週刊スピリッツ
2017.02.11
【単行本発売記念】大童澄瞳×りょーちも、魂のアニメ対談!【映像研には手を出すな!】
週刊スピリッツ
その作者・大童澄瞳氏が多感な頃から影響を受けているというクリエイター、りょーちも氏との特別対談をコミスンで公開!!
既成概念にとらわれない新世代の凄腕アニメーターにして、近年は演出家として2Dと3Dの垣根を越えたデジタル作画表現を追求するりょーちも氏と、同じく既成概念にとらわれない漫画表現が話題となっている新進気鋭の漫画家・大童氏の初邂逅は、実に4時間以上に渡る大盛り上がりとなりました。
ヒートアップしたその内容は、そのまま掲載すると読者が置いてけぼりに...! というわけで、ひとまずダイジェスト版をお届け。単行本と併せてお楽しみください!!
SF好きの原点
大童澄瞳(以下、大童) 漫画を描き始める前に、少しだけアニメを作っていたんです。当時流行っていた自主制作アニメで、あまりSFっぽいものが作られていないのが嫌だという、反社会的な思いで......。
りょーちも(以下、ちも) SFが好きなんですか? 科学が好きなんですか?
大童 科学が好きです!
ちも おお、通じますね! 自分もSF作家の名前はあまり知らないんですけれど、物理や科学が好きで、そういう要素で作品を観てしまうんですよ。以前、カメラをつけた人が成層圏からダイブする動画があって......。
大童 知ってます! アニメを作るのにだいぶ参考にしました!! いざ飛び降りる瞬間、アニメだと普通はタメのモーションが入るのに、何もなしでス~ッと落ちていくのが......。
大童氏による自主制作アニメ(部分)
ちも あれがリアル! あの落ちていく様子、存在そのものが説明になるんです。科学は何で好きになったんですか?
大童 ほとんど『ドラえもん』からですね。幼い頃、親の教育方針でテレビをアンテナにつなげていなくて。それでもっぱら観ていたのが、『第三の男』という映画のビデオだったんです。それで、『ドラえもん』の10巻を自分のおこずかいで買ったという。その後、家族でアニメのビデオをレンタルするようになって、『宇宙戦艦ヤマト』とか『未来少年コナン』を観たんです。
ちも ご両親がちょっと偏っている人だというのは、見えてきました(笑)。
大童 母が、「ルパンは緑まで」「ウルトラマンはセブンまで」という感じの人で。怪奇大作戦みたいなのが好きで、僕からの着信音はレッドキングで、姉からの着信音はバルタン星人っていう......。
ちも どんなお母さんなんだよ!(笑) 自分は関西生まれなので、読売テレビの「アニメだいすき!」という特番で、夏休みや冬休みに80年代、90年代のOVAをよく見ていたので、その影響でSF好きに。ウラシマ効果とか、アインシュタインの相対性理論とかは、ベタに『トップをねらえ!』から入っています。
大童 僕は『ドラえもん』で、浦島太郎が実在したか確かめるためにタイムマシンで過去にいくと、高度に発達した海底人がいて、亀に似た形の潜水艇に乗っているという話があって。(てんとう虫コミックス25巻「竜宮城の八日間」)
ちも やっぱり『ドラえもん』はSF要素をすごく文学的に解釈していて、さすがだなと思いますね。
アニメーションへの目覚め
大童 Flashアニメが全盛期の頃に、ちょうど引きこもっていて、ずっとネットを観ている内に、りょーちもさんのWebサイト「ちものと」に触れて、そこでGIFアニメを作り始めたんです。その後、『エウレカセブン』を観てかっこいいなと思って、吉田健一さんのWebサイトを見たら、自分がアニメを創るという発想が途切れてしまって......。
ちも 圧倒的な何かを見てしまったんだね。そこで留まってよかったですよ(笑)。
大童 でも、いよいよ自分でアニメを作らないと、このまま死ぬんじゃないかと思って作ってみたら、面白いなと。日の当たる所でなく、自主制作で細々とでもアニメーションを作っていけるはずだから......というところでアニメを作る様になりました。
ちも 目覚めてしまいましたね! 憧れて作っただけではスイッチは入らないんですよ。動画を描いていて、ある価値観に気付いたところで初めてスイッチが入るんです。そういうカットには、奇跡が起きているのが観てわかるんですよ。
