2018.11.02
【インタビュー】漫画原作者に聞く! 第4回『ジャガーン』金城宗幸氏(その1)
漫画好きなら、よく目にしているかもしれない「漫画原作者」という文字。
でも、その「漫画原作者」が、実際にどんな事をしているか知っている人は少ないのでは......?
そこで、コミスンでは、著名な漫画原作者に直接、
「漫画原作者ってどんな職業なんですか?」
「漫画原作には何が書かれているのですか?」
「どうやったら、漫画原作者になれるのでしょうか?」
といった、素朴な疑問をぶつけてみることにしました!
第4回は、ビッグコミックスピリッツで『ジャガーン』(画・にしだけんすけ)を連載中の金城宗幸氏! 映像化された『僕たちがやりました』『神さまの言うとおり』などをはじめ、多くのヒット作を手がける金城氏に、漫画原作者になるまでと、漫画原作者とはどういう仕事なのかについてなど、お話を伺ってきました。
漫画家、漫画原作者、漫画編集者、すべての漫画に関わる方、漫画好きの方、必読のインタビューです!
交番勤めの警官・蛇ヶ崎晋太郎は同棲中の彼女と、このまま結婚して家庭を持って子供が生まれてという未来をつまんなそうに思っている。
ある日、目前に壊人(カイジン)が出現!!
...と、その瞬間、右手に異変が...!!
破壊と絶望の新ダークヒーロー、ビッグバン(爆誕)!!
累計555万部突破!『神さまの言うとおり』、 「このマンガがすごい!」ランクイン(2017年オトコ編11位)『僕たちがやりました』の大ヒットメーカー金城宗幸(原作)と『アイアムアヒーロー in NAGASAKI』で鮮烈デビューの超新星にしだけんすけ(漫画)が最強タッグで挑む"激撃"の話題作!
漫画家を諦めて、お笑い芸人になるつもりだった
――まずは金城さんが漫画原作者になられた経緯をお教えください。
もともと漫画家になりたくて、京都精華大学マンガ学部の「漫画プロデュース学科」に入学しました。ちょうど僕らが入った年に初めて出来た学科で、漫画家志望の人だけでなく、原作者志望の人も、編集者志望の人もいて、小説を書いてもいいという「なんでもあり」の学科です。
大学の授業では漫画の「絵」の方も勉強したんですが、まだデジタル作画が主流ではなかったので、ものすごく面倒で。スクリーントーンを削っている時に「マジで辞めたい」と思ったりしました(笑)。
すぐに自分は「絵描き」向きではないなということを思い知り、絵描きさんは本当にすごいなと思いましたね。
僕はそれまで、漫画の「絵の練習」をしてこなかったので、ネームは切れるんですが、周囲と比べると、絵があまり上手くなかった。それでも「そのうち上手くなるだろう」と作画の練習をして、講談社で漫画の賞をもらうところまでは頑張りました。
――高校時代はあまり漫画を描かれていなかったということですが、どういう生活をされていたのですか?
僕は大学在学中に漫画家デビューするつもりで、高校時代は「取材」というわけでもないのですが、部活や文化祭などに打ち込んだり、普通に好きな子がいたり、恋愛したり、そういった人並みのことをちゃんと経験しておこうと考えていました。どうせこの先、漫画ばかり描く人生になると思っていたので。
――漫画賞を取られた後は順調だったのですか?
ちょうど2年生の終わりくらいに賞をいただいて、「別冊少年マガジン」の担当さんがついたので、受賞後1年間くらいは漫画家として頑張ろうと修行したものの、全然上手くならなかったので、漫画は諦めて芸人になろうと思っていました。
――お笑い芸人ですか?
