2023.02.27
ビッグコミックスペリオール 第二回次世代新人マンガ大賞最終結果発表!!!
奥浩哉 押見修造 山口貴由 乃木坂太郎 浅野いにお 稲垣理一郎 太田垣康男
ハイレベルな作品が集まった今回は、最終審査において評価が拮抗!
7名の豪華審査員と編集部の厳正な審査を経て、ついに受賞作品が決定!!
大賞 『包丁を買う』
折田洋次郎│37歳│東京都
賞金 300万円+掲載権+新連載(単行本1巻分保証)+単行本化権
ストーリー 清掃の仕事で糊口をしのぐ今田太一は、貧困に喘ぎながら日々つましく暮らしていた。だが、どうすることもできぬ様々な理不尽により、覗き込まないよう努めていた鬱屈が限界点に達し……その時。
受賞者コメント 受賞の連絡を頂いた時は主人公が報われたように感じて込み上げるものがありました。昨今起こる様々な事件や誰かが抱えている問題を見て、描くべき何かがあると思いこの話を考えました。偶然に意味を持たせる事ができるのが物語で、その意味を考えてくれる作品になればと思い描きました。賞を頂きありがとうございます。(折田洋次郎)
奥浩哉
絵のレベルアップはまだまだ必要だと思う。しかしそれ以上に、今の日本に本当に居そうな人の人生を垣間見た感じで読み応えがあった。
乃木坂太郎
話は丁寧に心情を追えていて読み応えがありました。クライマックスの見開きも演出的にすごくよかったです。ただその後のあまりに都合の良い学生の出現と救済が不自然だなと感じました。ここまでの偶然を行使しないと救えない主人公の心情は、むしろ物語の敗北のような気もしました。絵については、かなり研鑽が必要だと思います。
押見修造
この作品が一番好きでした。絵の技術はまだ低いですが、読み進むにつれそれが気にならないほど凄みが増して行きます。出来事を具体的に丁寧に描写し、生々しく細かいディティールを積み重ね、リアリズムによって一人の人間の生活を浮き彫りにしていて、素晴らしいと思いました。 包丁を持って往来に佇むシーンには息を飲み、人々が働く中をとぼとぼ帰るシーン、桃を無心で食べるシーンには感動しました。読めて良かった、と思いました。
浅野いにお
実存感のあるストーリーでとても説得力のある作品でした。ラストの高校生男子からの一言では何も解決せず、主人公の環境も特に何も変化はしません。それゆえにリアリティがあるのですが、貧困はとても現代的なテーマでもあるので、これ以上に突っ込んだ作者本人の結論が出せればさらに良い作品になると思います。絵柄に関してはまだまだ技術が足りていません。漫画の魅力の大半は絵なので、もっとスキルを上げるか独自の画風を確立できると良いと思います。
山口貴由
タイトルを見て物騒な刃傷沙汰を期待したが、作品を読みすすめ、その場面が訪れた時、何事も起こさないでくれと祈るような気持ちになったのは作者の力量だろう。血が通った人物と身につまされる物語だった。
太田垣康男
タイムリーな題材だが、人物造形までニュースの切り貼りでは作品から受ける印象が「他人事」で止まる。犯行直前まで追い込まれる人間の心理が分かり易く描かれている点で、リアリティーに欠けると私は思う。たとえ衝動的に見えても、道を踏み外す人はもっと深い闇を心に抱えているのではないか? 私にはその闇を覗く勇気はないが…
稲垣理一郎
絵は本当にまだまだだが、演出が上手いのでちゃんと読めてしまう。セリフが自然で、妙なリアルさがある。このままで商業で成功するかどうかは難しいとは思うが、敢えて茨の道を突き進むのも良いし、この武器を持ってもう少し読者によりそうのも手かと思う。
入選 『春の炭』
天海夏矩│22歳│熊本県
賞金 100万円+掲載権
ストーリー 絵を描くのはただ希望する教育大学に行くためと割り切っていた土屋。そんな彼の耳に「キーン」という木炭の綺麗な音が響く。「良い木炭は、落とすと綺麗な音がする」と笑顔で答えたのは、絵に全てをかけている春彦だった。
山口貴由
部屋の匂いや試験を控えた若者の張りつめた空気が作品から立ち昇ってくる。劇中の人物が、将来どこかの誌面で活躍し多くの人々に見守られているところを想像した。
奥浩哉
絵は達者だと思う。しかし、お話が途中で終わってしまった感がある。