大童 最初の頃に、戦車の同じ動きばかりを描いていたんですけれど、戦車が溝の手前でグッと止まってから、ブーンと土を巻き上げて走っていくというのを描いていて、すごく楽しかったのが頭に残っていて。
大童氏が初期に作ったGIFアニメ
ちも アニメの根本にようこそ! っていう。動きに対する価値基準って、自分の中の動きに対する感動なんですよ。それに気づいているアニメーターは、絵はなんでもよくて動きが描きたい、その「状態」を表現したいんです。絵を大好きな人には、これが理解できなくて、どうしても「キャラをちゃんと描こう」とか「ドラマをしっかり描かないと」みたいな感じになる。
大童 それは、いま漫画を描いていて担当さんによく言われていることみたいな......(笑)。
ちも それもわかるんですけれど、もっと根本にある「存在すること」とは何かというのが、動きアニメーターの大好きな要素なんです。そうすると、ドラマとか表情とかは、その上に乗っている付加価値みたいに思えてしまう。でも、動きだけ見せても誰にも通じないからね!(笑) ちゃんと付加価値を乗せないとセットにならないから、アニメーターは苦悩しているんですよ。
大童 なるほど...! う~ん......これはちょっとコーラが進んでしまう......!!
ちも ガブガブいっていいよ!(笑)
映像研の世界観
ちも 『映像研』を読んでいると、いったいどういう世界なんだろうって。舞台になっている学校には元ネタはあるんですか?
大童 コンクリートの劣化した感じとか、鉄製の手すりに塗られた緑色のペンキが剥げている様子とか、そういうイメージはあるんですけれど、特に場所は限定してないです。学校名の「芝浜」も、ただ落語からとってきただけで。
ちも なぜこういう作品を作るようになったのか、すごく感じるところが多いです。全体としては、すごい昭和なんですけど、舞台がどこなんだろうというのがわからなかったので、この人はどういう時空を生きているんだろうって。
大童 高校時代には、後輩から「あなたは第一世代オタクのコピーだ」って言われました。
ちも それを断言できる後輩もおかしいよ!(笑) 主人公を女子にしたのは何故なんですか? 男の子で描ける内容にも感じるんですけれど。
大童 僕としては、単純に女の子を描きたいというのもあるんですけれど......一方で、もうちょっと可愛く描いてくださいと言われるような女の子しか描けないというのもあって。僕が描いていて一番可愛いと思う顔は、たとえばこれとか......。
これ
ちも やばい!この人やばいですよ!(笑)
大童 これはもう、いつ眺めても、いやあよくやってくれたなあ、この顔! さすが俺! と言ってしまうくらいで......。
ちも これだけマニアックでディープなネタって、ふつう女の子から提供されることは少ないんですよ。でも、お話しを聞いている内に、それが状況的に当たり前のような環境にいたのが原因なのかなと思いました。
大童 僕自身、小さい頃からぬいぐるみとか、可愛いものが好きで。小学生の時に気に入って使っていたハムスターの下敷きを、女の子から「それって女の子用だよ」といわれて驚いたことがあって。男の子用とか、女の子用とかあるんだって。
ちも 確かに作品からジェンダーレスを感じましたね。作品に対しての作者の欲求、女の子がいいんだというほどの強いものを感じなくて、たまたま今回は女の子だったんです、くらいの女の子だったので、逆にそれが違和感でなんでだろうって。
大童 僕の中では男でも女でもいいので、たまたま主人公は女の子が描きたいという理由で、その子がすごくキュンキュンするような女の子である必要も、作品的に女の子である必要も無かったという。
ちも 最初のパラメーターがただ女性だっただけということですね。たぶん、お爺ちゃんお婆ちゃんでやってもいいかもしれない。人物に対するニュートラルな価値観を持てるなら、そこのチャンネルも狙える。新しいジャンルが作れます(笑)。
大童 そう言われると、何かひらめきみたいなものが。
想像/創造力の素
ちも 漫画を作る時は、文字でどれくらい作るんですか?