はい。漫画家になりたいと思って大学に通っていたんですが、僕の中にはもともと芸人にもなりたいというのもあったんです。
もともと文化祭でコントとかをするのが好きで、自分で台本を書いたりもしていました。
友人が「一緒に芸人になろう」と誘ってくれていたので、4年の時には、大学の卒業制作をやりながら、その友人とコンビを組んで、当時大阪にあった「baseよしもと」という劇場でオーディションを受けたりして。でも全然ダメだったのですぐに解散になりましたけど(笑)。
それで4年の時に「大学を辞める」と親に言ったら「お前はアホか」と。(笑)。
「卒業後は好きにしたらいいけど、ここまで3年も学費を払ったんだから、4年間ちゃんと行っとき」と言われまして。
そんなこんなで大学卒業後、上京して芸人か漫画家になろうと考えていたところに、講談社の編集者の方から「ネーム原作者をやらないか」と連絡をいただいたんです。もともとの担当ではなかった別の編集の方なんですが覚えていていただいて。漫画に関わって食っていけるのであれば、全然問題はなかったので、「やります!何でもやります」と返事しました。
そこで芸人の道は断って、ネーム原作者として漫画の世界に行くことに決めたんです。
――漫画原作者になったのは、完全に予想外だったんですね。
そうですね。もともと目指していたのは漫画家で、原作者になりたかったわけではないですから。
僕は原作者と漫画家は違う人種なような気がするんです。
漫画家は、漫画が描きたくて漫画家になるんだと思うんですが、「漫画原作者になりたい」という人は、そもそもどういうモチベーションなのかは僕にはわからないんですね。
――小説家になりかった人が、諦めて原作者を志望するという人もいるのかもしれませんね......。
梶原一騎さんも小説家になりたかったんだというお話を聞きますし、成り行きでも全然いいんじゃないですかね。
それに、一口に漫画原作者といっても、それぞれが全然違うアプローチで原作者になっていると思います。今は、もともと漫画を描いていてネーム原作者になる、ONEさん(『ワンパンマン』)みたいなパターンが多いんじゃないでしょうか。
――今後、漫画原作者というものが増えていくとお思いでしょうか?
どうなんでしょうね。あまり、原作者自体がどうなっていくだろうといったことは、関心がないですね。
他のネーム原作者さんの作品を見て、その出来上がりの状態から「この人はネーム作りが上手いな」とか「こんなことしてるのか」などと考えながら、比べたりはしますが。
それはもう、編集部とか世の中が決めることなので、それで売れる作品が多ければ増えるし、あまり変わらなければ少なくなるだけのことだと思います。
『ジャガーン』のネーム原作原稿を拝見!
『ジャガーン』第65話12~13ページ目のネームと完成原稿
(単行本第6集より、作/金城宗幸 画/にしだけんすけ)
――原作ネームを描かれる時は、頭の中に完成した漫画や映像を思い浮かべながら描かれるのですか?
打ち合わせで、「このページはこう」「めくりはこう」となんとなく相談して、プロットでバーっと描いて、家に帰ってから、今度はそれを一旦真っ白にして、「こんなこと言ってたな」と思い出しながらネームを描くんです。
コマ割りを進めて行く中で、「この4ページ目でこうはならない」とか、逆に、「ここはもうちょっとキュッ締められるな」といったことを考えていきます。
――ネーム原作の通りではなく、漫画家さんがアレンジされたり、ストーリーやセリフを変更されたりということはありますか?
連載の初期にはけっこうありますね。お互いに話をして、良い作品ができるのであれば、変更されるのは全然構わないんですよ。
ストーリーやセリフまで変えられるというのは、経験がないですが、それはたぶん、編集さんが止めてくれているんだと思います。僕のことも尊重していただいていると思うので。
でも、これも僕が考えたものよりも面白かったら、全然変えてもらっても大丈夫です。
――仕上がってきた漫画に影響を受けることはありますか?
途中から、「この人はこんな絵を描きたいんだ」とか「こんな絵が上手いんだ」というのがわかってくるので、「じゃあ、こういうのを投げてみよう」と、相手が気持ちよく描いてくれそうなものを出してみたりします。
――相手の特性を活かすコマ割りや構成をされるということですね。
そうじゃないとその作品は売れないんだと最近は特に思うようになりましたね。
その人の「好き」で引っ張っていってもらわないとヒットする作品、お金になる原稿にはならないかと思うんです。
そういう「お金になる原稿」を描ける人じゃないと、面白くないです。
『ジャガーン』第66話12~13ページ目のネームと完成原稿
(単行本第6集より、作/金城宗幸 画/にしだけんすけ)
驚異の週刊2本連載
――現在、週刊連載を2本されていて、どちらもネーム原作ということですが、週2本ぶんの連載ネームをあげるというのは驚異的ですね。2本同時に進行しているのですか?
