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週刊スピリッツ

2022.04.25

第一回スピリッツ新人王開催記念 魚豊氏インタビュー 後編

週刊スピリッツ

その2 アドバイス編

 

 ビッグコミックスピリッツの月例新人賞「スピリッツ賞」がリニューアル!半期に一度、最前線で活躍する漫画家さんが審査員長となり、最も面白い投稿作を決定する「スピリッツ新人王」が始動しました。記念すべき第一回審査委員長は、禁じられた真理を探求する人々を描いた一大叙事詩『チ。―地球の運動についてー』作者・魚豊(うおと)氏。

 後編となる本項では「描いているけど評価されない」「うまく描けなくなった」「これから漫画を描きたい」という未来の漫画家たちへ、最前線からの具体的かつ実践的なアドバイスをお届けします。

(インタビュー=輔老 心)

 

Q. 今回 審査をされる上で、評価の基準はなんでしたか?

 

 一番重視したのは、オリジナリティーです。それは審査基準というより、普通に読者として漫画を読む時、考えるまもでもない前提ではありますが。

 たとえ全ては何かの引用でしかないとしても、露骨に既に世にあるものの「上手な繰り返し」でしかない表現は、自分はあまり好んで見ないと思います。 では、オリジナリティーとは何かと問われれば、その一つは「描いている人の本音」じゃないでしょうか。

 矛盾する様ですが、当然本音だって本当のオリジナルなわけじゃない。文化や他人、環境の影響を強く受けて作られるものだし、多分人間の感情なんて4.5種類くらいしかない。 でもどんなに陳腐で繰り返された感情でも、本音であることが読者に伝われば、きっと新鮮に感じさせられるはず。「好き」って感情でも100人の人が言えば、100通りの言い方、声色があるわけですから。

 だから、描き手には自分の本音を書き出す作業が大切だと思います。日常生活では嘘をつかなきゃならなくても、漫画の中ではいくらでも本音を言っていい。それが創作のいいところで、せっかく漫画家をやっているんだったら、自分自身の本音を作品に出すと楽しいと思います。

 繰り返しますが、それはどんなに陳腐でもいい。 きっと同じメッセージでも、違う人が繰り返し伝えることにこの世に物語が存在する意義があるのだと思います。

 今回読ませていただいたどの作品もそこは達成してる気がしました。その上で更に「さぁ、ここから」という期待感もあった。 なので今後とも胸熱です。

 

▲新人王ノミネート6作品はこちらから→「第1回スピリッツ新人王結果発表!!!!

 

Q. 新人作家時代にどういう事を考えていましたか?

 

 自分がまだ連載を取れていない時代は「僕が連載作家や過去の偉人たちに勝てる唯一の事は、死ぬほど時間がある事だ」と思ってました。それだけしかないとしても、それはとんでもないアドバンテージだと感じます。

 だからそう言った時間にベタに映画とかを見るのはいいと思います。僕は全然本数を見てる方ではないのですが、やっぱりアカデミー賞受賞作なんかは面白いのが多いし、漫画を読むのと違ってどんな名作も大体2時間で終わるので、短時間で話の骨組みをどう作っているのか学びになる。

 あと、これはデビュー前も今も変わらないのですが、(それがいい事なのかわかりませんが) 僕は、自分を追い込まないように楽しくやろうと思ってます。 タイプにもよるでしょうが、追い詰められたら萎縮する方なので(笑)

 あと普通に睡眠を取ったほうがアイデアも湧いてくると思いますし、強制された訳じゃなく自分が好きで漫画を描いてる訳だから、そこまで切迫して描かなくてもいいと思います。どうせダメだったら打ち切られて終わるだけです。

 それと、新人時代はたとえば編集さんに何かを言われた時に「なんか違うんだけど…」と思う事はよくあると思いますが、そこがきっと作家性なのだと思います。「違う」と思った時は、そこに"自分"があると思うので、それを考えて潜って、深めた先を伝えられると最高です。 当然それがなかなか難しいので、その方法は僕が教えてほしいですが(笑)。 突っぱねた方がいい意見と受け入れた方がいい意見、その判別が本当に難しいけど重要です。

 

Q. ストーリーやキャラクターを面白くする秘訣があれば教えてください。

 

 僕にとって面白い物語にはいつも似たような共通点があります。それは「コンフリクト(葛藤)」と「オブセッション(強迫観念)」が描かれている事。この2つは緊張感を出すのに一役買う上に、感情移入させやすいと思います。「作中人物が何に強迫観念があって、何に葛藤しているのか」―― ここを明確に設定するだけで、一気に興味深いキャラクターができると思います。

 漫画を描こうとしている際に、「キャラが大事だから、まずキャラの履歴書を作れ」って言われる事がよくあると思うんです。でも好きな食べ物や、生年月日や、身長なんかをいくら書き出していっても、それはただの記号でしかない。勿論そういった記号こそがマンガの本質でありラディカルさなんだ、と言う意見もあると思いますが、僕はそっち方面の才覚がまるでないので、ここでは僕がやってるキャラクター作りの方法を話すと「キャラが何を恐れているか、何に葛藤しているか」を考えると話を作りやすい。

