2018.11.15
哲学って実はカジュアル!? 『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』コミカライズ単行本化! 原作・原田まりる氏インタビュー! #ニー哲
モバMANにて連載中のコミック『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』 (原作/原田まりる、作画/荒木宰、キャラクター原案/杉基イクラ)上巻が、2018年11月12日に発売!
『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』
原作/原田まりる、作画/荒木宰、キャラクター原案/杉基イクラ
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原作となった小説を書いたのは、作家・哲学ナビゲーターの原田まりるさん。とっつきにくいイメージのある哲学を楽しくわかりやすく物語にした作品は大反響を呼び大きな話題を呼んだ。原田さん自身、哲学と出会うことで人生が変わったひとり。哲学に対する原田さんの情熱、そして哲学の面白さに迫った。
ニーチェとの出会いで人生が変わる!?
──『ニー哲』は、タイトル・設定からして「一体どんな話なの?」と興味そそられる本ですね。原作小説を執筆することになった経緯を教えてください。
ダイヤモンド社の編集さんから声をかけていただいたのがきっかけです。私には現代主義なところがあって、哲学者たちを擬人化......というと変なんですけど、現代で生きるようにしてみたくて。古いものを古く書くのではなく、現代の人々が読んで親しみを持ってもらえるような切り口で書きたかったんです。
──100年以上前の哲学者たちが現代に蘇る設定は、異世界転生モノとも言えそうです。
向こうからこちらにやってくる逆・異世界転生みたいな......(笑)
──ニーチェをメインに据えた理由は?
ニーチェの名は日本ではとても浸透していて、日本における哲学のアイコンになっているのではないでしょうか。私はそれを「哲学界のセンター」って読んでます(笑)。哲学になんの興味もない人でも、ニーチェと聞けば「ああ、哲学者の」とわかりますから。
わりとアグレッシブにぶっこんでくるニーチェ
──哲学界のトップアイドルというわけですね(笑)。発売3日後には重版決定、読者の反響も大きかったそうですね。
本当にありがたいことに......嬉しかったです。「彼らの考え方をもっと早くに知りたかった」というご感想をいただくことが多いですね。『ニー哲』と一緒に売れてる本はなぜか『コロコロコミック』らしくて、きっとお子さんがいるお母さんもよく買っているんです。親子で読む方も多いようですね。それとビジネス書の購入層である男性。
──ここまでわかりやすくするにも色々と苦労があったのでは。
この本は哲学をテーマにしているけれどアカデミックな小難しい内容ではありません。わかりやすさを求めるなかで本来の意味とかけ離れないように気をつけています。一方で元の文章に寄りすぎてしまうと、時代背景も全く異なるので、わかりにくくなってしまう。常にバランスを意識しながら書きました。そういった面で大学で哲学を教えている先生方から内容をお褒めいただいたのは嬉しかったし、安心しましたね。ゼミで使ってくださったり、著書で推薦してくださっている先生もいらっしゃる、とお聞きしました。
──漫画化はどのように決まったのでしょうか。
編集の有藤さんからTwitterでDMをもらったのが始まりです。How toモノはコミックのライトユーザーにも人気があるようで、哲学をわかりやすく楽しく読んでもらえるかなと。だから大幅なアレンジを加えるのではなく、基本的には原作に沿ってお話を展開しています。漫画ではアリサとニーチェが一緒に住むなど多少のアレンジは入ってますが、そこも私が書いています。あとは作画の荒木宰さんが、原作の流れはそのままに、新たな教養がありそうな空気を描いてくださいました。
かなりぶっこんでくるニーチェ
──登場する哲学者も個性が強いです。きっとモデルの哲学者そのものも個性が強かったのだと思いますが......原田さんは現代版哲学者たちのキャラクターをどのように組み立てていきましたか?
