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ビッグスペリオール

2026.08.12

第3回 スペリオール 新人作家 大賞 審査後インタビュー 奥浩哉氏

ビッグスペリオール

――今回審査された作品を読んでみて、どのような印象を持たれましたか?

全体的に読みやすい作品が多くて、僕はわりと好印象でした。最近はセリフが多くて細かいコマをぎゅっと詰め込んだり、背景があまり描かれていないことで読みにくく感じる作品もあります。その点、今回はオーソドックスなコマ割りで、背景もしっかり描かれている作品が多かった。キャラクターがどこにいて、どういう状況なのかもきちんと伝わってくるので、無理なく読み進めることができました。

 

――そうした読みやすさに加えて、読者を惹きつける作品を描くために参考になるものはありますか?

僕は映画を見るのが一番だと思います。特にハリウッド映画のような、大衆向けのエンターテインメント作品ですね。そういった作品には「これ、面白そうだな」と誰もが思える発想があるんです。今描いている『還暦姫』なら“還暦近いおじさんが女の子になる”という設定で興味を引く。そういう着想こそが、エンターテインメントの核なんだと思います。

まずは強い発想があることが大事。そこがしっかりしていれば作品の方向性も自然と見えてくるし、それをきちんと表現できれば面白い漫画になると思います。

 

――映画と漫画では表現方法が異なりますが、映画から受けた影響は、どのように漫画へ落とし込めば良いのでしょうか?


自分が面白いと思った映画を、漫画でどう表現するかを考えるんです。例えば、見開きやページをめくる演出に置き換えながら、映画で感じた面白さを漫画で表現していく感覚です。

ただ、映画から取り入れているのは、そういう演出だけじゃないんです。どう見せたら驚くのか、笑うのか、泣くのか……。読者の感情をどう動かすかという部分は、僕はかなり映画の影響を受けています。

冒頭のつかみも、その一つです。最初の5分くらいで観客を一気に引き込む映画ってあるじゃないですか。例えば「AKIRA」なら、冒頭のバイクチェイスだけで、この世界の空気が伝わってくる。物語の本筋とは別でも「この世界に入ってみたい」と思わせる力があるんです。

だから、『還暦姫』や過去作の『GANTZ』『いぬやしき』も、第1話は映画の冒頭5分のようなものだと考えて、「続きが気になる」と思ってもらえるよう意識してきました。

 

 

――ちなみに、新人時代はどれくらい映画をご覧になっていたのでしょうか?

1日10本見ていた時もあります。当時はレンタル店で10本借りると1000円になるサービスがあったので、毎回まとめて借りていました。見終わったら次を再生する……その繰り返しです。

僕は16歳の頃、「週刊少年サンデー」で描きたくて賞に応募し、佳作をもらって担当もついたんですが、なかなか描けなかったんです。その後、「スピリッツ」の担当さんに変わり、その流れで山本直樹先生のアシスタントになったんですが、それでもしばらくはまったく描けない期間が続き、映画ばかり見ていました。

でも、その間に描きたいものがどんどん溜まっていったんです。それで改めて「ヤングジャンプ」の新人賞に応募して『変』で入選し、すぐに連載が決まりました。そう考えると、あの描けない時期に映画を見続けたことは、自分にとってすごく大きかったと思います。……さすがに当時みたいに1日10本ということはないですけど、今でも映画は1日に2〜3本くらい見たりします。

 

――映画は、やはりハリウッド作品を多くご覧になっていたのでしょうか?

そうですね。特に少し古いハリウッド映画は物語の文法がしっかりしているので、とにかくたくさん見倒して、その作り方を自分の中に染み込ませる。それが一番早いんじゃないかなと思います。観客をどう物語に引き込み、感情を動かすかが徹底的に整理されているんです。その土台があるからこそ、新しいアイデアが生きる。

一方で、新人作家の作品を見ていると、「何気ない日常や感情を切り取りたい」というところから始まっているものも少なくありません。でも、それだけでは読者を強く引き込むのは難しい。

だからまずは、多くの人に届くエンターテインメントを意識した方がいいと思います。邦画にももちろん魅力的な作品はありますが、勉強するならハリウッド映画。王道を徹底的に吸収した上で、自分らしさを加えていくのがいいんじゃないでしょうか。

 

 

――そうした映画体験は、現在連載中の『還暦姫』ではどのように生かされているのでしょうか?