 たとえば頭がいいキャラを設定した時、偏差値70とか言われても読者である僕にはまったく関係ない。でもそのキャラが「頭のいい行動」をすれば読者と関係が生まれる。そういう感情移入へ最も持っていきやすいのがコンフリクトとオブセッションだと思います。読んでて当事者性が生まれるし、同意はできなくても理解ができれば、読者とキャラに関係が生まれる。

 さらに、そういう読者との距離を測れる様になれば、あえて突き放すという異化効果も使える様になる。そういうのを使いこなせればいつか作劇王になれると思います。僕もそうなりたいです。

 とはいえ、さっき言った様に記号そのものが面白いというタイプの作家さんや読者さんもいると思います。(それはそれでマジで奥の深い世界だと思います)
なので「何が描きたいか」が「どんなキャラクターを生み出すか」に先立って重要です。

 また作劇においては「逸脱と反復」という要素を意識する事も重要だと思います。人には「逸脱」が好きな人と「反復」が好きな人がいると思いますが、僕はこの境界線上にある作品が一番新しくて面白いと思う。

 逸脱しすぎると、文脈を知らないとチンプンカンプンで理解できない。逆に、反復は過去と同じ事の繰り返しなので、そちらに寄りすぎると「前にもあったな」と新鮮味のないものになる。

 なので「逸脱と反復がせめぎ合うギリギリのライン」に面白さがあると思います。そしてその逸脱と反復は、作家性と大衆性という言葉にも置き換えられると思います。そこを程よくバランスしていくことが重要だと思います。

 我ながら抽象的すぎて、何か言ってる様で何も言ってない感じになってきました。「バランスってそれどうやんだよ!」とか聞かれたら、僕も全然わからないので今後とも描きながら勉強していこうと思います。

 

Q.自分の描きたいものと世間でウケそうなものの間にギャップを感じた時、どう考えれば良いですか?

 

 まず前提として思うのは「マス(大衆)は優れた感性を持っている」という事です。

 勿論、規模にもよりますが、マスは鋭い。だから「マスはきっとこういうものが好きだから」という思い込みに基づいたマーケティングのような観点から作品作りをする事はあまり得策ではない気がします。作者の本音が見えない、オリジナリティーのない作品になってしまいますし、実は競争率が高くて効率が悪いんじゃないかとも思ってます。

 なので、描きたいものと世間ウケにギャップがあれば、それはむしろ一歩秀でた武器なので、それこそ編集さんと打ち合わせて、自分の本質は曲げずに読みやすくしていったら良いと思います。

 また、そこで"自分の好きな作品"というのが大きな一つの指標になると思います。

 僕がラッキーだったのは「マスに受けやすいものがめちゃくちゃ好きだった」ってことなんですね。つまり好きだった物が売れてた。『寄生獣』(岩明均)とか『賭博黙示録カイジ』(福本伸行著)とか『ピンポン』(松本大洋著)、『闇金ウシジマくん』(真鍋昌平)みたいな、表現が尖ってるけど、全部がめちゃくちゃ売れていた。

 それはデビュー前の僕にとって希望でした。「『カイジ』や『ウシジマ』をベストセラーにする読者って凄いぞ!」と、僕が再現できるかは分からないけど、少なくとも僕が好きなものの方向性は間違ってないと自信になったんです。ニーチェやドストエフスキーだって、世界中で長い間、信じられないくらい読まれてますしね。

 仮に歴史に残っているものを全部くだらないものだと思っていたら「売れる事、評価される事なんてくだらないな」と思っただろうけど、実際、歴史的に評価されているものは本当にかけがえのない作品ですから、その事で、"読者"に対する敬意というか畏怖というかが生まれました。

 だから、この質問に立ち返って「好きなもので売れてるものがなく、且つ売れたい」という欲望を持っている人に言える事があるとすれば「どんなものでも5万人とかの規模だったら評価してくれる人はいるだろうから、いける!」という事と、「もし本当に売れてるもので好きなものがなくて、でも売れようとしてるというのは、それだけで超オリジナルな存在だから、いける!」という事です。

 

Q. 最後に、後続の漫画家さんたちに託したい言葉は何ですか?

 

 僕は読切でデビューしてから、連載を始めるまでに全然ネームが描けず苦悩した時期がありました。その時よく思い出した言葉があります。『ひゃくえむ。』の読切版を描いたときに、特別審査員だった先生の言葉です。

「誰にでも絶対ネームが描けない日が来る。絶対に止まる。絶対に悩む日が来る」

 先生は、それが「どう解決できる」かは言いませんでした。ただ予告してくれたんです。

 それが希望でした。きっと具体的な解決方法を提示されていたら、いざそれを試してネームが描けなかった場合、挫折してたと思います。

 でも出口は言わないけど、その状態になることだけを予告してくれた。この告知があったから、自分にその日が来た時に、不安だけど頑張れた。

 描けない事はおかしな事じゃない。みんな、ここをそれぞれのやり方で乗り越えたんだ。と思えました。だから今、同じ悩みをもっている人に、(あと将来ネームを描けなくなった自分にもう一度)同じ言葉を言いたいです。

「絶対に描けない日は来る。それが結末じゃない」

 

(了)

>>インタビュー前編はこちらから


 

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