大童 文字では作らないです。
ちも ほとんど絵ですか。ストーリーとか最初のネームの描き方は? 設定を用意してからネームを描くのか、ネームを描いてから設定を用意するのか。
大童 ほとんどネームを描いてからですね。
ちも アシスタントは入ってるんですか?
大童 フルデジタルなので、専門学校の時のクラスメイトにデータで送って。あとは少し姉に手伝ってもらってます。姉は机に紙と鉛筆を置いておけば大人しいという子どもだったのですが、僕は中学まであまり絵を描かなくて。それで僕がやっていた時間のつぶし方というのが、壁に顔をつけて眺めていると、壁紙の凹凸が壁面についた街並みにみえるというのを......。
ちも 僕はね、手をこうして顔の前につけると、コクピットみたいに見えるので、その状態で頭を動かすと飛行機が旋回しているように......。
コクピット視点ごっこの図
大童 わかります!
ちも あとは手を戦闘機みたいにしてね、機首をあげて、機体をロールして、こういう気流にのってこういう運動するというのを。これをカメラでやるとね、すごいアニメの基になっているんですよね。
大童 僕は玩具をあまり買ってもらえなかったので、子供用のハンガーをメーヴェに見立てて、モモンガのぬいぐるみを載せて『風の谷のナウシカ』のコルベットに追いかけられるシーンを......てれれってってて~♪というのをずっとやっていて。
ちも やべー! それはやってない! よく開発しましたね(笑)。強制的に想像力を活性化させられると、クリエーションに繋がりやすいですね。
大童 その一方で、絵はなんでも自由に描けちゃうので、そういう制約が足りなくなってくるというか。だからちょっと供給するために、玩具を買わないと仕事にならないなって(笑)。
『亜人』で得た確信
ちも 『亜人』を作ったときに確信めいたものがあって。いままでアニメを作っていて、こう撮りたい、ああ見せたいというのしかなかったんです。『亜人』では、このシーンにはカメラを何台もっていく、このロケ地に何台カメラを用意できるかという発想を獲得できたんです。実際にそのシーンを撮る時のリアルが今までなかったんですよ。絵だからどうやっても録れたんです。それが限られたカメラを考えて配置して、それで撮ったものを編集すると、かっこいい。アニメ関係ない!かっこいいって。
大童 『亜人』を観たときに、いままで観ていた日本のCGアニメと違うところで、別の何かが動き出したなって。
ちも あれは、実写のドラマがアニメに進出したような感じの視点の設計で見たんですよ。どちらからでもアニメは作れるよ、アニメは見せ方のただの副産物ですよという方向性が仕掛けられたので、この方法は攻めれるぞって。
大童 ああもう楽しいものが世界に増えちゃって......
ちも こっちは、業界に対して攻撃を仕掛けているんですけれどね。ほらCGでもふつうにテレビシリーズ作れましたけど、普通にアニメ作ってみんなジリ貧になるのはおかしいですよね、ちゃんとやりましょうよ、みたいな方向にもっていけないかな、みたいな(笑)。
大童 僕もパソコンがなかったら漫画もアニメも作れなかったような人間で、そういうサポートを得てようやく創作意欲を発揮できるところがあるので、アニメーターが苦しくても熱意があるからこそ、高品位のものを産むというのは絶対嘘だと思う。楽な環境でいい待遇にしてあげれば、もう全人類の度肝を抜くような凄い奴がぜったいいる!