ドイツ語は読めないので翻訳書を読んでいますが、翻訳のされ方にも癖があって、ニーチェの場合は「同情をするのはバカらしいこと」など強い口調の言い切り系。それと「女ってこういう生き物だから」と女性について語るのも現代のネット民っぽい......とオタク気質な青年にしました。
──確かに聞いているとそれっぽい気がしてきます(笑)
キルケゴールは思い込みが激しくて独自の激しさがあります。「ワインを飲みすぎると悲しい気持ちになる。さらに飲むともっと憂鬱になる」といった発言もあって「病んでる?」みたいな。それをミステリアスな黒い服の読者モデルというキャラクターに落とし込みました。こんな感じで、キャラクター性がモデルの哲学者に結びつくように作っています。
ニーチェ(左)とキルケゴール(右)
──教科書で習うだけだと名前と思想くらいしか記憶に残らないので、人物像がわかりやすく書いてあるのは勉強にも役立ちそう。原田さんの推し哲学者がいればぜひ知りたいです。
この本に登場するのもそうですが、実存主義の哲学者です。どう生きるべきか、どう存在すべきか。そういったことを追究している哲学者たちで、ニーチェには励まされるし、キルケゴールの「美意識を持って生きるとは」「自分は自分」という考え方もみんな好きです。好きな人たちの考え方をみなさんにも知って欲しい!
──元々、京都ご出身で、哲学の道の近くにお住まいだったんですよね。哲学が馴染み深いものでした?
全然です、ただの地名って感じで(笑)。哲学書との出会いは高校生の頃で。当時ハマっていた尾崎豊の歌詞、そこにある考え方をもっと理解したくて。たまたま宗教学や哲学の本を読んで「これだ!」と発見しました。最初に手にしたのは中島義道さんの『不幸論』。
──始まりは哲学愛というよりは尾崎豊愛だった。
尾崎豊は他人に認められたくても認められない苦しさを、ガラスを割ったりバイクを盗んだという歌詞に込めているのではありません。理想にたどり着けない自分という存在の重圧、苦しさからそうしたんです。常に自分の弱さ、己と向き合うことを歌っているんですよね。尾崎豊ガチ勢なので、この話は熱くなってしまうのですが......この嘆きは哲学にも通じます。
キルケゴールは病みツイしがち
──芸能界でのアイドル活動を経て今は作家。異色の経歴ですね。
もともと「芸能界でずっとやっていこう」と強く思っていたわけではなかったんですね。ずっと本を書きたい気持ちはあって、大学生の時に、相当変わり者の哲学の先生から「本を書きたいなら、研究者になる道のほかにも色々なやり方があるよ、別の活動をしてから書いてみたほうが話題になるよ(笑)」と妙に実利的なアドバイスをもらって(笑)その後、きっかけがあったので芸能活動を頑張っていました!
──今となってはその選択肢はどうでした?
いまになって思えば、アドバイスの通りだったかも、と。(笑)これは自分のコンプレックスでもありますが、コツコツ描いて文学賞を獲って正攻法で作家さんになった人が羨ましい、自分は変わった経歴の端の人間だと感じていました。でも色々なやり方があることもわかったし、なによりこの波乱万丈な生き方含め自分ですからね、腹をくくって受け止めるしかない。先生のアドバイスがあってよかったと実感しますね。哲学者の先生って偏屈だと思われがちですが、優しい人が多いですよ。私も哲学を勉強して寛容になりました。普段も全然怒ったりしないです。我慢しているわけではなくて、そもそもムカつかない、というのは哲学を学んだ影響も大きいように思います。SNSでもよく「こうすべき」「これをしてない人はダメ」という発言になりがちですが、当然とされているものに対して懐疑的になります。
──日本社会が不寛容に傾きつつあるなかで大切なことですね。
「常識的に」「普通」って言葉は思考停止する魔法の言葉。ブラック校則もそうです。なぜそうなっているのか、どんな合理性があるのか立ち止まって考えてみること、疑問を持ち続けることが大事です。哲学対話は知識がなくても自分の経験からできるので、思考停止せず問い続ける、終わらせないことが大切なんです。
──コミカライズでの展開も楽しみです。哲学ってもしかしたら「生活に役立つ名言集」くらいの気軽さかもしれません。
ポジティブな言葉を聞いて「は?」と思っちゃうような、斜に構えている人ほどハマるはず。こじらせた大人にも効く言葉が哲学にはあると思います。哲学者自体こじらせた人が多いですからね(笑)。
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原田まりる
作家・哲学ナビゲーター。『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』第5回京都本大賞受賞(ダイヤモンド社)、『アラフォーリーマンのシンデレラ転生』第三回カクヨムWeb小説大賞受賞。「ダ・ヴィンチ」にて小説『ぴぷる』を連載中。
(取材・文/川俣綾加)
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ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。 上巻 原田まりる/荒木宰/杉基イクラ
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モバMAN
【初出:コミスン 2018.11.15】
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