2022.05.09
『15分の少女たち』単行本発売記念対談:渡辺淳之介×かっぴー
BiSH、豆柴の大群などを手掛ける気鋭のプロデューサーと『15分の少女たち』原作者が奇跡の邂逅! 「アイドルのつくりかた」を語り尽くす!!
※本インタビューは、週刊ビッグコミックスピリッツ23号(5月9日発売、発行/小学館)に掲載されたものを再編集したものとなります。
インタビュー・文●田口俊輔
・渡辺淳之介
2014年にマネージャーを行なっていたBiSを横浜アリーナで解散させた後、音楽事務所、株式会社WACKを設立。 以後、BiSH、BiS、豆柴の大群などのプロデュース、作詞、マネジメントを担当。さらには 自社制作の映画の興行やアパレルブランド "NEGLECT ADULT PATiENTS"を立ち上げるなど音楽にとらわれない活動も行っている。
・かっぴー
漫画家、漫画原作者。株式会社なつやすみ代表。武蔵野美術大学を卒業後、大手広告代理店のアートディレクターとして働く。WEB制作会社のプランナーに転職後、趣味で描いた漫画「フェイスブックポリス」をnoteに掲載し大きな話題となる。2016年に漫画家として独立。代表作に『左ききのエレン』。
■渡辺淳之介、雨宮Pに共感! 「コイツ、次何やるんだ!?」
――BiSHや豆柴の大群、AKB48・柏木由紀さんとのコラボなど、アイドル界に風穴を開け続ける渡辺さんですが、まずは『15分の少女たち』を読んだ感想をお伺いさせてください。
渡辺 僕の好きな『左ききのエレン』の作者でもある、かっぴーさんを前にして言うのは恥ずかしいのですが、「さすが、よくわかっているなあ」と感心しました。
かっぴー 本当ですか!? ありがとうございます!!
渡辺 特に、プロデューサーの雨宮の心理がわかる気がして。やっぱり嬉しくなっちゃうんですよ、過呼吸で倒れる子が現れると。「やっべー! よい画になる!!」って(笑)。きっと読者はアイドルたちやマネージャーの小林君に感情移入すると思うんです。けど僕はやっぱり雨宮に感情移入しますね。「コイツ、このあと何やるんだ?」って、次の行動を予想してハラハラしちゃうぐらい。
かっぴー 嬉しいなあ。渡辺さんに褒めていただけるのは本当に幸せです。
渡辺 いえいえ。ただ正直言うと、わかりすぎるあまり1・2話で雨宮が過呼吸になった子(アイカ)をカメラで撮る場面は「ここは描かないで!」と思いました。雨宮と僕の発想は似ている部分があるので、裏側をこれだけ丹念に描かれると、この先、僕がやりづらくなるので(笑)。
かっぴー アハハ! 困らせてしまいましたか(笑)。
■どれだけ仕掛けても 結果は神のみぞ知る
――作中での雨宮同様、渡辺さんも人の心を揺さぶる様々な仕掛けを展開されてきました。その中で会心だったものはなんでしたか?
渡辺 アルバム『THE GUERRiLLA BiSH』発売に合わせて、タイトル通り全ての販促をゲリラ展開した時ですかね。大阪の道頓堀で船上ライブをしたり、六本木でのゲリラライブをテレビで急きょ発表したり、全国のTOWER RECORDSで二日間限定299円で発売したり…その一つ一つの点が重なり線になったときは嬉しかったし、それが飛躍のキッカケになったんですよね。
――作中で雨宮が「数多くのアイドルを手掛けたことで“物語”を読み尽くしてしまい、仕掛けの結果が読めてしまうようになった」と語る場面があります。渡辺さんもご自身の仕掛けの反応は読めますか?
渡辺 いやあ、読めないなあ。たぶん僕たちがどんなことをしても、「最高!」と言ってくれるファンは目算で2000人ほどいて、その人たちの反応はなんとなく読めます。ただ、それ以外の方を相手にするとなると、イレギュラー的な要素に頼るしかない部分があって。たぶん雨宮は「この番組に出れば、この層に刺さる」というのが読めちゃって、簡単にマスを先導できる人なんですよね。けど、実際はその読み“以上”のことをしなければヒットを生むのは難しくて。さっきのゲリラ展開も、正直本当に偶然が重なって成功したものですし。
かっぴー 僕も新作を出す際、過去から応援してくれている人や宣伝での努力分を考慮することでなんとなくの売れ行きは予想できますが、その先のハネ方だけはどうやっても神のみぞ知る世界で。じゃあ、予想の先を行くハネ方を狙うにはどうするか? 努力できる部分をひたすら全力でやるしかないんですよね。
渡辺 本当に(頷く)。なぜ成功したのか?と、のちのち理由を探してみるものの、結局答えは見つからない。だから、ひたすらやる以外ないんですよね。
■売れるアイドルに必要なもの それは「運」と「圧」
――大喜利めいた質問ですが、売れるアイドルを作るうえで、お二方が考える「秘訣」を漢字一文字で表すとしたらなんでしょう?
渡辺 …パッと思い浮かんだのが、「運」ですね。そう思わせてくれたことが二つありまして。一つ目はこの前、BiSHのアイナ・ジ・エンドとご飯を食べていたら、彼女がふと「BiSHに入っていなかったら、今も変わらずライブハウスで5人のお客さんの前で歌っていたと思う」と語ったんです。彼女はもともとシンガーを目指していて、アイドルという選択肢がなかった子で。夢をつかむキッカケの一つとしてBiSHに入り、活動を通じて自分の才能を開花させ、今では「コラボしましょう!」と周囲から引っ張りだこになりました。二つ目が、僕の先輩の結婚式での話。BiSHも世話になっていたので彼女たちも二次会から参加することになって。そこで開かれたビンゴ大会、1位から6位を全部 BiSHが獲ったんですよ。
かっぴー それはすごいですね(笑)!
渡辺 5年以上前の売れていない頃ですが、その瞬間に「あ、この子らは売れるな」と思いました。もちろん売れるには実力が必要ですが、「運」がその実力を花開かせる気がしていて。
かっぴー 僕は「圧」かなって。アイドルは周りからの「圧」に耐える存在であり、それに加えオーラという意味での「圧」を発する存在ですよね。オーディションが最たる例で、何百、何千と候補者がいる中、目につく子は特別な「圧」を発していると思うんです。
渡辺 本当に。そういう「運」や「圧」を持っている子は…口で説明しづらいのですが、歌が下手でも踊れなくても、最初から後光が差しているんですよね。一方で「運」や「圧」を途中で持ち始める子もいるから判断が難しくて。BiSHも最初は本当にチンチクリンな普通の子たちだったんです。それが7年間活動を続けてきたことで、周りから「オーラがあるね。売れる要素しかない」と言われるまでになって。揉まれ続けて磨かれていくこともあるんだなあと思いましたね。
かっぴー 期待されて、その期待に応えて…の繰り返しを経て、可視化できない魅力が増していくんでしょうね。
渡辺 そうですね。その見えない「運」や「圧」を持った子を輝かすために、僕はとにかくこの先も仕掛け続けるしかないなと思っています!
≫渡辺淳之介Twitter @JxSxK
≫かっぴーTwitter @nora_ito
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