稲垣理一郎
物語は良くあるパターンではあるものの、キャラがはっきりしていて良い。キャラの心情をセリフに頼ることなく表現できており、演出力がとても高い。少し読みづらいのは、コマ割りの問題もあるが、画力が追いついていないせいかもしれない。画風は魅力なので、これは保ったまま量を描いてこなれてほしい。
浅野いにお
不安定な絵ですが味になっています。ところどころガサガサすぎて何が描いてあるのかわからない箇所があるので、読者に認識させなければいけない描写はなるべく丁寧に。ラストの主人公が抱く静かなライバル心と行動はとても美しい描写で良かったのですが、二人の対比をもっと明確にして、二人が会話の中で衝突するシーンなどがあれば、もっとドラマチックになったんじゃないかと思います。
太田垣康男
料理漫画や音楽漫画と同じく、アート系も読者に感動を伝えるのが難しいジャンルだ。読者が感動するのは「絵そのもの」ではなく、登場人物がどんな思いでその絵を描いたかの「意味」にある。本作ではその意味が非常に薄かった。見開きでどんな上手い絵を描いても、そこに人物の思いがなければ読者は感動しない。
乃木坂太郎
既存作品の影響が大きい印象を持った。しかし画力は今回で一番高いと思いました。コマ割りのセンスや目元のニュアンスで芝居ができてるのもよかったです。見開きのデッサンもいい絵が入ってると思いました。大衆向けの「けれん味」を身につければ凄く伸びるのではと期待しています! 早いサイクルで次回作を!
押見修造
じっくり丁寧に、言葉を使わず、情景を積み重ねて心情を表わしています。重要なところで逃げずに、正面から絵の力だけで描き切ろうとする姿勢に心打たれました。絵は独特ですが、魅力的だと思います。人物の想いがしっかりと伝わりました。
審査員特別賞「浅野いにお賞」 『センチメンタル・ジャーニー』
吉沢タクマ│25歳│埼玉県
賞金 50万円+掲載権
ストーリー 16歳の時、父に汚されたサキ。幼い頃から母に虐待されてきたマイ。意味もなく放り込まれた世界で生きる意味を得られずに、死にたい二人。街で出会った二人は、サキの父から盗んだ車で、海へとドライブに出かけるが…
浅野いにお
総じてキャラクターの表情が良く間の取り方も秀逸で、非常に読ませる力のある方だなと思いました。会話劇が中心なので展開の動きは少ないですが、詩的な会話が印象的で雰囲気も良いです。ただ、キャラの描き分けが弱い、説明不足な部分があるなど問題点も多く、とくにユリという女性キャラの登場が唐突に感じましたので、読者を置いてけぼりにしないように明確な伏線を張っておくなど構成を考える必要があると思います。この問題点は簡単に修正可能なことなので、センスのある漫画表現はそのままに、これからも作品を描いていってほしいと思います。
稲垣理一郎
絵の魅力が高い。この手の絵で、かつ女の子が可愛いというのはとても希少。あまりアートの方に寄り切ることなく、可愛さと両立させて、この武器を磨いていって欲しい。物語は、ちょっと欲張った印象。読み切りで深掘りは1キャラが精一杯。ちゃんと救いがあるのは好感度が高い。
押見修造
執念を感じる書き込みです。線の一本一本に念がこもっています。少女の造形も魅力的です。力を感じました。しかし、その力一点で押し通していて、少女達の心情は抽象的なセリフと回想、心情表現で表わしているので、わかるようでわからないもどかしさを感じました。終盤の回復していくシーンも、置いてきぼりな感覚になってしまって、惜しいなと感じました。
怖い場面の絵がとても魅力がある。3人の女子が出てくるんだけども、3人とも同じテンポ、同じボキャブラリーで話すので、全編を通して一人の人間が独白しているような印象。
山口貴由
怖い場面の絵がとても魅力がある。3人の女子が出てくるんだけども、3人とも同じテンポ、同じボキャブラリーで話すので、全編を通して一人の人間が独白しているような印象。
審査員特別賞「太田垣康男賞」 『失踪再走』
勝見ふうたろー│24歳│富山県
賞金 50万円+掲載権
ストーリー 仕事も趣味も大人も女も過去も未来も生きてることも… 全部やめたいと思った私。会社に向かわずに行き先もわからないまま、乗った電車の終点の岬から飛び降り自殺をしようと思ったところ、地元の女子高生に拾われて…