半々でやっていますが、週刊で2本が限界ですね。最近は疲れてきましたが......(笑)。今日、できているはずの原作がまだ終わっていないので偉そうなことは言えないのですが(笑)
ネームを描くのはそんなに時間かからないですね。描けないのは思いついてないだけなので、思いついたら早いです。
僕は、仕事を始めて4、5年目の時に「自分はネームを描くのが得意なんだな」って気づきました。
打ち合わせの時も、あんまり考えずに「ここが違う」「こんな感じかな」ってその場で直しちゃいますね。
――それはすごいですね。それは修練の賜物なんでしょうか。
漫画って、画力とは別に、「漫画IQ」みたいなものがあると思うんです。他の人の作品を読んでると、絵が上手かったり、売れてたりするけど「漫画IQ」はそんなに高くないなという作品があると思うんです。
――「漫画IQ」!?
同じようなコマ割りが続いたり、「漫画の表現として面白くない」みたいな。
逆に、たとえば、『僕のヒーローアカデミア』とか、読んでいてコマ割りがすごく気持ちいいんですが、そういう僕には描けない漫画を見る度に「ヤバい、天才だ!」とありがたい気持ちになります。
もちろん『ジャガーン』のにしださんをはじめ、今まで組んだ漫画家の凄い才能を目の当たりにした時にも「ああ、漫画原作者をやっていてよかった!」と思いますね。
――お仕事中は、ずっと机の前に座られている感じですか?
座ったらずっとそうなんですけど、カラオケボックスに行ったり、自宅でやったり、仕事場でやったり。
道具は紙とシャープペンシルも、芯も編集部にもらったものなので、実質経費いらないし。気楽ではありますね。
打ち合わせの日だけ、来ればいいし。それまでに原稿を持っていければ、他は何をしててもいいので。
時間の自己管理だけはちゃんとしていますが、そういう性格なんだろうと思います。
サラリーマンのような定時の仕事は向いていないと昔からずっと思っていたんで、そういう意味でもけっこう合っているとは思いますね。
漫画家との関係
――作画家は編集部の方で決めるのでしょうか? それとも、ご自身が指定されるのですか?
『ジャガーン』の場合は、編集さんに「誰か組みたい人いますか?」と聞かれて、「だいたい、こういう感じの絵で」と言ったところ、にしだけんすけさんを提案されたんです。
それまで会ったことはなかったですが、にしだけんすけさんは実は僕の大学の後輩なんですよ。
第一印象は「すごく恐竜が上手いな」と。それから、にしださんが作画を担当していた『アイアムアヒーローin NAGASAKI』を読んで、「こんな絵が描けるんだったら、こういう作品が描きたいんだろうな」と想像して、創っていきました。
いまの僕は完成している人よりも、これから売れたいと思っている、完成しきっていない新人さんと組むのがいいと思っているんです。
『アイアムアヒーローin NAGASAKI』(漫画:にしだけんすけ/原案・監修:花沢健吾//やわらかスピリッツ連載)
――作画家の方とは頻繁に打ち合わせをするのでしょうか?
僕は基本的にはコミュニケーションをとって、一緒に作品を作っていかなければ意味がないと思っていますので、にしださんとは、初めの頃は結構、会って打ち合わせしていましたね。今日もこのあと、久しぶりに、にしださんと編集さんとで会って打ち合わせなんですが。
メールとかの文面だけではなく、なんとなくでも「人となり」を知らないといけないと思っているので、今も担当さんと3人でスマホで電話会議をして、しっかりコミュニケーションをとっています。
――金城さんにとって、作画をされる漫画家の方は、どのような存在でしょうか。
漫画家さんは、僕にない才能を持っている人たちですね。
漫画は「原作者のもの」ではなく、「漫画家さんのもの」にして欲しいと思っていて、僕はあくまでも元を作っている人、という意識でやっていますね。『ジャガーン』も、にしだけんすけさんの作品という形で世に出るので。
――やりやすい作画家さん、やりにくい作画家さんはどういう方ですか?
人間同士なので「変わった人」は多いと思うのですが、「やりにくい人」は特にいないです。「やりやすい人」は、ズバリ「売れたいと思っている人」ですね。売れる漫画家さんには、へんな「クセ」みたいなのが出てるじゃないですか。それが楽しいんです。
例えば、「この絵、なんでこんなの描く?」みたいな、一歩間違えば「頭がおかしい」みたいなところとか(笑)。かと思えば「ここ、頑張ってネーム描いたのにあんまりノッてないな......」とか(笑)。そういうのも含めて、楽しんでいます。【その2へ続く】
漫画原作者に聞く! 金城宗幸氏インタビュー [その1][その2]
(取材・構成:山科清春)
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【初出:コミスン 2018.11.02】
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