『還暦姫』もデビュー作の『変』もそうなんですが、大元のアイデア自体は昔からあるものなんですよね。

 

――『変』は奇妙な感染症によって男子高校生が女性に、『還暦姫』は還暦間近のおじさん6人のうち誰かが女性になる物語です。

「男の子が女の子になる」というネタなら、弓月光先生の作品をはじめ、昔からすでに世の中にたくさんあるじゃないですか。でもそうではなくて、「何を描くか」よりも「どういう演出で描くか」に新しさがあると思っていたんです。

例えば、『らんま1/2』みたいにお湯をかぶったら魔法のようにボンッと性別が変わる作品はある。でも、男の子が少しずつ女の子の身体に変化していく過程を描いた作品は、あまりなかったんじゃないかと。そこで、『変』の時に頭に浮かんだのが、クローネンバーグの映画「ザ・フライ」でした。人間が少しずつハエへと変化していくホラー映画なんですが、その感覚をTS(性別変換)ものに持ち込んだら面白いんじゃないか、と。

 

――そういう時に、これまで見てきた映画のストックが生きてくるんですね。

結局、大まかなアイデアそのものよりも、それをどう料理するかなんです。同じ題材でも、「こういう見せ方をした作品はなかった」というところに新しさは生まれる。それこそがアイデアだと思います。

 

――ちなみに、そうしたアイデアが湧いてくるのは、いつどんな時なのでしょうか?

本当にふとした瞬間ですね。シャワーを浴びている時や散歩中、タクシーに乗っている時だったり……。

 

――アイディアが降ってくる……?

はい。

 

―常にアイディアを考えているから、面白い物語を生み出せるワケですね。
 貴重なお話をありがとうございました。最後にお聞きします。今はSNSなど作品を発表できる場が増えていますが、もし奥先生が今の時代に漫画家を目指すとしたら、どんな方法でデビューを目指しますか?

今だったら、COMITIAの出張編集部に行って、自分で作った本を見せているかもしれないです。新人の頃って、ページ数を気にせず描きたいものを描きたいじゃないですか。僕もそうでした。でも今振り返ると、単純に力量不足で短くまとめられなかっただけなんですけど(笑)。だから、COMITIAみたいに自由度の高い場所はすごく良いと思います。ただ、振り返ってみると、僕自身は商業誌に応募して担当がついて、山本直樹先生のアシスタントになったという道が結果的にはベストだったと思います。

週刊連載の現場がどう回っているのかを間近で見られましたし、山本先生の個性的な蔵書もたくさん読むことができた。あの経験は今の自分にすごく大きな影響を与えていると思います。

 

――スペリオールの新人作家大賞に応募する方へのメッセージをお願いします。

僕は今「スペリオール」をすごく気に入っているんですよ。同世代の作家が多くて、みんなすごく元気に面白い漫画を描いている。読みやすいけれど刺激もあって、雑誌全体に勢いがあるんです。

今回応募してくれた方たちも、きっとそういう「スペリオール」らしさを意識して作品を作ってくれたんじゃないかなと思います。わかりやすくて読みやすいけれど、ちゃんと面白い。そういう作品が多かったですからね。

「スペリオール」は今ある漫画誌の中でも、かなり尖ったことに挑戦している雑誌だと思います。元気がある雑誌なので、これからも挑戦する価値は十分あると思いますよ。

 

奥浩哉氏 PROFILE

1967年生まれ、福岡県出身。
1988年、『変』(集英社)にてデビュー。代表作は『GANTZ』『いぬやしき』『GIGANT』など。本誌で『還暦姫』を連載中。

 


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