太田垣康男
ひねりのないお約束の物語だが、全編に溢れるユーモアと詩的な演出、人物のエモい表情が非常に良い。作者の根っこにある人間讃歌の精神も好感が持てる。日常系の漫画も良いが、次は作者の持ち味である躍動感が前面に出る題材へ挑戦して欲しい。次回作も是非読みたい。
乃木坂太郎
作風が明るいのは良いと思います。テンポと動きがあるので読み易いなと感じました。ただストーリーはありがちかなと。傷ついた心を田舎のスローライフが癒やしてくれる…というのは手アカがつきすぎているのでは。そこに作者ならではの新しい視点が一つないと印象に残りません。それにラスト「生きよう」とテーマを口に出しちゃうのはイマイチというか。その言葉を「マンガ」で表現してほしいんです。
山口貴由
都会で傷ついた心身を、田舎の自然と人情で癒やすというドラマのスタンダードナンバーを生き生きと描き切ったという印象。これはオリジナルを描くよりも誤魔化しの効かない、多岐にわたる技量を要す執筆だと思う。
押見修造
構図の取り方や演出が上手く、映画的な表現なども駆使する力があります。前半、アップの絵が続くので、多少窮屈さを感じていましたが、ラストでカメラが一気に引くことで、主人公の解放感を表現していて、意図的なものだったのかもしれないと感嘆しました。一方、ストーリーや心情描写はシンプルで、ストレートに主人公の再生を描いてはいるものの、もう少し生々しいところ、ひっかかりが欲しいなと思いました。
佳作 『公平で楽しい学校生活』
奥灘幾多│26歳│東京都
賞金 10万円+掲載権
ストーリー スクールカースト最底辺の女子高生・五味さんにとって学校生活、唯一の喜びは、顔がいい甲斐くんを密かに見つめることだった。しかし彼が下着泥棒をして、底辺に転落。これをチャンスと感じた五味さんは急接近するが!?
山口貴由
主人公の女子の気持ちや行動にがっつり共感できた。クラスの連中のふるまいなどもリアルだった。容姿に優劣なんて無い。そういうことにしておこうという、世の中の欺瞞を、マンガという世界に持ち込まない作者を僕は信用する。
奥浩哉
作者本人がねらっているかわからないが、大変笑えて面白かったし、グイグイ引き込まれた。
乃木坂太郎
ラスト主人公が校内でパンツを脱ぐのはよかったです。イジけた少女が積極性を獲得するのは好感を持ちました。ただこの作品における公平性とは何なのかなと。主人公の価値観は、結局外見でしか男の子を評価しておらず、委員長の少女が少年をフォローするのが自分より遅かった、など恋愛(変愛?)が早い者勝ちというルールでは公平とは言えないのでは…作者が作為的にこの主人公をアンフェアに描いたのかはわかりませんが、外見以外に内面の醜さをこの主人公に感じてしまいました。
佳作 『Light my fire』
伊豆田清貞│24歳│埼玉県
賞金 10万円+掲載権
ストーリー 2人1組で組織の殺し屋として職務をこなす薫と「兄貴」。私生活でもパートナー関係で同居もしている2人だったが、ある日、些細な口喧嘩があった数日後から突然「兄貴」が組織から失踪をしてしまい……
太田垣康男
生きた人間ではなく、人形の芝居を観ている様な奇妙な雰囲気の作品。独特な画風もまだ未完成な印象だが、創作を続けて何処に辿り着くかは興味がある。暴力表現に磨きをかけ、恐怖感が加わる事を期待したい。
稲垣理一郎
画力が高く、独特で、見せ方も上手い。単純にカッコ良く、とにかく次作が見たくなる。キャラの描き分けも良く見るとできているが、読みづらさで損をしている。コマ割り・構図・読者の目線をどこに置くか、などにもう少しだけ気を遣えば、なお素晴らしい物になるかと思う。
浅野いにお
最高でした。特にハードとコミカルの絶妙なさじ加減が、最後まで全くブレずに描かれ切っていることに感心しました。あとはもう好みの問題。才能は十二分にあると思います。長尺の連載と考えると、このままの作風では難しいかもしれませんが、他コンセプトの作品を描いたらどのような漫画が生まれるのかも気になるところです。
大豊作につき、新たに「賞」を新設!