ちも そいつは極端だよ! そうなったらみんなだらけるよ!(笑)
大童 そうなんですよね...。
ちも できれば野球選手みたいに高給取りでみんなの夢の職業みたいになりたいところなんですけれど。何年も地獄に耐えた人だけが上にいける厳しい世界なんです、というのを自分は夢物語のようには言えないというだけなので。もうちょっと、みんながなりたい商売にしましょうという方向にもっていきたいなっていう。
僕の中の地図を作ってくれた
大童 今でも道に迷ったりした時には見返すくらいなんですけれど、りょーちもさんが「ちものと」で公開していた『旅』というシリーズを見た時に、単純な線でもちゃんとやれば空間が生まれるんだと気付いて。その時の感動が後に『未来少年コナン』を観たときに繋がったんです。ハイハーバーでジムシーがでっかい豚を追いまわすところで、ただの野原に石が置いてあるだけで、空間になるんだっていう。最初に衝撃を受けたりょーちもさんとは別の人が作った作品に、同じものを見つけて、これは体系的に何かあるんじゃないかという吸収の仕方が迷わずできたのは、「ちものと」が僕の中に地図を作ってくれていたんだなって。本当にありがとうございます。
ちも あれはスペースを作っていたんです。自分は廃墟が好きなんですけど、感動したのは廃墟の本とかでなくて、廃墟のWebサイトだったんですよ。カメラマンが廃墟の中をうろうろしながら撮っている写真を連続で見ていて、この階段とさっきの場所が繋がっているのか、じゃあその上に写っているのはあの場所だ、というのが分かって、ああ繋がっているんだと感動して。その「空間がある感」は「臨在感」という観念の一つだと教えてもらって、自分がずっと描きたかったものはそれだったんだと気づいたんです。当時からWebサイトでやっていたことも、それを獲得したかったんだと。空間ラブに気付いてもらえてすごく嬉しいです。
大童 いまの話を受けて、『映像研』に出てくる部室の見取り図を描いてカメラワークとかを考えたいなと思いました。高校で映画を撮っていた時間の方が長いので、いまの話をきいて、よしもういっかいやるぞって。
ちも じゃあ、いいソフト教えるので、見取り図から3DCG作ってくださいよ!(笑)
大童 あああ...!(笑)
ちも 大童さんは吉田健一さんが好きだと聞いたので、自分が吉田健一さんから言われた言葉を、伝えておきます。
大童 はい。
ちも 「だいたいその人の人生は、34歳までに何をしたかで自分が決まる」です。つまり、すべての結論は34歳以降に出ます。それまでにやったことが全てを決めるので、やり遂げてください。
大童 ありがとうございます......。しかとうけとめて、今度また人に伝えられる年齢になったら、その時にまた後世に伝えていこうと思います...!
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想像力が暴走する、アニメ制作JK青春冒険録! 大童澄瞳『映像研には手を出すな!』/アニメ評論家・藤津亮太のアニメな?マンガ【第4回】
りょーちも
アニメーター/イラストレーター。ゲーム会社勤務を経て、2004年『BECK』で原画デビュー。『創聖のアクエリオン』(2005年)『かみちゅ!』(2005年)など数々の話題作に参加する中、『ノエイン もうひとりの君へ』(2005-2006年)で見せたアクション作画でアニメファンの注目を集める。同作品の赤根和樹監督による『鉄腕バーディー DECODE』(2008年)とその続編『鉄腕バーディー DECODE:02』ではキャラクターデザイン、総作画監督として抜擢され、大きな話題を呼んだ。[OVA『夜桜四重奏~ホシノウミ~』(2010年)で監督デビューを果たし、以後『亜人』(2016年)等で演出家としてその才能を発揮している。現在、東映アニメーションにて4月スタートのアニメ『正解するカド』を絶賛制作中。
大童澄瞳
1993年神奈川県生まれ。高校では映画部に所属。東洋美術学校絵画科卒業後、独学でアニメーション制作を行う。その後、漫画を描き始め2015年、コミティア111に出品した作品でスピリッツ編集部員に声をかけられ、「月刊!スピリッツ」2016年9月号にて『映像研には手を出すな!』で連載デビュー。
(取材・構成:平岩真輔)
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映像研には手を出すな! 1 大童澄瞳
関連リンク
『映像研には手を出すな!』作品詳細ページ
スピリッツ公式「スピネット」
【初出:コミスン 2017.02.11】
りょーちも,大童澄瞳,対談,映像研には手を出すな!,月刊!スピリッツ