロープライス(4000円以下)のゲームを作る仕事しか受注できなくなってしまいました。そうなると開発費用も昔は一千万くらいだったのが、数百万、数十万になって、ついには同人ゲームを作っているほうがマシだというところまで落ち込んだので、しばらく同人ゲームを作っていたんですけれど、それも限界に達して......10年以上一緒にやってきた仲間に「来月の給料で最後だから」と告げました。
――それは経営者としては断腸の思いですよね。
さらにその頃に震災もあって、色々ショックで寝込んでしまって......完全に精神をやられてしまっていたので前後1年くらいの記憶がほとんどないんですが......「コミックヴァルキリー」(キルタイムコミュニケーション)で描いていたエッチな格闘漫画(『レッする! ジ・アンダーグラウンド』)を読んでいた『エロゲの太陽』の担当編集に声をかけてもらい、小学館の携帯配信漫画「モバMAN!」に読切『ある日突然モンスター娘の王様になったんだけど何か質問ある?』を経て2012年8月から『快感少女・ナックルズ』の連載が始まりました。
『快感少女♡ナックルズ』(全4巻・モバMANで配信中)
――その後ようやく「スピリッツ」で『エロゲの太陽』が始まったわけですが、エロゲ業界を描こうと思われたのは?
担当から「自分の人生をぶつける漫画を書け!!」という熱い指示を受けて、それならばと自分のエロゲ時代のことを思い出しながら書いているのですが、いかんせんネタが古いので......表現規制問題やダウンロード販売など、世の中も変わっているので、思い出話にならないように、エロゲ業界事情については現役の人達に取材をして書いています。
――現在のエロゲ業界は、数年前よりもさらに過酷な状況じゃないですか。
売上や製作費については過酷ですし、買ってくれるファンの経済事情も楽ではないと思います。
――多くのメーカーが自己資本ではなく流通が出す製作費でゲームを作り、売れたら次のゲームにも製作費が出るというようなサイクルがありましたが、これも厳しくなって1回失敗したら終わりみたいになってきていますよね。
小資本で大ヒット、という可能性はほぼゼロになってしまいましたね。携帯アプリゲームも、アイデア一発勝負では通用しなくなってしまいましたし。でも逆にゲームが巨大な産業になった今だからこそ、インディーズから面白いものが出てくるチャンスかもしれません。
――最近も、ロシアのインディ系メーカーがSTEAMでエロゲを発表したという話題がありましたが、ツクール系も含めて自作ゲームへの注目が高まっている空気はありますね。
同人ゲームの世界では、漫画と違って二次創作ではないオリジナルのエロゲを作っているサークルが多いんですよ。価格も1000円~2000円くらいで、クリエイティブな人たちが数人で集まって制作しているのが目立ちます。プロの声優さんも出演していたりして、かなり高いクオリティのゲームもあるんです。
――「nscripter」や「吉里吉里」のようにフリーで使える優れたゲームエンジンの存在も大きいですよね。
そうですね。インディーズのノベル系だったら本当に内容勝負なので、僕も作りたくなる時があります。いいかげん懲りたほうがいいと思うんですけど(笑)
――『エロゲの太陽』1話でも書かれていましたが、はまむらさん自身、エロゲが「オタク芸術の最前線」だということの可能性を強く感じているのでしょうか。
エロゲの絵を描いて、漫画も描いて、カードゲームのイラストも描いて......と活躍する絵師さんは、やはりオタク業界の最前線にいると思います。エロゲの音楽や声優も、その道の登竜門的なところがありましたが、今は動画投稿サイトがあるのでもう少し細分化が進んでいるかもしれません。でも、昔みたいにエロゲで仕事していることを隠す必要も無くなってきたと思いますし、エロゲでファンになってくれた人が、そのまま他の場所でも応援してくれるので、萌え&セクシー系の源流は今でもエロゲにあると思っています。
――実際、ラノベやアニメの舞台で活躍している人も少なくありませんし、エロゲの世界には、クリエイターの想像力を育む自由さみたいなものがあるんじゃないかと。
エロゲ会社を卒業していった中には、創造的だったり、ユーザー目線だったり、タフだったり、経営者的思考だったりと、色々な才能を開花させている人達がいます。「あぁ、苦労したんだな......」と思われるとアレですが、僕が解雇した仲間たちも、今ではみんなソーシャルゲームやアプリ開発などの最前線で結構いい位置で仕事しているんですよ。給料なんかもずっと高くなっているので、もっと早くクビにしてやればよかった!と(笑)
――人生どう転ぶか分かりませんね(笑)
今でも友達でいられるので、会社を潰したといっても不幸にならずに済みました。人生、失敗することもあるけれど、心の傷も癒える時はくるし、漫画のネタになって連載がもらえる日もくるので......そういう気持ちも読者に伝わればいいなと思っています。(主人公の)太陽も、人生のレールから外れてしまったけど、まだまだこれからだと思うので!