奨励賞 『君は不思議な生命体』
小窓際│22歳│東京都
賞金 5万円
押見修造
画力が非常に高いです。単純明快、適切に読者を導き情感を伝える術に長けています。一方で、描きたくないシーンは飛ばして美味しいところだけ描こうとする姿勢を感じました。もっと丁寧に緩急をつけて人物の心情を描いていけば、より読者を引き込めるのではないかと思います。
奨励賞 『秘密の自由研究』
青樹凛│24歳│岡山県
賞金 5万円
稲垣理一郎
カワイ気持ち悪い、不穏な雰囲気が魅力的。キャラクターの意思だけで話を動かせているので、「どういうやつか」をもっと押し出して欲しい。演出力はとても高く、可能性を感じる。残念ながら画力が全く追いついていないので、そこが伸びてバランスがとれてくると、映える人な気がする。
奨励賞 『じゃあ、今日は何したい?』
日車みづうみ│23歳│大阪府
賞金 5万円
浅野いにお
非常に熱のこもった作画で、緊張感もあり、最後まで大きな破綻もなく描き切った良い作品だと思います。強いて言えば女子高生がなぜ主人公を選んだのかの必然性が感じられるともっと良かったと思います。あとは場面転換の際に大きいコマで背景の遠景などを挟んでいけば、もっと効果的なリズム感が生まれたと思いました。
奨励賞 『勧誘』
山本貴大│36歳│東京都
賞金 5万円
乃木坂太郎
若い女性がいきなり家にやってくるというパターンは新人賞の定番なので、これもかと思ったら意外な方向に! 少しクスッとしました。ただ不条理ギャグとしてはそれ以上ではない感じで、単に女の子がタナボタでやってくる話なんて信じられないよねーと逆張りしただけのように見えます。もっと積極的に笑えるネタを突っ込んでほしかったです。
奨励賞 『ごめんなさいの女』
小窓際│22歳│東京都
賞金 5万円
山口貴由
都合の良い女かと思ってたら、実は自分が都合良く使われていただけという教訓が残るのだが、「ごめんなさいの女」は「怖い都市伝説」として世の中に広まっていくようなメジャーキャラにしたいところ。最後の1コマで、もっとゾッとするような構成を見てみたかった。
編集長総評
第二回ビッグコミックスペリオール次世代新人マンガ大賞にご応募ありがとうございました。今回は青年漫画の最前線で活躍される7名の先生方に審査員をお願いしました。数ある新人漫画賞の中でも他に類を見ない錚々たる審査メンバーとなり、お陰様で、質・量ともに過去最大レベルの投稿作をご応募頂く結果となりました。審査頂いた先生方、投稿頂いた皆様に厚く御礼申し上げます。
特に今回受賞に至った大賞から佳作までの作品は、どれも相当の実力作で審査員の意見も割れましたが、主人公の時代性や存在感に高評価の多かった折田洋次郎さん『包丁を買う』が大賞となりました。「今、自分は何を描きたいのか」。個人的にも作者の衝動がストレートに伝わってきました。2022年から2023年へ移りゆくこの時期にぜひ読んで頂きたい作品です。大賞には本誌連載権がついております。審査員の意見を今後の糧として新連載につなげて頂ければと思います。
入選作の天海夏矩さん『春の炭』は瑞々しさと同時に堂々とした描写でまさに新しい才能の出現を感じました。
その他の受賞作については、各講評をご覧下さい。佳作までが本誌掲載となります(デジタル版のみの場合もあり)。文字通り、掲載されて十分の力作揃いです。
今回の新人賞の最初の募集告知誌面では審査員の先生方のデビュー作のカットを各々掲載しました。今のトップランナーにも新人時代があり、同時に、新人時代を全力で駆け抜けたからこそ今もトップを走っているのだということを感じて頂きたかったからです。
受賞された方々はまさにこれからが勝負です。受賞の可否が僅差のケースも多々ありました。今回、残念ながら受賞に至らなかった皆さんにもまた挑戦して頂ければと思っております。
スペリオールは新しい才能がどんどん入ってくる活気ある誌面を目指します。上手くなくて構いません。未熟でも構いません。あなただけにしか描けない、審査員、編集部員の価値観を揺さぶる投稿作を今後もお待ちしております。(編集長・寺澤)