――なし崩し的にエロゲの世界に飛び込んだ太陽も、これから色々な現実を目にすることになるかと思いますが、エリートビジネスマンだった太陽のスキルがエロゲの制作管理で活かされるエピソードなんかは、おお!と思うのと同時に、そもそもそういうマネジメントしてないの?? みたいな驚きもありました。
実際、エロゲ業界の外の人に何度説明しても「うっそだー!」と言われるのが、契約と金銭に関するルーズさですね。プロデューサーやスタッフが逃げるのは日常茶飯事で、違約金を取ろうにも裁判をやってる暇も金もないので、残った人たちでなんとか完成させるしかないんですよ。
――実際にはまむらさんもそういう体験をしたことがあるんですか。
それはエロゲ業界の誰に聞いても「体験したことがある」って言うと思います(笑)
――そのへんは普通のお仕事マンガとはちょっと趣が異なりますね。
どちらかといえば、『闇金ウシジマ君』よりの世界ですよね(笑)。あそこで借りたらゲームが完成するまで生き残れないと思いますけど......!
――ところで『エロゲの太陽』という題名はどこから来ているんですか。
混沌としたエロゲ業界に、熱い何かが飛びこんでくるというイメージで「エロゲの星」とか「エロゲの光」とか、アイデアを出していて、「エロゲのスピリッツ」まで考えたところでふと我に返って、主人公の名前から『エロゲの太陽』に落ち着きました。始める前は、ハーレム環境でエロっぽく業界小話をやる"女の子女の子した漫画"になる予定だったのですが、いざ書き始めたらえげつないエピソードやら濃いめのおっさんやらが増えて、熱い漫画になってしまいました。
――エリコム社内は、一応ハーレム構成なんですけれど、太陽にはあまりハーレム感がないような......
僕的には、みんなにいじられるMっけのあるハーレムなんですよ。『ギャラリーフェイク』の影響で、主人公の男はMじゃないと面白くないと思うようになってしまいまして......(笑)
――主人公はM!......なるほど(笑)エリコム社員の女の子たちは、業界的には先輩として太陽をいじりますが、ビジネスの世界で戦ってきた太陽には社会人力があるので、相互補完する形で物語が進んでいく感じですね。
太陽は、能力は高いけれどおぼっちゃんなところがあって、いい学校からいい会社に入る道しか知らなかったんですね。でも、世の中には、いい学校とかいい会社とか関係なく、周囲の誰かのために働いている人達も沢山いて。そういう世界の中で、趣味と芸術とダラダラした時間を生きているのがエロゲ業界の人々なので、太陽と出会うことでエリコムの女の子達も変わっていくかもしれません。
僕自身、学生時代は割と成績も良かったのに、まっとうな企業に就職できなくて、無一文のサンダル姿でソウルの街を彷徨っている時に「あ、これも人生なんだ!」と気づいたことがあるので、第1話の太陽の気持ちがそんなところから来ているのかもしれません。
――「人生なんとかなる!」という再生の物語でもあるんですね。
そうですね、今の世の中ってレールから落っこちてしまった人生にちょっと厳しいと思うので。いい会社でいい給料もらうのもいいけど、働く目的ってのは、別のところにあるんじゃないか、そういう物語にしていきたいです。あとはエロゲの太陽がヒットしてくれれば、このインタビューもカッコいいんですけど(笑)
――第1集が発売されて、感触はいかがですか。
みなさん褒めてくださるので、嬉しい限りです。少しでも多くの人に読んでもらって、エロゲ時代に作った借金が減るといいんですが......!まずは読者に楽しんでもらえれば、それが一番と思っています。長く続けたいですね!
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(インタビュー・構成:平岩真輔)
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エロゲの太陽 1 はまむらとしきり/村正みかど
関連リンク
『エロゲの太陽』作品詳細
はまむらとしきり(原作)Twitter
村正みかど(作画)Twitter
スピリッツ公式「スピネット」
【初出:コミスン 2014.12.23】
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